「慰安婦」問題解決促進法──参議院内閣委議事録から
 02.10. 04.12.04更新

◎「戦時性的強制被害者問題解決促進法案」5度目の提出─「お待たせしました」と運動体が速報、もはや提出自体が目的? 04.12.01

 ○問題だらけの法案
 ○議事録抜粋
 疑問・論点

 *法律案全文(参議院法制局ページ)
 *参議院内閣委議事録02.12.12.
 

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2002.12.20
「基金」を受けたもの排除・差別──批判受け破綻、再検討

「慰安婦」法律案について12月、ハッキリ会などが関係議員らに説明を求めたところ、つぎのとおりの答えだった。
「法律案で「基金」との二重支給はしないとの見解を出したが、比なども含めて批判があった。その点野党3党で再協議し、提案議員も3野党と無所属議員として次回国会2月くらいに再提出したい。しかし議会運営委員会などでの協議など難しい問題がある」

法制局で「アジア女性基金と同様の政府予算を出すなら、重ねて支給はできない」との歯止めがかかったために法律案では「二重支給はしない」「不当利得を避ける」と、実行上の枠組みを先の審議で提案議員が説明。
法律案は実際、「法的責任」も明示せずに「政府が謝罪、解決を促進」「金銭支給を含む」として、「補償ではない。補償に近いもの」を法律案とした。その「不十分さ」をかかえたままに無理やり「補償法案」と説明するあまり、「基金」受領者は対象にしないという奇妙な「解決促進法」となった矛盾を自ら暴露。それが「慰安婦」被害者から反発と批判を受け、提案議員側は混乱を抱えてしまった。
アジア女性基金を破綻と決めつけ、「法案」が前進した点として「政府が」の主語を明確にしたをこととする。すると、国の予算で「二重支給はできない」ため、「基金」を受けたものは対象としないとせざるを得なかった。(政府がアジア女性基金をつくり、実質政府資金が被害者に渡る仕組みと大同小異。つまりは実質国の補償に近いもので、それならば「基金」を裏づける法律案とすれば政策的整合性が成り立つ。)
「実行上はアジア女性基金でよい」とした本来の立法推進議員・本岡昭次現副議長のアジア女性基金との和解、握手の本質そのものが見えてきたものといえる。

2002.10.24
国会関係者によると、継続審議の「慰安婦」法案は、委員会での扱いなどについてまったく手がついていない。与党側の「棚上げ」ねらいがあるともいわれ、また野党提案者側も補選などもありこれも手がつかない状態のようだ。

10.04
岡崎トミ子議員が訪韓した際、挺対協関係者は「慰安婦」被害者たちに、
「基金」を受け取ったなら、月々の政府生活安定支援金が打ち切られ、(98年)支給された一時金も返還しなければならない、
と、改めていったらしいことがわかってきた。
立法と「基金」の対立点を強調して、「基金」との関係を個々の被害者に問いただすという「差別」活動を引き続き行っていることになる。立法案では、「基金」をすでに受け取った者には、二重の「金銭支給」をしないとの発議議員の説明と連動、反映したもの。
「慰安婦」被害者たちはますます挺対協への不信をつのらせている。

議員側は、そのようなことが行われていたことを知らなかった、としている。

9.26
岡崎トミ子議員は27日から台湾訪問の予定。

岡崎議員の訪韓をきっかけに、韓国・挺対協は、「慰安婦」被害者たちに対して電話をし、アジア女性基金を受け取った「慰安婦」被害者に対する新たな差別方針を伝えたことがわかった。「法案」が「基金」を受けたものは対象にしないと国会審議で明らかにされたことから、挺対協がさらに被害者差別策に出たもの。
招集するにあたって挺対協は、「基金」を受け取ったと推測した「慰安婦」被害者を「除名する」と宣告し、同議員を迎える懇談会への参加を拒否し追い返した。(挺対協は支援・運動団体で、当事者を「除名」する立場にはない。)

関係議員ら発議議員は、「挺対協のそういう行動は知らなかった。挺対協だけの情報で動いているのではない。提案した野党3党で、いろいろな意見も聞くようにしたい」との姿勢を明らかにした。

