関節リウマチにおける当院の治療方針 改訂版

菱谷医院  菱谷好高

関節リウマチは、関節滑膜に原因不明の免疫機構の異常が生じ炎症をきたした結果、関節滑膜に痛みと腫れが起こり、進行性の破壊関節炎にいたる病態と考えることができます。関節リウマチをおこす免疫異常が何故起こってくるのかいまだ解明されておらず、したがって現在この関節リウマチを完全に治癒さすことはできていません。
 しかしながら、どのようにして関節リウマチが進んでいくかは解明されてきており、関節リウマチの症状・病像にあわせ適切な治療を行うと、間節の痛みと腫れなどの炎症症状をなくし、さらに関節の破壊もおさえ、健康な人と同じ様に運動もでき、健康的な生活を過ごすことが可能になってきています。
残念ながら、現状では適切な治療を受けておられる患者さんは少なく、多くの方は関節の痛みと腫れが続き、その結果、関節の破壊と変形が進み、日常生活が著しく制限されてしまっています。
 私はこれまで内科医として、肝臓・心臓・糖尿病・甲状腺・呼吸器疾患などの患者さんの治療とともに、関節リウマチ・膠原病を専門として大学病院勤務の時より現在まで30年間で500人以上の関節リウマチの患者さんを診察させていただきました。現在も約200人の患者さんが当院へ通院されています。
 その診療経験より、関節リウマチは膠原病と同じく完全に内科の病気であること、そして関節リウマチはどのように治療すれば、関節の炎症をおさえ、関節の破壊をおさえることができるか私なりに理解できるようになりました。それをここで、当院の治療方針として、述べさせて頂きます。
 
 それではどうすればよいかと言いますと、当たり前のことですが、患者さんの関節の痛みと腫れを完全になくし、血液検査でも、関節リウマチの炎症反応である血沈・CRP・MMPー3などを正常化することにつきると思います。
 この状態にもっていければ、関節の破壊・変形の進行はほとんど抑えこむことが出来ます。事実、当院に関節リウマチ発症初期より来院され治療を受けておられる患者さんのほとんどの方は10年以上経過しましても関節の変形もなく、痛み・腫れもなく普通の生活をされています。
 それではどうして関節リウマチの患者さんは、関節の破壊・変形が進んでしまっているのでしょうか。
当院にすでに関節リウマチが進んでしまってから来院された患者さんの投薬されていた薬から判断しますと、抗リウマチ薬の選択が間違っている、適切な薬でも十分量を投与されていない、鎮痛剤・ステロイド剤の鎮痛効果にたよりすぎているなどが考えられます。
 具体的にいいますと、最も多い間違いは、抗リウマチ薬を投与されるも関節痛を抑えきれず、鎮痛剤・ステロイドを投与する、その結果痛みは軽快し、楽になったので、そのまま同じ治療を続ける。
進行すれば手術をしよう、こういうパターンが多いと思います。
 しかし鎮痛剤・ステロイド剤に頼っているうちは関節の破壊は進行し10年位経つと、変形が進んでしまいます。また鎮痛剤は胃潰瘍をよく起こし(この時、腹痛がみられないことが多く注意が必要です)、またステロイド剤は骨粗鬆症・糖尿病・感染症の悪化などをきたし注意が必要です。

また抗リウマチ薬も、様々な重篤な副作用(例えば薬疹・間質性肺炎・肝障害・貧血・白血球減少など)があり、厳重な全身の内科的管理が要求されます。

 

このため一般に抗リウマチ薬が充分投与されていないと思われます。しかし抗リウマチ薬は、薬によってどういう副作用が出るかは分かっており、服用する時には副作用の症状に注意をはらいながら、定期的に診察・血液検査をおこなっていれば心配ありません。当院では、抗リウマチ薬としてリウマトレックス<メトトレキサート>・アザルフィジン<サラゾスルファピリジン>・リマチル<ブシラミン>・シオゾール・メタルカプターゼ<Dペニシラミン>・オークル免疫抑制薬としてプログラフ<タクリリムス>などを患者さんの関節リウマチの病態・全身の状態・合併症などを検討して、最適、最少必要量の薬を投与しています。
 
 当院ではステロイド・鎮痛剤を投与することはありますが、それはあくまで痛みをおさえるための一時しのぎと考えています。私の経験より、抗リウマチ薬を関節リウマチの発症時期・病状に合わせ適切に使い、鎮痛剤・ステロイドは投与せず、関節の痛み・腫れをなくし、血液検査のリウマチの炎症反応を正常化しますと、関節の破壊・変形はほとんどくい止めることができます。またすでに関節破壊が進んでしまった人でも、さらに進行しない様にするためには同様な治療が必要です。

 次に最近では、新しい生物学的製剤レミケード・エンブレル・アクテムラ・ヒュミラ・オレンシアなど)が使用出来るようになり、当院でも5種類の製剤を患者さんの病状・ご希望などに合わせ、必要に応じて投与しています。ただ非常に高価なため、患者さんの経済的負担が大きく、また結核、真菌感染症なその副作用にも注意が必要なため、不必要な患者さんにまで安易に投与することをさけることが重要と考えています。

以上の文章を7年前、平成20年に書きましたが、最近、関節リウマチの治療は発症後できるだけ早いうちに強力な治療、とくに生物製剤、メトトレキサートを使用する方向になってきています。

私はこの考えかたは基本的には間違っていないと思いますが、関節リウマチの早期治療を重要視するあまりに、ほかのもっと安価で安全な治療法があるのに生物製剤が使われすぎる傾向にあると考えています。事実、ほかの病院で生物製剤を投与されていた患者さんが 当院へ来られて生物製剤を中止しても、うまく治療すると完全に関節リウマチの炎症をおさえられた方がたくさんおられます。

以上関節リウマチの治療に対する私の考えを述べさせて頂きました。

まとめますと

1.関節リウマチは全身の内科の病気としてとらえる必要がある。                 
2.適切な治療すると発病早期の人では、ほとんど痛みもなく、変形をきたすこともなく、
  健康な人と同じように生 活できる。
3.残念ながら関節破壊をきたした人でも、関節の痛みをなくし、さらに病気を進めるのを止めることができる。
4.関節リウマチの治療は、完全に炎症を抑えることができる安全な薬で、
  かつできるだけ費用がかからない薬を選択する必要がある。

と考えています。                       平成273

日本リウマチ友の会

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