かなり 実録 バレー部物語

・心のスキ

東北総体は秋田県横手市で行われた。部員も応援団も心の奥には楽勝という2文字が潜んでいたのかも知れない。予選からどうも淡泊というか細かいミスが多く見受けられる。選手自身もフルセット覚悟という追いつめられた場面があった。それでもストレート勝ちというのは東北王者の貫禄と言えるのか・・・

決勝は福島(東北電力)との対戦になった。第1セットは効果的なサービスエースが出て完勝となったが、第2セットは粘られて15−16から15−18とされてしまう。特に軽く打ってくるスパイクへのブロックやフォローが対処できていない。追い上げたが終盤のダブルフォルトで流れを掴みきれずフルセットにもつれ込んだ。

「来年の本番を控えて、もし行けないなんてことになったら、非常にマイナスだ」応援団もまさかの展開にざわつき、色めき立つ。しかし選手は以外と冷静、中盤に3ポイント抜け出したところで第2セット終盤にダブった遠藤が汚名返上の3連続サービスエース! つなぎのプレーは雑だったが、負けられない気持ちと全国上位の自信と経験が相手を上回り、なんとか富山国体出場権を獲得した。
油断はしていないと思っていても、どこかに付け込まれるスキがあるのだろう。また一つ教訓になった。

9月初めの日本産業人東北予選は宮城国体のリハーサル大会として志津川で開催され、大沢が視察を行った。
「地元、県協会や競技補助員(中学、高校生)が一所懸命で、“東北リコーには是非優勝してもらいたい”と、いろんな人から声も掛けられ、うれしかった。なんとか期待に応えたい」
「レセプションに参加して私の紹介と決意表明があり、“来年ここ志津川での優勝をお約束します”と、酔った勢いで言ってしまった(苦笑)」
「3ボール制は本番でも採用され、慣れが必要。合宿では地元の高校生が応援でボールキーパーしてくれることになった」
「地元協会長からバレー教室の依頼があり承諾。その生徒たちが本番で補助員やモッパ−、線審、点示をするので、地元優位の環境を作るのも大事と思った」

総合県予選を優勝、富山国体の組み合わせも決まった。準々決勝を勝ち抜き、今度こそ富士通を倒す!その思い通じるか。

((( Idle Talk )))
大沢も視察、男子部員数名も応援した日本産業人大会東北予選会で、東北リコー女子が優勝した。今大会は宮城国体のリハーサル大会となり、以前、男子が国体出場前に女子が東四国国体リハーサル大会を体験したのに続き、ここでも女子は男子より早く地元国体を経験したことになる。

「国体なんて一生出れないと思うと、雰囲気だけでも味わえて凄くいい経験させてもらっちゃいました。歓迎のセレモニーで、地元の和太鼓が披露されて、超感激! しかし国体は待遇いいですよね。1チームにちゃんと引率者が付き、至れり尽くせりで、とにかく驚くばかり。国体に出てる男子って、ちょっと羨ましかった、、、、けどその分、背負ってるプレッシャーはとてつもないんだろうけど・・・男子には是非優勝してもらいたいです」と、ある女子選手。
「今、女子が半分コート使っちゃってて、男子にとても申し訳なく思っていますけど・・・」

しかし新人の確保もままならず、結婚、出産など選手寿命の短い女子はチーム維持が非常に難しく(今大会の選手登録は9名のみ)、男子強化の要因もあるが今年度をもって休部扱いとなった。
10月、岩手県一関市で開催された全国大会が最後の試合となる。都合によりコーチが監督代行、優勝チームと対戦するなど予選敗退ではあったが、最後まで気合いで戦い抜いたチームスピリットは男子に受け継がれるはずだ。

- 予選グループ戦 -
東北リコー 0(12−21、11−21)2 福岡東芝
- 敗者復活戦 -
東北リコー 0(12−21、18−21)2 日立金属熊谷

監督 吉野 透
コーチ 佐藤 康雄
10 FL 岩渕 公江
FC 柳村 好美
FR 森 美知子
HL 小出 あゆみ
HC 奥山 有紀
HR 佐藤 亜由美
11 BL 渡辺 志穂
BC 村上 つぐみ
BR 加藤 真理

「あんな試合になってしまって・・・自分たちもこういう形で終る予定じゃないと思ってたんですけど・・・やっぱり練習不足ですかね」(柳村)
「バレー人生終わったんだなーって思ったら、なんだか泣けてきちゃいました。あの日の夜は、やけ酒です」(森)
「応援している方へ“勝ったよ!”の一言が言いたかった。でもこの戦力で優勝チームとあれだけ戦え、いい思い出ができました。男子、頑張ってほしいですね」(岩渕)


・夢のせて・・・富山国体!

