かなり 実録 バレー部物語

・出陣、準々決勝

10月13日、ついに新世紀・宮城国体が開幕した。2002年ワールドカップサッカー会場にもなる宮城スタジアムで開会式は行われた。アクセスの悪さでは定評のある宮スタではあるが、周りを完全封鎖、無料シャトルバス運行により特に混乱もなかったようだ。

東北リコーは準々決勝からの登場なので、実際は15日からの試合となるが、雰囲気は高まってきた。志津川で最終調整を行う。
バレーボール競技は少年では常勝・古川商業(女子)に打倒・深谷に燃える東北高(男子)、成年6人制はクラブカップ優勝で波に乗る東北福祉大クラブ(女子)にV1リーグで活躍するNTT東日本宮城(男子)、9人制はクラブカップ2年連続準優勝で安定感のある白謙クラブ(女子)と昨年国体3位、実績はなくても一気の爆発力で頂点目指す東北リコー(男子)が出場する。個々のチームはもちろん、競技別の総合優勝も狙う。

14日、志津川ベイサイドアリーナで開始式と1回戦が行われた。「ここまで来たら、早く終わって欲しいっていうのが実感かな」大沢の本音が伺える。
会場は予想以上の観客、超満員だ。堂々の入場行進、身が引き締まる。そして1回戦、地域応援団も凄い。軽く100人弱位はいるか?大漁旗を振り回しての大声援がこだまする。敵地でのこの声援は励みになることだろう。「凄い。こんな応援見たことないよ。東北リコーの応援より多くなるんじゃないか?」その熱心さと大人数は今までの国体でも経験がない。とにかく驚かされた。

◇  ◇  ◇

15日、待ちに待った対戦の日がやってきた。準々決勝は津山町若者総合体育館で行われる。
第1試合は優勝候補筆頭の兵庫県(富士通)対沖縄県(中部徳洲会病院)。「俺たちとの練習試合の時より数段うまい」中部徳洲会の素晴らしい粘りの前になんと富士通が完敗するという波乱。試合というのは本当に何が起きるか分からない・・・

宮城国体
対香川戦、岩渕の一打が勢いを生んだ。=津山町若者総合体育館
そして第4試合、宮城県(東北リコー)対香川県(香川クラブ)の時が来た。と、練習を見ている他チームからざわめきが。「8番(佐々木)、速攻打ってるぞ?」 そう、全国大会では初めてのお披露目となる佐々木センター、江口ハーフセンターのコンビ。相手にとっては突然のフォーメーション変更で対策が急務となるだろう。新コンビネーションが全国で通用するか、不安と期待の中でホイッスルが鳴る!

今大会を占う意味でも非常に大事な第1セット出だし。しかし岩渕がいきなり連続サービスエースを決め、一気に波に乗る。江口の強打と佐々木のブロックで8−4とリード、その後も佐々木、工藤、門脇とサービスエースを連発して第1セット先取。
第2セット前半はコンビで7−4とリードしたが、香川クラブはここから猛反撃、速攻をブロックされ連続サービスエースも決められ、あっという間に7−10と逆転された。
しかし相手がミスを連発する間に門脇にボールを集めて追いつくと、江口の時間差と門脇の強打で逃げ切りストレート勝ち、準決勝進出を決める。
どこの会場も宮城県勢は好スタートと思いきや、成年女子6人制が連敗でまさかの7位という結果。一歩間違えばこういうこともあり得るのだ。


・その先へ!準決勝!

16日は準決勝。ここからは志津川ベイサイドアリーナで行われる。第1試合は試合巧者同士の沖縄県(中部徳洲会病院)対富山県(北陸電力)だったが中部徳洲会がフルセットで下し、地元沖縄国体以来の決勝進出を果たす。

宮城国体
対東京戦、力と力の激突!=志津川ベイサイドアリーナ
第2試合は宮城県(東北リコー)対東京都(JT東京)の対決となり、これもフルセットにもつれ込む大接戦となった。
第1セットは序盤のリードからシーソーゲーム、長いラリーを門脇のスパイクで制し13−8とすると、江口の時間差が面白いように決まって先取した。第2セットもブロックと岩渕のサービスエースでリードを奪うが、後がないJT東京は時間差とフェイントで16−16、更に終盤で東北リコーのカットミスとスパイクミスが響きセットオールになってしまった。

「みやぎ、ボンバーイェ〜!!」大応援団が必死の声援を送る。ここで騒がなきゃ意味がない!
第3セット開始早々その声援に応え、佐々木が1枚で相手速攻を値千金のシャットアウト! 岡本の強打、鈴木のC、佐々木のダイレクト、工藤のサービスエース・・・堰を切ったように相手コートにボールが突き刺さる。11−4でコートチェンジをしても相手必死のスパイクを遠藤が好レシーブ、サーブカットも半澤、岩渕がミスなく返球し、冴える工藤のトスワークから最後は江口が中央から決めてJT東京をひとケタに押さえ込んで初の決勝進出を果たした。
全日本実業団優勝チーム相手に完璧な内容、絶好調と言ってもいい。

決勝の相手はまさか・・・いや、もしかすると対戦するかもしれないと思っていたクラブカップ覇者の中部徳洲会病院。宿舎でのミーティング、「ここまで来て、とやかく言うことはない。やれることはやった、後は持てる力を出し切るだけだ」。大沢の檄が飛ぶ。練習試合をした甲斐があった。選手には相手の特徴を体と頭で覚える時間に恵まれた。いよいよ最後の決戦を迎える。


・羽ばたけ!!日本一を目指して!!