09.20
「既にアジア女性基金の償い金を受給した被害者については、本法による補償金との二重の受給にならないように調整するものといたします。また、アジア女性基金の福祉支援事業は、政府のODA予算などから支出されているので、これもダブっては支給しないということにいたします。これは不当利得を生じないようにするための措置です。」(議事録)
この吉川春子議員の参院内閣委7.23発議者答弁は、当然のことながら提案した民主・共産・社民各党調整ずみの考え方。一部に抗議を受けて答弁者の逸脱だと言い逃れする向きもあるようだが、「野党統一案」として同一歩調をとった「法律案内容」であることは間違いない。

09.18
岡崎トミ子議員は9月末にも台湾に行き、「法案」の説明などを行う予定。

09.13
韓国から帰った岡崎トミ子議員が福田官房長官に、訪韓の結果だとして「法案への支持が強いこと」を申し入れて、そのあと記者会見するとか。
韓国の被害者多数が「法案」支持だった、補償で解決をと、政府にいったとなるのだろう。「基金」を受けたものは対象にしない法案だと説明したのかどうかは口にせず、挺対協(賠償運動体)が集めたのは×○人でも、「大多数の韓国の被害者」は政府の補償を求めていると。
運動体は、法案への支持世論は高まったと拍手するシナリオ。同行したのは横田弁護士、有光、金英姫と議員秘書の面々。(挺対協のHPに一行の日程があとから載せられた)

09.10.
ソウルで岡崎トミ子議員(民主。法案発議議員)、日本の運動家らが並んで、挺対協が集めた元「慰安婦」ハルモニと予定通り懇談したようだ。すでに発議議員側からインドネシア、フィリピンと回り、オランダへも(吉川春子議員・共産)足を運ぶ予定。このように「基金」の後を追って泥をかけるような作戦行動でなく、前向きで包括的な解決をはかる大きな姿勢と方針をつかむのが、国会議員の役割だと思うが──。

09.08
「法案」提案者である参議院女性議員らがいま、訪韓しているはずだ。迎える一部の運動団体は「慰安婦」被害者を集めるため、あれこれ手を尽くしているとの情報がある。集まらなければ「基金」を受け取ったと見るぞ、そうしたら法による「補償」はないぞというかのように──。
法案段階で、はやくも「慰安婦」被害者の選別・差別を促す効果をこの法案がもたらしているなら、提案者議員たちの責任は重く、きびしく問われるだろう。

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10年遅れの懺悔にもならない
「戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案」

