かなり 実録 バレー部物語

・付き合いバレー

1995年はバレーボール誕生満100年を迎える意義深い年となった。
そして9人制にとっても転機となるか・・・この年、大きなルール改正が行われる。

1.フットボールの反則がなくなった。
2.サーブレシーブ、アタックレシーブとも1回目のプレーが一連の動作ならドリブルにならない。
3.ブロックのワンタッチ後でもブロッカー以外なら2.と同様、ドリブルにならない。
4.ブロックでワンタッチ後、同じプレーヤーが続いてもう1回ボールに触れてもドリブルにならない。
5.プレーする動作が直接的あるいは間接的に行われた場合以外のタッチネットは適応しない。

9人制の関係者は大味になってしまうかも知れないこのルール改正に危機感を抱く。6人制から移行するときは分かりやすくなっただろうが・・・戦法が変わってくる可能性も大いにある。

◇  ◇  ◇

都市対抗、実業団の県予選は危なげない試合運びで圧勝、出足は好調だ。

全日本都市対抗1回戦は北上(岩手)と対戦。全国大会で東北勢と対戦するのは2度目だが、今後国体を目指していくには、まず東北一が条件。どんな大会であろうとも東北勢相手に負けるわけにはいかない。

第1セットは終始リードの余裕な展開、サーブで崩し、レフト門脇の強打で先取。
・・・2回戦の相手は東北電力(福島)、またもや東北勢だ。そんな先を見る気持ちがあったのかも知れない・・・練習試合でも圧倒している相手に第2セットは粘られた。ファーストサーブも入らなくなり、終盤になればなるほど焦りの色を見せる東北リコーはデュースの末、このセットを奪われる。

ファイナルセットも押されっぱなしの状況、相手の猛攻に耐えながら反撃を伺うが、最後まで流れを変える決定打が出ず、まさかの4年連続フルセット初戦敗退という結果に終わった。
斎藤が放つ天井サーブが、ぶつけるのも難しい大阪府立体育会館の高い天井にぶつかり、豪快に自コートエンドライン後方に落ちてきた。何とかしようという気持ちは分からないわけでもないが・・・練習でもやったことのない付け焼き刃プレーで勝てるわけがない。
それだけ追いつめられていたのだろうが、そういう場面で起死回生に結びつく可能性はゼロに等しい。

がっくりと肩を落とす選手たち。「オマエら何考えてんだ!」監督の大沢が上気した顔で叱咤する。勝てるとナメた精神的な甘さがこれで少しは改善されればいいが・・・国体県予選まで時間がない。練習は厳しさを増す。

福島国体へ向け、とにかく絶対に負けられない国体県予選、決勝は中新田クラブとの対戦。雪辱を期しエース門脇が爆発、苦しみながらもストレートで下し、優勝をもぎ取った。

((( Idle Talk )))
国体県予選終了後、体育館のエントランス前での軽いミーティング終了時、試合を全開で飛ばしすぎたか、腹筋をつってしまった選手がいた。
「じゃあねー」たいしたことないだろうと思い、数人の部員は帰宅したが、状況は悪化するばかり、腹、腰、足と発展してしまった。「いでででで!」これで全く動けない状態・・・
あわや救急車を呼ぼうかというところまでいったが、1時間ほど?安静にしてから家が近くの部員に連れられてなんとか帰宅することができた。
もう1試合あったらどうなっていたことか・・・
見捨てて帰ったヤツは誰だ?(笑)

◇  ◇  ◇

全日本実業団(旭川市)での予選はフルセット。勝つには勝ったが相手に合わせるという悪い癖がモロに出た。「妙に余裕がありすぎる。それでいて追いつかれると慌てて自滅する・・・」
決勝トーナメント1回戦は強豪・JT東京だったが、相手に合わせるという点では逆によい方向に展開、フルセットにもつれ込む大激戦となった。
大会No.1の高さを誇る相手レフトの攻撃を凌ぎ、岩渕の巧打、門脇の強打で応戦、一進一退の攻防を繰り広げる。
セッター・遠藤が低い身長ながらも懸命のブロックでレフトの強打を止めるなど、第3セット19−17でリード、大番狂わせを思わせた。しかし、ここから気合いの入った相手レフトの攻撃を止めきれず、最後はサーブで崩されうっちゃられた。
「準優勝チームとこれだけの試合ができるのに、どんなチームにも接戦をしてしまうなあ」
手応えと不安が交錯する。


