人間ドック。。。
良く俺の両親が昔「人間ドックに行って来るから・・」と言っていました。
その度に俺は、何でわざわざ『人間』と言う言葉をドックの頭に持って来るのか分かりませんでした。
実はドックとは『船の修理場』とか『整備場』と言う意味を持つ船舶用語だったんです。
なるほど。。だから人間が受けるドックと言う事なんだな?
俺は今まで会社の健康診断は組合で行なっている定期健康診断しか受けた事がありませんでした。
ところが今年はよんどころ無い理由から普通の病院で人間ドックを受ける事になったのです。
ついに俺もドックデビューだぜ。。わんわん!・・ってそれはドッグ。。
ドックの前夜21:00以降は絶飲絶食。
完全にお腹を空の状態にして当日俺は会社近くの汐留ナントカ病院と言うところに行きました。
とても病院とは思えないスタイリッシュなデザインのビル。
とても病院とは思えない受付の事務員さん。ここはモデル事務所か?と思うほどの美人の人たちがたくさん居ました。
そんな美人のお嬢さんに事前に採取した便やら尿やらの入ったグッズを手渡しするのはちょっと恥ずかしかったです。
「ではこちらにお着替えになって2Fのカウンターまで行って下さい」
と俺は白い診察着を渡されました。
「白いヤツ。やるようになった」と、シャアに言われそうでちょっと気分が上がりましたが、周りを見たらみんな同じ。ナンだよ。量産型のGMかよ。
最初の検査はX線(レントゲン)でした。
これは毎年の健診でもやっていたのでお手の物です。何てことなくクリアです。
そして次が血液検査。血糖値を調べたりするらしいっす。
「ちょっと多めに血を頂くのですけど、献血とかで気分が悪くなった事はありますか?」
と担当医さんが聞いてきました。
何だと?この俺をナメるなよ? こちとら献血にかけては黒帯じゃい。
「全く問題ありません」
と無表情に答えたものの、ナント用意された採血用の試験管は7本でした。
7本? ちょっと何でそんなに必要? 隣のオッサンは3本なのに? それ全部満タンにしたら完全に献血クラスを超えるんですけど。。。
アレか?俺がクールだからクール度数を計りたいのか?
うん。まぁそれなら仕方ない。
採決後、立ち上がった時にちょっとクラっとしたんだけど、こんな事でひるんでは男じゃない。
次の検査は心電図と肺活量測定。
ベッドに寝かされ両足首と胸部の数箇所に何かの電線を装着。 このまま電気流されたら更に俺の髪の毛は逆立ちそう。。うぷぷ。。
続いて肺活量測定なんだけど、この先生がとってもフランクなんです。
「もうダメだぁーってくらいに息を吸ってぇー」
「はいもっともっと吸ってーー」
「まだまだいける!もっともっと!」
ゲホゲホゲホッ!!!
殺す気かぁー!!
「はい今度は吐いて!」
「ぐんぐん吐いて!!」
「ほらそんなものじゃないでしょ?もっともっと!」
・・・・
ぐふぃーーー!!って無理ぃー! これ以上吐いたらそれこそ肺が口から出てきそう。
次は超音波検査。
またもや診察ベッドに寝かされたんだけど、先生ってばいきなり電気消して
「では失礼しまぁす」
とか言って俺の服を上げてお腹を出させるや、ゼリー状の液体を垂らして塗り始めたんですよ。
でもって何かパソコンのマウスの様な機械で俺のお腹の色々な所をさすっては「はい楽にして下さいね」とか「ここ大丈夫ですかぁ?」とか何か甘いささやきで語りかけて来るんです。
すげぇドキドキなんですけど。色んな意味で。。。
先生にお腹のゼリーを拭いて貰い、次は身長と体重と聴力です。
身長は177cm。体重は66kgでした。もう背は大きくならないかぁ・・・。
そして視力検査と眼圧測定。
視力は両目とも0.2。でも勘で当てていたものもあったので実際は0.1くらいで去年と変わらないと思います。
あと眼圧測定では目に風が当てられるんだけど、コンタクトを目に入れる事も出来ないビビリな俺は風が来る瞬間に通常の3倍のスピードで瞼を閉じてしまうので、先生から「大きく目を見開いて下さい」と何度も注意を受けました。
さて、項目も残すところメインイベントである胃の検査を残すのみかな、となった時、俺は普通のお部屋に呼ばれました。
あ、そうだ。先生による問診だ。と最初思ったのだけど、どうも雰囲気が違う。
要はこういう事なんです。
<<直腸検査を受けるかどうかの意思確認>>
これに尽きる事ではなかったのかと今考えると思います。
担当の先生が回りくどい話をしながら直腸検査の話をし始めました。「お尻を出すので精神的苦痛がある」とか「指を肛門から入れて検査をするので多少の苦痛も伴う」とか「屈辱的」とか「羞恥心を煽る」とか言って先生ってば俺を脅して来るんです。
最終的に「この検査は受診者の意思に任せます」と先生は言いました。
ふ・・。そんな事でこの俺を屈服したつもりでいるのか?
俺はクールに
「別に恥ずかしい事とは思いません。受けます」
と答えました。
どうせオッサン医師が寒いギャグでも交えながらやるんだろ?乗ってやろうじゃないの。
そして問診。
とっても綺麗な女医さんによる大方の検査報告と問診及び触診です。
超音波検査の結果、胆のうにポリープが見つかりました。
「良性だと思うので大丈夫でしょう」とか軽く言ってくれるけど先生。「だと思う」って何? 何で良性か悪性かを調べる検査をしようとか言ってくんないの? それは今回の人間ドックの料金には含まれてないからか? そこからはオプション料金か?