1.
戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案(第百五十三回国会円より子君外六名発議)(継続案件)=議事録より= の審議が7月23日、参議院内閣委員会で行われた。(提案趣旨説明は7月18日)。10月にも継続審議にかかる予定となっている。
2.
「慰安婦」問題に関して90年の国会で最初に審議されてから12年になる。この間、韓国、フィリピン、在日関係の元「慰安婦」裁判では当時の国際法・国内法の法的責任による賠償・補償の原告請求はすべて棄却されている。
3.
政策ではアジア女性基金設立の形で進展した。「慰安婦」問題について戦後50年を期し、困難な政治情況と論調の中でアジア女性基金が始動して、唯一公的な償いを行い、裁判原告をふくめ285人が「基金」を自ら申請し受けとる結果を出した。政府は、「基金」を受けるに当たって(裁判原告、訴訟権等)「条件は当然、ない」と文書を出している(「基金」は法的な賠償要求と対立しないとの意味。これが法的・政治的枠組)。政府・国会の制約のもとで「基金」政策を遂行してきた。いまになってその局外に立つかのようにいうのは、まったく無責任だといわざるを得ない。
285人が「基金」を受けても、「破綻」だと発議議員はいった。人数でいうなら、自ら「基金」を「申請しない」ことと「拒否した」では雲泥の差がある。申請方式に「拒否」もなにもない。それを譲っても、一部運動体は「多数が基金を拒否した」と宣伝しているが、被害者自身の「拒否意思」はごく少数を除いて、どんな形でも公表されていない。運動体があたかも代理できるかのようにいっているに過ぎない。韓国、台湾当局(機関)への登録、申告ですら、元「慰安婦」すべてではないだろうし、その申告によって国内措置だけでよいと考えた被害者たちがいるに違いない。自国内措置の金額が「基金」の額に合わせているのだから。
4.
こうした経緯を経て出される「慰安婦」法案であるなら、1)すべての経緯を超えた「慰安婦」をふくむ包括的補償特別立法、2)法的枠組・制約を前提に政策の継続性を図るためアジア女性基金の根拠法とする…なら理解できる。
1)は理念を打ち上げる効果を生むだろうが、実現性はほぼない。2)は、提案者たちが「反基金」運動にのみ呼応しているところから、選択できなかったのだろう。「基金」を受け取った被害者は「総理の謝罪文」は必要でありがたいもの、これでこの先安心して生きていかれるといっていることに、一顧だにしないことから認識は狂ったのではないか。
5.
提案された法案は、政策の継続性もない、かといって戦後政策を更新する「補償法」でもないものになった。政府が直接金銭を支給する補償は、国際条約や協定などでできないという法的制約を受けたため、あいまいな内容となってしまった。野党の一部に「補償法などより、現行のアジア女性基金を後退させないことこそが必要。そういう政治・社会情勢になっている」との声があったが、かき消され、「女性運動」に引きずられたのだろう。発議提案議員から男性が消され、女性だけになったことにそれは現れている。
6.
「法案」を、反「基金」運動に対しては「補償」法かのように説明する。「基金」側には、「アジア女性基金を否定しない」「実際は(実行上は)アジア女性基金でよい」と和解の握手をする。こうした二面性の対応を演じるほかない。国家の法的責任をあきらかにした補償ではないことも隠し、実現の見通しもない。合理性も道義性もない提案というべきだ。
7.
合理性・道義性のなさは、「基金」をすでに受け取った被害女性たちには「二重支給しない」と、提案した女性国会議員たちが審議で明らかにして、極まった。「名誉の回復」をしない被害者を選び出し、ハネのけ、あげつらおうというのだろうか。またまた「踏絵」をやるのか、それが「慰安婦」問題解決の姿勢かと、提案議員に対して抗議の声もあがっている。
8.
法による解決というなら、元「慰安婦」たちの事実調査を徹底し、厳格な認定を行い、「慰安婦」制度の全貌にせまる方法をとることだ。「慰安婦」をつくり暴力支配したことの国際法・国内法などの違法・不法性を敢然と明記して補償をいうの筋だった。その上、「女性戦犯法廷」流に、責任者処罰規定も付け加えればよい。かれらのこれまでの原則運動なら、そうすべきなのだ。立法者、提案者たちはその度胸も確信も力もなかった。
9.
妥協的であいまい、道徳性も合理性も欠いた法案をもちだすしかない野党議員たちだったから徒に時間も経ち、被害者たちが実際に実現した政策を選択するのは当たり前である。それが「基金」を受けた285人という数字に結果したことを厳粛に受け止めるべきだ。「基金」が混乱と分裂をもたらした、などという思考は、単一思考的・支配の論理だろう。選択の自由、思想の自由の否定である。法案は、もっとひろく戦後補償問題を包括する姿勢で、政策の継続性をもった法案とすべきだった。(性暴力問題、女性の論理に逃げてはいけない。)
10. 
一部運動家や日本の議員がこれまでに、「いまアジア女性基金を受け取るな。賠償ができる」「受け取った被害者は貧しく、カネにだまされたのだ」「日本に民族の自尊心を売り渡した汚い女」と差別、攻撃してきた。その上に、差別思想まるだしの法案に引き継いで臆面もなく「基金」を受けた被害者女性たちへの差別意図をあらわにしたということだ。──ひどい情況になっている。

まずは疑問のあれこれをまとめた。
: 「慰安婦」差別法案? (論点・疑問点)──1
(法案の背景や真相については別項・contents) →法案は参議院法制局HP、議事録全文は参議院HP
 