・恩返し

東北総体は秋田県鹿角市で開催された。
今回は山形国体予選と同じように東北選手権と国体予選が分けて行われる。
「おいおい、位置が違うだけじゃねーか」
東北選手権と国体予選は福島が参加しているかの違いだけで、組み合わせ的には全く同じとなった。

開始式直後の選手権1回戦、秋田(全秋田)との対戦に勝利したが、2セットとも17点まで詰め寄られた。動きがあまりよくない。またまたプレッシャーに襲われたか?
翌日の準決勝、山形(JTクラブ山形)との試合は、ヘビに睨まれたカエルのように手も足も出ず、第2セットに少し粘っただけで完敗に近い内容となった。(決勝はフルセットで福島が山形を下す)
東北リコー 0(9−21、17−21)2 JTクラブ山形

「明日も(この調子で)よろしく」と声をかけられたが、選手権の内容を見れば全盛期の力はなくとも圧倒的に山形有利なのは間違いない。

「気持ちを前向きにしないと、足をすくわれるぞ」この後すぐに国体予選が始まるのだ。
選手権決勝後に行われた国体予選1回戦、全秋田との対戦だったが、前回対戦より内容も良く勝利し、翌日の準決勝で山形と2度目の対戦に挑む。

◇  ◇  ◇

準決勝−。もはや開き直るしかない。勝った負けたは二の次、とにかく今持っている力を出し尽くすことに全力をかける。
第1セット出だし、山形は明らかになめていたようだ。そこへ岩渕の強力サーブが立て続けに決まり、レシーブ陣が乱れたところへ中村の速攻が炸裂、一気に7−0まで引き離した。
「いける!」そう思った矢先、山形の逆襲が始まり、今度は東北リコーのレシーブ陣が揺さぶられる。
そしてサービスエースを決められ7−7、あっという間に貯金を使い果たしてしまった。

ここで大沢から指示が出るかというタイミング、図ったようにFR岡崎とバックの小林がフォーメーションのスイッチを行う。
・・・前夜のミーティング、このままでは勝てないと感じ、「もし、サーブカット若しくは守りが乱れるようなら小林を前に持ってくる。相手にボールが渡ったらバックに下がる」というフォーメーションにすることを確認していた。

サーブカットからのC速攻は使えなくなるが、セミトスなら豊かなジャンプ力で他のスパイカーに引けを取らない攻撃もできる。昨年、FRをこなしていたこともあり、ポジションにそれほど不安はない。とにかく何かを変えて、チームに団結感を出すという目論見もあった。
実はもしものことを考え、大会前にこのフォーメーション練習をしていたのだ。

ここから先は全くの互角、2点差以上は開かない追いつ追われつの大接戦となった。駆けつけた応援団も熱狂、1球ごとにため息と歓声がこだまする。最後の最後までもつれたが、勢いと決定力で僅かに勝る東北リコーが勝負所のラリーを制し、デュースの末、先取! いつもの弱気は感じられない。
「まだまだ、向こうの実力はこんなもんじゃない。締めていくぞ!」

第2セット、東北リコーはサーブカットが乱れても2段トスで挽回し、エース門脇がワンタッチで次々に決めていく。岩渕が苦しい場面で厳しいコースへ絶妙なスパイクを決める。手薄になったライト側で小林、加川が豪快に決める。今は集中力が抜群だ。ますます勢いに乗った東北リコーは山形にミスが出始めたのを見逃さず、怒濤の猛攻でストレート勝ち! 選手の積極的な攻めが勝利を呼んだ。
「やったーっ!!!」応援団からの大声援が響く。「うおお!やったぞ!!」
ついに、ついに公式戦で初めてJTクラブ山形を倒した。OBも目頭を熱くする。
東北リコー 2(25−23、21−18)0 JTクラブ山形

「2度対戦しなかったら勝てなかっただろうな」今回だけはこの組み合わせに感謝?


