contents
弁護団協が元「慰安婦」賠償要綱案

「元「慰安婦」の補償立法を求める弁護団協議会」が2000年4月に「賠償要綱案」を発表した。
99年7月に出した第一次案につぐ第二次案。
「補償」を求める「賠償案」?
民主党の「解決促進法律案」との関係?
──に関する部分を抜粋する。
戦時性的強制被害者賠償要綱案
 
「一次案」からの変更点
○対象(概念)──「性的行為を強制したことが当時の文明水準に照らしてもきわめて反人道的な行為であった」ことについて、謝罪・賠償の対象に。
○要求──補償を賠償(一時金)に。
○対象者──1993.8.4(官房長官談話)時点の生存被害者と遺族から、1990.6.6(国会質問)時点に。
フシギ
○対象の概念──「慰安婦制度」そのものに「法的責任」(国際法・国内法等に照らして違法・不法)があるというのでなく、「反人道的な行為」を根拠にしている。現行の裁判の主張とは別に、既出の判決を受け容れ、代わる行政措置をとったのでもないまま新法を提起する要綱案。補償、賠償する法として。法的責任について否定され、「慰安婦」制度の違法・不法による補償、賠償の主張は「後退」?
○下関判決(山口地裁判決)依存──「慰安婦原告が被った損害を回復するための特別の賠償立法をなすべき日本国憲法上の義務」(同判決)により(つまりは当時の国際法・国内法による争いでは棄却され敗けたことを認め)、新立法の要綱案を提示した。戦後補償の理念も論理も独自ではなく、同判決の趣旨・法律構成に全面依拠(立法不作為)。
○民主党法律案との関係──同法律案「立法化に対する関係議員のご努力に感謝しつつ、これに賛同し立法化に協力したいと考えております」という。「本要綱案に示した解決の枠組みを、念頭においた解決方策とされるよう要望するものであります」

ホントウハ─法的責任訴訟への早々の敗北宣言!
○アジア女性基金(という政府行政措置)は、国の「道義的責任」による公的な償いを行っており、相当数の元「慰安婦」たちがこれを選択し数字を残している。これと、いったい、何が違うのか。「時間はまってくれない」「元「慰安婦」たちの意思を第一に」という現実の緊急性、被害者の実情に何も答えていない。その点で大いに違って対照的。(訴訟と並行した行政措置を求める和解の努力もない。)
○裁判の敗訴、理論運動の限界の後処理を、いつになるかわからない新立法への期待をつなぐために「要綱案」なる形にした。「控訴審」をやりながらその弁護団が持ち出したということは、きわめて弱気。
○戦後補償の訴訟で苦労していた初期、「国際法・国内法」により日本の司法で補償を引きだすのは難しい。台湾の例のように特別立法なら解決ずみ論も超えて補償ができる」と、日本の戦後責任をハッキリさせる会は補償立法を提起した。なぜか他の補償グループは二の足を踏み、現行の裁判でいく、と突っ張った。この期に及んで立法解決にそれらグループはなだれ込んでいる。

ロンリノゴマカシ
○「慰安婦」訴訟では国際法・国内法による補償・賠償の訴え自体を棄却され敗訴している(一審。謝罪も不要とした)。
○要綱の説明には、むやみに「法的責任を明らかにするために」というが、実際は、法的責任があるというのでない立法不作為判決によりかかって新立法の法律に国の責任を規定しようとするもの。トリックじみている。現状の裁判での法的責任追及の困難さを回避した、逃げの姿勢が明らかだ。
○にも拘わらず(実質的訴訟敗北宣言だからこそ)、韓国・挺身隊問題対策協議会(挺対協)、台北市婦女救援社会福利事業基金会(婦援会)等の支持、賛同の文書を取り付けて「要綱案」は出されている。(民主党「法律案」も同様、運動団体に、これでいいなと支持を求めた。)ものものしくも、むなしい、ごまかし。
○もちろん当時の国際法・国内法を根拠にする争いだけでなく、憲法など戦後の法律によって補償等の戦後措置をしなかった法的責任も問う裁判が行われている。法による争いの裁判で、国の「法的責任」を認め、さらに補償義務があるとする原告勝訴の判決をとるかどうか。その過程をあきらめるように「新法」案に賭ける。これは妥協的解決のやり方としてはありうるが、遅い対処であることは否めない。しかも法の内容では、「法制局」に通る内容として「国の法的責任」「国の補償・賠償」を盛り込めなかった。そういう政治的・法的現実をなぜ明確に説明しないのか。

モトオカギインノホンシンハ?
○以上の事情があるからこそ、本岡昭次議員らのいう、「アジア女性基金を、今後はもう、妨害しない」「法律案の実質趣旨はアジア女性基金でいいということ」の方が、まだ正直かつ現実的。これは4月5日、アジア女性基金幹部に民主党法律案にからんで明言されたこと。
○国会議員も、裁判の一部弁護士たちも、正直に実情を被害者原告に伝えて、補償・賠償には立法しかない、それにはきわめて長い時間がかかるというべきではないか。(見通しとして、生きているうちに間に合うかどうかもわからないと。)

エイキュウウンドウ?
○情けないのは、一部の補償運動グループが、法律家の「法律論」によりかかって、それを運動かのように思い込んでいること。被害者のために何事かを実現することが課題なのに、立法案ができた、提出できたということだけでもろ手をあげてよろこんでいること。いつ、どのように立法ができるのかと問えば、だから一生懸命運動をつづける、と、堂々めぐりの答えが返ってくるはずだ(そう繰り返してきた)。

民主党の「解決促進法律案」
*この要綱案に、韓国挺対協、台湾婦援会、フィリピン(リラピリピーナ)、日本の支援運動が支持賛同を表明