参議院内閣委員会議事録 2002.7.23
平成十四年七月二十三日(火曜日)午前十時開会

  出席者は左のとおり。
   委員長 佐藤 泰介君
   理 事 斉藤 滋宣君 松村 龍二君 森田 次夫君 長谷川 清君 吉川 春子君
   委 員 亀井 郁夫君 竹山  裕君 西銘順志郎君 山崎 正昭君 岡崎トミ子君 川橋 幸子君
      山根 隆治君 白浜 一良君 森本 晃司君 吉岡 吉典君 島袋 宗康君 福島 瑞穂君
      黒岩 宇洋君
      発議者 岡崎トミ子君 吉川 春子君
   委員以外の議員
      発議者 円 より子君 千葉 景子君 八田ひろ子君 大脇 雅子君 田嶋 陽子君
   副大臣 外務副大臣 杉浦 正健君
   事務局側常任委員会専門員  舘野 忠男君
   政府参考人 内閣官房内閣参事官 新田 秀樹君 文部科学省初等中等教育局長 矢野 重典君
   ─────────────
  本日の会議に付した案件
○政府参考人の出席要求に関する件
○戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案(第百五十三回国会円より子君外六名発議)(継続案件)
 

──議事録より、部分──

○ 川橋幸子君 … 戦時性的強制被害者問題に対する政府の対応、道義的責任から国民から集めたお金で償い事業をやると、こういう枠組みだったわけでございますけれども、どのように考えておりますでしょうか。特に、アジア女性基金、関係者は苦労したはずでございます。この事業というものをどのようにしたら、この議員提案の方に発展させたら良いとお考えでしょうか。まず、お伺いします。

「政府は法的責任認めない」
○ 吉川春子君 アジア女性基金の評価について、先ほど森田議員の質問でもお答えしましたが、ダブらないように簡潔にまず申し上げたいと思うんですけれども、政府は、サンフランシスコ条約や二国間条約で解決済みということで、自らの法的な責任を認めておらず、謝罪も名誉回復も行わないと、こういう姿勢ですので、こういう姿勢に対して私たちはこれを是とすることはできません。

「要求は国家の責任、補償」「基金は国家補償に代わるものでない」
 被害者が求めたのは、国家の責任を明らかにした謝罪と補償でした。こういう中で、政府が、女性のためのアジア平和基金を設立して、総理のおわびの手紙と国民の募金による償い金の事態で収拾しようとしましたけれども、この取組は国家補償に代わるものではなかったわけです。そして、先ほど申し上げましたように、韓国やインドネシアや台湾、そういうところでも受取を拒否されたり慰安婦に届かないという、こういうアジア女性基金の事業であったわけです。
それで、こうしたこの問題の解決が図られずに今日各国の強い批判を受けているわけですけれども、善意でアジア女性基金に参加協力した人々の願いは実現しない結果となっております。

「政府が道義的責任を果たす事業…」
 私たちは、七月二十日の新聞広告で募金が打ち切られたということは、やっぱり破綻をしたと、もう償い切れない、アジア女性基金イコール政府なんですけれども、政府がこの道義的責任を果たす事業から撤退したのだと思います。
かくなる上はと申しますか、やっぱり法的な枠組みを作ってこの責任を果たすという道に進まない限り、国際世論、一番は慰安婦被害者の皆さんでございますけれども、こういう方々の納得は得られないだろうと、そういう方向に進むべきであると、法的枠組みを作るという方向に進むべきだと考えています。

○川橋幸子君 もう少し、そうですね、簡単な単純な聞き方をさせていただきたいと思います。
 私も、法的枠組みを作る、国の責任というこの一点を明白にすることによって、アジア女性基金が本来ねらった償い事業というものは生きてくると思います。法案が成立した場合は、アジア女性基金との関係はどうなるのでしょうか。

「基金とはまったく異なる」
○吉川春子君 本法律案は、元慰安婦の皆さんの名誉回復等の措置を国の責任において行おうとするものであり、民間から資金を集めて元慰安婦の方に償い金を支払うアジア女性平和基金とは全く異なるものです。
 アジア女性基金は、こういう国民からのカンパ、そしてODAの政府資金による医療・福祉事業を実施しています。しかし、韓国政府は元慰安婦被害者に三百万円の支援金を支給し、台湾当局も被害者に約二百万の立替えの形で支給しています。これは、日本のアジア女性基金からの支払金を受け取らないための措置です。
ですから、こういうアジア女性基金との関係というのは私たちはないわけでございまして、まして七月二十日に国民のカンパも打ち切られましたので、法案が成立した場合に、関係というものは全くないということです。

○川橋幸子君 もう少し分かりやすい質問をしなければいけなかったと少し反省しております。
質問の順番を変えまして、それでは実際に既にアジア女性基金から償い金を受け取った人には、この本法の措置としては金銭の支給はどのようになるのでしょうか。

