主張と評論
ここには、内外の経済情勢や企業改革の課題についての私の主張と評論を掲載します。すでに発表したものについては、掲載紙誌名と掲載日付を入れておきます。本欄の文章を著者および掲載紙誌の発行者に無断で転載することはご遠慮ください。
企業献金 抜け道残す改革はもう限界 20030819 朝日新聞(私の視点)
政治献金の非公開枠の拡大を柱とする政治資金規正法改正案は、継続審議となった。この法案は、1企業・団体から1政党支部への献金に年間150万円の上限を新たに設ける一方、献金の公開基準を年間5万円超から24万円超に引き上げるものである。
ゼネコンが知事選を巡り自民党長崎県連に違法な寄附をした事件で、私たちは、ゼネコン役員に損害賠償を求める株主代表訴訟を起こしている。この事件で必要が指摘された公共事業受注企業からの献金制限は改正案には盛り込まれていない。
不況続きで(政党支部に)年間150万円を超す献金をする企業はほとんどないと言われている。献金不透明化の狙いだけが際立つ、政治改革の流れに逆行する法案であり、廃案にして出直すべきである。
「政治とカネ」をめぐる逆行はこれだけではない。経団連は93年、リクルート事件やゼネコン汚職の反省から企業献金のあっせんを中止した。それから10年たって今、日本経団連は「政経行動委員会」を設置して各党の政策などを点検し、各企業の献金額の目安を定め、献金を促すという。財界はカネによる政治支配に乗り出そうとしている。
日本経団連の奥田碩会長は、5日付の本紙で「企業が自主的に金を出す際のガイドラインで、あっせんとは違う」旨を述べている。しかし、ガイドラインを示されて拒否する企業がどれだけあるだろうか。従来のあっせんと大きく異なるものではない。それに加え、政党を評価してカネを出すというのだから、それだけ政党との癒着が生まれ、一層深刻な政治腐敗をもたらす恐れがある。
一方、司法は最近、政治腐敗に相次いで厳しい判断を下し、政財界の逆行とくっきりしたコントラストを描いている。ゼネコン汚職事件の中村喜四郎元建設相が今年1月、最高裁に上告を棄却され懲役1年6月の刑が確定し、失職、収監された。KSD事件の村上正邦元労相は5月、東京地裁で懲役2年2月の実刑判決を受けた。
注目すべきは2月、福井地裁が(株主オンブズマンの提起した)株主代表訴訟の判決で、経営難の熊谷組の政治献金を違法と認定し、次のように警告したことである。
企業による政治資金の寄附が政党に及ぼす影響力は、企業の有する経済力のゆえに、個々の国民による政治資金の寄附に比して遥かに大きい。したがって、企業による政治資金の寄附は、その規模の如何によっては、国民の参政権を実質的に侵害する恐れがある。また企業献金が特定の政党に集中するときは、国の政策にも決定的な影響力を及ぼすこととなって,過去に幾度となく繰り返された政界と産業界との不正常な癒着を招く温床ともなりかねない。
この警告は、企業献金を評価した70年の最高裁判決の見直しまでには踏み込んでいないが、政治の現状を踏まえた重たいものだ。政治家も企業家もよく噛み締めてほしい。
政治献金は企業・団体献金を禁止し、個人献金に一本化するのがいい。それが実現するまでにできることはある。企業・団体献金の透明性を極力高めることだ。大企業のホームページには企業の社会貢献活動が詳しく出ているが、政治献金の支出先や金額も開示してはどうか。
抜け道を探しながらの小手先の改革はいい加減にしてほしい。
日本人にもバカンス必要 2003/07/25 読売新聞(論点)
夏だ、バカンスだ、といえないのが悲しい。ヨーロッパでは、年間約1か月の休暇のうち、夏は2、3週間、たいてい家族連れで1か所に滞在する。
だが、日本では長い休みがあるのは学校の生徒や学生だけで、一般の社会人には長期休暇はほとんどない。
自由時間デザイン協会が昨年実施した「休暇に関する国民の意識・ニーズに関する調査」によれば、有職者のうち、1年間に2週間以上の連続休暇を取得した者はわずか3.5%にすぎない。全体の7割の者は、4日以上〜1週間未満しか取れなかったか(4割)、4日以上の連続休暇は一度もなかっ
た(3割)。
休暇の貧しさを端的に示すのは、年次有給休暇(年休)の取得状況である。1980年と2002年を比較すると、1人平均の年休付与日数は14.4日から18.1日に増えたが、実際の取得日数は両年とも8.8日で変わっていない。その結果、取得率は6割超から5割以下に落ちた。失われる年休の総日数は年間4億日にも達する。
夏期休暇のために年休を何日取っているかを厚生労働省に問い合わせたところ、そういう調査はしていないとのことであった。しかし、データがないわけではない。
旧労働省の1981年の調査によると、同年の夏期連続休暇は4.4日。その内訳は、各事業所が指定する休日などが3.7日、振替休日0.3日、年休0.4日であった。1人平均わずか1日の年休さえ取得していないことになる。この貧しい休暇実態は、年休取得率の低下からみて、その後改善されたとは考えられない。
休暇目的の年休取得を妨げている要因としては、病欠は年休で取る、忌引以外の個人的所用のための休みがない、代替要員がいない、企業側が90数%という異常に高い出勤率を推奨している、年休を取ると賞与や昇進に不利になる、会社が決めた時期以外には休みにくい、1日や1時間の細切れ取得が認められている等々の事情を指摘できる。
30年以上前に発効したILO(国際労働機関)132号条約では、病欠は年休に含めてはならない。また、休暇は最低3週以上、うち最低2週は連続休暇でなければならない。
日本で今求められているのは、国内法を整備して、この条約を批准し、せめて2週間程度の連続休暇を労使双方に義務づけることである。
総務省の「労働力調査」によれば、30代男性の4人に1人は、週60時間以上働いている。これは1日4時間、週20時間、月80時間以上の残業を意味する。働き過ぎは男性だけでなく、女性も家事労働を含めれば、先進国でもっとも長時間働いている。
昨年度、過労死の労災認定件数は、前年度の58件から160件に急増した。労災の認定基準が緩和されたことも一因だが、背景には不況下の職場環境の悪化がある。
