これは昭和52年に東京12チャンネル(現テレビ東京)で放送されていた子供向け特撮ヒーロー番組です。
この「快傑ズバット」は、今の俺の性格や行動形成から会話の言語チョイスに至るまで大きな影響を与えた番組のひとつです。「クール」に憧れを抱き始めたのも当番組がきっかけです。
さて、この作品についてのストーリー等を他のレビュー同様順序立てて説明したいところなのですが、俺自身の思い入れが余りに激しい事に加え、あらゆるファクター(ツッコミどころ)が満載の為に表現力と文章力の無い俺ではとても話の収束を図る事が出来ないと判断しました。
よって大まかなストーリー説明は記載しますが、ツッコミを含めた詳細については個人的認識と見解を交え後に記していく事とします。
今回のレビューは他とは比べ物にならないほどの長さになるので、快傑ズバットに余程興味のある人以外は読まれる事をお勧めしません。
ただ、そうまでしてもこの「快傑ズバット」はレビューから外せない作品だと俺自身思っているのです。


<ストーリー>
私立探偵の主人公「早川健」が、何者かの手によって殺害された親友「飛鳥五郎」の仇を捜す為にさすらいの旅を続ける物語です。
人情味厚い早川は旅の途中で困った人たちを助けていくのですが、その先々で敵となるのが悪の組織「ダッカー」です。
ダッカーは毎回必ず別の組織名で登場するのですが(○×連合とか○△組とか)彼らは常に銃刀等々の使い手を用心棒として雇い、早川の前に立ちはだかります。そこでのお約束の対話がこれ。
早川:「△×の使い手○×。確かに良い腕だが、この日本じゃあ2番目だ」
用心棒:「何?では日本一は誰だと言うのだ!?」
早川:「チッチッチッチッ・・」(不敵な笑顔で自分を親指で指す早川)
そしてこの世のものとは思えないとんでもないテクニック合戦の上で毎回早川は勝利します。
しかしそれで治まらないダッカーは次々と早川が味方をする関係者を殺害しようとしていきます。
早川はそんなダッカーに対抗する為に、飛鳥と共同で開発した強化服を着用し「快傑ズバット」となりこれに立ち向かいます。同じく登場するのが最高速度350kmを誇り空中を飛ぶ事も出来るズバット専用車両「ズバッカー」です。
飛鳥五郎を殺したのは卑劣極まりないダッカー組織に違いないと目星を付けている早川は、毎回終盤その相手となる敵のボスキャラに対して「2月2日。飛鳥五郎と言う男を殺したのはオマエか!?」と詰問し犯人捜しをして行くのですが、なかなか張本人に辿り着く事は出来ずにひとつひとつの旅を終えていきます。
しかし最終回。ついに親友の仇を突き止めた早川は。。。


<快傑ズバットの特徴>

@登場するのは全て人間
多くのヒーローやその敵方は人間ではなく改造人間だったり宇宙人だったり得体の知れない者だったりするのですが、この作品に関しては人間である早川健が強化服を着た姿がズバットであり、悪の組織ダッカーも全て生身の人間で構成されています。ダッカーは言わば警察でも手に負えない武装的暴力集団と言う事になります。

Aオープニング曲
快傑ズバットはオープニング曲のイントロに大きなアクセントとなる津軽三味線の様なビワの音が入ります。
数あるヒーロー番組の中でも和製弦楽器を使用しているオープニング曲なぞ快傑ズバットの他に俺は知りません。そしてその曲を力強く心の底から歌い上げるのはアニソン界のアニキ事、水木一郎。曲のタイトルはその名も「地獄のズバット」。
当時小学4年生の俺にとって衝撃を与えるに十分な要素が詰まったこの曲。俺は、ズバットを観た翌日の朝なぞ興奮冷めやらぬ状態でこの「地獄のズバット」を歌いながら全力疾走で学校に登校するちょっと頭がアレな小学生でした。

B早川健と言う男
常にカウボーイ調のスタイルを決めている早川はとにかくクールです。
「クール」と「キザ」の定義の違いは、俺の中ではその行為や発言がサマになっているかどうかが基準になります。本当にクールな男は虫酸が走る様なセリフや赤面してしまう様なポーズも全てカッコ良く見えるものと思っています。
早川健(宮内洋)は正にそういう男でした。俺がクールに憧れるきかっけとなるのもこの早川健によるところが大きかったです。
とにかくいつ何処で修行を積んだのか、何をやらせても日本一の芸達者、早川健。
本人のギター演奏による劇中の登場シーンでは、俺たち素人からすればどう聴いても2本のギターの奏でとしか思えない曲を、早川は一人で難なく弾いてしまいます。さすがと言ったところです。

C無国籍ヒーロー作品
これ以前に小林旭の映画「渡り鳥シリーズ」がヒットしていた事もあってか、その要素がズバットにも加わっており、牧歌的風景や馬に乗るシーンが序盤はやたらと多く見られます。しかし中盤辺りから制作費的問題なのかロケーション的問題なのか、他のヒーロー作品同様に砕石現場やダム等で戦うシーンが多くなりました。

