アジア女性基金と政府


 
 


 
 

アジア女性基金の現状と今後について
(村山理事長記者会見)

 本年、アジア女性基金は、1995年(平成7年)の設立から10年目を迎えます。
 この機会に、基金の現状と今後についてご報告いたします。

1.償い事業の経過

(1)国民のみなさまからの拠金による償い金、政府予算からの医療・福祉支援事業および内閣総理大臣のお詫びの手紙からなる基金の償い事業は、フィリピン、韓国、台湾で行われ、「慰安婦」とされた285名の方々に実施することができました。また、オランダでは、政府予算からの医療・福祉支援事業と内閣総理大臣のお詫びの手紙からなる償い事業を79名の方々に実施しました。これらの事業はいずれも2002年(平成14年)9月までに終了しました。

(2)インドネシアでは、政府予算からの高齢者社会福祉推進事業がインドネシア政府との合意のもとに実施されており、この事業は2007年3月末(平成18年度)には終了する予定です。

(3)以上のように、2007年3月には基金の償い事業がすべて終了いたしますので、基金は同年3月末日をもって解散することにいたします。
                                               
2.これまでの基金事業

(1)償い事業の実施に際しては国内でも海外でもさまざまな意見があり、種々の困難に直面しました。しかし、多くの方々のご理解とご支援により、受け取りを希望された元「慰安婦」の方々への償い事業を実施することができました。その意味において、基金の償い事業は基本的にその目的を達成することができたと考えております。

(2)事業を受けられた元「慰安婦」の方々からは、心身に被った傷を消し去ることはできないとしながらも、基金が国民のみなさまの償いの気持ちをふまえてねばり強く「慰安婦」問題に取り組んできたことに対して、一定の御理解と評価が得られたと考えております。これに関連して、みなさまが拠金とともにお寄せくださったお詫びの言葉や償いの気持ちを元「慰安婦」の方々にお伝えいたしましたことも、ご報告いたします。基金の活動に対しては、国連等の人権諸機関も一定の評価を与えております。

(3)基金はまた、「慰安婦」問題に関する歴史資料の収集と編集、公刊に力を尽くし、募金活動の中でも「慰安婦」問題についての認識と理解を社会に広める活動を行ってまいりました。募金活動へのみなさまの積極的な参加もあり、「慰安婦」問題についての認識と理解を高めることに寄与することができたと考えております。

(4)基金は、「慰安婦」問題の反省に立ち、償い事業と併行して、今日の女性が直面する人権侵害問題について、被害者の保護と女性への暴力の予防を中心とする女性尊厳事業を実施してきました。具体的には、武力紛争下における女性の人権、人身売買、ドメスティック・バイオレンスなどについて調査や啓発活動を行い、社会の意識を高めることに努力してきました。また、国連等の国際機関や地方公共団体、NGOなどと協力して事業を行い、これらの諸団体と新しい協力関係を構築することができました。

3.今後の基金の活動と政府への要望

(1) 基金は、償い事業終了後も、高齢となられた元「慰安婦」の方々に対して基 金の出来る範囲でのアフターケアを行って参りました。これは今後も引き続き行って参りますが、この問題は2007年3月の基金解散後もきわめて重要な課題であると考えます。元「慰安婦」の方々が心身共に平安に暮らして行くことができるよう、この点に関する元「慰安婦」の方々からの要望を真摯に受けとめ、基金内部でさらに検討し、元「慰安婦」の方々へのみなさまの償いの気持ちを踏まえて政府が適切に対応するよう強く要望し、政府と協議を重ねて参ります。

(2) 基金は、これまでに引き続き、「慰安婦」問題に関する歴史資料を収集・刊行すると同時に、基金の事業を含む「慰安婦」問題への取り組みについて、日本のみなさまと、また世界の人々と共に考え、「慰安婦」問題を歴史の教訓とするよう、努力して参ります。こうした活動により、お詫びと償いの気持ちを拠金等の形で示してくださったみなさまのお気持ちをできる限り被害者の方々と被害国の国民に知っていただき、元「慰安婦」の方々が少しでも平安な生活を送ることができるよう、努力を重ねて参ります。

