ヤドカリさんのヤド



「ねえ、ヤドカリさん」
「なんだい?カニくん」
「ヤドカリさんの宿は、ヤドカリさんなの?」
カニくんは、真剣そのもので聞いています。
ヤドカリさんには良く意味がわかりません。
「え?」
「だから、ヤドカリさんの背中の貝は、ヤドカリさんなのか、それともヤドカリさんの家みたいなものなのか聞いているんだよ。」
カニくんは、少しイライラして、はさみをチョキチョキさせました。
昨日の夜から、ヤドカリさんとヤドカリさんの宿のことばかり考えていて、ろくに眠っていないのです。
「は?」
「だから・・」
カニさんは、興奮して頭から湯気を出しています。湯だらなければいいのですが・・。
「わかった、わかった、ちょっとからかっただけだよ。教えて欲しいのかい?」
ヤドカリさんはムキになるカニさんが可愛くていつも苛めたくなるんです。
「だから聞いてるんだよ!」
「わかった、わかった、それでカニくんは、どう思うんだい?」
「う〜ん、カメさんの甲羅はすぐにカメさんだってわかったんだ。だって、生まれた時からずっと同じ甲羅でしょう?変えたくても変えられないじゃない。でも、ヤドカリさんはすぐ貝を交換するでしょう?だから、家みたいなものかなって、ん〜、やっぱりわかんないよ。」
ヤドカリさんは、おとなしくカニくんの話を聞いた後、前足で貧乏揺すりをしながらしばらく何か考えていました。
「ねえ、カニくん」
「なに、ヤドカリさん」
「僕の背中の貝は、僕じゃないんだ。それに家って訳でもないんだよ。だって家は帰るところだろ?僕と貝は離れる時はないんだ。離れるとしたらお別れのときさ。」
「じゃあ、何なの?」
カニくんは不安になって来ました。なんだか、ヤドカリさんが頼りなく見えたからです。
その時、ヤドカリさんの目がキラッと光りました。
カニくんは、今度こそ答えを聞けると思って、平らな胸をを膨らませました。
「なんだと思う?」
ヤドカリさんはそう言って、砂の中にもぐって行ってしまいました。