ジル・フレイザーの『窒息するオフィス』(岩波書店)を監訳して知ったことだが、状況はアメリカでも悪化している。人員削減が続き、仕事量が増えるなかで、長期の休暇旅行は減って、短い週末旅行が主流になり、最近では近くのホテルやスパ(温泉)に泊まる日本型の一泊旅行が増えているという。こうした日米の働き過ぎ競争を考えると、休暇の拡大はけっして容易ではない。
とはいえ、人々はリストラ下の過重労働と仕事のストレスで今や極限まで消耗している。休暇の拡大は消費を拡大し経済を活性化する、といわれる。そういう面ももちろんあるが、今何より必要なのは、疲れた身体を回復させるためのまとまった自由時間であり、そのための連続休暇の拡大である。
内部告発を育てる制度を 2003/01/26 毎日新聞朝刊(発言席)
内閣府の国民生活審議会・消費者政策部会は、昨年一二月二四日、消費者保護基本法の見直し作業の「中間報告」として、「二一世紀型の消費者政策の在り方について」という文章を発表した。拙稿ではその柱の一つとして提起されている「公益通報者保護制度」のあり方について発言をしたい。
公益通報というのは、公益を脅かす恐れのある隠された不正や悪事や危険を社会に知らせる内部告発のことである。
公益通報者の保護制度の導入がにわかに日程に上ってきたのは、このところ、公益通報により企業の違法・不正が相次いで発覚し、公益通報の役割と通報者の保護があらためて注目され始めたからだ。そこで、政府も重たい腰を上げ始めた。
しかし、内閣府で検討中の制度案には次の二点で大きな問題が含まれている。第一は制度の対象を事業者と消費者利益に限定し、保護の対象者を従業者に限定していることだ。
第二は、事業者への事前通報を保護の条件にし、外部通報先を主務大臣等に限定していることだ。
制度の対象を事業者と消費者利益に限れば、行政機関がかかわる汚職などは問題にならない。また、事業者の違法・不正であっても、総会屋利益供与や談合や粉飾決算などは範囲外となる。環境への危害も、消費者利益とは無関係として対象から外される恐れがある。
昨年十月末に発足した弁護士グループによる「公益通報支援センター」には、これまでに八〇件以上の通報が寄せられた。最も多いのは、過去の通報で解雇などの不利益を受けた人からの相談である。それを除く大半は、補助金の不正受給、裏金づくり、談合、脱税、税金のムダ使い、粉飾決算、違法残業など、検討中の保護制度の対象とはならない違法・不正である。
中間報告では通報者は従業者とされている。しかし、現役社員は通報の犯人捜しがされた時の犠牲があまりに大きい。そのためか、最近の事件での通報者は、取引業者、子会社関係者、元アルバイト、元派遣社員などがほとんどである。それを考えると、保護の対象を従業者に限定することは、通報者の大半を保護しないことに等しい。
以上の制約は、この制度が消費者政策の一環として検討され、まず実行可能な対象に絞ったため、という理由で納得することもできなくはない。
しかし、事業者に対して内部通報がなされていることを保護の条件とする「前置主義」に立ち、外部通報先を「主務大臣等」に限定しようとしている点は見過ごせない。
企業が法令遵守の体制を構築し、社員などから内部の違法・不正について通報を受ける仕組みを整備することは、違法・不正の未然防止と早期発見のために不可欠である。しかし、そうした体制や仕組が多くの企業でまだ整っていないもとで、まず会社に言えというのは、企業に揉消しの機会を与えることを意味する。
従来の内部告発の受け皿のひとつはマスコミであった。マスコミ報道を受けて、企業が事件を発表した例も少なくない。最近は「公益通報支援センター」も公益通報の相談と助言に一役買っている。にもかかわらず、外部通報先を「事業者に対する処分等の権限を有する主務大臣等」に限定するような制度では、公益開示を狭い範囲に封じ込めることになりかねない。
日本経団連は内部告発の意義を認めつつも、保護制度の導入に反対している。政府部内にも消極論があるものと推察される。そうした反対論や消極論に押し流されることなく、公益開示の原点に立った制度設計を望みたい。
東電の原発損傷隠し事件を「厳重注意」で幕引きしてはならない(02/10/04)
東京電力など原子力発電所の一連の損傷隠し問題で、経済産業省の原子力安全・保安院による調査の中間報告が10月1日に出た。それと同時に経済産業省は、東電に対して、特別保安検査や定期検査の厳格な実施を求める行政措置を発表した。しかし、検査データの改ざんや虚偽記載などの不正に対する刑事告発や行政処分は見送り、「厳重注意」をするにとどまった。
原発の安全・保安については東北電力、中国電力についても、損傷隠しと虚偽報告の疑惑がある。とはいえ、東電の場合は、他と似たり寄ったりだということではすまされない重大な問題を抱えている。
これまでの報道や今回の報告によれば、原発の検査を請負った会社の元社員から通産省(当時)に東電の損傷隠しの内部告発があったのは2000年7月であった。当時の資源エネルギー庁は、同年末に証拠書類を添えて東電に質問状を出したとされている。その間に5ヶ月の空白があったわけだが、それ以上に大きな問題は、東電によって原発損傷隠しの一部が公表されたのは、内部告発からなんと2年後であったということである。
しかも、驚くべきことに、保安院は、2000年末に内部告発者の氏名などの個人情報を東電に提供し、同人が「危険人物」とする文書まで渡していた。今回の内部告発は、1999年9月の茨城県東海村の臨界事故を契機に原子炉等規制法に内部告発の保護規定が盛り込まれたのを受けてなされたと言われるが、保安院の所作が保護の趣旨にまったく反するものであることは論をまたない。
東電の側にも大きな問題がある。同社の南直哉社長(辞職前)は「社長として知っているべき事実を把握していなかった」と語ったと伝えられている。日本ハムの食肉偽装事件でも社長が知らなかったとされたことが取締役会の不在状態を物語るものとして大きな問題になったが、東電の場合も、取締役会は肝心の安全問題で機能していなかったことになる。