(3) 基金は、女性に対する暴力、女性の人権問題に関する今日的課題について取 り組んできたこれまでの基金の活動と精神を生かして、政府がこれらの問題に適切に取り組み続けるよう、要望して参ります。

 おわりに、拠金者の方々をはじめ、アジア女性基金の事業にご協力を賜りましたみなさま方に、心より感謝申し上げます。2007年3月の解散までの残された二年間も、引き続きご理解とご支援をお願い申し上げます。

平成17年1月24日
財団法人女性のためのアジア平和国民基金
(アジア女性基金)
理事長 村山富市

 

アジア女性基金の解散方針発表について
山崎内閣官房副長官記者発表
平成17年1月24日 2005

 本日、村山富市アジア女性基金理事長は、インドネシア事業が終了する平成19年3月を一つの区切りとして、基金を解散するとの方針を発表いたしました。
 アジア女性基金は所謂従軍慰安婦問題への対応についての国民的な議論を踏まえ、元慰安婦の方々への支援事業や、女性の名誉と尊厳一般に関わる事業等を実施してきました。政府としても、この問題に対する国民の真摯な気持ちを支えに、基金に最大限の協力を行ってまいりました。
 基金は設立以来着実な成果を挙げ、償い金を受け取られた元慰安婦の方々からは感謝の意が寄せられております。約6億円に上る募金をしていただいた拠金者を始め、基金にご協力をいただいた国民の皆様、村山理事長、故原文兵衛前理事長他、基金関係者に対し深い敬意と感謝の意を表したいと思います。
 基金は今後も解散までの間、様々な事業を実施するとともに、解散後の課題についても検討されるものと承知をいたしております。政府といたしましては、引き続き誠意を持って基金に対して可能な協力を行っていく考えであります。

* 山崎 正昭 参議院議員 福井県選挙区 (当選2回)


 

アジア女性基金事業と日本政府の法的立場

基金文書 
1996年10月3日
(宛先)
財団法人女性のためのアジア平和国民基金 
(アジア女性基金) 
理事長   原 文兵衛 


 (…相手先…)から当アジア女性基金に出された質問書に基づいて、基金の事業と日本政府の法的立場との関係について、以下のとおり政府の見解を得ましたので、お伝えいたします。
 この見解を踏まえ、今後、私どもアジア女性基金へのご理解とご協力を賜わりますようお願いいたします。

(1)元「慰安婦」の方が、アジア女性基金が示す一定の手続きにより基金の償い金を受け取る際に、「訴訟を取り下げること」あるいは「あらたに訴訟を提起しないこと」などの条件をつけることはないか、ということについての政府見解はつぎのとおり。

【政府見解】

 基金が償い金を元従軍慰安婦の方にお渡しするに際して、日本政府が元従軍慰安婦の方に条件を求めることは当然ない。

(2)個人補償請求裁判についての政府見解はつぎのとおり。

【政府見解】

@ アジア女性基金からお渡しされる償い金は、アジア女性基金が従軍慰安婦問題について、道義的な責任を果たすという観点から、国民の啓発と理解を求める活動を行い、募金活動を行った結果、広く国民各層から募られた償いの気持ちの表れである。

A したがって、日本政府としては、アジア女性基金からの償い金は、法的な問題とは次元を異にするものであり、償い金を受け取ることが、個人がこの問題について日本の裁判所に訴訟を提起し、その判断を求めることを妨げるようなものではないと考えている。

B この問題についての日本政府の法的立場は、従来のとおりであり、変更はない。

C なお、平成8年8月14日、フィリピンにおいて、マリアロサルナヘンソン氏に対し、総理の手紙と原理事長の手紙等をお渡しした伝達式において、ヘンソン氏は、「総理の手紙を受け取って幸せである。内容にも満足している。」と述べるとともに、東京地方裁判所に係属中の自己の訴訟に触れ、「自分は、既に日本を許している。私が日本を許さなければ、神様が私をお許しにならない。訴訟は継続するが、今後の活動は弁護士を通じて行う。」とコメントしていることを付言する。
 日本政府としては、ヘンソン氏が、日本政府及びアジア女性基金の行っている各施策の意義を十分に承知された上で、総理の手紙及び国民からの償い金等を受け入れて、他方、訴訟は続行するという対応をされていると承知している。


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