「補償金の二重の支給はしない」「不当利得させない」
○吉川春子君 アジア女性基金の償い金は全額国民のカンパによるものであり、政府の補償とは性格は違いますが、既にアジア女性基金の償い金を受給した被害者については、本法による補償金との二重の受給にならないように調整するものといたします。
 また、アジア女性基金の福祉支援事業は、政府のODA予算などから支出されているので、これもダブっては支給しないということにいたします。これは不当利得を生じないようにするための措置です。
 いずれにいたしましても、この法案で促進会議を設置することにしておりますので、具体的にはこの中で検討することになります。

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 注・見出しは原田──


 

法案──これだけある疑問点に答えてほしいもの(メモ)
 
 

1.初歩

▽発議者の用語、認識、数字、事実の間違い。(この程度かと思わせる)
▽矛盾、不可解なことが多々ある。(輪をかけて、同じ「仲間」同士の八百長のやりとりが多く、核心の質疑なし)
▽多くの被害者が亡くなり、「急ぐ」というなら実現する見通し、期日を明示する責任
 「基金」事業を遅らせてほしいといい、被害者には「基金」に手を出すなと圧力をかけてきた国会議員と「運動」の責任
▽「慰安婦」は不適当だから「戦時性的強制被害者」と法・趣旨説明でものものしくいいながら、審議では元「慰安婦」と発言しつづける(ずばり偽善)

2.10年の結果責任・国の「法的責任」を認めた「法案」か?

▽最初の元「慰安婦」補償裁判から10年以上になる。
 国会議員として、政党として、国の「法的責任による謝罪・補償」をなぜ推進できずに10年経たのか、責任を明確に。
▽政府、国会、司法の結果と責任(認識)。とくに司法・裁判で「法的責任」が否定されていることの認識
▽戦後処理政策への「国会責任」(自己責任)がある。国籍条項、その是正すらしてこなかった国会

▽「措置を講ずるに当たっては、我が国が締結した条約その他の国際約束との関係に留意しつつ、関係国の政府等と協議等を行い」…と法案条文。
 これが意味する法的枠組ないし制約を明確にすべき──政府は「国として、法的責任は果たしてきた」ということに対して、国会でのこの議員提案による立法で、何を崩し、何を打ち立てるのか。
▽従来の戦後処理──法的枠組に対立・変更しないことを前提として「法案」は提起されているのではないか? でなければ「補償法」提案をすべき。
 なぜ論議を、法的前提の整理、明確化から始めないのか。

3.「国家の責任」と言い換えるのはなぜか

▽「国の法的責任」/「国家の責任」
 国が法的責任による賠償・補償をする──被害者が裁判、運動で主張してきた趣旨。当時の国際法・国内法等に照らして違法・不法を訴えてきた。
 ところが、審議での発議者の答弁では、「法的枠組で措置」することに強引に代替させている。
 → 「被害者の求めたのは国家の責任を明らかにした謝罪と補償」とすり替え。(法案で国の法的責任に触れない点のごまかし)
 事実、国の「法的責任」を「法案」は明記していない。
 他方で「基金」につき、「政府が道義的責任を果たす事業」といい、「国家の責任」(同上)による事業と認めている(大矛盾)
 道義的責任、法的責任、国家の責任──概念規定すらでたらめ。

4.法案の「金銭」は補償なのか

▽国が「謝罪し補償する」と裁判等で被害者たちは要求した。このことでも、「補償」の文言は「法案」になく「金銭の支給」
 「総理の謝罪の手紙」を評価した本岡議員の本会議発言は忘却? 韓国でも「98共同宣言」以後、謝罪と明記
▽「金銭の支給」(法文) → 「本法による補償金」(答弁) なぜ言い換え? なぜイコールか?
▽「基金」の「償い金」は補償でない → 政府出資の医療・福祉支援事業 → ODA予算? 韓国、台湾はODA対象にならないのに…?
▽「金銭の支給」とした「法的枠組・制約」は、「基金」の政府国庫出資による「医療・福祉支援事業」と同等
 戦後処理での政府の法的立場は(条約等があるので)「個人支給はできない」というもの。
 台湾や「在日」関係でも「見舞金、弔慰金…」と法は規定している。
▽それでも法案は「金銭支給」で被害者の名誉の回復等という──おしつけの自尊史観?