D作品の熱さ
先ほどクールと言っておいて何ですが、この快傑ズバットは全てにおいてとにかく熱い作りなのです。
大抵の作品はシーンの区切り等でストーリーを落ち着かせる意味の「なだめ役」的登場人物が一人は居るものなのですが、この快傑ズバットに出てくるキャラクターは主演の宮内洋を筆頭に敵も味方も大人も子供も女も男も全員が全員熱く、それを止める存在が全く居ません。進行上主演の宮内が場を落ち着かせる役割を担う事があるのですが、脈々とたぎる熱い血潮を自らも止める事が出来ないのか、結局叫んだり殴ったりして強烈な演技に戻ってしまう事もしばしばです。
とにかく物語的にも最初から最後まで常にテンションMAXと言った風情で、当時観ていた俺はいつも何か妙な焦燥感に駆られる気分になっていました。

E容赦の無い悪の組織ダッカー
この快傑ズバットは子供番組であるにもかかわらず、やたらと暴力シーンが出てきます。
悪の組織ダッカーは、女だろうが子供だろうが刃向かう者には手加減無しで痛めつけます。顔中アザだらけになっても殴り倒します。人殺しも簡単にやってしまうので、今見るととても子供番組とは言えません。
DVDの冒頭で「この作品は本編が古いため、多少お見苦しい箇所があり得ますが・・」と言うテロップが流れるのですが、てっきり俺はそれが画質的な問題だとばかり思っていたのですけど、実は作風の事を言っていたのだと後になって気付きました。


<快傑ズバットはツッコミについてもネタの宝庫>

@悪の組織ダッカー
快傑ズバットにおいての敵役は「ダッカー」と言う団体なのですが、彼らは警察の目を欺くためか毎回違った組織名で登場します。
つまりメーカーとレーベルが違うのと同じですね。AVで言うところの「ソフト・オン・デマンド」がメーカーで「ディープス」や「アイエナジー」がレーベルと言ったところでしょうか。
意図的に別組織を名乗っていると思えるダッカーなのですが、その構成員はいつも同じ服装で真っ黒なサングラスをかけ、大きく「D」と一文字書かれたとってもセンスの良い真っ赤なネクタイをしているので、視聴者にも早川にも簡単にバレてしまいます。

Aダッカーに加担する用心棒
毎回ダッカーが雇う用心棒ですが、何をやっても芸達者な早川に勝てない事に加え、ネタも尽きてきた事から(日本で1番のあらゆる武器の使い手が早川の返り討ちに遭った為とも言えますが)その用心棒も中盤辺りから「バーテンの日本一」とか「大工の日本一」とか「手品の日本一」とか、もう用心棒として本当に役に立っているのかどうかすらサッパリ分からない日本一を名乗る輩が登場し始めます。
しかしどんな奇抜な日本一であっても超人的なテクニックを持つ早川には決して勝つ事が出来ません。
ところがこの用心棒達。早川がズバットに変身してからも懲りずに戦いを挑んできます。あの早川が強化服を着た姿がズバットであるのだから、その実力差は歴然としており勝てる見込みなぞ無いのに、その事を知らない用心棒達は気持ちを切り替えて頑張ろうとします。
案の定あっさりヤラれる用心棒。最後に「オマエ・・・。やるな。。。」と負けを認める言葉を虫の息で語る用心棒。相手が早川だと知ったらその屈辱は数倍でしょう。

Bズバッカーの存在
快傑ズバットと言えば必ず登場する愛車ズバッカー。最高速度350kmで空を飛ぶ事も出来るスーパーマシン。
このマシンを早川は手作りで仕上げました。何をどこにくっつけているのか分かりませんが、まぶしそうな顔をしてバチバチと溶接する汗だらけの早川がズバッカー完成に至るシーンで出てきます。そんな勘に頼る手作業で本当にバランスが取れているのか疑問に思うところではありますが、良く考えたら何をやらせても日本一の早川にとっては溶接にかけても日本一なのだから全く心配には及びません。
ズバットはこのズバッカーが殊のほかお気に入りの様で、どんなに敵の近くに居る時もこれに乗って来ては必ず飛行して宙返りを見せ付けます。
玩具メーカーの要望で常に登場させなくてはならない雰囲気が丸分かりなのですけど、しかしここはズバットがズバッカーを大好き、と言う事にしておきましょう。

