いきなりなんですけどぉ、野生ってなんだと思います? 
野生ってのは、まず野性の心を持っている事が第一条件だと俺は思う訳ですよ。
まあ皆は知っていると思うけど一応説明をしておくと、野生ってのは人の手を借りずに自然に生きている動植物の事を言いますよね。で、野性ってのはいわゆる本能の赴くままに生きようとする性質ってのか性格ってのか、って感じでさぁね。
だから野生の虎や野生の象なんかは人の手をほとんど借りていないし、もし借りていたとしても、それは結果的にであって(種の絶滅をさせない為に意図的に人間が保護をするようなもの)野生動物本人達は決して人間に媚びる訳でもなく、野性の気持ちを失くしてはいないと思うんです。
それに比べてよぉ、何だよ俺んちの近くに潜む野良猫共はよぉ!
アイツら絶対に野良なんかじゃねよ。
俺の家の近所にはちょっとした遊歩道があって、たまに俺も通勤時にそこを利用したりするんですわ。そこには数匹の野良猫が居ついていましてね。で、3人の近所のオバさん達が毎朝この野良猫に餌をあげているみたいなんですよ。
猫というのは各自縄張りが決まっているみたいで、オバさん達は自転車で各猫達の縄張りと思しき草の茂みに餌を置いて回るんです。
でもぉ、その遊歩道は数箇所に『近所の住民が迷惑しています。猫に餌を与えないでください』と書かれた看板が立っているんですよ。これは遊歩道に面した住人達、つまりホントの近所の人達の声だと思うんです。だのにそのオバさん連中、そんな事ぁ知ったこっちゃなく、まるでそれが生きがいであるかのごとく雨の日も風の日も毎日々々猫に餌を与えているみたいなのー。
近隣の住民の中には猫が苦手な人も居るだろうに、どうしてまるで慈善事業でもしているかのような振る舞いでそのオバさん連中は猫に餌を与え続けるのだろう?
まぁ俺的にはそのオバさん連中にもちょっと腹が立つんだけど、何よりムカツクのが当の猫共。完全に餌付け慣れしちまって野生のかけらも無いんです。餌を与えるオバさんが自転車で縄張りに近付いていくと
「ニャーニャー」
と、それこそ本場仕込みの猫なで声を発して近寄って行くんです。
まあね。ここまでなら俺も
「ふっ・・牙を抜かれた狼め・・」
みたいな感じで野生の志を失ってしまったエセ野良猫を嘲笑して通り過ぎる事も出来ますよ。
ところがね。こないだ餌を与えようとしているオバさんと、そのオバさんの足にまとわりつく野良猫の横を俺が通り過ぎようとした瞬間に、その野良猫が俺に向かって
「フーーーッ!!」
ってな感じで、思い出したかの様に野生をむき出しにして威嚇してきたんですよ。これって人間の立場からするとかなりムカツキません事? 矛盾してません事?
テメエこの野郎・・。今やオマエは人間を頼りにして生きる事を選択した、いわゆる野良のプライドを捨てたハンパ者な訳だろ? 人間のほどこしで生かされているようなモンだろ? だのにどうして同じ人間である俺に対して敵意を持つんだ? と。
そんな態度をとるのなら、テメエの餌ぐらいテメエで探してみろ、ってんだ。
つまり思うんだけど、アイツ等結局人間をナメてやがるんですよね。良い顔してりゃあ餌くれるから、本意じゃないけど可愛い子ぶっているか、みたいな腹黒い計算を緻密にやってるんですよ。
でもってたまたま俺の様なクールな男が近くを通った事で化けの皮がはがれたんです。
確かにね。飼われている猫は餌の心配はしなくて良い代わりに自由度に欠ける。完全な野良は自由ではあるけれど餌を自らの力で得なければならない。対して上記のようなハンパ者は、餌の心配をしなくても良い上に誰からも拘束される事なく自由奔放ぶりを発揮出来るという全く良いポジションな訳ですよ。芸能界でも特別芸を持っている訳ではないけど人柄の良さとかがウケて第一線で活躍出来る、みたいな人って居ますよね。アレと同じっすよ。ん?違うか?
ただぁ、芸能人は芸能人なりに自分の努力でそういうポジションを勝ち取ったのだからそれも実力、と思えますわ。けど俺の近所に居る野良猫共は、たまたま下世話なボランティア気取りのオバさんが近くに居たが為に今の楽園を謳歌出来ているに過ぎないんです。野良猫自身がネゴシエーションを利用したり、人間に対して飛び込み営業をかけたりして今の地位に居る訳ではないんですよ。それをさも当たり前のように人間から食事を献上されている(しかも自らの縄張りにまで餌を持ってきてくれるという殿様待遇)というのが俺としては許せんのだよ。君の父上がいけないのだよ。
ハトやここ最近のカラスもそうだけど、近頃人間をナメている野生動物が多過ぎます。カラスなんかもうアレですよ。メッチャ近付いても全然人間を怖いなんて思ってませんから。
「何やワレ?俺達近くで見ると意外とデカいやろ?ビビるんやないで。いてもうたろかコラア!」
なんて関西弁でケンカ売るような風情で、むしろ人間の方が恐れている感じですモン。
それに加えて「動物虐待保護法」だか何だか、生き物をイジめると処罰される法律まで施行されている始末。野良な連中にとっては追い風旋風まっしぐらですよ。
徳川綱吉かよ!! それともこの法律を立案した奴は何か野良猫やカラス達からワイロでも貰ってるんか? パンの耳とか木の実とか貰ってるんか?と疑いたくなるほどだわさ。
今のままでは野生動物の侵略によって俺達人間が平和に暮らせる場所は無くなりますよ。いやホントに。
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あー、えーとねぇ。。。正直言って違うの。俺、実はカラスでも猫でも動物大好きなんっす。近所の野良猫とも仲良くなりたいってずっと思ってたんです。だのに牙むいてフーーーッ!とか言われたからショックでぇ・・・。そんな気持ちの裏返しなんですぅ。
はぁ。。。片思いってツライですねぇ・・・。


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