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最高裁で棄却判決 2004.11.29
韓国・社団法人 太平洋戦争犠牲者遺族会の戦後補償請求訴訟
2004.12.4

韓国・遺族会会員の元日本軍人・軍属、遺族、元「慰安婦」たちによる東京地裁への提訴(1991年)から東京高裁を経て、最高裁に上告していた「アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求事件」について、最高裁判所第二小法廷(津野修裁判長)は、11月29日午前10時30分、上告人35人(原告)の日本国に対する損害賠償請求を棄却した。

この日の法廷には、韓国から来日した韓国・遺族会 金鍾大キム・チョンデ名誉会長、梁順任ヤン・スニム会長、金正任キム・ジョンニム全羅南道支部長、沈美子シム・ミジャ ハルモニらが傍聴した。
支援してきた日本の戦後責任をハッキリさせる会(ハッキリ会、臼杵敬子代表)、平和遺族会全国連絡会、一般傍聴者も参席した。

 左写真▲判決後、記者会見・報告会に臨んだ韓国・遺族会(参議院議員会館会議室)

▽裁判経過
 アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求事件 提訴 1991年12月6日 東京地裁
 東京地裁判決 2001年3月26日(棄却)、控訴
 東京高裁判決 2003年7月22日(棄却)、上告
 最高裁判所判決 2004年11月29日(上告棄却、1、2審確定)

 ▽報道  ▽写真  ▽判決文(非公式韓国語訳)  ▽判決文  ▽弁護団声明
 
 


 

◇最高裁判所判決──2004年11月29日
 第二小法廷 裁判長裁判官 津野修 裁判官 北川弘治 滝井繁男
 

                  言渡 平成16年11月29日
                  交付 平成16年11月29日
                  裁判所書記官   *書類ゴム印部分

平成15年(オ)第1895号
 判 決
 

             当事者の表示   別紙当事者目録記載のとおり*

 上記当事者間の東京高等裁判所平成13年(ネ)第2631号アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求事件について、同裁判所が平成15年7月22日に言い渡した判決に対し、上告人らから上告があった。よって、当裁判所は、次のとおり判決する。

 主文

  本件上告を棄却する。
  上告費用は上告人らの負担とする。

 理由

1 上告代理人高木健一ほかの上告理由第1の2のうち憲法29条3項に基づく補償蒲求に係る部分について

(1)軍人軍属関係の上告人らが被った損失は、第二次世界大戦及びその敗戦によって生じた戦争犠牲ないし戦争損害に属するものであって、これに対する補償は,憲法の全く予想しないところというべきであり、このような戦争犠牲ないし戦争揖書に対しては、単に政策的見地からの配慮をするかどうかが考えられるにすぎないとするのが、当裁判所の判例の趣旨とするところである(最高裁昭和40年(オ)第417号同43年11月27日大法廷判決・民集22巻12号2808頁)。したがって、軍人軍属関係の上告人らの論旨は採用することができない(最高裁平成12年(行ツ)第106号同13年11月18日第二小法廷判決・裁判集民事203号479頁参照)。

(2)いわゆる軍隊慰安婦関係の上告人らが被った損失は、憲法の施行前の行為によって生じたものであるから、憲法29条3項が適用されないことは明らかである。したがって、軍隊慰安婦関係の上告人らの論旨は、その前提を欠き、採用することができない。

2  同第1の2のうち憲法の平等原則に基づく補償請求に係る部分について

 財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(昭和40年条約第27号)の締結後,旧日本軍の軍人軍属又はその遺族であったが日本国との平和条約により日本国籍を喪失した大韓民国に在住する韓国人に対して何らかの措置を講ずることなく戦傷病者戦没者遺族等援護法附則2項、恩給法9条1項3号の各規定を存置したことが憲法14条1項に違反するということができないことは、当裁判所の大法廷判決(最高裁昭和37年(オ)第1472号 同39年8月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁、最高裁昭和37年(あ)第927号同39年11月18日大法廷判決・刑集18巻9号579頁等)の趣旨に徹して明らかである(最高裁平成10年(行ツ)第313号同13年4月5日第一小法廷判決・裁判集民事202号1頁、前掲平成13年11月16日第二小法廷判決・最高裁平成12年(行ツ)第191号同14年7月18日第一小法廷判決・裁判集民事206号833頁参照)。したがって、論旨は採用することができない。

3 同第1の2のうち、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に射する法律(昭和40年法律第144号)の憲法17条、29条2項、3項違反をいう部分について

 第二次世界大戦の敗戦に伴う国家間の財産処理といった事項は,本来憲法の予定しないところであり、そのための処理に関して損害が生じたとしても、その損害に対する補償は、戦争損害と同様に憲法の予想しないものというべきであるとするのが、当裁判所の判例の趣旨とするところである(前掲昭和43年11月27日大法廷判決)。したがって、上記法律が憲法の上記各条項に違反するということはできず、論旨は採用することができない(最高裁平成12年(オ)第1434号平成13年11月22日第一小法廷判決・裁判集民事203号613頁参照)。

