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在日「慰安婦」控訴審判決


11月30日午後、東京高裁で、在日「慰安婦」謝罪等請求事件について、「控訴棄却」の判決が出された。
以下、「判決要旨」をさらに省略して速報。
 
 

■(東京高等裁判所判決 2000.11.30)
平成一一年(ネ)第5333号 謝罪等請求提訴事件
【判決要旨】
 控訴人  宋神道
 被控訴人 国

主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。

第一 事実の概要
 本件は、在日韓国人の女性で、日中戦争の約七年間にわたり、中国大陸において旧日本軍のいわゆる従軍慰安婦をしてきた控訴人が、兵士に対する強制売春に従事させた旧日本軍の行為は集団的、組織的強姦であるとし、その肉体的、精神的損害の回復を求めるために、(1)1奴隷の禁止に関する奴隷条約違反、2強制労働に関する条約違反、3国際法上の人道に対する罪についての違反、4醜業条約の違反、5戦争犯罪に関する国際法の違反があり、日本国には国際不法行為による国際法上の国家責任があり、国際法又は国際慣習法に基づく直接の請求権があるとして、また、(2)旧日本軍の従軍慰安婦施設の設置、管理、維持、従軍慰安婦に対する集団的強姦行為は、民法上の不法行為にあたるとして、被控訴人に対して、謝罪と損害賠償の請求をし、さらに、(3)1政府関係者の国会答弁やマスコミに対する発言において旧日本軍の慰安婦制度に対する関与と強制性を否定したことにより控訴人の名誉が毀損されたこと、2被控訴人が国家責任があるにもかかわらず責任者処罰を行っていないこと、3何ら補償立法を行わずに放置していることを理由に、国家賠償法一条、四条に基づき、謝罪と損害賠償を請求した事案である。

第二 当裁判所の判断

一 国際法又は条約に基づく直接の請求権について
(…略。以下同)
1 従軍慰安婦が当時成立していたと認められる奴隷条約に関する国際慣習法上の奴隷に当たるとは認められず、仮にこれに該当するとしても、条約上の義務を怠ったことになる被控訴人に対して、個人が直接国内法手続で損害賠償請求権を行使することができるという国際慣習法が成立していたとは認められない。
2 控訴人が従事した従軍慰安婦の労働は強制労働条約上の強制労働に該当し、被控訴人に右条約に違反する国家責任が成立するとしても、個人が右条約に直接基づいて、賃金以外の一般的損害につき賠償請求権を行使できると解することはできない。
3 従軍慰安婦の労働は、醜業条約が適用される醜業であったと認められるが、醜業条約は、基本的には、国家の処罰義務、立法義務を定めるものであり、被控訴人に一般的損害につき賠償請求権を行使することができると解することはできない。
4 (1)へーグ陸戦条約等は、交戦国の相手方交戦国に対する賠償義務を定めるものであるが、これに基づいて個人が国家に直接請求権を有するものではなく、人道に対する罪の処罰を義務づける国際法も、これに違反する個人の処罰を目的とするものであって、いずれも被害者たる個人に直接国家に対する損害賠償請求権を取得させるものではない。
  (2)カイロ宣言、ポツダム宣言及びサンフランシスコ平和条約は、控訴人が主張するような日本に対する朝鮮人民の損害賠償請求権の直接の根拠となるものと解することはできない。

二 民法に基づく請求について

1 従軍慰安婦の設置運営は、戦地での旧日本軍兵士管理の一環として行われたものであって、慰安所における慰安行為ないし売春行為に旧日本軍の公権的監督が日常的に及んでいたとまでは認められず、旧日本軍と慰安所経営者との間には慰安所を軍が専属的かつ継続的に利用する専属的営業利用契約に相当するいわゆる下請的継続的契約関係があったと推測される。
 控訴人らは、その意思に反して慰安所経営者との従軍慰安婦の雇用契約を締結することを強いられ、隷属的雇用関係の下で、慰安所経営者と旧日本軍の管理の下で、日常的に長期にわたり旧日本軍人に対する強制的売春を強いられていたものであると認められるから、当時の公娼制度を前提として考慮しても、慰安所経営者と旧日本軍人の個々の行為の中には、控訴人らの従軍慰安行為の強制につき不法行為を構成する場合もなくはなかったと推認される。そのような事例については、被控訴人に慰安所の営業に対する支配的な契約関係を有した者あるいは民間業者との共同事業者的立場に立つ者として民法七一五条二項の監督者責任に準ずる不法行為責任が生ずる場合もあり得たことは否定できない。
2 日韓基本関係条約…日韓請求権協定は、… 日本国内法である「財産請求権に関する解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律」を制定し、…昭和四〇年六月二十二日において法律上消滅させることとしたが、在日韓国人の財産、権利及び利益については、日本国の同法による法律上の消滅の対象になっていないものと解され、日本国の在日韓国人の財産、権利及び利益に対する対応措置は立法的に空白のままにされたのであるから、従来からの国内法秩序によって対応することになったものと解される。
3 控訴人ら大韓民国の国民の日本における財産、権利及び利益については、昭和四〇年の日韓基本条約、協定の成立までは、その処理、権利等の実行の帰趨が確定していない状態にあったと認められるから、このような特別の事情があることにかんがみると、控訴人が遅くとも昭和二〇年八月十五日迄に取得した可能性がある被控訴人に対する損害賠償請求権については、その除斥期間の起算日は、…昭和四〇年一二月十八日であると解すべきである。そうすると、控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求権等は、昭和六〇年一二月十八日の経過により、除斥期間の満了によって消滅したものと認められる。

三 国家賠償法に基づく請求について

1 労働省職業安定局長、内閣官房長官の国会における発言内容等は、…控訴人に対する名誉棄損は成立しない。
  また、法務大臣や国会職員等のマスコミに対する発言は、…名誉棄損となりうるものではなく、…控訴人に対する害意に基づくものであったとも認められない。
2 強制労働条約及び醜業条約においては、一定の者に対する処罰義務を国家に課していると認められるが、条約上の処罰義務違反は国際法上の国家責任である。被害者個人に対する関係でその処罰義務違反が不法行為となったりするものではない。
3 従軍慰安婦であった控訴人個人に対する行為の中には不法行為になるものがあり得たが、立法権の行使が国会の裁量に属し、控訴人はその除斥期間の期限内において我国の民事訴訟手続により国に対して損害賠償請求権を行使し得たことなどを総合すると、従軍慰安婦の被害救済に関する補償立法が行われなかったことが国家賠償法上の違法とまではいえない。

東京高等裁判所第一六民事部 
 裁判長裁判官 鬼頭季郎
 裁判官 慶田康男
 裁判官 梅津和宏