「慰安婦」問題解決促進法律案提出の背景

 2002.7.19. 野党で統一した同法案が、参議院内閣委員会に提案された。
 岡崎とみ子議員が提案趣旨を説明。23日、同委員会で審議することになっている。
 提出、廃案を繰り返してきた末の、提案・審議。
 同法案提案の経緯、背景、実相については、以下▼の文をまったく変更する必要がない。
 立法を掲げたまま3年、その時計はほとんど止まっているかのようだ。(2002.7.20)

 7.23 午前10時から午後2時30分まで、参議院内閣委員会で審議。(途中休憩)
 在日の元「慰安婦」宋神道さん、韓国挺対協から金允玉共同代表、応援団が傍聴した。
 (何でも反対といって運動を引き延ばす、疑惑の運動事務屋のもとに、情報把握も客観分析もできず「信じて」
 ついていくだけの支援運動。どっちがどっちを利用しているのかはともかく。)
 この審議で、同法案はそのまま棚上げされるとの見通しもある。
 8.6 7月で閉会した国会は、同法案について、継続審議扱いとした。
 

 2000年▼
 10月30日、民主、共産、社民各党が提出した法律案は、どのような経緯と
 意図で提案されたか─その背景情報 (2000.10.31,追加11.03)
 

 
 
 
 
 
 
 

《その1》──2002
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成立可能性はないが提案された
三党「戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案」
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 10月30日、民主党、共産党、社民党が「慰安婦」問題に関する解決促進の
法律案提出について、共同記者発表を行った。法律案の名称は、戦時性的強制
被害者問題の解決の促進に関する法律(案)。各党ばらばらに要綱とともに提
出された。議案として扱われるかどうかわからないが、どの党も、「成立の見
込みはない」との認識で一致しているというのが実態だ。

 ほぼ内容、文言が同じ法律案の提出に当たって、8月から統一案を模索して
各党間で調整した。9月にいったん統一案とされたが、民主党が単独で提案す
る姿勢をみせたためにまとまらず、それぞれの党の案として提出されたという。
(*各党の責任者は、民主・本岡昭次、共産・吉川春子、社民・清水澄子各議
員)

「アジア女性基金と話ができている」と確認
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 この間に、「慰安婦」問題の立法解決を進める運動から土屋公献氏、有光健
氏が民主、共産、社民各党の政審などの担当者に要請する会合がもたれた。同
会合で出された他党からの質問に対して、民主党からは、法律案について「ア
ジア女性基金とは話ができている」「基金を否定するものではない」「基金の
根拠法は別にするとしても、実態的には基金でよいということだ」と明確に答
えられたという。
 さらに聞こえてくるのは、「どの党も、この法律案が成立する見込みはない
とわかっている」が、国会の野党活動、その他の政治情勢によって「提案」が
必要だったということだ。
 
 実際に各党の法律案には、「慰安婦」問題についての「国の法的責任」
「国による賠償・補償」の条文、文言はまったくない
「政府が謝罪し、解決を促進する措置を講ずる。…措置には金銭の支給を伴う
ものとする」との条文が肝心の部分。
 だが、アジア女性基金事業に伴う「総理のお詫びの手紙」が「政府の謝罪」
であるのか否か、また同じく「基金」で実施している、政府拠出による医療・
福祉支援事業と「金銭の支給」との異同などについては、つめられていない。
あるいは、実行に入ったアジア女性基金の丸写し、後追いだけの「法」といえ
る。

 すでにアジア女性基金と握手
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 この経過の中で、民主党・本岡昭次座長(戦後処理問題プロジェクト)が4
月に「基金」幹部と握手して和解し、公式にアジア女性基金を容認したこと
を、土屋・有光両氏の前で明らかにされたことが判明。法律案のいうとこ
ろは、
「実態的には基金でよいということだ」
 と「立法解決運動」の代表者らに対して明言されたことで、「補償立法」
の運動は行く末が見えたということになる。

 今後は、運動体から「補償立法が国会に提出され、国の補償ができる」「補
償立法も進み、12月の女性戦犯国際法廷で日本の性奴隷制の『責任者処罰』を
行い、慰安婦問題の解決は大きく進む」といった宣伝がなされるなら、事実を
ねじ曲げたものとして問題化することになろう。なお、今回の民主党の要綱、
法律案では、4月提出の際にあったアジア女性基金を否定的にとらえた文章
(趣旨説明)は省かれている。

2000.10.31
 
 
 

《その2》
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「慰安婦」補償立法運動、道さらに遠く
 アピールとアジア女性基金の追認
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1.立法解決運動代表らのアジア女性基金理事長面会

