このおそるべき男は地球上に実在するのです。
ここでは以前のエッセイで話した、強力な兵器とも言える俺の関西人の先輩における更なる逸話を話したいと思います。
俺の会社は本社が大阪にあり、直属の上司である先輩もそこに在籍している為、俺は年に数回大阪へ出張しています。
今から3年くらい前の事、本社での業務の手伝いとして俺は大阪へ赴きました。
俺の会社は比較的フレンドリーな風潮なので、取締役がたくさん居る本社への出張と言っても特に緊張するでもなく、むしろ俺は毎回楽しんで行ってたモンです。
新大阪駅から在来線で数分のところに俺の会社の本社があります。いつもの様に俺は
「お疲れ様でーす」
と言って事務所内に入って行きました。すると遠くの方で
「そら無いですわ!あきまへんて!請求書については先週渡してますやんかー!たのんまっせ!ホンマ!」
と、大阪弁の中でもひときわ濃くて大きな声が聞こえてきます。早くも例の俺の先輩です。先輩は電話で何やら取引先ともめている様でした。俺は事務所内の他の人達に挨拶をして歩きながら自分の部署へ向かいました。課長が早々と俺を見つけて
「おお、早かったな。何時の新幹線や?」
と話しかけてきました。すると電話をしている先輩までも、電話をしているにも関わらず
「おーー!asam!来たんかー!」
とか言ってきました。そしてそれだけ言うと何事も無かったかの様に先輩は
「せやからさっきから言うてますやんか!」
と電話に戻ったのです。
先輩・・。受話器口元に当てたまんま俺に思い切り話しかけてたし・・・。電話の相手も驚いていると思うんだけどなぁ。。。なんか課長もあきれてるし・・。
そんな先輩に俺はちょっとビビりながらも、相変わらずの調子である事に微笑ましくも思いました。
電話が終わると先輩が
「むっちゃ腹立つわぁ、○×会社。もうとっくのとうに請求書出してるっちゅーねん! なぁ?asam!」
とか俺に振るんですけど、まぁ俺は
「そうっすねー」
とか適当に答えるしか無いですよねー。
暫くして俺は業務の指令を受けて机に着いたんですけど、隣に座る先輩が
「asam! なぁasamて!」
って大きな声で俺を呼ぶモンですから
「はい。何すか?」
とちょっと迷惑そうに俺は答えたんです。したら先輩
「ワシ今日なー、二日酔いやねん。昨日は新地のおネーチャンの店行ってなー。もー、めっさ久しぶりやったから調子乗ってだいぶ飲んでもうたわー!あっはっはっは!」
なんて事務所中に響き渡る声で笑ってるんですよ。しかも、うわ!酒くせぇーよ先輩。思いっきりアルコール残ってるやん。
「今日はasamも来た事やし、夜が楽しみやなーー!」
いや先輩。分かったから力強く俺の肩バンバン叩かないで。。。
それから1時間くらい俺は業務に集中していたんだけど、何か隣の席の先輩の様子がおかしいんです。
「うぇーー。。。あ〜〜。。。」
とかうなり出したんです。俺が横を見たら先輩は完全に体を机に突っ伏してしまい、青白い顔色で
「asam〜・・・。助けてくれー。。むっちゃ気分悪ぅ・・・」
とか言って、さっきのハイテンションはどこへやらという感じになっているんです。
「先輩、トイレ行って来たらどうっすか?」
と俺は助言のつもりで言ったんだけど先輩は
「こないな事くらいで白旗上げられるか。。男いうモンはなぁasam、、うぇ。。。」
とか、キャバクラ行って二日酔いになっているだけの事なのに、先輩ってば何か男を語ろうとしているんですよ。でもって途中で気持ち悪くなって話やめてるしぃ。。。 そもそもトイレに行くのが何で白旗上げる事になるのか俺にはサッパリ分からないんっすよ。
すると突然先輩が、ぬぅっと立ち上がって俺に言いました。
「asam。。。オマエ、○△産業に連れて行った事ないな?」
良く耳にする取引先の名前です。
「あ、はい。無いっすね」
と俺が答えると先輩は課長に向かって
「課長ぉ! asamが○△産業さんに挨拶しに行きたい言うんで、連れてってもええですかぁ?」
とまた勝手な事言ってるんですよ。でもまぁ先輩にとってこんな事は当たり前のようなモンなので、特に俺も指摘するつもりはありませんでした。
先輩は課長の許可を貰うと机の引き出しからソルマックを取り出して一気飲みしました。
「うーーーーっ! よっしゃ行こかぁーー!」
なんか先輩、復活してるし。。。
でもって俺は何気なく先輩に付いて行ったんだけど、何か駐車場の方に向かっているんですよ。
「え?先輩。車で行くんすか?」
って俺が尋ねると先輩は
「当たり前やがな。ワシの運転のうまさ見て驚くなやぁ?」
なんて意気込んでるんです。・・・って、え?? ちょっと先輩が運転すんの?まだ明らかにアルコール抜けてないのに?
