「ルルとトト」のテーマ


SNOW



 それは、真冬の昼下がり、はだかん坊の並木道を、一人の少女が歩いています。
その少女の名前はルル。
ルルは、大好きな少年に会いに行くために、小さな脚を大きく動かします。
その少年の名前はトト。
トトはベッドの中で、今か今かとルルを待っています。
小さな瞳を大きくあけて、窓の外を見つめています。

 ルルとトトには、一つ心配事がありました。
それは、トトの病気です。
前は一緒にブランコに乗ったり、かくれんぼをしたり、
手を繋いで走り回っていたのですが、今ではトトはベッドの中。
ルルはベッドの端にちょこんと座って、トトと話をします。

 窓の外、ピーナッツくらいの大きさの人影が見えました。
もちろん、トトにはそれが誰かすぐにわかりました。
「あ、ルルだ!」
少しずつ近づいて鮮明になって行くルルの姿を見ていると、
トトはいつもどうしようもなくルルを愛しいと思うのでした。
雫がたの涙が、ダイヤのように光ります。
ルルが部屋に入ってくる前に、綺麗に拭いておかなくちゃ!
トトはそう呟いて、すぐに笑顔を作ります。
日に日に、痩せてあさ黒くなっていく、自分の顔を映し出す、残酷な鏡に向かって・・

 「おはよう!トト」
真っ白くて丸いルルの顔は、笑うと雪だるまのようです。
「おはよう!ルル」
ルルはさっき練習したばかりのとびっきりの笑顔を返します。
ルルはトトのおなかの隣にちょこんと座って、ありったけのお話をします。
街のこと、季節のこと、おばあちゃんのこと、飼い犬のぺぺのこと、
その間、トトはルルの顔を見ながら、大人しく聞いています。
時には二人で大笑いします。
そして、もう話すことがなくなると、
トトは黙ってルルの手を握り、ルルはトトの髪をそっと撫でます。
トトはルルに髪を撫でられるのが大好きで、
つい、うたたねをしてしまいました。もちろん、ルルの夢を見ながら・・

 ルルは、天使のような寝顔のトトを見ていると、
いつもどうしようもなくトトを愛しいと思うのでした。
ハートがたの涙が、星のように零れます。
トトが目をさます前に、綺麗に拭いておかなくちゃ!
ルルはそう呟いて、すぐに笑顔をつくります。
そして、涙でぬれたトトの手を、自分の胸に押し当てた後、そっと舐めてみるのでした。
トトの手は冷たくて、涙はしょっぱくて、ルルはまた泣きたくなってしまいました。

 「神様、どうしてトトをいじめるの?
なんて意地が悪いのかしら?
神様にだって邪魔はさせない! トトは私のものなんだから・・」
ルルはおなかに力を入れて、涙を我慢しながら、心の中で叫びました。

 ルルはトトが大好きで、トトはルルが大好き。
ルルはトトで、トトはルルでした。
二人を切り離す事など、出来るはずもありません。

 ルルがウサギみたいに真っ赤な目で、窓の外に目をやると、
白い粉雪がチラチラと舞っていました。
「いつの間に降り出したんだろう?
綺麗!トトが起きたら教えてあげよう!」
ルルは少しだけ嬉しくなりました。
はだかん坊の枯れ木には雪が積もり始め、
柔らかな桜吹雪の舞う、美しくて優しい楽園のようでした。

 ルルは、一つ前の冬の雪の日、二人で大きな雪だるまを作ったことを、思い出していました。
ほっぺを真っ赤にしながら、夢中で雪だるまを転がして、自分も転がっていたトト。
とってもやんちゃで可愛くて、いっぺんに大好きになったのでした。
次の日は晴天で雪だるまが溶けていくのを我慢できないトトは、
「巨大な冷蔵庫を買って、雪だるまをしまっておく!!」
と、騒いで、トトのママを困らせていましたっけ。
いつもキラキラと目を輝かせて、新しい遊びを考えるのが得意なトト。
怪我をしたカラスや弱った捨て猫を連れて帰ってきては、付きっ切りで世話をし、
死んでしまうとワンワン泣いたトト。
泳げないといじけていたルルを毎日湖に連れ出して、
「湖の底に、ルルが大好きなプレゼントを沈めてあるから、取ってきてごらん!」
と言って、泳ぎを教えてくれたトト。
どんなトトも、ルルには宝石のように輝いてみえました。
喧嘩をしても、寝る前には、「おやすみ、トト」朝起きれば「おはよう、トト」
毎日、忘れた事はありません。

 「ルル、何処?」
ぼんやりと目をさまして、寝ぼけまなこのトトが言います。
「ここよ、トト」
ほら、雪が降って来たよ。トトは犬みたいに雪が大好きだもんね。」
ルルは、そう言ってトトに微笑みます。
「ルル、もっとこっちへ来て」
そう言って、トトはルルを抱き寄せました。
「ないしょ話しよう!」
トトはルルの可愛いらしい耳に唇を近づけました。


 窓の外はあたり一面真っ白で、幻のような美しさです。
悲しみの上に、そっと降り続く雪は、天使の羽のように痛みを撫でて行きます。
寄りそい合い、眠る、トトとルル。
夢の中でも、ずっと一緒・・・
二人の小さな話し声は、雲の上で遊ぶ小鳥達のさえずりのように、
二人の笑顔は、陽だまりに咲いた花のように、幸せそうでした。



 それは、真冬の夜明け、降り積もる雪の中を、一人の少女が歩いています。
その少女の名前はルル。
大好きな少年に会いに行くために、小さな脚を大きく動かします。
その少年の名前はトト。
トトはルルが来るのを、今か今かと待っています。
小さな瞳を大きく開けて、空の上から見つめています。