 村山富市元総理がアジア女性基金の理事長に就任してまもなく、土屋公献氏
(慰安婦問題の立法解決を求める会会長)と荒井信一氏(日本の戦争責任資料
センター代表)がそろって村山理事長面会に基金事務局を訪れた
 二人は「立法解決」への理解を求めたようだ。応援依頼といったところか。
 その際、応対した事務局員に対して土屋弁護士は、「私はアジア女性基金を
否定しない」と述べている
 アジア女性基金を否定しない、解散しろとはいわない。一方で、立法して国
(政府)が謝罪し補償すべきであるとの運動を行うという。
「基金」としては、着々と申請する元「慰安婦」の人たちに償いを行っている。
いまさら「基金」の意義は認めますよ、という甘言は、面はゆいに違いない。
 村山理事長は、
「立法運動にどうこういうことはないが、実際にいまそういう法律がないのだ
から、基金をしっかり進める」
 旨を語っている。
 なぜいま、「慰安婦」立法運動が「基金」に接触を図ったか。経過を少し追っ
てみる。

2.民主党・本岡座長とアジア女性基金の握手

 4月、前国会に民主党が参議院に今回とほぼ同じ法律案を提出する前に、民
主党はアジア女性基金幹部を呼び、ヒアリングを行った。
 その際、本岡昭次・戦後処理問題プロジェクト座長は、
(1)法律案は提出するが、実行上はアジア女性基金でよいと考えている、
(2)これまで私は「基金」を妨害してきたが、今後はしない
 などと表明した。同党の国会議員たち(法律案提案者)もその場に同席して
おり、その場で「基金」役員たちと握手して「和解」している。
 立法解決の運動代表と民主党責任者の「アジア女性基金を認める」「アジア
女性基金でよい」発言はことし、期せずして符号し、ある姿勢の転換があった
ことを物語っている。
 4月の法律案提出後、同党はホームページに、これはアジア女性基金へ募金
した善意も生かされるもの、との趣旨を掲げている。
 しかし、このとき連合は、趣旨説明で事実に反する「基金」に関する記述が
多く、「賛同を保留する」と民主党に申し入れたと聞いている。

3.戦後補償の流れから「補償立法」は望ましい

 国が戦後補償に乗り出すことは望ましい。議員提案で「慰安婦」に個人補償
を実現する立法を行うなら、国家・国民の戦後責任を決着するものとして国際
社会とアジアの人々に対して画期的である。
 では、客観情勢の中で、どのように立法を実現させられるか。思い込みや政
府批判だけでは、「補償法」が生まれるはずがない。
 運動で進んだことと、なにも結果がないことは、はっきりと見極めなければ
ならない。
 戦後補償運動は、被害者たち当事者の訴えから始まり、裁判での司法判断、
政府への働きかけ、国会・政党への要請、社会・世論への訴え・支持要請など
さまざまな試行錯誤をかさねて進められてきた。「慰安婦」問題は、その中の
一部である。
 政府次元では、アジア女性基金が95年に発足した。その後司法での判決が出
て、国内法・国際法の不法・違法行為による判断で全面敗訴。立法の動きは98、
99年くらいからだ。他方には「謝罪不要、自虐史観批判」の運動が巻き返し、
教科書記述の削除、「国民の歴史」教科書の検定、採用運動が着々進められる
に至っている。

 5年前、自社さ政権でようやく日の目を見たのが、「慰安婦」問題への政府
措置「アジア女性基金」だった。その後、現在にいたるまでに、アジア女性基
金ははっきりとした実績を残している。一部の運動がいっていた被害者たちは
「基金」に反対し受け取らないという予想にもかかわらず相当数が申請し「基
金」を受け取った。それが現実である。
 そのような現状で、「政府が謝罪、解決のため促進する措置をする。金銭の
支給を伴うものとする」という法律案を提出した。先に見たように、こんどの
法律案の意図に「アジア女性基金否定」はなくなった。上乗せとして政府がよ
り前面に、という点が特徴である。「補償立法」の内容規定となっていないこ
とで、「補償」という提案すらできないのが国会の現実。──これが戦後補償、
「慰安婦」問題への取り組みの概観。

4.主張、願望と現実判断

 ある党の政策担当者は、(補償論にとって)政治状況は5年前よりもはるか
に悪くなっている、と率直にいっている。法律案の中身には、法制局を通らず、
「補償」との文言もない、カッコつきの「補償法案」。それでも審議入りすら
難しく、成立はまず望めない。「目標案」の段階である。
 こうみてみると、こんどの立法提案は、だれのために何を目的にしたものな
のか? つまりは提案することだけを、見せる目的だということになってしま
う。アジア各地の団体に「歓迎のファクスを」と催促して「日本が動いた!」
と演出している人たちは、いったいどんな情勢判断と責任をもっているのだろ
うか。
 歓迎といってきたファクスかメールには「法律案はまだ読んでいないが、補
償法案は歓迎」などとしたためてある。「補償立法」という誘導がすでに行わ
れていることがこれでわかる。望ましい戦後補償・理想論を目標に掲げること
と、「成立可能性」を過剰宣伝することでは雲泥の差がある。
 このように舞台の表裏を通観すると、法律案提案の「歓迎声明」は、内輪の
励ましあいだけで、弱さや危機感を見据えてそれをバネにする意気込みも感じ
られない。ある種、うら哀しささえある。この提案を、後ろ向きの「アリバイ」
にしないためには、まさに「運動」が国会で「多数」をとる死に物狂いの行動
をとるほかないだろう。