17日、まず初めに女子決勝が行われた。残念ながら宮城県(白謙クラブ)は準優勝に終わったが素晴らしい戦いに男子への期待が膨らむ。

一昨日、昨日、そしてこの日も朝早く会社から出発した応援団が駆けつける。仕事後回しで全社を挙げての応援に感謝。
種目別総合優勝は既に宮城県が獲得していたが、ここまでNTTは4位、優勝候補と言われた古川商は3位、東北も無念の準優勝、東北リコーが最後の砦となった。一世一代の大舞台、今こそ無冠返上の時、関係者の願いを背負い東北リコーが頂点に挑む。

宮城国体
対沖縄戦、鮮やかな工藤のトスワーク。=志津川ベイサイドアリーナ
試合はまず豪打東北リコー対粘りの中部徳洲会病院という互いの持ち味を発揮した戦いとなった。工藤のサービスエースで抜け出すと、更にチャンスから鈴木のCで8−4のダブルスコアまで引き離す。
しかしここから相手は東北リコーのミスに乗じ、追い上げを見せる。そしてサービスエースを取られ、ついに14タイとなってしまった。

「がんばれ宮城!」斎藤を筆頭に一糸乱れぬ応援、コートに立てなかった部員は法被を纏い、メガホンをかざしてリードする。会場は割れんばかりの大歓声で揺れた。
見応えのある一進一退の攻防が続いたが江口の強打で18−16と一歩リード、ここから相手の攻撃を巧みにつなぎ、更に江口のスパイクが決まって20−17、最後も江口の時間差でセット先取した。

チェンジコート、宮城への応援は止まることがない。この日のために編集した曲が鳴り響く中、息を整える。できるならあと1セット、21点で決めたい。

第2セットも岡本のフェイントで序盤2−0とリード。強打だけではない、軟硬織り交ぜた攻撃と執拗なブロック、安定したサーブカットに粘り強いつなぎ、正確なトス・・・全てが良い方向に回転しているように思われた。

ブロックの応酬で5−4、ここから1点を争う好ゲームに会場は興奮のるつぼ、「いけいけ宮城! おせおせ宮城!」の大合唱だ。
8−7から江口の強打、相手をブロック、岡本、門脇両サイドが決めて一気に抜け出すと、工藤のサービスエース、相手ミスで15−9、その瞬間は近づいてきた。

いままで勝ちゲームを幾度となく逆転されてきた。選手には余裕とか見下す様子は全くない。ただ、全員の楽しそうな表情とハツラツとした動きが目立っていた。
エース門脇が決めれば、中央から江口が突破する。そして佐々木のダイレクトスパイクが豪快に炸裂して19−13、門脇の強打で20−14とついにマッチポイント。

徳洲会は最後の反撃、ライトからのクロスで16点目を奪う。「一本上げてこー!」「がんばれー!」「ゆっくり、あと一本!」「集中ー!」「攻めるぞ!」・・・選手、スタッフ、そして会場から大きな掛け声がひっきりなしに飛び交う。

そしてラストプレー。半澤のオーバーカット! 工藤のトスアップ! 佐々木の速攻の裏から江口の時間差! 振り抜いたボールは相手の腕を弾き、エンドライン遙か後方へ飛んでいった・・・

「やったーッ!!!」 東北リコー悲願の全国初制覇の瞬間だ! 選手はコートを走り回り、大沢は拳を握りしめ、大きくガッツポーズ、ベンチに控えていた佐藤は全員のタオルを思い切り高く投げつけた。
部長の平塚、監督の大沢が何度も宙に舞う・・・宮城国体スローガン、“いいね!その汗、その笑顔”の通り、皆が満面の笑みで祝福している。客席からの拍手は鳴りやまない。9人制として宮城県初、この歴史的勝利に体育館はいつまでも興奮が冷めることは無かった・・・おめでとう、日本一!


・感激のエピローグ

宿舎に戻り、もうひとつの念願を果たす。それはビールかけ!
「ゆうしょおー!!」 駐車場を借りて盛大に行われたが、500本用意したビールは僅か15分足らずで無くなってしまった。
「とにかく嬉しい!」「ここまで長かった・・・疲れたよ」「信じられない。本当に優勝したんだよな?」・・・様々な思い。たったこの一瞬のためにしてきたことは長く、辛かった・・・しかし何物にも代え難い。
天候は曇り、濡れた体にはかなり寒く感じられた。が、その顔は充実した表情に溢れていた。

◇  ◇  ◇

その週末、優勝祝賀会が催された。「大変厳しい環境の中、会社として感謝している。この経験を生かし、仕事にスポーツに頑張って欲しい」と杉田社長から祝辞をいただく。

「縁の下の力持ちになってくれた控えの部員達がいなければ、優勝はできなかっただろう。彼らこそ日本一と言える」。大沢は国体に出場できなかったが万全の体制でサポートしてくれた部員に讃辞を送る。「今思えばMVPは(腰痛で離脱した)今野かな?(苦笑)」
「オレがハーフセンだから負けたとは言われたくなかった。とにかく上がったボールは全部決めるつもりでいた」と、大車輪の活躍だった江口は言う。「もちろん、このポジションは渡しませんよ」

大黒柱の門脇は「東北リコーという会社に感謝したい。よくここまでやってきたなあという感じだけど、自分自身まだ実感は湧きません」と、それ以外の選手も“実感がない”という言葉が多く口に出た。確かに今考えると、夏場のアノ状態からはとても想像できなかったことではないだろうか。
そして主将の工藤、「これで終わるつもりはなく、マグレと言われないために、常勝チームとして名を轟かせられるよう頑張っていく」と堂々の発言、早くも新たなる戦いが幕を開ける。
しかし今は、今だけは、明日を忘れて浮かれ騒いでも許してほしい。