4 その余の上告理由について

 その余の上告理由は、違憲及び理由の不備・食違いをいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって、民訴法312条1項又は2項に規定する事由に該当しない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 

   最高裁判所第二小法廷
       裁判長裁判官    津 野    修
       裁判官       北 川  弘 治
       裁判官       滝 井  繁 男

*上告人(原告・代理人)、被上告人・国(法務大臣・代理人)氏名。住所等の記載があり省略


 

◇弁護団声明

声明文

 本日,最高裁判所第二小法廷において,アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求訴訟の上告審判決があった。
 判決は,原審東京高等裁判所の判断をおおむね是認して,私たちの上告を退けるものであったが,私たちの主張の一部にもせよ,日本の裁判所が原告ら被害者に対する救済の必要性を認め,法律的判断の一部においてこれを認めたことの意義は大きいと考える。
 原告ら韓国人もと軍人・軍属・慰安婦,そして遺族らは,日本軍及び日本国の非道の行為によって傷つけられ人間としての尊厳さえも奪われその後半生を塗炭の苦しみの中で過ごさねばならなかったのであり,事理の糾されるべきことを信じ新生したわが国の裁判所の正義を信頼して,この日を千秋の思いで待ちかねてきたものである。
 韓国人もと軍人軍属らは,今日に至るまで何らの補償さえ受けていない者が大部分であり,もと慰安婦に至っては,その虐げられた名誉さえ十分に回復すべき措置がとられてはいない.そして何よりも,加害者であるわが国が,率直に責任を認め,被害者らの人生に対し加えた重大な損害を少しでも填補する措置が取られるべきであるのに,政府は一貫して責任を回避する傾向が顕著であり,補償的措置への取り組みは進んでいない.
 私たちは,本日の判決を契機に,日本国政府が襟を正して被害者らに対する補償的措置の進展に努力して行くことを切に望むものである。

 2004年11月29日

                アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求訴訟原告弁護団
 


 

◇報道
 以下は報道引用につき転載などには要注意
 ほかに、テレビ各社、朝日新聞、東京新聞、ジャパン・タイムズ、共同、時事、ロイター、APなど
 韓国では、聯合ニュース、東亜日報、朝鮮日報、中央日報、ソウル新聞、韓国日報などが写真(AP=聯合)入りで報道
 韓国のラジオは東京からライブで報道

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【毎日新聞】
2004年11月29日
<戦後補償>韓国人元慰安婦らの敗訴確定 最高裁判決
 旧日本軍の軍人・軍属や従軍慰安婦だった韓国人とその遺族計35人が総額7億円の戦後補償を国に求めた訴訟で、最高裁第2小法廷(津野修裁判長)は29日、原告側の上告を棄却する判決を言い渡した。原告敗訴の1、2審判決が確定した。
 判決は、過去の判例を踏襲し、65年の日韓協定に伴う措置法により原告の請求権が消滅したと認定した東京高裁判決(昨年7月)を支持。戦争被害を補償する恩給法が韓国人を対象外としていることについても「法の下の平等などを定めた憲法に反するとは言えない」と指摘した。
 東京高裁は、のちに戦犯に問われるなどした2人の元軍人・軍属と6人の元慰安婦について、国の安全配慮義務違反を初めて認めたが、請求権の消滅などを理由に訴えを棄却していた。
 閉廷後、傍聴席の原告らが「不当」などと叫び、裁判所職員に詰め寄る一幕もあり、一時騒然とした。【小林直】
 ◇政府が補償措置を
 原告弁護団の声明 元軍人・軍属らは今日まで何ら補償さえ受けていない者が大部分であり、元慰安婦に至っては名誉の回復措置さえとられていない。本日の判決を契機に、政府が被害者らに対する補償措置の進展に努力することを望む。

【産経新聞】
2004年11月29日(月)
最高裁、原告の上告棄却 韓国慰安婦ら国家賠償訴訟
「戦争損害、憲法の予想外」
 「戦時中に旧日本軍に耐え難い苦痛を受けた」として慰安婦や軍人、軍属だった韓国人とその遺族三十五人が国を相手取り、一人あたり二千万円の賠償を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第二小法廷(津野修裁判長)は二十九日、「戦争損害に対する補償は憲法の予想しないところで、政策的見地からの配慮をするかどうかが考えられるにすぎない」などとして請求を退けた一・二審判決を支持し、原告側の上告を棄却。原告側の敗訴が確定した。
 二審・東京高裁は昨年七月、「日本と韓国との協定で請求権は消滅している」などとして請求を退けたものの、判決理由の中で初めて「軍人、軍属にも国は安全配慮義務を負い、原告の中には義務違反や民法上の不法行為が成り立つ余地があった」と判断。
 さらに国家賠償法施行(昭和二十二年十月)前の公権力行使の責任は問えないとする、いわゆる「国家無答責」の考え方についても、高裁段階で初めて否定する判断を示していた。しかし第二小法廷は、この判断部分には言及しなかった。

