自閉症児脳のコリン活性:大脳皮質と前脳底部での異常

EK. Perry他
Am J Psychiatry 2001;158(7):1058-1066

 これまで自閉症では前脳基底部にあるアセチルコリン作動性神経核の病理学的異常が指摘されているため、今回著者らは脳内のコリン作動性神経伝達物質の測定を行った。前頭葉と頭頂葉の皮質におけるコリン作動性酵素および受容体活性を、自閉症成人例7例と、同じ年齢の知的発達遅滞を伴わない正常例10例、知的発達遅滞を有する非自閉症例6例で比較した。前脳基底部での脳由来神経栄養因子、神経成長因子についても測定した。大脳皮質と前脳底部でのコリン転換酵素活性および、大脳皮質でのムスカリン(M2)受容体およびαブンガロトキシン結合性は自閉症例と対照群では差がなかった。M1受容体結合能は、自閉症例で正常例より30%低下しており、頭頂葉皮質で統計学的に有意差が見られた。頭頂葉と前頭葉の両方の皮質でEpibatidineでみたニコチン性受容体の結合能は、有意に低下していた(自閉症例では正常例の65%〜73%低下)。また、前脳底部でのニコチン性受容体結合能には差がなかった。αおよびβニコチン受容体サブユニットは頭頂葉で低下していた。ニコチン(M1)受容体の異常は知的発達遅滞を伴う非自閉症では、明らかではなかったが、Epibatidine結合性での異常は明らかだった。前脳底部では、脳由来神経栄養因子レベルは、正常例に比べ自閉症例では3倍位増加していた。
 自閉症ではコリン作動系の異常が認められ、コリン受容体を介する変化が自閉症の機序に関与しているかもしれない。

コメント:今のところ勉強不足で、すべてをレビューできていないのですが、こんどはアセチルコリン(脳内の神経伝達物質のひとつです)の異常の報告です。アセチルコリンは、アルツハイマー病を中心とした痴呆性疾患で注目されていた神経伝達物質です。アセチルコリンは前脳底部(前頭葉の下の方ということと思いますが)ヘ分布していることが知られていますが、前頭葉の下の方にはやはり、自閉症で注目されている帯状回という脳皮質が存在しています。その意味もあってPerry先生は、実際の脳からいろいろなアセチルコリンに関係のある物質を計測したのだと思います。そしてここでも、以前から紹介している『脳由来神経栄養因子』が登場しています。