かなり 実録 バレー部物語

・贈り物

1988年、東北リコーに待ちに待った体育館が完成、3月14日に記念すべき初練習を行う。
真新しいコートで動くだけで上達したような錯覚、練習にも一層身が入る。
今までは主に船岡体育館(仙台大学の隣)を借りていたが、男女2面での練習はエンドラインがギリギリで、サーブ練習などまともにできなかった。
東北リコー体育館でも2面で練習するときは十分なスペースとは言えないが、とにかく“練習場所を気にしなくてもよくなった”これだけでも十分感謝すべき、とてつもなく大きなプレゼントだ。

この年、バレー部は創部20周年を迎えた。リコー厚木との交流試合に合わせて記念式典も行われ、横断幕がOB、OGから贈呈された。
“一球入魂”は集中力を高め、一球入魂の精神でボールに向かって欲しい、“燃えろ!東北りコー”は一試合一試合を完全燃焼し、東北リコーのイメージを強烈にアピールして欲しい、と言う願いが込められている。“り”がひらがなになっているのはご愛敬。

「中国の故事では、人生を20年毎の80年で考え、それぞれの20年に色と季節を与えました。最初の20年、春には青、以下夏には朱(赤)、秋には白、冬は玄(黒)となり、それぞれ青春、朱夏、白秋、玄冬となります。
燃えるような赤、沸き立つような夏の時代に入り、この“朱夏”を悔いのないようにしましょう」
と部長である白幡の激励が身にしみる。

この時、バレー部憲章等が制定され、20周年記念球史も発行された。タイトルは「翔舞(しょうぶ)」。“勝負”と掛けて、羽ばたくような語呂を合わせたものだ。現役選手自身が編集を務め、まさしく手作り的な内容ではあったが、そこそこの出来映えになった。(この物語もここまでの内容は記念誌を多く参考にしている)

あのトレーナーも5年ほど使ったし、強くなるにはまず形から・・・というわけで、遠征用のジャージを一新した。朱夏に合わせるようにリコーカラーでもあるレッドを使用し、背中にでっかくリコーマークを配したスウェットだ。
とにかくアピールしよう、ちょっとでも強く見せようという思いで作ったが、こんな派手なスウェットを着て平日平気でパチンコに行く猛者もいた。


・目指すもの

様々な出来事がよい方向に結びつき、実業団では準決勝で第1シードのアルプス電気涌谷、決勝でアルプス電気角田を下し、昨年総合に続き初の2大会連続、そして2年続けての全国大会出場を果たす。

全日本実業団選手権
真新しい横断幕に見守られ、熱戦を繰り広げる。=対NTT岡山戦
全日本実業団選手権、予選グループ戦のNTT岡山戦は善戦、第2セットはデュースまで持ち込んだものの、そこが精一杯。相手のうまさにいなされたという感じであった。それでも敗者復活ながら予選グループ戦を突破、決勝トーナメント1回戦の相手は印刷局小田原(神奈川)に決まった。

早速、同じ神奈川県のリコー厚木の部員に情報を聞いてみると、「印刷局?オレ達じゃ歯が立たないよ」という返事。
春の交流試合でセットをリードしていたとはいえ、厚木とはそれほど実力に差はない。苦戦は必至か・・・

案の定、試合はもつれた。しかもセッター小野が両足を捻挫しており、脂汗を流しながら必至にトスを上げていた。第1セットを接戦で奪うものの、第2セットは終始攻められセットオールに持ち込まれた。何ともならない相手ではない。いける、いや、いかなくては!
気を取り直して挑む第3セット、相手ミスで序盤リードするといつものリズムが復活、コンビは思うように合わなかったが、HL紺野、HC尾形の活躍で何とか振り切って決勝トーナメント初勝利を上げた。「うぉっし!ついに初戦突破だぜ!」

特に尾形は攻守の要。相手の強力なサーブやスパイクをオーバーハンドで軽々と上げ、ブロックが3枚付かれても「どんな手首してるんだ?」と思わせるほどスナップを利かせて、何度もその脇を抜いて見せた。時にはノーマークなのにわざわざ超クロスを打って、アウトにしてしまう茶目っ気さもあったが・・・まあ、とにかく勝った。一つの壁をまた破り、未知の空間に足を踏み入れる。

◇  ◇  ◇

一難去ってまた一難、次は全国トップクラスの富士通(兵庫)が相手。「とにかく“当たって砕けろ”しかないよ」
試合は圧倒的に富士通ペース。スピードと正確性が全く違う。ネット際の攻防でボールが浮いても、こっちは全く反応できない。そこへダイレクトスパイクを決められる。あっけにとられるというか、苦笑いをするしかなかった。もちろん結果は惨敗、悔しさも出ない。

「まるで忍者のようだ・・・」小野がつぶやく。
高さで圧倒するような絶対的エースがいない東北リコーとしては、富士通のような正確で速いコンビバレーを目指すべきとの結論がミーティングで出された。そう、目標にするほどその動きに驚嘆したのだった。しかしどこまで追いつけるものか・・・まあでもまずはそういう意識付けが大切。


・倒すべきもの

国体予選は宮城県庁クラブ、東北金属、NTT宮城を下し決勝進出、相手は県No.1の実力を誇る宮城クラブだ。
この国体予選、2週に渡って行われたが、この時期は高校総体の予選と日程が重なるため、教員主体の第1シード宮城クラブは準決勝からの登場となった。
「おいおい、聞いたことないぞ」
東北総体(ミニ国体)で勝てそうなのは宮城クラブぐらいしかないだろう。それだけ他チームとは実力差は歴然、国体ならこれくらいはよくあることなんだってさ・・・

なんたって全日本でも活躍した蘇武幸志氏がセッターとして名を連ね、練習ではバック陣まで前衛と同じように強烈なスパイクをバキバキ決めている。音的には「ビシ」じゃない、「バキ」って感覚。見た目は凄いパフォーマンスだ。だが・・・「シードなんて関係ない。ここまで来たらオレ達が勝って鼻をあかしてやろうじゃないか」。逆に雑草根性が燃え上がった。

大方の予想を覆して東北リコーが大善戦、決定力は大幅に劣るが、思った以上につないでいる。それよりも気迫で相手に勝っている。取れなくても飛びつき、負けていても声を出しあう・・・勝負は技術だけじゃないってこと。しかし・・・経験値が足りない。ここぞの場面でミスを犯すのは東北リコー、さすが相手は勝負所をわきまえている。・・・負けはしたがあと一歩というところまで追いつめた。
あの強豪がうろたえていた・・・苦しい戦いだったが楽しかった。“楽しむ”とは全力を出し切ってプレーしている状態のことを言うのだろう。いわゆる「ランナーズハイ」みないなものか。
東北リコー 1(26−24、16−21、19−21)2 宮城クラブ

これで狙いは定まった。「次は必ず勝つ!」

◇  ◇  ◇

総合県大会は自信を持って挑んだ。しかし準決勝でNTT宮城の前に敗れ去る。
「不覚というよりも息切れって感じ」
今年度は今までにない激戦が続き、春から夏にかけての調子を維持し続けることができず、全体的に下降線をたどっていた。
そこへ試合巧者との試合。守りの乱れで攻撃力が半減すると、相手コートにボールが落ちなくなる。
完全に自滅、新たな課題が浮き彫りになった。