かなり 実録 バレー部物語

・経験値を上げろ

3月、沖縄で開催される強化リーグ、“おきぎんカップ”に初出場する。全国上位に名を連ねるトップグループのゲームに敢然と立ち向かい、5勝5敗で6チーム中3位に入る。
しかも非公式とはいえ住友電工に勝てたのは大きな収穫であった。(優勝は北陸電力)

都市対抗、実業団の県予選は、相手チームにほとんど試合をさせない展開で優勝。「目指す物が違う。ここでモタモタしてられない」
レフト側はFL今野にHL門脇、そしてライト側にFR鈴木、HR岡本と2枚の左利きスパイカーが揃い、理想的なフォーメーションとなった。しかも今野、鈴木は190cm以上の長身を誇り、速攻とブロックに威力を発揮する。ここにHC佐々木が左右に絡んでより決定力を増し、更にBR江口も時には時間差に参加するなど、超攻撃的布陣に生まれ変わった。

新人も入ったことで多少のミスは承知、連続失点のリスクを背負った戦いになる。そのミスを見込み、なんとか2〜3点リードで終盤を迎えたい。以前から先行逃げ切りが勝ちパターンではあったが今年もその傾向は強そうだ。

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全日本都市対抗
都市対抗開会式。=大阪府立体育会館
迎えた全日本都市対抗、やはり同一会場に男女が揃うと壮観だ。試合は中部電力岡崎、造幣局、旭化成水島に対して10点、12点、10点、5点、11点、9点と圧倒し、そして準々決勝、相手は第2シード・富士通だ。

一進一退の攻防ながら昨日からの調子を持続し、いい流れで17−16、終盤を迎える。ところが18−17で佐々木の相手ブロックアウトを誘ったはずのスパイクが「ノータッチ」の判定。
全員の抗議もむなしく、これで調子が狂ったのは若さゆえか。集中力が切れたところを付け込まれ、シャットアウトとサービスエース等で連続得点されてしまい、第1セットを奪われた。

気を取り直して挑む第2セットも互角の展開で11−10。しかしそれ以上のリードを取ることができない。
中盤に相手サービスエースで11−13、ついに逆転を許す。ここからが正念場、ブロックで追いすがるが、フェイントと連続サービスエースで12−16、4点の差を付けられた。
タイムアウトも効果無し、コンビミスのあとにシャットアウトを食らい、ダブルフォルトにまたしても相手のサービスエース等、あっという間に離され結局14−21、雪辱の夢は潰えた。

パスの正確さ、ファーストサーブのイン率、ブロックの読み、終盤の集中力、スパイクのパワーとリバウンドの使いどころ・・・プレーの完成度が違う。
「まともに行きすぎたかな・・・」岡本がつぶやく。初めて富士通と対戦した新人には大きな収穫になったか。その目は既に次を見ているようだ。

国体県予選は順調に優勝、反省点を生かして暑い暑い群馬に乗り込む。

((( Idle Talk )))
この年、バレー部後援会が発足した。社内公募で多くの方々に会員としてサポートしてもらった。第1回入会記念として上質のオリジナルTシャツを無料配布、会費に比較して高価なグッズになってしまったが、国体本番にこのTシャツで応援してもらいたいという願いがあった。そして12月には自社製品で印刷した会報も発刊された。

その会報の中にある、会長・白幡の言葉。「以前、優勝するためには、1(素質)×1(練習)×1(指導)だとお話致しました。1は一流の意味です。考えてみれば一つ欠けておりました。×1(応援)になるよう、後援会員一同、物心両面の応援をしていきますので、期待していて下さい。一緒に優勝の美酒を飲みましょう」

意味がお分かりだろうか? 一流は1×1×1=1、二流は2×2×2=8。つまり一流と二流、数字はひとつしか違わなくても、その差は1対8程の開きがあるということなのだ。更に応援が1流となれば、大きなアドバンテージにもなる。
国体まで。そして国体が終わった後。強化チームでなくなった時に後援会の意義が更にクローズアップされる。


・再会の実業団

全日本実業団は前橋市で行われたが、今回は嬉しい出来事が。以前、交流会で切磋琢磨していたリコー厚木が実業団初出場を果たしたのだ。いつぞや交わした“全国大会で会おう”がついに実現、今回はOB中心での懇親会も予定している。

予選グループ戦、東北リコーは日本化薬(山口)と対戦。少々雑な展開ではあったが岡本のサーブと佐々木の強打で効果的にリードして早々と予選突破、一部の選手とスタッフ、OBは厚木の応援に回る。

リコー厚木の予選相手は松下電器静岡。初出場の緊張か、全く調子が出ずに12点で第1セットを落とす。いつしか持っているメガホンから音が出なくなっていた。「オレ達がシンとしててどうする!もっと声出していくぞ!!」。観客席のある一部だけが猛烈に盛り上がっている全く異様な光景となった。
他のギャラリーがあっけにとられる中で大声援が響く。その甲斐があり、なんと各上相手にフルセットの逆転勝ちで見事予選を突破した。叩き続けたメガホンは壊れ、「これじゃ東北リコーの応援ができないよ」

モチベーションとか集中力とかをよく耳にする。応援とはその精神的部分に強く作用する大事なファクターなのだ。もちろん宮城国体でも・・・声援、しかも耳をつんざくような相手を圧倒する応援の必要性を改めて強く感じた一戦であった。