C友人の警察官:東条進吾
ズバットの正体が早川である事や、早川が親友殺しの犯人を捕まえる為に旅をしている事を知る数少ない存在。
彼は早川にとっては古くからの友人で刑事をしており、ダッカー絡みの事件についての捜査を行なっている為、結果的に毎回早川を追いかける様な形で登場します。しかしながら早川がどんな地方に旅をしていても現れるので、警察官としての彼の管轄は一体何処までなのか全く不明です。ひょっとしたらダッカーに関係する事件であれば全国何処へでも赴く事が可能な特別任務を受けたスーパーエージェントなのかも知れません。
その割に罪も無い民間人に思い切り銃を向けたり、不十分な証拠で誤認逮捕を連発したり、実直で曲がった事が大嫌いな真面目人間なのにプライベートではチンピラの様な格好をしてる時もある、ちょっとした人格破綻者だったりもします。
ややこしい存在であるダッカー組織の一掃の任に就かせる事で一種の厄払いをくらっている可能性も否定出来ません。

D横の連携が全く取れていない悪の組織ダッカー
ダッカーがどれほどの大きな組織で全国展開をしているのかは分からないのですが、毎回々々早川(ズバット)に遭遇する度に彼らは「誰だオマエは!?」と聞いてきます。
下っ端の構成員クラスに情報が伝わっていないのはまだ分かるのですが、全国支配を目論む彼らにとってズバットは目の上のタンコブ的存在なのですから、幹部である中ボスくらいはその程度の予備知識を持っていて欲しいものです。少なくともしょっちゅう登場するダッカーのNo.2「首領L」は、これまでのズバットの邪魔立てを完全に認識していつも「おのれズバットめ!」とか言っているのですから、次に担当する幹部ボスに「赤い格好をしてムチを振り回すのがズバットで、何かと言うとギターを弾いてうちの用心棒に突っかかって来る演技の濃いちょっとイタいヤツが早川健だ」と教えてあげれば良いのですよ。
ただ、そうするとズバットが登場した瞬間にダッカーは「むむっ!!出たなズバット!」と言ってしまう為、ズバットお約束の「はっはっはっはっ。。ズバット参上ズバット解決。人呼んでさすらいのヒーロー。快傑ズバァーーット!!」と言うセリフ及びポーズを敢行しても「そんなんやらなくても知っとるわい!」と言う感じでツッコミを入れられてしまうので、予めズバットは首領Lに「それだけは言わないでおいてくれ」と影でお願いしていると思います。

E早川健の最終目的
早川が旅を続けるのは親友である飛鳥五郎の仇討ちであり、本来ズバットスーツも犯人がどんな強い人間であっても対抗する為に着用するものでした。
早川はちょっとお節介なところがあるので、あらゆる地で人助けを行ないますが、たまたまその人々を苦しめているのがダッカー組織である事から衝突する機会が多いのですけど、彼は他のヒーローの様に平和の為とか正義の為とか言う大義をかかげて戦っている訳ではないので、悪の組織ダッカーを根絶やしにしようなどとは毛頭考えてはいないはずでした。当初ズバットは、親友殺しの犯人を突き止めて復讐しさえすれば目的が達成されると言う、非常にスケールの小さいヒーローだったのです。
<以降ネタバレ>しかし、実は飛鳥五郎を殺したのがダッカー組織のトップである「総統D」だった事から、最終回で早川の目的は達成されると同時に、悪の組織ダッカーも滅ぼしたと言うオマケ付きにより、結果的にズバットは世間的にも認められる「ヒーロー」のカテゴリーに含まれる事になってしまったのです。
しかし、ここに至るまでの早川の心理描写が記されるエピソードが無いので、ひょっとしたら銀河鉄道999の星野鉄郎よろしく、最初は機械の体になる事を希望するも、その思いを撤回し、あまつさえ機械化母性そのものまでも破壊してしまおうと言う意識に発展するが如く、早川の中にもただ親友の仇討ちを達成させる事だけでなく、旅を続ける間にかかわってきた人たちの為にダッカー組織を殲滅しようと言った並行目的が芽生えていったのかも知れません。

Fダッカーのトップ「総統D」の存在
明らかに法律に抵触する武器を所有し、それを使って殺人を繰り返しながらも警察からは大したお咎めを受けないでいるダッカー。
あの幹部ボス達の特殊メイクを見る限り、決して影に隠れて悪事を働いているとは思えないので、警察上層部のメンバーのよほどの弱みを握っているか、もしくは警察にも対抗出来るほどの武力を有しており、おいそれとは手を出せない組織であるかのどちらかだと思います。
早川にとって仇でもある飛鳥五郎殺しの犯人は、上記で述べている様に「総統D」と言うダッカー組織を代表する取締役なのですが、大きな組織である事に間違い無いはずのダッカーのトップともあろう者が、たかが個人一人の殺害の為に自らの手を汚す辺りが理解に苦しみます。
飛鳥五郎は、総統Dが他の部下達に相談出来ないくらいよっぽど恥ずかしいネタを掴んでいたに違い無いです。



以上、レビューと呼ぶにはあまりにも長い文章となってしまいましたが、俺にとっての快傑ズバットへの思いは正直言ってまだまだこんなものでは語り尽くせていません。
ただこのままではキリが無いので、取り敢えず快傑ズバットがこういう作品なのだ、と言う事が伝われば良いかと思っています。


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