「浮島丸事件」判決要旨

2001年8月23日、京都地裁
 

1 公式陳謝請求について
 原告らの趣旨は、具体的に何人によるいかなる行為を求めているかは全く明らかではなく、その特定を欠くから、その訴えは不適法である。

2 安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求について
 (1) 原告らのうち、乗船者本人として損害賠償を請求している20人のうち5人については、浮島丸に乗船していたことが認められないから、理由がない。
 (2) 浮島丸に乗船していた者の遺族と主張する原告らの請求は、運送契約類似の法律関係の当事者でないから理由がない。
 (3)(浮島丸に乗船していたことが証明された15人の原告らの安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求について)
 ア これら原告は、いずれも軍属であったが、乗船以前に解員されており、浮島丸の乗船については、被告との間に旅客運送契約類似の法律関係が成立していた(民間徴用工、一般の朝鮮人について同じ法律関係が成立していた)。被告は、これらの原告らに対し、釜山港まで安全に運送する義務、これが不可能な場合には、安全に最寄りの港まで運送し、又は出発港に還送すべき義務を負っていたが、浮島丸の爆沈によってその義務を履行できなかった。そして、徴用によって日本に連れてきていたこれらの原告を安全に朝鮮に送り届けることは条理上被告に要請されていたこと、大湊警備府がポツダム宣言受諾直後の混乱期に浮島丸で朝鮮人を帰還させようとしたのは、大湊地区に在住していた朝鮮人らが暴動等を起こすことを恐れたためであることなどの事情からすると、浮島丸の乗船が無償であったからといって、被告のこの義務は軽減されない。
 イ 浮島丸は、45年8月22日午後10時ころ大湊港を出港したが、出港の前後ころ、海軍運輸本部長から大湊警備府及び浮島丸艦長あてに、同月24日午後6時までに目的港に到着する見込みがないものはその日時までに最寄りの港に入港することを命じる旨の電報が届いていた。浮島丸艦長や大湊警備府司令長官等は、目的地である釜山港までの距離、浮島丸の速度に鑑み、上記日時までに目的地に到着する見込みがなく、その場合、米軍機雷が多数敷設されている日本海側の港に入港せざるを得なくなることを知り、又は知り得べきであったから、浮島丸出港を見合わせ(上記電報が出港前に届いていた場合)、あるいは安全な大湊港に戻る(戻らせる)(上記電報が出港後に届いていた場合)などの方法で、機雷で危険な舞鶴港等の日本海側の港に入港することを避ける選択も可能であった。したがって、被告が上記の義務を履行できなかったことは不可抗力によるとはいえない。なお、爆発の原因について、軍人による自爆であるとまで認めるに足る証拠はなく、本判決においては、触雷であることを前提とする。
 ウ したがって、被告は、これら15名の原告に対し、債務不履行(ア記載の安全に運送する義務違反)としてその損害を賠償する責任がある。その慰謝料の額は、一律300万円が相当である。

3 道義的国家たるべき義務違反を理由とする損害賠償請求について
 憲法前文を直接の根拠として具体的な法律上の請求はできない。また、国家賠償法施行前の公務員の行為について、同法を遡及適用することはできない。

4 明治憲法27条(ないし憲法29条3項の類推適用)に基づく損失補償責任について
 (略)

5 立法不作為を理由とする損害賠償請求について
 (略)

6 遺骨返還請求について
 被告が祐天寺(東京都目黒区)に預けている280柱とされる遺骨の中に原告らが返還を求めている遺骨が含まれているかどうかは明らかではなく、被告がその遺骨を占有していることを認める証拠がない。