俺はウィークデイは毎朝会社の近くの喫茶店に行ってモーニングセットを食べてから出勤するんですけどぉ。
この喫茶店のモーニングセットは厚切りトースト1枚を二つに切ったモンと、ゆで卵とトマトジュースとコーヒーが出るんです。そんだけで500円。・・高ぁーーい。
でもそのせいかあまりお客も入って来ないんでゆっくり出来るんす。
でもこないだのトマトジュースにはヤラれた。
え?これスパークリング・トマトジュース?ってくらいに何か炭酸っぽいんっすよ。泡だってて・・。
んー、気のせいかなぁ。。。と思ってもう一回飲んでみたんだけど異常にすっぱい。確かにトマトジュースはすっぱいモンだけど、これは常軌を逸している。
だけど今日は俺の口の調子がイマイチなのかも知れないしぃ・・、新しいトマトジュースにしたかも知れないしー・・、とか思ったんだけど、いや思おうとしたんだけど、やっぱ無理。いやこれ腐ってんだよー。むぎぃー。
ってでもさぁ、いくらお得意さんで顔馴染みだとは言っても、いや顔馴染みだからこそ「これ腐ってます」とは言えないモンなんっすよ。
しかしだからと言っても俺にだって明日という未来がある訳だから、お腹壊すのもイヤなんでトマトジュースを残したんですよ。いやさ。そんな事したら絶対ママさんやマスターのツッコミが入るのは分かってんですよ。10数年通い詰めて毎日同じモーニングセットを食べていて、トマトジュースを残した事なんて一度も無いんだから。
案の定俺が店を出る時にママさんが
「あら、今日は調子悪いの?トマトジュース飲まないで・・」
って言って来たんです。
「調子悪いのはそのトマトジュースそのものじゃーー!」
なんて言えないクールな俺は
「あのぉ・・、トマトジュースって種類変わりました?何か飲めなくて・・」
って当たり障りの無い素晴らしいグッドな回答をしたんですよ。したらママさんが
「あら、変わってないわよ。何かおかしかった?」
なんて普通に聞いてくるから
「いや、俺の口がおかしいのかも知れないんですけど・・」
なんて健気に答えたんですよ、俺。ママさんはちょっと怪訝そうにカウンター内のマスターに
「何かトマトジュースおかしい?」
って呼びかけたんです。したら減量し過ぎたボクサーの様に痩せこけたマスターがトマトジュースのパックを取り出し、コップに移して一気飲みをしたんです。ああ、そんなに一気に・・。そしたらマスターってば
「うーん・・」
とか曖昧な返事しやがんの。でも顔が完全に「まっずぅ〜!」って表情になってるんですよ。それ見たママさんが
「ごめんなさいね。痛んでいたのかも知れないわね」
とか俺に謝ってくれたんだけど、しっかり500円は取られた。えーー?
まぁ良いけどぉー。

でもって次の日、朝いつもの様にその喫茶店に行ったところ、マスターが
「昨日はごめんね」
って言って来たんです。
「ああ、良いですよ別に」
と俺は普通に答えたんだけど、マスターがその後言い訳を始めたんですよ。でも
「昨日月曜日だったでしょ。それで先週の金曜日にトマトジュース仕入れたんだけど、凍っていたから店を閉める時に冷蔵庫のスイッチ切っていたんだよね」
とか言ってるんっすよ。はぁーー?全然言い訳になってないし。っつーか確信犯じゃん。
この喫茶店は土日は営業してないから、そりゃ凍ったトマトジュースは溶けますよ、冷蔵庫のスイッチ切ってれば。けど今ってまだ残暑真っ盛りなんですけどぉ。えーと、確実に腐るじゃないっすか。
「いやぁ歳を取るとボケちゃって」
ってマスター・・。ねえマスター・・。ねえマスター、作ってやってよ。清水健太郎じゃないんだからさー。
ボケって。。そのボケ方はおかしいだろー?
いいですかぁ?凍ったトマトジュースが入荷されました。凍っていたんで外に出しておきました。そのまま冷蔵庫に入れるのを忘れて腐らせてしまいました。はいコレはボケ。
トマトジュースを冷蔵庫と間違えて冷凍庫に入れてしまい凍らせてしまいました。はいコレも何とかボケ。
でもぉ、金曜日の店を閉める時に凍ったトマトジュースを融解させる為に冷蔵庫のスイッチをわざわざ切って、そのまま月曜日まで放置って・・・。そんな分かり難いボケってあるかよー。しかもぉ、月曜日の朝に冷蔵庫のスイッチが切れているのに気付いてる訳でしょ。そうだよ、だって例の腐ったトマトジュースって冷たかったんだモン。あ、いけね、とか言ってスイッチ入れてるさぁ。
それだけの段階を経た上で出されるトマトジュースって、これは確実に俺に飲まそうとしているとしか思えないっすよ。
えーー何それー。俺何か悪い事しましたかー?
でもってマスターってば
「いや、でも気付いて良かったよ。他のお客さんに出さなくて」
だって。俺なら良いんか?え?良いんか?ええのんか? ぶぉっこーー!
俺、結構ムッとしてたんですよ。何じゃそりゃって感じでぇ。
でもまぁこれから登場するママさんにも謝って貰えればそれで勘弁してやるか、とか思ってたんっす。
したらママさん現れるなり
「あらぁ、何もうすぐ夏休みー?良いわねー。私らお盆休みなんか無いのよー。うらやましいたらありゃしない」
とか言って来てケラケラ笑ってんの。
・・・・・
・・・・
・・・
まぁ実はこの喫茶店のママさんって俺の母親の従兄弟なんですけど、母方の家系って基本的に何でもOKって考える人達ばかりで、このママさんも見事にその血統って感じなんですわー。あふぅ・・。
またこんなクールな俺でもその血を引いているのかなぁ、とか思うとちょっと凹みますよ。


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