今回の事件で相談役を辞めて東電からた身を引いた平岩外四氏(88歳)は、かつて経団連会長として「企業行動憲章」(企業倫理に関するガイドライン)の作成にあたった人である。その時期は問題の損傷隠しが続けられていた期間と重なっている。また、東電会長から顧問に退いた荒木浩氏(71歳)は、先日まで日本経団連副会長の地位にあって、財界組織の企業倫理問題の責任者として、日本ハム事件などを受けて企業行動憲章の見直しにあたっていた。しかし、当の東電自身は他企業に企業倫理の範を垂れるどころか、「行動憲章」を社員に周知させることもなく、社内監査もそこそこに、多年にわたって組織的に損傷隠しを行っていたのである。
コンプライアンスの見地から無視できないことに、東電のような独占会社で、しかも経済生活にとって不可欠で消費を容易に減らせない必需品を供給している会社は、今回のような不正事件を起こし消費者の不信を買っても、それによって直ちに売上が減り、損失が生ずるわけではない。普通の財であれば、不祥事を起こした企業は、消費者の不買や代替品の購入によって売上が減ることによって、市場の制裁が受ける可能性があるが、そういう制裁が働かないのが電力やガスのような必需品を供給する独占会社である。
原子炉等規制法は、大きな損傷などが生じた場合には、発電所設置許可の取り消しや1年以内の運転停止の行政処分を命じることができると定めているが、今回はそういう行政処分は問題にならなかった。ということは、東電は原子力という最も安全が重視されるべき事業において、その安全にヒビを入れる事件を起こしながら、市場からも行政からも実質的には何の制裁も受けずにいることを意味する。
経営者が違法・不正や重大な義務違反を犯して会社に損害を与えておきながら、会社(通常は監査役会)が経営者の責任を追及しない場合は、会社に代わって会社のために株主が経営者の責任を問う株主代表訴訟を起こすことができる。しかし、今回の東電の損傷隠しでは、経済的な損害が認定できないために、株主代表訴訟を起こすことはきわめて難しい。この場合、経営者は株主からも責任を問われることはないのである。いわゆる引責辞任は、会長や社長には「顧問」のポストが用意されたということを別にしても、責任をとったことを意味しない。こう考えれば、経済産業省が東電に対して、刑事告発や行政処分を見送ったことは将来に大きな禍根を残すものといわなければならない。
私たちは、原発の安全確保を重視する株主の立場から、東電と関係省庁の双方に対し、今回の損傷隠しの全容の第三者機関による調査究明を行い、経営トップの責任を含む関係者の責任を明らかにすることを要求する。それとともに、国会および政府機関に対し、原子炉等規正法や電気事業法などの見直しを含め、原発安全規制の抜本的強化を図ることを要求する。東電には、株主と消費者に対して今回の事件についての説明責任を果たすとともに、再発防止のために、取締役会から各種委員会にいたるまで議論を尽くして企業体質を改革し、外部から安全監視の専門家を社外取締役に迎えるなど、目に見えるかたちでコンプライアンスと企業倫理を確立することがいま強く求められている。
いよいよバブル崩壊不況に向かうアメリカ経済(02/07/11)2002年7月11日の夕刊各紙はアメリカの株価の大幅な下落を大きく伝えている。ニューヨークの前日のダウの8,813ドルという終値は、昨年のテロ直後の9月21日の最安値8,235ドルを思い出させる。ナスダックは1,346で引け、昨年9月21日の最安値の1,423を大きく下回った。2000年3月10日の終値の5,048という最高値のポイントと比較すれば、ナスダックの暴落は目を覆うほどである。
店頭銘柄の総合指数であるナスダックに比べれば、優良30銘柄の指数であるダウは変動が小さい。それでもダウが11,337ドルを記録した昨年の5月21日を株価が下落傾向に転じた起点だと考えれば、アメリカの株価は、乱高下しながらも、日本のバブル崩壊後の株価に似た動きを示していることがわかる。テロと対テロ戦争は経済の動きを見えにくくしているが、アメリカの90年代はじめからの長期繁栄がもはや過去のものとなったことはあらためていうまでもない。
エンロン、ワールドコムなど相次ぐ大規模な粉飾決算の発覚は、個別企業を超えて、証券市場全般に対する投資家の不信を高めており、それとともに株価至上主義経営の成功神話は実体経済においても意識においても急速に崩壊に向かいつつある。
高額の役員報酬やゴールデン・パラシュート(高額退職金)に対する批判がかつてなく高まり、報酬の減額、凍結、返上を求める株主提案が次々となされている。また、被害株主による監査法人に対する損害賠償請求の集団訴訟や、経営陣に対する株主代表訴訟も次々と提起され、この面からも株価至上主義経営の破綻があらわになっている。
さらに、テロ以来、9割という日本の小泉首相以上に高い支持を得てきたブッシュ戦争大統領であるが、ここにきてにブッシュ批判がわかに強まってきて、政権基盤の動揺からも、アメリカ経済の雲行きは怪しくなっている。
株主オンブズマンは、神戸製鋼所の株主代表訴訟事件の弁護団有志と合同で今年の11月はじめにアメリカ東海岸に株主運動の株主訴訟の視察旅行に出かける予定である。そのときまでアメリカ経済はどの程度もちこたえることができるだろうか。労働省の発表では5月の失業率は5.8%であったが、6月は5.9%に高まるものと予想されている。雇用情勢の今後の悪化をも考慮すると、日本の1990年代のように金融危機のもとで株価の低迷が消費の低迷と結びつき、不況が長期化するのは避けられないのではないかと思われる。
ソニー株主総会で役員報酬の個別開示を求める株主提案に27%の支持6月20日(木)、ソニー株式会社の株主総会があった。この総会に対し、株主オンブズマンは、45名、84,800株(議案確定段階では41名、76,900株)の株主の委任を受け、役員の報酬および退職慰労金の個別開示を求める株主提案(9号議案)と、女性取締役の選任を求める株主提案(10号議案)を行っていた(いずれも定款変更の提案)。私はこの総会に他の数名の株主オンブズマン・メンバーとともに出席した。