切磋琢磨した選手時代を懐かしみながらの懇親会中にTELが入る・・・決勝トーナメントの相手は・・・「まつしたァ!?」 何という巡り合わせ、リコー厚木の初戦はまたしても松下電器静岡に決まった。「会場も違うし今度は応援できないけど、頑張ってくれ」昔話に花が咲くと共に必勝を誓い合った。

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気温37度という猛暑の中、決勝トーナメントは順調に2回戦を突破し3回戦を迎える。リコー厚木は健闘むなしく初戦敗退という連絡が入った。そして東北リコーも3回戦の相手は予選で下した日本化薬との再戦、なにか悪い予感が・・・

試合は連続失点を許し、今大会初めて追う展開となった。やはり相手は予選の時とは違って修正してきており、相手エースに対し切り返しがままならない。中盤、好調のサーブが決まりだし14−14と追いついたが粘る相手に苦戦の連続、辛くも逃げ切り第1セット先取。

第2セットも互角の展開ながら15−14から抜けだし、手こずっていた相手エースをついにシャットアウトしてベスト8進出を果たした。見た目に出来は悪い。はたして最終日は大丈夫か。「応援して下さった皆さんやリコー厚木の分までがんばり、勝ちたい」。決意新たに立ち向かう。


・激戦!最終日

準々決勝は第3シード横河電機戦、前日までの苦戦がウソのように快調に飛ばす。前日までの体育館は息苦しくてとても暑かった。メイン会場は冷房完備、これで地力が発揮できたというのは早計か・・・
波状攻撃で一気に11−3、相手のやる気を削いでダブルスコアで先取してしまった。

第2セットはシードの意地を見せ、横河電機がブロックとサーブで4−9とする。通常ならフルセット覚悟なのだが、ここからじりじりと追い上げ、佐々木、今野のスパイクでついに17タイにした。
ここから息詰まるような展開、デュースから相手スパイクミスで24−23とマッチポイントを握れば、今度はこっちがダブルフォルトの痛いミス。
しかし相手もまた痛恨のダブルフォルトを犯し、ここで佐々木がブロックを決めて2年連続の準決勝進出を決めた。シード勢相手に完勝、次も期待できそうだ。

全日本実業団
対富士通戦、激戦を演じる。=ぐんまアリーナ
準決勝は都市対抗で苦杯をなめた富士通。公式戦6連敗で未だ1セットさえ奪ったことのない相手にどう挑むのか。
3−6から鈴木の速攻と門脇の強打で同点に追いつくと、8−8から佐々木の3連続スパイクで一歩リード。中盤でピンチサーバー中村がサービスポイント15−10、流れは完全に東北リコーとなった。そのあとも攻撃の手は緩めず、今までの連敗がウソのように押し切ってしまった。
「おいおい〜、凄いよ! このまま行けよ!」「相手は百戦錬磨、必ず盛り返してくるはず。そこをどう凌ぐか見物だ」。いつもは手厳しい応援団からも堂々と振る舞う選手達に大きな期待を寄せる。それほどまでに今日の東北リコーは強い。

相手に油断もあっただろう。新人のプレーに対応が遅れたのかも知れない。第2セットも東北リコーペース、8−8から鈴木のサーブで12−8とリード。いけるか?
ここで富士通は1番サーバーに回ってきたところで持ち前の集中力を発揮、サービスエース、東北リコーのタッチネットミス、レフトスパイク、サービスエースと決められ13−15と逆転。
これでリズムをつかんだ富士通は多彩な攻めで得点を重ねる。緊張の糸が切れたように東北リコーは連続失点が続き、勝負は第3セットに持ち込まれた。

ファイナルセット、流れを変えたい東北リコーはセンターから攻めるがミスも連発して波に乗れない。ブロックされて4−8、スパイクミスも出て5点差。もはやこれまでか・・・
しかし工藤のサービスエースで流れは徐々に東北リコーへ。富士通が速攻、レフトスパイクを決めれば、東北リコーは佐々木にボールを集めて反撃、一進一退の攻防が続く。
決めはするが東北リコーはオーバーネットやダブルフォルトでチャンスを逸し追いつけない。ついに18−20、マッチポイントを握られる。

佐々木が決めて1回目のマッチポイントは逃れた。しかしラリーポイント制、まだマッチポイントに変わりはない。サーバーは・・・いつもピンチサーバーとチェンジする今野がそのままセット。すでに中盤でサーバーチェンジをしていたため、もう交代できなかったのだ。

しかし万事休すと思われたこの場面、相手に信じられないようなコンビミスが出て同点に追いついた。「らしくない。いけるぞ!」
岡本のフェイントでついに逆転、しかし相手も切り返して同点にすると、第2セットで手痛いエースを決められた1番サーバーに回ってきた。またまた窮地に立たされる東北リコー、もはやベンチ、応援団は祈るのみ・・・

ところがここでダブルフォルト、助かった東北リコーが再度マッチポイント。何度も与えられたチャンス、今度こそ逃げ切りたいところ・・・だがこれを生かし切れない。この大事な場面でオーバーネット! 「ああ〜っ!」度々犯していたミスをこんなところで・・・ため息と落胆、そのまま押し切られ勝利の2文字は手元からするりと抜けていった。

実に白熱した試合ではあったが、あと1歩が・・・それでも今まで歯が立たなかった相手に十分健闘、手応えを掴んだに違いない。千載一遇だったと言われないためにも気持ちを切り替え、「次こそ必ず!」

  宮城国体まで、あと446日−