5.「基金」との関係は?

▽1995年から「基金」政策が提起され、国会で国の予算もつけてきたことをどう自己評価するのか(予算は国会が決定した政策)
▽「基金」(アジア女性基金)と法案の趣旨・内容の異同(不明)
▽「基金」を受け取るに当たって条件はない(政府)として、補償請求の多くの裁判原告も「基金」を受けている
▽最大の問題──「金銭の支給」 → 「本法による補償金」と答弁。ほんとうか?
 「基金」「償い金」は補償ではない(これは政府の法的立場から帰結)─政府責任による出資「医療・福祉支援事業」はネグレクト → 本法による補償金 →
 「基金」とまったく異なる → 二重支給しない、不当利得させない? (まったくの矛盾)
  ──「二重」というなら「基金」方式の「償い金」と法案の「金銭」は「同じ」・同格ということが前提
 「基金」補償に代わるものではない → 同上
 「基金」政府補償とは…違う → 同上
 「基金」とはまったく関係がない (国会議員として無責任)

6.元「慰安婦」被害者差別法案?

「基金」を受け取った「慰安婦」被害者を対象者から排除・差別すると答弁。実質の差別法?
 なぜ、「基金」を受けた女性たちに、思いは行かないのか?
 「基金」を受けた女性たちの「名誉回復」はしないということか?
▽法案ではまた日本人も対象にしない。対象は「外地人・外国人」としている。被害女性たちの「名誉回復、尊厳回復」
 といいながら、なぜ?
▽二重支給、不当利得 (権力的、暴力的、差別的視線)──法(法案に明記されず)によらない差別
 はやくも、「基金」を受けた被害者と受け取っていない被害者を詮索し、選別する意図、気配がある!
 関係国に発議議員らがまわり、対象から排除すべき・「基金」を受けた「慰安婦」被害者捜索が始まる!
 反人権・反人道行為を合法化する法案?

7.国会議員が被害者に圧力、欺まん行為

▽「基金」妨害、虚偽情報活動・運動(「基金」受け取るな、まもなく補償できるとのデマ等々)の総括
▽「基金」選択者への非難・攻撃・いじめの総括(偏向、被害者敵対)
▽「基金」と民主党との和解事実、「基金」容認について秘匿(欺まん)
▽「基金」事業を「遅らせてほしい」と要請した事実

▽再び、三度、「基金」を受け取ったかどうか被害者に「踏絵」を強制するような動き、それを是とする「法案」(反動性。「運動」全体主義)
▽「基金」とはまったく関係ないといいながら、終始、「基金」「基金」と連発する不思議
▽「基金」と発議した議員たちが、事前に「基金」を否定しない、実行上は「基金」でよい、「基金」とは話がついているといって
 提出にいたった経緯を明らかにすべき
▽あまりに「基金」(の枠組み)をなぞったような法案だからこそ、無意味に「アジア女性基金とはまったく関係がない」と力む。
 その分、矛盾、自家撞着、混乱。そのはてに、非人道的・差別的言辞まで飛び出してくる。合理性と普遍性、平等性のない法案ではないか

8.いつ実現するのか。国政に常識と責任を

発議議員のみなさんへ。

▽ひろく被害当事者、関係者と会い、真摯に聞いたんでしょうか?
 (「在日」運動、被害者から浮き上がった挺対協らの運動に対応するだけの法案? 量的に「基金」を破綻というなら、
 そういう運動体への被害者の支持が大多数だという資料を出すべき。「基金」拒否という被害者の明瞭な意思表示資料を見たことがない。)

▽285人の被害者、募金協力者を尊重しているのですか?
 (これは常識。でなければ、被害者たちをばかにしている。)

▽法案と「基金」の連関を、合理性と現実性を踏まえて説明しきれていますか (国政への政治責任)
 (論理整合性も、政策整合性も、法的責任・補償も、法の平等も疑わしい)

▽いつまでに成立させ・「金銭支給」をするのか、時期の明示が、責任ある政治家の作法ではないですか?
 (被害者と課題への責任。それともやはり単なる存在証明か…。「この国会で成立させていただきたい」は無責任。)