総会は出井会長が議長となって開始され、まず営業報告と監査報告が行われた後、議事に入る前に、いきなり書面質問への一括回答がなされ、そのなかで、全議案について投票結果が発表された。これは私たちがあらかじめ「議案毎に賛成票・反対票・棄権票の票数を示す」ように求めていたことに応えたものではあるが、議事進行としては各議案の採決がされて、そのあとで投票結果が示されるべきであろう。発表された票数が議場の票数(当日投票分)を計算に入れているかどうかは不明である。
株主提案に対する投票結果(議決権行使株数)
賛成 反対
9 号議案 1億3819万5600株(27.2%)、 3億7061万6900株(72.8%)
10号議案 9210万9000株(17.5%)、 4億3274万1500株(82.5%)
この賛成率はきわめて高いものである。アメリカでは一般に株主提案において賛成が10%を超えることは会社が株主の要求を容れて政策を変えるベンチマーク(判断基準)だと言われている。私がニューヨークにいた昨年の場合、1月から8月までに結果が出た教会団体、環境団体、市民団体などによる株主提案で得た最も高い賛成はユノカル(エネルギー資源開発大手)の総会での23%であった。今回はそれよりも高い賛成を得ることができた。通常であれば、ソニーはこれで来年は個別開示に踏み切るだろうと期待される結果である。
質疑応答では、10名(13名?)余りの個人株主から質問があった。株主提案に触れた(提案に好意的な発言をした)株主は3名であった。その1人が、ソニーが「日本的な鯨尺と世界標準とを都合のいいように使い分けているのは納得がいかない」と言ったのに対し、出井会長は法や慣行は国によって異なるということを強調した。この回答から考えれば、ソニーといえども日本企業の横並び慣行から抜け出るのは容易ではないという印象を受けた。
議事進行では、質問の扱いの公平性と説明責任に関して重大な疑義が残った。私たちは、株主提案と書面質問に関連して、いくつかの議場質問をするつもりで周到に用意し、ずっと挙手をしつづけていたが、結局、一度も誰も指名されないまま議事がうち切られ、強行採決になった。私たちは「質問」「質問」と叫んで食い下がったが、完全に無視された。私たちとして議場でできたのは株主提案の提案理由の説明だけであった。
質問を求めながら発言できなかった株主はほかにも少なからずいたようである。しかし、午後からは懇談会が用意されているなかで、質問が多い場合には2時間で強行的に打ちきるというシナリオがあらかじめ用意されていたものと考えられる。「変わりつつある株主総会」の流れに逆行する、出井会長のこういう乱暴な審議打ち切りに対してはつよく抗議したい。
<参考>ソニー株主総会で会社に送った事前の書面質問
1 質問への回答は、一括回答ではなく、一問一答にするべきではないか。
2 投票結果については議案毎に賛成票・反対票・棄権票の票数を示すべきではないか。
3 取締役・監査役の報酬・退職慰労金の額について個別開示するべきではないか。
4 男女共同参画社会基本法の理念に立って取締役会に1人以上の女性を置くべきではないか。
5 株主代表訴訟制度の損害賠償額の軽減にかかわる定款変更は、社外取締役にかぎって行うべきではないか。
6 日本コーポレート・ガバナンス・フォーラムの「改訂コーポレート・ガバナンス原則」について、経営トップとしてどのような認識をもっているか。
7 カルパース(カルフォルニア州退職公務員年金基金)の「対日コーポレート・ガバナンス原則」について、経営トップとしてどのような認識をもっているか。
8 製品のリコールや安全性の情報に関して迅速に開示するためにどのような体制と方法をとっているか。
9 消費者からのクレームや要望に対応するためにどのような体制と方法をとっているか。
10 国内外で会社が原告または被告となっている法的係争にはどのようなものがあるか。あるならその結果や具体的情報を示してほしい。
11 政治献金を行っていればその金額、相手先、献金日時、献金理由を開示してほしい。
12 コンプライアンス(倫理・法令遵守)に関してどのようなガイドラインをもち、どのような機関(委員会等)を設けているか。
13 総会屋や反社会的勢力との絶縁についてどのような取り組みをしているか。
14 社内の違法・不正に気づいた社員に積極的な「内部告発」(経営上層への通報)を求める「スピーク・アップ制度」のための特別な窓口や組織や指針を設けているか。
15 昨年度および今年度における障害者法定雇用率の達成状況、雇用納付金または雇用調整金の額を開示してほしい。
16 社内で過労死や過労自殺は発生していないか。過労死予防のためにどのような取り組みをしているか示してほしい。
17 環境経営および環境活動の取り組みと進捗状況をとくに再生可能エネルギー資源の利用とリサイクルの推進を中心に示してほしい。
18 国内外で起きた近年の環境事故とその対応について明らかにしてほしい。
19 途上国での事業活動における労働条件はILO基準や日本の労働基準に準拠しているか。これらに関する情報の収集と報告はいかなるかたちで行っているか。
20海外機関投資家の一部を中心にSRI(社会的責任投資)の動きが強まるなかで、それに対する取り組みや配慮を行っているか。具体的に示してほしい。
雪印乳業への株主提案をめぐって 2002年3月21日「日本経済新聞」(3月7日)や「朝日新聞」(3月21)で報道されたように、株主オンブズマンは、集団食中毒事件や子会社の牛肉偽装事件で会社存亡の危機に立たされている雪印乳業の来る株主総会に、食品の安全チェック体制の確立を求める株主提案を行う方針を決めて、株主への呼びかけを行っている。
提案の内容は、1)取締役会のなかに消費者団体の推薦を受けて、食品の安全と適正表示を監視する社外取締役を置く、2)その社外取締役のもとに同取締役が指名する若干名の委員によって構成される恒常的な商品安全監視委員会を設置する、という2点を定款に盛り込むというものである。