5.アジア女性基金の根拠法という考え方

 三党の提出前に、立法運動の代表らの前で、民主党責任者から、「この法律
案についてはアジア女性基金と話がついている」「アジア女性基金を否定する
ものではない」と語られたことは前回、書いた通りだ。その責任者は、さらに
「実行上基金でよい」といい、その根拠法こそがねらいであることを暗示した。
他党はもっとはっきりと、成立の可能性はだれも考えていないこと、「基金」
を後退させないようにするためにもアジア女性基金根拠法が望ましいといって
いる。
 各党案の「第三条」にいう通り、政府が前面にたつ「慰安婦」問題解決を望
みたい。5年前、政府の「個人への支給」が最後につぶされ、やむなく「国民
参加の道」を求める、つまり償いの金は国民からの募金でという仕組みになる。
それがアジア女性基金だった。村山政権でぎりぎり詰めて、結果が「基金」方
式となった経緯がある。当時社会党もさきがけも突っ張って、この結果だった。
 いま民主党の竹村泰子議員、田中甲議員も当時与党として「基金」をつくり
あげた経緯がある。
 いま改めて、当時困難だった「個人への国の支給」「政府が前面に立つこと」
を主眼として、政府が措置をし何らかの金銭を支給する(補償いっていない)
という法律案を提出し、通せるという情勢の変化があるのだろうか。
 すでに法律案は、実態として「基金」でよいということだ、という提案者。
政府次元でようやく到達点としてできたアジア女性基金を、法律によるものと
して国会で裏打ちするという選択は、当然ありうる。あえてそうしなくても、
現政権まで、アジア女性基金を止めるという動きはない。河野官房長官談話、
村山総理の談話、総理談話の政府認識を基本にしているというのが、自民主導
政権でも厳として守られている。「政府批判」一辺倒では、以前の小杉文相が
「慰安婦」問題の教科書からの削除は「できない」とつっぱねた面さえ、潰し
かねない。情勢はあまくないのだ。

6.被害者への「答え」が第一

 教科書削除運動、あたらしい「歴史教科書」検定・採用運動を見据えて、単
なる対置ではない「補償立法」の実現可能性を見極め、被害当事者に説明する
責任ある姿勢が「運動」には必要だろう。
 くりかえしていうが、悪い悪い政府と指弾しておきながら、その政府に「補
償しろ」と要求を対置する感覚が、わからない。だから運動するのだという、
堂々めぐりを抜け出すのは、「補償しない政府を、少しでも動かし、国会で政
策を変える」方策をさぐることではないか。被害者のおかれた状態や気持ちは
どうでもよくなっているのなら、何の結果も出さず、見通しと責任をいわず、
「運動は努力している」といっていればすむ。悪しき官僚の言い草と少しもた
がわない。メンツと保身にまわったら、それこそ「運動のための運動」になる
のではないか。
 補償への動きは、第一に被害者とともに「被害者への答え」を、どうにか出
そうという活動だった。政府が被害者自身に戦後補償をしてこなかった、そこ
から始まった。ともかく政府批判だと、旧来のあしき政治主義のにおいをつよ
めるだけでは、一歩も進まない。
 「基金」是認、並行して補償立法がこのように可能であるというなら、国会
の「票読み」を提示して、応援ファクスを求めるくらいのことはしてほしい。
ウラを隠し、困難な現実を語らない「立法運動」は、底なしの泥沼に自ら入り
込んでしまうのではないかと懸念する。もはや異議を唱える者さえいない、内
部討論もない「運動」は、思い込みに走るだけになりはしないか。
 「基金」は閣議了解で成立し、これまでに国の予算が25億円以上が投入され、
償いの事業は170人以上の人たちに届き、さまざまに生かされている。サハリ
ン残留韓国人の問題についても、アパート建設や飛行機代などの「現物」の提
供だが、50億円以上が国から支出されていると理解している。
 それらは問題が多いと指摘する向きに対しては、では「理想形」の補償なり
を、いつまでに当事者に実現するという責任あるプログラムを提示すべきだろ
う。
 本岡議員が、「これまで、アジア女性基金を妨害してきた」と自ら告白した
ようなやり方で立法運動の足を引っ張るようなことはしていない。しかし、
「補償もどき法律案」
さえ「成立するはずがない」と永田町であからさまにいわれていることは隠し
ようがない現状である。政治と「運動」のつきあいはむずかしい。互いに取り
繕い「あげ底」をかさねては、力になりえない。社会的ロスだ。
 本岡議員は4月、「基金」が渡ったのは90人に過ぎないというので、「え?
もう160人以上になっていますよ」と「基金」側からいうと、息をのんでこと
ばがつづかなかったという。それで「基金」容認を口にし、実質アジア女性基
金でいいという立場を明確にして、なおかつ今度の「慰安婦」問題「解決促進
法律案」を提出した。こういう「政治の実態」を指摘しておきたい。
 法律案に成立の見込みがない、既存の「基金」の意義、成果は認める。その
根拠法を考える…。これが、現実の、じわりとした動き。立法解決を「否定的
にい」っているのは、当の提案者ではないかと思える具体的情報は、以上のと
おり。現実を超える運動を起こすことは、だれも否定していない。

2000.11.2