「いや、先輩。今乗って捕まったら完全に酒気帯び運転ですよ?」
と俺は注意したんです。したら先輩
「飲んだあとに帰って寝てから会社来とんねやから関係ないやろー!」
とか訳の分からない事を言ってるんです。いや先輩、帰ってワイシャツ着替えたらそれで前の日の事は全て清算されるとか、そんな風に思っている訳?
「何やasam--!ワシの運転が信用出来へんのかあ?」
全く分かってないしぃ・・・。
あーあ、もう知らないからなー。という感じで俺は社用車の助手席に座ったんです。まぁ、酒は残っているみたいだけど、酔っ払っている訳じゃないから平気かな。。。検問でもやってたらアウトだと思うけどねー。
車を走らせてしばらくすると先輩が
「なぁasam。大阪の交通ルールて知ってるか?」
とか聞いてきたんだけど、交通ルールは大阪でもどこでも日本なら一緒だと思うんだけど。。。
「さぁ・・。何か普通と違うんですか?」
と俺は聞き返しました。先輩はちょっとヘラヘラ笑いながら
「大阪にはなぁー、信号機があって無いようなモンやねん」
とか変な事を言い出すんですよ。
「青は進めやろ?ほんで黄色は注意して進め。赤はだいぶ注意して行け。やで?知らんやろう」
知らないっつーの。
「あとなぁ。走っている時に隣の車線の車を自分の車の前に割り込ませる事なんて許したらアカン」
とか言って先輩ってば前の車との間隔を詰めるんすよ。
「いや、ちょっと先輩。危ないですって」
俺マジでビビって注意してんのに
「うへへぇ。。これが関西の運転やぁ。。」
なんつって目ぇ見開いて鼻の穴広げてフンガフンガしているんです先輩。
関西の運転とか言ったって、周りの車見ても先輩みたいな運転の仕方している人なんて居ないんですよ実際。
そんな緊張状態のまま取引先の○△産業に着いたんです。
車を降りるなり先輩は、ポケットからフリスクを取り出して大量に口の中へ投入しました。
アルコール臭いの、自分でも分かってたんですね。
しかし○△産業での挨拶はたった2分で終了。車へ戻るなり先輩は助手席に座り、シートをリクライニングに倒してすっかり寝る態勢に入ってるんですよ。
「先輩、ちょっと。。帰りどうするんですか?俺が運転するんすか?」
と俺が聞くと先輩は
「そうや。関西の運転の仕方はさっき教えたやろ? あの通りやればええねん・・・」
なんてお気楽な事言ってるんですよ。
何だよもーー。いやそれはいいんだけどカーナビ付いてないしこの車ぁ・・・。
「先輩。地図どこにあるんっすかぁ?」
「ぐがぁああひゅるるる〜。。。!!」
ってもう寝てるし先輩。
そんな感じで俺は自力で地図を探して何とか会社まで戻ったんです。っつーか先輩の教えは全く役に立たなかったんですけどぉ。。
駐車場に着いて俺は先輩を起こそうと思ったんですけど、もう完全にヤラれていて全く起きる気配が無いんですよ。仕方ないなぁもうー。
結局先輩はそれから1時間くらいして起きました。
「ふぁーーーっ!! おっしゃオラぁーー! もう完璧やぞーー!! これで今夜もバッチリやでasamーーー!!」
「先輩・・・。この出張ってひょっとして二日酔い覚ますのが目的だったんすかぁ?」
「うっひゃっひゃっひゃーー!!」
悪魔の申し子の様に笑う先輩。
怒涛の後編へ続く
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