【読売新聞】
2004年11月29日(月)
韓国人の軍人・軍属らが戦後補償求めた裁判、上告棄却
 第2次大戦中に軍人・軍属、慰安婦として旧日本軍に連行され、非人道的な扱いを受けたとして、韓国人やその遺族計35人が、日本政府に1人当たり2000万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審判決が29日、最高裁第2小法廷であり、津野修裁判長は原告側の上告を棄却した。原告側敗訴が確定した。
 津野裁判長は「(韓国への補償問題は解決されたとする)1965年の日韓協定は、財産権を定めた憲法に違反しない」と述べた。
 言い渡しの直後、民族衣装姿の原告数人が傍聴席のさくを乗り越え、横断幕を掲げたり、韓国語で演説したりした。
 1審・東京地裁は原告側の主張をほとんど認めず、請求を棄却。2審・東京高裁判決は、元慰安婦6人について「旧日本軍に不法行為があった」などと認定したが、日韓協定で賠償請求権が消滅したとし、結論としては請求を退けていた。

【共同通信】
2004年11月29日(月)
元従軍慰安婦らの敗訴確定 最高裁が上告棄却
 戦時中、旧日本軍によって耐え難い苦痛を被ったなどとして、「太平洋戦争犠牲者遺族会」の金鍾大前会長ら軍人や軍属、従軍慰安婦だった韓国人と遺族計35人が国に1人2000万円の賠償を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第二小法廷(津野修裁判長)は29日、請求を退けた1、2審判決を支持、上告を棄却した。
1991年に元慰安婦が戦後補償を求めて起こした初めての訴訟だったが、敗訴が確定した。閉廷後に判決を不服とする原告らの一部が、大声を上げて傍聴席からさくを乗り越え、裁判官の方に向かおうとして職員に取り押さえられるなど、廷内は一時混乱した。

共同
2004年11月29日(月)
戦後補償裁判で上告審判決 韓国人元慰安婦ら35人
 戦時中、旧日本軍によって耐え難い苦痛を被ったなどとして、「太平洋戦争犠牲者遺族会」の金鍾大前会長ら軍人や軍属、従軍慰安婦だった韓国人と遺族計35人が国に1人2000万円の賠償を求めた訴訟の上告審判決が29日、最高裁第二小法廷(津野修裁判長)で言い渡される。
1991年に元慰安婦が戦後補償を求めて起こした初めての訴訟。しかし1、2審判決は請求を退け、上告審でも弁論が開かれていないことから、上告が棄却される公算が大きい。
2審東京高裁は、捕虜を殺害するなどした元軍人ら2人に、処罰の危険がある行為を命じたとして、国の安全配慮義務違反を初めて認定。また元慰安婦についても、慰安所が事実上は日本軍の管理下にあり、安全配慮義務を負う場合があり得たとした。

共同
2004年11月29日(月)
韓国人元慰安婦ら敗訴確定 最高裁が上告棄却
 戦時中、旧日本軍によって耐え難い苦痛を被ったなどとして、「太平洋戦争犠牲者遺族会」の金鍾大前会長ら軍人や軍属、従軍慰安婦だった韓国人と遺族計35人が国に1人2000万円の賠償を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第二小法廷(津野修裁判長)は29日、請求を退けた1、2審判決を支持、元慰安婦らの上告を棄却し、原告敗訴が確定した。
1991年に元慰安婦が戦後補償を求めて起こした初めての訴訟だが、最高裁で弁論が開かれないままの判決となった。
2審東京高裁は、捕虜を殺害するなどした元軍人ら2人に、処罰の危険がある行為を命じたとして、国の安全配慮義務違反を初めて認定した。
 

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*関連
共同
2004年11月30日(火)
韓国人被害者側の敗訴確定 浮島丸訴訟で最高裁

 終戦直後に帰国する朝鮮人らを乗せた輸送船「浮島丸」が京都府の舞鶴湾で爆発、沈没した事故をめぐり、韓国人遺族や生存者ら計80人が国に公式謝罪と計約28億円の賠償などを求めた訴訟で、最高裁第三小法廷(藤田宙靖裁判長)は30日、被害者側の上告を退ける決定をした。請求を認めなかった2審大阪高裁判決が確定した。
1審京都地裁判決は、戦後補償裁判で国の安全配慮義務違反を初めて認め、乗船が立証された生存者15人について、国に総額4500万円の支払いを命じる画期的判断を示した。しかし、2審判決が逆転敗訴を言い渡し、最高裁では適法な上告理由に当たらないとして、法廷が開かれないまま敗訴が決まった。