株主または株主グループは、商法232条の2にもとづいて、会社に一定の行動を採らせたり、止めさせたりするために株主総会に議案を提出することができる。日本では、数年前までは電力会社の株主による原発建設ストップの株主提案などごく少数の例があるだけ、会社に政策変更を求める株主提案はほとんどなかった。しかし、最近は、株主オンブズマンのイニシアティブで株主提案に新しい流れが生まれつつある。
2年前には、住友銀行に対して、役員の報酬と退職慰労金の開示を求める株主提案がなされた。また昨年は、旧さくら銀行との合併で誕生した三井住友銀行(SMBC)に対して、同じような提案がなされた。両年とも銀行側(取締役会)は、株主提案自体には反対したが、総会では議長である頭取が、取締役および監査役の報酬の総額、最高額、平均額、および総会後に退任する役員の退職慰労金の総額を発表した。
昨年(2001年)の三井住友銀行の株主総会における株主提案の投票結果については、有効35億5695万4000株(2万7970名)のうちで、7.2%(株主数では22.1%)にあたる2億5508万3000株(6193名)の賛成を得ることができた。これは日本の大規模会社における株主提案としては、過去最高の賛成率である。
株主オンブズマンは、今年は、上記の雪印乳業への食品安全チェック体制の確立を求める株主提案のほかに、三井住友銀行とソニーに対して、役員報酬開示と女性取締役の選任を求める株主提案を行っている。ソニーは海外機関投資家を中心に外国人の株式保有比率が高いので、議案として投票に付されれば、昨年の三井住友以上の高い賛成が得られるものと期待される。
私は、昨年4月から半年、関西大学の在外研究員としてアメリカの株主運動を調査する機会があった。アメリカでは、取締役会の構成や役員報酬のあり方に関する株主提案だけでなく、環境、人権、労働基準などの社会問題に関する株主提案が年間に何百と行われている。提案はつねに議案になるとは限らず、問題の性質によってはオミットされることもある。それと同時に、提案した株主や株主グループと経営陣との交渉がもたれて、提案に盛られた要求が受け入れられた結果、株主側の議案としては取り下げられるケースも少なくない。もちろん、実際に投票が行われて、それが幅広い株主の支持を得て、その結果、会社が政策を変更するにいたった事例もいくつか生まれている。
アメリカにおける株主提案をつうじた企業責任運動の最初の一歩は、1970年の「キャンペーンGM」で踏み出された。P. W. ムーアほか数人の公益法関係者を中心とし、ラルフ・ネーダーを押し立てたこの運動は、問題の基本的所在を次の点にみている。
「GMに代表される巨大企業は、私企業でありながら、その決定は、製品の安全から雇用差別や環境汚染にいたる広い範囲にわたって幾百万の人々の生命に根本的な影響を及ぼしている。にもかかわらず、大企業の決定は、公衆の考えから遠く離れたところで、勝手に選ばれた少数のグループによってなされている」。
キャンペーンGMの要求は、具体的には同社の憲章(社是)に「健康、安全、福祉との調和」を明記することと、企業責任に関する株主委員会を設置し、取締役会に公益代表を選任することにあった。キャンペーンGMのグループは、GM社に対して、キャンペーンの目的を推進するために、9つの株主提案を行った。それらの提案を議案とするどうかの決定は証券取引委員会(SEC)に持ち込まれ、SECは、9つのうち、2つの提案――企業責任に関する株主委員会の設置を求める提案と、取締役会への公益代表の選任を求める提案――総会招集通知に盛り込むことを承認した。
GMという巨大企業に対してなされたこの株主提案は、130万人もの株主に企業の社会的責任について考え、議論する機会を提供した。この運動は株主と経営陣との対話にとどまるものではなかった。学生を含む非株主グループも、大学を含む機関投資家に対して、この株主提案を支持するよう働きかけた。
1970年5月22日のGMの株主総会は、約3000人の株主が参加し、6時間半の討論が繰り広げられた。投票結果は、企業責任に関する株主委員会の設置に関する議案への賛成は2.73%、取締役会への公益代表の選任に関する議案への賛成は2.44%であった。
結果はこのように予想より低い賛成にとどまったが、GMはその後、社内に公共政策委員会(Public Policy Committee)を設置し、公民権活動家のレオン・サリバンを取締役会に迎え入れた。黒人としてGMの最初の取締役になったサリバンは、GMをアパルトヘイトが行われていた南アフリカから撤退させことにも貢献し、「サリバン原則」と呼ばれる企業内の人種差別をなくす倫理綱領でも知られている。
株主提案をつうじた企業責任運動が1970年代に始まったアメリカと比べれば、日本の現状はおよそ30年は遅れている。本欄の前回の「主張」でも述べたように、日本の株主提案制度は、要件となる株数が大きい(通常30万株)うえに、定款変更の形でしかできないなど、制限が強すぎる。企業統治への株主参画を促すには、こうした制限をせめてアメリカ並に緩和する必要がある。
この点で日本における株主提案をつうじた企業責任運動の前途は容易ではない。にもかかわらず、雪印乳業にたいして準備されている食品の安全チェック体制の確立を求める株主提案は、会社がそれを受け入れて抜本的な改革に踏み切るなら、消費者からの信頼を回復して、伝統あるブランド価値を再生させる一歩となりうるだけに、企業改革への株主参画のパイロットモデルとなるかもしれない。
注:雪印乳業への株主提案についてはhttp://www1.neweb.ne.jp/wa/kabuombu/020312-1.htm
企業統治改革に株主参画の視点を 2002年2月21日
先頃、法制審議会は米国型のコーポレート・ガバナンス(企業統治)の導入を企図した商法改正要綱案を決定した。法務省はそれを受けて近く国会に取締役会の構成や権限を変えるための関連法案を提出すると伝えられている。しかし、この改正が具体化したとしても、日本型企業統治の宿弊である株主不在の会社運営が改まるとは期待できない。