色々疑問に思ったんだけど、前日夜9時以降の絶飲・絶食により抵抗する気力も無くなっていた俺はただ「そうですか」としか言えませんでした。
来週辺り俺の両親が病院に呼び出されるかも知れません。
まぁそれはそれとして。
触診なんだけど、お腹を出す時にこれまた可愛らしい助手さん二人が俺を手伝ってくれるんです。
今まで担当してくれた先生は皆女性だったけど、常にマンツーマン。でもここでは主担当の先生以下4人の看護師さんが色々手伝ってくれます。
うむ。。正にこれぞハーレムだな。
診察ベッドに寝かせられた俺はお腹を先生に押されたりしていました。
「痛くないですかぁ?」とか言われながら。。
「いえ。全然大丈夫です」と、ちょっと照れながら答える俺。
すると先生が
「それではこれより直腸検査に入らせて頂きます。下着を脱いで横向きになってヒザを抱え込む様にして下さい」
とかサラっと言って来たんですよ。
・・・
・・
は? 今何て言いました? 聞き逃しそうなくらいの流れでシレっと言いましたね先生。
直腸検査て。。。下着脱げって言いましたよね?
ここで?
こんなに看護師さん達がたくさん居る中で?
てか、アナタがやるの?
それって俺がドMだからですか? そうする事がサービスだと思った訳ですか?
いや、ウソだから。。それネタだから。。本気にしないで下さいよぉ。
とか色々頭で言い訳をしていたんだけど、そんな抵抗の間も与えずに俺は下着を脱がされました。
そして看護師さんの「息を吐いて下さいぃ」と言う声が聞こえた瞬間に先生がブスっと俺のお尻に指を刺してきたんですよ。看護師さんの「ヒザを抱え込む様に」と言うセリフから10秒と経たないうちの攻撃。
こちらの羞恥や迷いの時間を少しでも与えない様な奇襲攻撃でした。
「ふぃぐぃっ!!!」
生まれてこのかた約40年。今まで発した事の無い言葉が俺の口から出て来ましたよ。
お尻の中で指をグリグリやられましたが、時間的には数秒でした。周囲の看護師さん達の様子をうかがう余裕は俺には無かったです。
ちょっとした放心状態のまま問診及び触診は終わりました。
そして最後、メインイベントの胃検査です。
バリウムと言うドロっとした奇妙な液体を飲むアレです。
俺にとってバリウムを飲むのは2回目だったのだけどやっぱり美味しいモンではないっす。。
前回はバスの改造車みたいな中で行なったのだけど、今度はちゃんとした専用部屋だからか、機械も大きく動きも多彩なんですよ。
お部屋のイメージとしてはアーティストのレコーディングスタジオですね。
歌手が歌入れをするお部屋と、その隣でスタッフの人が色々機械をイジって窓の外から歌手に指示をだしたりするお部屋。あの中で歌手に当たるのが俺でスタッフが担当の先生です。
マシーンに乗った状態で
「まず半分バリウムを飲んで下さい」
とスピーカー越しに聞こえる先生に従い俺は鉛を溶かした様な液体をグビグビ飲み始めました。
半分飲んだ俺がウェェ。。って顔をしていると先生が
「はい。ではコップを持ったまま横に居る私を見て下さい」
とか言うんです。素直に従う俺。
「では最後までバリウムを飲んでしまって下さい」
との指示に俺は一気にヤツを飲み干しました。すると
「はい。では今度はそのコップを突き出す様にしてこちらを向いて下さい」
なんて注文をつけてくるんですよ先生。
何これ。。バリウムのCM撮影?
「人間ドックと言えばこれだね!」なんて言って、バリウムコップを前面に掲げて満面の笑みで言うか?
訳わかんね。何じゃこの指示は。。。
でもってさて肝心の検査だってんだけど、まぁこの診察台が信じられないくらいな傾きを見せるんですよ。90度動いて完全にベッド状態になるのはまだ分かるんだけど、それを越えて頭が更に下がる所まで傾くんです。当然体がズリ落ちそうになるじゃないですか。頭の方に。。
だのに先生ってば
「はい、落ちない様にしてくださいねぇー」
とか軽く言いやんの。
落ちない様にしたいんならこの角度は無いやろ!?
そして続けて先生は「右へ体を回転させて」「もっと早く回って」「もっと早いスピードで回って!」「次はうつぶせになって」「今度は反対側に回って!」と忙しく俺に指示するんです。
「もう。。無理ですビリー隊長。。付いて行けません・・」ってくらい、健康診断とは思えない過酷な時間でした。
やっとこ終わると先生からご褒美として下剤を貰います。バリウムが胃腸内で固まる事を防ぐ為のモンです。
気持ち悪ぃ・・・。と言う気分のまま、俺は着替えてとっとと会社に戻ろうと思ったところ、受付で事務員さんに食券を渡されました。
何だ?この病院には立ち食いそばでもあるんか?と思いきや、行ってみてビックリ。そこは小洒落たレストランでした。何ちゅー病院だこりゃ。。
メニューを見るとランチセットがどれも1,500円。・・・高っ。。。
こんな弱小サラリーマンにとってランチが1,500円なんて別世界です。ヒルズ族ですよ。汐留ヒルズですよ。いや、汐留に高台なんて無いんですどね。
そんなに高いお食事券だと言う事に動揺してしまい、数あるセットの中からカレーセットを選んでしまった俺はやっぱりキレンジャー。
でも生ハム入りの何かのカルパッチョ的前菜や食後のデザートとコーヒーも付く辺りはさすが1,500円と言ったところです。メインのカレーも上品なお味でした。
と、こんな感じで俺の生まれて初めての人間ドックは終了しました。
しかしホッとしたのも束の間。下剤が効き始めた俺は、その日会社で半分近くの時間トイレに立てこもっていました。。。
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