・もっと高く
1972年実業団宮城県予選、東北リコーは3回戦まで進出した。
この年に入部したHL・半澤幸のスパイクは強烈なものがあったが、9人制としては日が浅いため春先は実力が発揮しきれず、動きは今ひとつであった。
しかしその打点はハンパじゃない。身長176cmにして豊かなジャンプ力は、好調時にはなんとアンテナの先に手が届いていた。
「このスパイクだけは全国レベルで見てもトップクラスに間違いない」 部員は遠からず来るであろうチャンスに期待しながら練習に励む。
そして産業人宮城県予選、半澤の豪打が爆発し1回戦東北電機製造、2回戦東洋刃物をストレートの快勝で決勝進出、難なく東北大会出場(宮城から2チーム)を決めてしまった。
「やったぜ!大館(秋田県)だ!」
決勝は気の緩みもあったか?仙台市役所に敗れたが、あまり気にしていない様子。
負けたことは宮城県から出られることのうれしさで、かき消されてしまった。
◇ ◇ ◇
産業人東北大会。ここも決勝進出2チームが東北ブロック代表として全国大会への切符を手にすることができる。
しかし1回戦はなんと地元の中の地元、大館市役所戦だ。「萎縮しなければいいが・・・」村上長に不安がよぎる。
案の定、体育館は地元大応援団が詰めかけており、選手は緊張しているかに見えた。だが、半澤のスパイクが決まった瞬間、静寂とどよめきが起きる・・・
「誰だアイツは?」「すげえスパイクだ」
セッター・大内から放たれるトスは、たか〜い放物線を描く。
「なんであんな高いトスを打てるんだ?」 2段トスのような、とても打ちにくそうに見えるトスをいとも簡単に相手コートに打ちつける。
「もっとトスを高く、もっと!」 6割、いや7割がエースへのトス、ますます高く上がる。いつの間にか半澤が決めるたびに大歓声が沸き起こっていた。
1、2回戦と勝利し、いよいよ準決勝。これに勝てば全国大会だ。
しかし対戦相手である東北機械(秋田)のプレーぶりを見て勝てないと思う選手もいた。プレッシャーか?どう見ても向こうが1枚上手に感じていた・・・
試合は東北リコーのレフトエース半澤と東北機械のサウスポーライトエースとの対面一騎打ちとなったが、半澤が見事なシャットアウトを連発、そして打って打って打って打って打って打って打ちまくる。勢いに乗った東北リコーが圧倒し、決勝進出を果たす。「よっしゃあ!全国だ!!」
コートをぐるぐる駆け回る選手、抱きつくスタッフ、喜びは頂点に達した。まだ試合はあるのに。
東北リコー 2(21−12、21−18)0 東北機械
「あ?決勝? またかよ・・・」 決勝戦はまたもや仙台市役所だったが、全国大会出場の喜び、半澤の疲れもあり、ストレート負け。
「まあいいじゃねえか、全国だし。・・・でもなあ・・・」 さっきの喜びとはちょっと違う複雑な表情。
そう、全国大会の会場はなんと地元宮城県の仙台市だったのだ。
「あーっ、なんで宮城なのよ」 これホンネ。
・全国の壁
日本産業人大会、予選グループ初戦の相手は強豪の東部信用金庫(東京)、全国レベルを知るには絶好の相手である。
公式練習の時からエース半澤は好調、“アイツにさえ上げればなんとかしてくれる”という信頼感があった。
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だがこっちはこれしかない。とにかく必死になってエースへつなごうとした。
いかに打点が高いといっても、そうそうブロックの上から打てるわけではないし、セッターから上がったトスはなんとかこなしても、ばらつく2段トスまではさすがに対処しきれない。点差は少しずつ離れていった。
東北リコー 0(16−21、12−21)2 東部信用金庫
続く敗者復活戦も攻撃パターンは変わらない。それは強みでもあるし弱みにもなる。相手も先の試合を参考にしたのか、しっかり対応してくる。というより、個々の実力に差があった。無念の予選敗退。
「オープン頼みの単調な攻撃は全国では通用しない・・・」村上は改めて全国レベルを実感した。
とはいえ、大会参加は大きな経験。今後に期待できることだけは確信し、会場を後にする。
◇ ◇ ◇
この年、キヤノン、リコー(大森事業所)、東北リコーによる第1回親善試合がキヤノン体育館で行われている。今考えてみると不思議な組合せであるが、第2回が開催されたかは定かでない・・・