株主提案と呼ばれている株主参画制度を例に考えてみよう。日本でも米国でも、株主または株主グループは、会社に特定の行動をとらせるために株主総会に議案を提出することができる。しかし、日本では株主提案の事例はきわめて少ない。他方、米国では、取締役会や役員報酬に関する提案だけでなく、環境、人権、労働基準などの社会問題に関する提案が年間に何百と行われている。その結果、交渉や投票を通じて、実際に会社の政策を変更させた事例も少なからず現れている。この違いはどこから生じているのだろうか。
日本では株主提案を行うには300単位(1株が市価500円で1000株が売買単位の株なら1億5000万円)以上の株式を保有していなければならないが、米国では市価で2000ドル(約26万円)以上の株式を保有していればだれでも株主提案ができる。日本では株主提案はすべて定款変更の形式を取らなければならないが、米国ではその必要はない。日本では同一の株主提案を翌年も行うには議決株数の10%以上の賛成を得なければならないが、米国では3%以上でよい。日本では総会における提案理由の説明はその会社の株主でなければできないが、米国では、環境に関する提案であれば、株主でない環境保護団体でもできる。
ディスクロージャー(情報開示)の試金石である役員の報酬開示にしても、彼我の違いは大きい。米国では役員報酬の開示が制度化されており、株主総会の招集通知には取締役の報酬が個別に記載されている。しかし、日本では役員報酬を開示している企業はほとんどない。昨年の三井住友銀行の株主総会に際して、株主オンブズマンが行った役員の報酬と退職慰労金の開示を求める株主提案には、投票総株数の7.2%の賛成があったが、この数字さえ「商法上具体的票数を開示する必要はない」という理由で、総会では明らかにされなかった。役員報酬の開示に関して、株主提案をするまでもない米国と、投票結果の詳細を知るには、総会後、提案者が本店に出向いて議決権行使書を閲覧しなければならない日本。この隔たりは、日米の企業統治における株主参画の隔たりを示している。
「米国型企業統治の導入」を言うなら、重視するべきは、会社の運営や経営の監視に株主の参画を制度化する視点である。日本では、株主重視が言われるとしても、それは法人株主や機関株主のことであって、上場企業の株主の圧倒的多数を占める個人株主のことは忘れられている。
個人の株式投資を盛んにするためにも、日本型企業統治の弊害を打破するためにも、いま求められているのは、個人株主の会社運営への参画を促すような企業統治改革である。
企業は障害者雇用の責任果たせ 1999.07.20 朝日新聞朝刊(論壇)
民間企業における障害者の法定雇用率が昨年七月、一・六%から一・八%に改定されてから、すでに一年が経過した。
企業活動を監視する市民団体「株主オンブズマン」は昨年末から今春にかけて、上場企業における障害者雇用の実態を把握するため、三百九十九社に対しアンケートを実施し、二百四十七社(回収率六二%)から回答を得た。その結果、上場企業の障害者雇用率は一・五六%にとどまり、七〇%の企業は改定された法定雇用率を達成できていないことが明らかになった(詳細はホームページ〈http://www1.neweb.ne.jp/wa/kabuombu/〉)。
法定雇用率を達成していない常用労働者三百人以上の事業主は、不足人数一人につき月額五万円の障害者雇用納付金を納めなければならない。法定雇用率が一・六%だった九七年度は、計百二十三社で総額約七億円の納付金が支払われた。この納付金は日本障害者雇用促進協会に収められ、法定雇用率を達成している事業主への調整金や、障害者を多数雇用している中小事業主への奨励金などに充当される。だからといって法的義務を履行せず、会社資産から長期にわたって漫然と納付金を出し続けることが許されるはずがない。
株主からみれば、会社が法律を順守し、社会的責任を果たしているかどうかは重大な関心事である。働く意欲と能力をもつ障害者に対して、職場環境の改善と求人活動の強化を通じて積極的に雇用の場を創出している企業は、株主ひいては市民から高い評価を受けるであろう。しかし現状では、個々の企業が障害者に優しいか冷たいかを知るための情報は、企業からは与えられていない。
株主や市民による企業評価を可能にするためにも、上場企業は障害者法定雇用率の達成状況や、未達成時の納付金および達成時の調整金の額を、株主総会および有価証券報告書に開示することが望まれる。
私は先日、今回の調査対象ではなかった日本航空の株主総会に出席して、障害者の雇用率と納付金の金額について質問した。その結果、同社の障害者雇用率は一・二九%、昨年度の納付金の総額は四千六百万円だったことが分かった。会社が進んで開示しなければ、株主が質問してみるのも一法である。
労働省は、障害者雇用に著しく消極的な事業主に対して、雇い入れ計画の作成命令を出すことになっている。しかし実際には、命令を出す基準が実雇用率〇・八%未満で、かつ不足人数六人以上の企業に限定されているうえ、経営状態なども考慮されてきた。そのために、上場企業を対象にした今回の我々の調査では、雇い入れ計画の作成命令を受けた企業は一社もなかった。
障害者雇用に著しく消極的な事業主の公表制度にいたっては、導入から二十年以上たつが、実際に適用された例は過去にわずか数件しかないと言われている。
これでは十分な指導、監督ができるはずがない。行政側から障害者雇用を促す早道は、雇い入れ計画の作成命令や公表制度を積極的に活用し、企業に対して法定雇用率の達成を迫ることである。同時に政府・労働省には、公共職業安定所を通じた紹介・斡旋(あっせん)の改善や、障害者の通勤その他の社会環境の条件整備に努め、障害者を雇用しようとする企業が必要な雇用数を確保できるように支援することが求められている。
不況とリストラの嵐(あらし)の下で、雇用情勢はかつてなく厳しい。しかし、そのことをもって障害者雇用の努力を怠る理由とすることはできない。公共職業安定所の全国集計によると、九七年度中に約七万七千人の障害者が新規に職を求めたが、就職できたのはそのうち約二万八千人(三六%)であった。大阪府においては、九八年度、職業安定所に求職登録した障害者七千八百三十八人のうち、就職できたのは二千二十四人(二六%)に過ぎない。こうした数字に、障害者が一般の労働者以上に厳しい雇用環境に置かれている状況が示されている。