富山国体の9人制男子バレーボール競技は朝日町で行われた。準々決勝の相手は高知県(選抜)、宮城国体翌年の開催地・高知県の強化チームだ。
試合はほとんどが東北リコーペース。強力サーブで崩し、チャンスボールをコンビで決める展開に持ち込めば万全だ。2年連続5位だっただけに、今回は勝つという意気込みが違う。特に編成されたばかりの強化チームに負けるわけにはいかない。
結果、ストレートの快勝で初の準決勝進出、そしてその相手は兵庫県(富士通)、都市対抗、実業団のリベンジに燃える!

富山国体
恥じることない第3位。=朝日町文化体育センター
第1セット出だし、いきなりサービスエースを取られ出鼻を挫かれてしまう。結果的にはこれが大きかった。東北リコーが点差を詰めようとしても、またサービスエースを決められ波に乗れない。これほどまでにサーブでやられたゲームは、ここ最近はなかった。全くの完敗、いや惨敗、ストレート負けで返り討ちにあってしまった。
「今日の試合、何もしてないな」
相手からそう言われるような試合をしてしまった事が何よりも悔しい。不完全燃焼の思いが襲う。

「勝って帰ろう!」気持ちを入れ替えて臨む3位、4位決定戦は岡山県(選抜)との対戦となった。
持ち前のコンビが復活、ということはサーブカットも安定しているということ。あのサーブ(富士通)の後ならより優しく見えたかも知れない。相手の高いブロックを翻弄し、第2セットはダブルスコアに抑えて見事ストレートで下し3位を確保した。

((( Idle Talk )))
地元富山への応援は凄かったが、宮城も負けてはいなかった。地元の応援団を率い、鈴木をリーダーとした東北リコーのギャラリー組の応援は、準決勝までを一番盛り上げていた。

会場には応援掲示板があって、来場者が付箋に一言書いて貼ったり、メールの内容も掲示されていた。その中に「江口 鳥の巣」と書かれたメッセージがあり、部員一同大爆笑となった。その他にも変なメッセージがあり、「ぜんぜん応援になってないじゃん(笑)」
この掲示板へのメッセージも地元富山に負けないくらい多く、これも来年の本番への期待の表れだろう。

◇  ◇  ◇

決勝戦は富山県(北陸電力)が兵庫県(富士通)をフルセットで破り、大阪国体以来の地元優勝、近畿勢以外の優勝は久しぶりだ。
「スゴイ。地元優勝とはこんなにもスゴイのか」その瞬間を目の当たりにして部員の心中によぎるものとは・・・

今回はOBも応援の視察に訪れて、その応援ぶりをチェックしていた。
富山は応援団結成後、練習を重ねた様子でかなりの迫力があり、独自のトレーナーで統一、北陸電力である事が目立っていた。応援のやり方を十分に工夫し、高齢者の活性化、学校の授業の一環に組み込む等、今までの国体には見られなかった試みを行っており、町を上げて国体の成功に向けた姿勢が伺える。
まさに決勝戦は選手と応援団の一体感で優勝を勝ち取ったと言っても過言ではなかった。
「あと1年、これからが本当の頑張りどころだ」

その夜、スタッフ、一部の選手は、富士通の部員と酒を酌み交わす機会に恵まれた。そこで聞いた練習に取り組む気持ち、意識の持ち方の違い・・・今の東北リコーとはレベルが違っていた。
簡単に言えば“9人制を背負って立つ”という意気込み。こういう意識の高さに驚かされた。
「このままでは勝てない。と、誰もが感じたと思うし、目が覚めたというような、変わるきっかけを与えてもらったようにも思う」

  宮城国体まで、あと360日−


・強化は1日にして成らず

県予選を突破して迎えた全日本総合は長野県大町市で開催された。予選グループ戦、福岡東芝(福岡)のサーブと両サイドの攻撃に苦しんだが徐々に持ち味を発揮、後半は完全に東北リコーのペースとなり決勝トーナメント進出を決めた。

