人間っていうのは、人生を歩んで行く中で正面に何らかの障害である壁が立ちはだかった場合、逃げたくなる気持ちがありつつも出来ればその壁を踏み越えたいという意識が働く本能を持っていると思います。つまりそれは、壁を越えた時の快感を無意識のうちに体が覚えてしまっているからだと思うんですね。アレですよ。何だかんだ平和が良いとかノンビリしたいとか言いながらも、人間には何処かで「闘いたい」という欲求があるんです、きっと。
あのぉ、牛丼屋チェーン店と言えば吉野家・すき家・松屋辺りが有名どころですよね(吉野家については牛丼が戦線に復帰するのは‘06の9月頃という事ですけど)。3社はあらゆる独自のサービスを提供しながら勝ち残りをかけて凌ぎを削り合っている、といった感じだと思います。
俺の様なクールガイは上記の3社とも良く行くんっすよ。えーと各店舗を簡単に分析してみると、吉野家は牛丼が復活した時点で勢いを取り戻すとは思うけど、今のところは息を潜めているという雰囲気です。対して松屋・すき家はオーストラリア産ビーフを仕入れているので牛丼も普通に出せるし、メニューバリエーションも豊富で結構な勢いを感じます。
中でも俺がもっとも注目しているのは松屋です。更に言えば松屋のビーフカレーが今一番熱いです。
松屋でビーフカレーを注文すると味噌汁が付いて来るんですよ。んー?牛丼やその他の定食に味噌汁が付いてるのは分かるけど、ビーフカレーに味噌汁ぅ? ちょっと変な感じだと思いません?
これねぇ、食べてみるとその意味が分かるんですよ。
ビーフカレーって言えば辛いでしょ。まぁ、クールな俺から言わせれば松屋のカレーの辛さなぞガンダムに対する旧ザクの様なモンで、全く眼中に無いと言えばそうなのだけど、この後に熱い味噌汁を飲むと結構ヒリヒリと来るんですよ。いや、かなり。「熱っ」って動きが止まるくらい。飲みたいと思う量を飲むには、相当なヒリヒリ現象と闘う根性と気合が必要なんです。大方の見方としては、この組み合わせはどうかなぁと感じるのではないかと思うんですけど、俺はそこに松屋の人間の潜在的闘争本能を掻き立てる戦略に気付いたんです。つまり松屋は密かな戦闘パートを持ち、それをサブリミナル的に俺達消費者へ表す事によって、無意識に闘いを求める人間の心理を突いて客足を伸ばそうとしているんです。いやホントですよ。だってその証拠にテイクアウトでカレーを注文しても味噌汁は付いて来ないんですから。家に持ち帰って食べる頃には味噌汁が冷めてしまっている訳で、それでは「闘い」にならないからなんですよ。
そんな彼らの戦術を悟った俺はこの間カレーを注文した時、食券を取る時の店員のお兄ちゃんを凝視したんですよ。したらお兄ちゃん
「はぁい。カレーですねー?暫くお待ち下さいぃ」
と言った後にニヤッとしたんですよ。いやマジですって。俺には分かるんですよ。真実を知らない人にとっては単に「ご注文うけたまわりましたー」の笑顔に見えるかも知れないけど、あの作り笑顔の裏には「ふっ・・なるほど・・。では挑戦してもらおうじゃないの・・」って言う言葉が隠されているんですよ。
もうそうなったら俺としてはその挑戦を受けて立つしかないじゃないですか。
カレーをガツガツ・・・ 味噌汁ガブ飲み 「熱ぃっ!」 更にカレーをガツガツ・・・ 残りの味噌汁一気・・・「熱っ!だ、だめだ・・」
カレーを食べた後の味噌汁一気がどうしても出来ないぃ・・・。
ふと店員のお兄ちゃんを見てみると、ホントは闘いに挑んでいる俺の事を注目したいくせに、何かわざとらしくお皿を洗ってたりするんですよ。でも絶対時々横目で俺を見てましたよ、アレ。「やっぱり君もダメかい・・。まだまだだねぇ・・」とか思ってるに違いないんですよ。ムッキー!
食べ終わった後、俺の中で満腹感の他に「次こそは」という決意が沸々と沸き立っている事に気付きましたね。
ってな感じで、いつかは他の皆も松屋の戦略にハマって行くんですよ。いややっぱり負けたくないっすから。壁を乗り越えたいっすから。自分、不器用っすから。
一度松屋のカレーをお店で食べる時に店員さんを見てごらんなさい。絶対に「来たね・・。その勇気だけは認めてやるよ」的な顔してますから。
よーし負けるな! いつかは皆で松屋の牙城を崩してやろうではないか!

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