障害者の雇用を促進し、少なくとも法定雇用率を達成することは、経済情勢の如何(いかん)によらず企業として当然果たすべき社会的責任であることをかみしめてほしい。
株主の経営監視の芽を摘むな 1997.09.24 朝日新聞朝刊(論壇)
株主代表訴訟の制度を骨抜きにしようとする動きが強まっている。
自民党法務部会・商法小委員会は今月八日、規制緩和の一環として経団連から見直しが求められていた株主代表訴訟制度と監査体制について「商法等改正試案骨子」を発表した。その二日後、経団連コーポレート・ガバナンス特別委員会が、自民小委案に基本的にゴーサインを与える「緊急提言」を発表した。事態は来年の通常国会での議員立法に向けて動き出したとみてよい。
商法によれば、取締役が会社に損害を生じさせた場合、監査役が会社を代表して取締役の責任を追及しないなら、株主は会社に代わって取締役の責任を追及できる。この株主代表訴訟を封じるために経団連が当初思いついたのは、単位株を保有している者に認められている現行の代表訴訟提起権を、株主総会への議案提案権と同じく、発行済株式総数の一%または三百単位(通常三十万株)以上をもつ者でなければ認めないように制限することであった。
こうした制限は、今回の経団連提言では「今後の検討課題」として先送りされた。かわりに浮かび上がってきたのは、監査役会に免責提案権を与え、株主総会の特別決議によって取締役の損害賠償責任を減免しようという考えである。
実態をいえば、株主総会は株式を相互に持ち合った法人株主(安定株主)の白紙委任でシャンシャンで終わる。監査とは名ばかりで、監査役も会計監査人も不正摘発をしない。にもかかわらず、会社の意のままになる総会で取締役の責任を減免するのは御都合主義もはなはだしい。
関連して経団連は、現行では六カ月前から株主であれば有する提訴資格を、取締役の違法行為時の株主に限定するよう求めている。しかし、違法行為が発覚して広く知られるのは、行為から何年も後になることが多い。違法行為による損害の発生も同様である。違法行為時から発覚までの間にも株式は売買されており、この間に株式を取得した者に提訴資格を認めないのは道理に合わない。
いまひとつ奇妙なことに、経団連の提言では、社外監査役の増員を含む監査体制の強化案が株主代表訴訟の抑制案と抱き合わせに出されている。もし、監査役会が経営の監視・けん制機能を厳正に果たすなら、不祥事は少なくなり、また、起きたとしても、その真相究明や責任追及を監査役会がするはずなので、株主代表訴訟はあえて制限をせずとも、おのずと減るものと見込まれる。
しかし、そう考えるのは早計である。実際の案を読めば、監査役会が全会一致で認めれば会社は被告取締役を支援でき、全会一致で申し立てれば裁判所は訴訟を却下できることになっている。この点で、経団連のいう監査役会の権限強化案は、取締役を見張る権限を強めるというより、むしろ擁護する権限を強めるものだといわねばならない。
株主代表訴訟は一九九三年の商法改正で訴訟手数科が一律八千二百円に引き下げられて増えてきた。この間には訴訟の原因となる企業不祥事も増えてきた。とはいえ、実際に取締役が訴えられた企業は、不祥事を起こした企業の一部でしかない。また、経団連が問題にする株式公開企業のケースは、実際に提起された代表訴訟のこれまた一部にすぎない。
この問題では、積極的に事業を展開して失敗した場合の責任を問う訴訟が経営者を委縮させていると言う人々もいる。しかし、投資判断の誤りに対するいたずらな訴えには、私怨(しえん)を晴らすための訴えや、十分な根拠をもたない訴えと同様に、裁判所から担保提供命令が出ている。乱訴防止は現行制度でも基本的にクリアされているといえる。
経団連の提言は「昨今の企業不祥事を真剣に受けとめて」出されたことになっている。しかし、その内容は、情報開示が不十分で、会社が株主総会で説明責任をつくさず、取締役会も監査役会も機能不全をきたしている日本の企業統治の積弊に何ら踏み込んでいない。経団連としてできる悪質な不祥事企業の権利停止処分もせずに、代表訴訟に関する株主の権利を制限して、株主による経営監視の芽を摘み取るようでは、企業は総会屋との腐れ縁すら断ち切ることはできないだろう。
企業改革は株主総会から 1996.07.12 朝日新聞朝刊(論壇)
日本では六月末の同じ日に大多数の上場会社が株主総会を一斉に開く。こうした日本の会社風景は今年も変わらなかった。しかし、株式会社と株主総会を見つめる市民の目は大きく変わった。今年の株主総会では個人株主の批判がこれまでになく厳しかった。私自身、四時間二十分にわたった住宅金融専門会社(住専)の最大手、日本住宅金融(日住金)の株主総会に出席して、そのことを痛感した。
人々が株主総会に関心をもち始めたのは、企業の不祥事が頻発するなかで、会社のあり方に疑問を感じ、だれが会社を監視するのかと問い始めたからである。言い換えれば、人々は企業犯罪が表面化しても、取締役会などがもつ社内の経営チェック機能がいっこうに働かない日本の会社の非民主的体質を改めるには、「日本型シャンシャン総会」を変えなければならないと気づき始めたのである。
日本では、株式会社という法人がグループ内、系列内で相互に株式を持ち合って、結束した法人株主(安定株主)の白紙委任によって株主総会が開かれ、経営者支配が実現している。奥村宏中央大教授のいうこの法人資本主義の構造こそが、六月末の同じ日に一斉に開かれ、株主の発言のないまま二、三十分で終わる日本型株主総会を生んだのである。私たちが実施した株主総会についてのアンケートでは、多くの会社が総会の同一日集中について「決算日が同じだから」「特殊株主がいるから」という理由を挙げている。しかし、選択肢には含まれていないが、真の理由は「法人支配・個人株主無視」にあると考えるべきであろう。