そして抽選。東北リコー、2番!「なにーっ!」2回戦で第1シード・住友電工と早くもぶつかる組み合わせとなった。しかしこれはチャンスでもある。出だしが肝心、「相手は初戦、波に乗る前に叩くぞ」。気落ちはない。虎視眈々と番狂わせを狙う。

決勝トーナメント1回戦を快勝し、迎えた住友電工戦、果敢に挑む東北リコーはサーブとブロックでリードを奪う狙い通りの展開に持ち込む。しかし、中盤から相手のサービスエース等で17−17と追いつかれると、この大事なところで持ち前の?ミスが出て第1セットを奪われた。
第2セットは序盤の5連続失点が最後まで響き、一方的な展開となってしまった。結局ストレート負け、2回戦で早々と姿を消した。この点数差が現実、しっかり反省して次につなげることが大事だ。


・自信と過信

櫻田記念
リズムに乗れば敵はない。=岸和田市総合体育館
櫻田記念は大阪府岸和田市で開催された。予選リーグ初戦は今季3度目の対戦となる日本化薬、序盤からリードされる苦しい展開ながらシーソーで切り抜け、僅かな隙を突き逆転して先取。第2セットは5点リードするもののミスも重なり追い上げられ、20−18から同点にされてしまった。アゲインを何度も繰り返しなんと28−28まで両者一歩も引かない好ゲーム。しかし最後まで集中力を切らさなかった東北リコーが連続ポイントでなんとかストレートで下す。

2戦目は住友電工、早くもリベンジの場がやってきた。
第1セット、序盤は東北リコーのサービスエースと住友電工のダブルフォルトで6−2までリード、しかしミスが続き7−7と同点にされる。中盤は逆転され2点を追いかけながらのシーソーゲーム。リードされても闘争心を失わなかった東北リコーは速攻・時間差に相手のミスも絡み18−17と逆転に成功。その後もブロックと速攻で引き離して先取、先の後遺症はなさそうだ。

第2セット、出だしからダブルフォルトでリズムを崩し防戦一方の東北リコー、4−12と8点差まで拡げられ非常に厳しい情況となった。
しかし相手が気を緩めたのか、ブロック、フェイントが住友電工のコートへ落ちはじめ、さらにネットプレーのミスが重なり、気付けば13−17と4点差まで詰め寄る。
リズムに乗った東北リコーはブロックとフェイントを決めてついに19−19の同点! ここで止まらず、更にフェイントとスパイクで大逆転! ストレート勝ちを納めた。

ついに2強の一角を崩した。この1勝は大きい。諦めずに戦えば希望が開けるということと、いかに強くても一瞬の気の緩みが致命傷となるということを教えられた。
2年連続ブロック1位で上位トーナメントへ。初戦はブロック1位、2位対決のフリー抽選なのだが・・・・・翌日の対戦相手はブロック2位の・・・・「すみでん!!??」
初戦は住友電工に決まった。「今年は再戦が多いなあ」 強敵相手に連勝は厳しい。果たしてもう一度歓喜を呼ぶことができるか?

第1セットは勢いそのままに東北リコーが先取。何をやってもはまるとうい最高の状態だ。第2セットも快調、18−11と大量リードで終盤を迎えた。イケる− 誰もがそう思っても不思議ではなかった。
しかしリズムというのは分からないものだ。突然狂いだし、何をしても噛み合わず、住友電工の連続ポイントが続く。厳しく言えば慢心、過信となってしまうのか・・・
大沢の脳裏にあの逆転負けが一瞬よぎる。地元宮城で松下静岡に18−9からひっくり返されたことを−。

かろうじて20−19とした後、岡本のスパイクが決まったと思った瞬間、ホイッスルが鳴っていた。隣りのコートからボールが入ったとしてノーカウントのジャッジという不運。
「うそ〜っ!!」猛然の抗議も覆るはずもない。これで切れてしまった。このまま1ポイントも奪えずに第2セットを落とすと、ファイナルセットはわずか8点、手痛いしっぺ返しをされてしまった。3セット目の点数が何とも情けない。

◇  ◇  ◇

今季、負けたのは富士通と住友電工だけとなった。住友電工相手に2度勝つというのは至難の業ではあったが、第2セットで押し切れなかったところは今後の課題。しかし少なからず自信にもなったし、来年につながる試合をしたことに間違いはない。

もういくつ寝ると新世紀、いよいよ勝負の年を迎える。