・サードチャンス

「まだだ!まだだよ!」諭すような声が聞こえる。そう、これはまだ準決勝、ここで満足しては元も子もない。
「国体行けよ!負けたら承知しねぇぞ!」JTクラブ山形の選手からも手荒い激励を受ける。
決勝は・・・全日本都市対抗で敗れた因縁の相手、岩手(北上)。早くも借りを返すチャンスが訪れた。モチベーションを高めるには十分だ。
北上も当然山形が出てくることを予想していたに違いない。しかしこれは逆にうれしい誤算、全日本都市対抗で勝っているだけに気合いが入るだろう。
どちらにとっても勝てそうな相手、勝てばもちろん両者とも国体初出場、負けたくない、負けられない戦いが始まる!

第1セットは準決勝の勢いそのままに、東北リコーが走る。リードしたときの強さはただ者ではない。岩渕、門脇、中村、小林のジャンプサーブは好調、単調になった相手にブロックとコンビで圧倒し先取する。もっと楽に展開できそうな内容だったが、向こうも簡単には諦めない気迫が感じられる。
あと1セット・・・このまま押し切れるか?

第2セットは好調だったファーストサーブがぱったりと入らなくなり、苦戦を強いられる。
弱いセカンドサーブをしっかりとコンビで展開する北上は東北リコーのブロック陣を振ると、レフトが決め出し、リードを奪う。勝利へのプレッシャーか?徐々にリズムが狂い始める東北リコーは大事なところで記録に残らないパスミスやトスミスを犯し、波に乗り損ねてこのセットを落としてしまう。

「都市対抗と同じパターンだ」暗雲立ちこめるようなこの雰囲気を打開できるか?
「いいか!集中だ! まずはサーブカットだ。サーブも強気で行け! レフトのブロックのタイミングが・・・」もはや勝利はどちらに転ぶか分からない。精神状態は大丈夫か?体は動くか?指示は聞こえているか?

運命の第3セット、独特の雰囲気の中、硬くなったのは北上の方だった。凡ミスに付け込み序盤をリード、これで少し余裕が生まれた。
リズムを取り戻した東北リコーは門脇にボールを集め、逃げ切りを図る。挽回しようと北上もレフトに回し、反撃に転ずる。
こういう切羽詰まったときこそ今までの経験が生きるものだ。簡単には引き離せないが、冷静に軟硬織り交ぜた攻撃で相手守備陣をかく乱、単調になったところをブロックで封じ、一気に攻めまくる。

そしてついに・・・・・  ゲームセット! 悲願の国体出場を決めた瞬間だ。全員がガッツポーズ、喜びは頂点に達した。
狂喜乱舞の応援団! 歓喜の声が当分の間、絶えることはなかった。
抱き合い、ガッチリと握手を交わす選手たち。宮城県勢として37年ぶりの国体、待ちに待った国内最大のスポーツイベントにいよいよ挑戦だ!

東北大会優勝チーム一覧

((( Idle Talk )))
この年、宮城国体へ向けてのバレーボール全種別の監督会議が開催された。
東北高校、古川商高、NTT東北、東北福祉大クラブ・・・全国で名を馳せたチームの監督が一堂に会す中、何の実績もない東北リコーは肩身の狭い思いをした。 「圧倒された。一言も話せなかった」。しかし華やかな宮城県バレー界で9人制だけカヤの外でいるわけにはいかない。「必ずや肩を並べてみせる」。
「それにしても、国分監督(古川商)は威厳があるというか、後光が差していたね・・・(^^; 」