シャンシャン総会をなくすには、金融機関、事業会社などの法人が六七%、個人が二三%という現在の上場会社の株式所有構成を、株式相互持ち合いの制限や個人株主づくりを通して、もっと個人所有の比率を高める方向に変える必要がある。これが困難であるとしても、総会の同一日集中の弊害をなくすための開催日の分散は、比較的容易に実施できる。なにも平日に限らず、ゲームソフトのスクウェア社のように、日曜日に開いてもよいし、午前でなく午後にもつことも可能である。
株主総会がシャンシャンで終わるということは、会社の最高意思決定機関においてさえ、ディスクロージャー(情報開示)がされず、経営実態が株主に見えないことを意味する。そればかりか、現状では株主総会そのものが非公開で、人々の目から隠されている。私の出た日住金の株主総会では、質疑応答が始まるや総会の様子をマスコミに公開せよという緊急動議が出され、多数の出席株主の支持を得たが、結局、いれられなかった。日住金のような天下注視のケースでなくとも、コマーシャルで日々マスコミに顔をさらしている会社が株主総会をマスコミに公開し、それを通じて世間の評価と監視を受ける意味は大きい。
シャンシャン総会をなくすいま一つの手だては、議決権の代理行使の制限を緩和することである。日本では株主総会への代理人出席は、定款で同一会社内の株主にしか認められていない。会社は顧問弁護士などで武装しているのに、個人は全く無保護な状況に置かれている。一方、欧米では個人株主の利益を保護する立場から弁護士や公認会計士らの専門家が議決権の代理行使をして、総会で利益処分案などについて質問できる。こういう状況を改めるためには、日本でも専門家による議決権の代理行使を認めるべきである。
今回の日住金の株主総会でも専門家の代理出席は認められなかった。しかし、それでも商法や会計の専門家の支援を得ることで、個人株主が株主提案権などの株主権を集団的に行使するという貴重な経験を積むことができた。
日本の株式会社のあり方をめぐっては、法人間の株式相互持ち合いの批判に加えて、バブル崩壊後の株価低迷、個人株主の株式離れ、株主代表訴訟の広がり、外国人投資家の持ち株数の増大といった環境変化のなかで、各方面からさまざまな問題が指摘されてきた。株主と市民から見た企業改革の課題は多いが、株主による企業監視のために最も急がれるのは株主総会の改革である。
企業経営に今こそ厳正なルールを 1996.03.13 朝日新聞朝刊(論壇)
本年二月に大阪市で弁護士や公認会計士が中心となり、住宅金融専門会社(住専)など企業監視のための市民団体「株主オンブズマン」を設立した。この会が取り組んだ二度の「銀行・住専株主110番」には、二百数十件の相談と激励の電話があった。なかでも日本住宅金融(日住金)の株主約五十人からは、同社の役員の責任追及を求める声が寄せられた。わたしたちの調査では日住金は、一九九四年度の有価証券報告書において、取り立て不能債権が八千二十二億円を超えていながら、取り立て不能見込み額を示す貸し倒れ引当金を七百八十九億円しか計上せず、明らかに債務超過であるにもかかわらず、融資金を一兆九千六百三十六億円、資産合計を二兆四千四十五億円とし、債務超過でない旨の虚偽記載をして大蔵省に提出した。
日住金の有価証券報告書を見ると、金融機関は九一年度には同社の株の七六%を所有していたが、大蔵省の立ち入り調査と三和銀行の調査があった九二年度にはシェアを六二%に下げ、九四年度にはさらに五二%に下げている。他方、九一年度は九%しか所有していなかった個人株主が九二年度には二五%、九四年度には三五%の株を所有するに至っている。これは、金融機関がインサイダーとして知り得た情報をもとに売り抜けし、紙くずになる運命の株を個人株主に押しつけた疑いがある。
日住金の一株主からは、株主総会の形がい化、会社の毎期の報告資料のずさんさ、庭山慶一郎相談役(元社長)の無責任な言い逃れなどを克明に指摘した長文の訴えを頂戴(ちょうだい)した。その末尾には「社会正義がなくなった時代」という言葉があるが、後世の歴史家にこの時代が、市場経済で守られるべき信義誠実の原則が忘れられた時代と記録されるのはあまりにも情けない。
わたしたちは、株主の申し出を受けて、近日中に日住金に対し取締役会議の議事録閲覧請求訴訟に踏み切る予定である。また取締役に対する損害賠償の株主代表訴訟もありうる。同社の株主名簿を閲覧して一般株主に連絡をとり、株主権を行使して、日住金に対する会計帳簿の閲覧や会社更生の申し立てをする可能性も検討している。
しかし、ここで訴えたいのは、金融機関に限らず企業経営において守られるべきルールのことである。
第一に、法律違反が明確なのに、当事者がだれも責任を負わず、罰せられないということがあってはならない。住専問題でいうなら、二月十六日付本欄で弁護士の筒井信隆氏が述べていたように、関係諸法に基づいて母体行、住専、借り手企業、農協系金融機関の役員に「役員個人の責任」を、大蔵官僚に「公務員個人の責任」を負わせなければならない。朝日新聞の記事によれば、八〇年代に経営が破たんした米国の貯蓄貸付組合を整理した整理信託公社(RTC)は、不正融資や粉飾決算を摘発するとともに、司法省を通じ、経営陣、管理職ら千八百五十二人を刑事告訴し、うち千五百七十七人が有罪判決を受けた。
第二に、企業経営の透明性の基準となる会計その他のルールは厳しく守られなければならず、監査役、監査法人、公認会計士はそれぞれの監査義務を厳正、忠実に果たさなければならない。また、企業の社会的な監視と批判にかかわるルールは株主や市民にわかりやすいものに改める必要がある。銀行、住専、借り手企業などで使途不明金として処理されることの多い政治献金が問題になっている。情報開示を促進するため、会計学者の醍醐聰東大教授が昨年三月九日付本欄で提案しているように、企業が税務申告で使途を秘匿した支出がどれだけあったか、税務調査で判明した使途はどのようなものだったかなどを有価証券報告書などに記載させるのも効果的だろう。
最後に、何の政策的裏付けもなく、国民の圧倒的多数の反対を押して不良私企業へ税金を支出することもルール違反と言わねばならない。
スポーツ競技において審判が特定の選手に救いの手を差し伸べたり、選手がルールを無視した手段に訴えたりするようでは、フェアプレーは成立しようがない。企業経営においても守られるべきはフェアビジネスの精神である。