ドイツ政府+企業による「記憶、責任および未来」基金の背景

●「記憶、責任および未来」成立過程、ドイツ政府の立場に関する資料
●ドイツの戦後補償 一覧
 
 

ドイツ企業、アメリカでの訴訟を嫌う
2000年5月20日、読売・産経より

ドイツで5月19日、ナチス時代のドイツ企業による強制労働につき、連邦議会で補償基金設置法案を可決した。ユダヤ人や東欧諸国の人たちを対象にしたもので、この夏までに「基金」を立ち上げ、年内に支給を始めたいとしている。「基金」は、政府が50億マルク、ドイツ企業が50億マルクを出す総額100億マルク(約5042億円)の構想。
 この補償基金設立の動機は、アメリカでドイツ企業を相手取った強制労働損害賠償を求める集団訴訟の動き。「基金」発足にあたってドイツ政府は集団提訴を防ぐ措置をアメリカ政府との間で取り決めることを求めていて、交渉中。このような背景から、ドイツ企業は、現在30億マルクしか支出せず、政府は催促している。(5.20.2000.読売新聞、産経新聞)
 

ドイツ全企業に拠出を要請
2000年02月03日、共同より

【フランクフルト2日共同】ナチス政権下の強制労働被害者への補償基金問題で、ドイツ商工会議所は二日、第二次大戦中の強制労働に関与したかどうかにかかわらず「ドイツ全体の責任」として、傘下の全企業約二十万社に一律、年間売上高の千分の一を拠出するよう、近く要請することを明らかにした。
ドイツ政府は昨年末、総額百億マルク(約五千四百億円)を支払うことで米国などの被害者団体と大筋合意。うち五十億マルクを産業界が負担することになった。
 

強制労働、ドイツが企業と補償基金
2000年01月13日、共同より

ドイツ政府は昨年十二月、第二次大戦中にナチス政権がユダヤ人や東欧諸国民に課した強制労働について、ドイツ企業と合同で総額百億マルク(約五千四百億円)の基金を設立、被害者救済に充てることで米国、ポーランド、チェコなどの被害者団体と合意した。

基金設立の背景には、「過去の謝罪」とともに経済グローバル化の中で東欧諸国との友好関係維持が最重要の「国益」との認識があった。戦時中の強制労働では在米被害者が日本企業に対しても補償を要求しており、今回の基金設立が対日補償要求に影響を及ぼすことは必至の情勢だ。
米カリフォルニア州は昨年夏、大戦中にドイツ、日本などの企業により強制労働させられたすべての人とその遺族が米国で裁判を起こせるとの州法を公布。十一月には米上下両院にも同様の法案が提案された。
十二月七日には、元米兵らが同州法に基づき、新日本製鉄などに損害賠償を求める集団訴訟を提起。原告団には韓国、中国、オーストラリアなど九カ国の被害者が参加した。原告側が勝訴すれば、被告企業が国内法を根拠に補償を拒否しても、裁判所は企業の在米資産を差し押さえ補償に充てられる仕組みだ。
「戦後処理」が終わった国家間で、個人補償が問題化した背景には、人権と国家主権の関係の激変がある。戦争犯罪に関与した個人を裁く国際刑事裁判所(ICC)の設立準備が進む中で、加害者側の個人責任が問われる以上、被害者側も個人補償を求める権利があるとの意識が高まった。被害者の老齢化も早期救済要求に拍車をかけた。
ドイツのダイムラー・ベンツと米クライスラーの合併など両国大企業の提携が相次いでいることも、基金設立の底流にある。ダイムラーはかつてナチスの戦争遂行に協力した。世界ユダヤ人会議は昨年「補償問題で合意がない限り、ドイツ企業による米企業買収を支持しない」と表明、不買運動の可能性も高まった。
ドイツ企業はいち早くこの流れの「危険性」を察知した。
代表的大企業十二社とドイツ政府は昨年二月、共同声明で基金設立を目指す理由について(1)不正に対する道義的責任(2)米国での集団訴訟の根拠を失わせる―と表明。過去の謝罪や補償に際しての明確な「視点」を示した。
ワイツゼッカー元大統領は、かつてポーランドに対して過去を謝罪した理由について「単なる倫理的要請ではなく、われわれの国益なのだ」とも述べている。「ポーランドはわれわれにとって、ウクライナなど、さらに東に広がる国々への最も重要な懸け橋でもある」
「人権」の価値比重が高まる中で、真の国益とは何か。国家主権を盾に「(戦後補償は)サンフランシスコ条約などで解決済み」(日本外務省)とする論拠は確実に揺らいでいる。(ベルリン共同=岩脇純)