かなり 実録 バレー部物語

・波乱含み

全日本総合
今野の速攻、地元勢の活躍が光る。=山形市総合スポーツセンター
全日本総合は山形市で開催された。東北リコーには山形県出身者が多くいることから、準地元としての活躍に期待できる。最悪の負け方をした昨年の総合の雪辱と埼玉国体からの巻き返しなるか・・・
予選をストレート勝ちしてのトーナメント抽選会、「たまには選手に引いてもらおう」ということで抜擢されたのが川村。そして運命のドロー、目に飛び込んだのは“5”の数字。第1シード・住友電工が“1”だから、早々の3回戦で強豪と対戦することが決定した。会場がざわめき、川村はうつろな表情。まあ決まったからには、やるしかないのだが。

住友電工といってもその前にサンデン(群馬)との2回戦があり、油断は禁物。案の定、“次は住電”という意識が先に行ってしまったか、第1セットは10−14の劣勢。ここで鈴木に替わり佐藤が入って反撃、ようやくつなげるようになって逆転勝ち。第2セットも4−8と苦しい展開だったが、門田に替わった今野が気迫でプレー、リズムに乗ってストレート勝ちした。山形県人の投入が功を奏したというところか。地元パワー侮り難し。

その意識した住電はなんと2回戦で九州電力福岡にストレート負けするという波乱。九電福岡なら強敵ではあったが、ここが予選の試合もなく、シード勢が経験する大会初戦の怖さ。
そして波に乗る九電福岡に対し、別チーム?って思うくらい躍動的に2回戦とは見違えるような動きを見せて完勝してしまった。ここでも山形県民勢大活躍、駆け付けた応援団も威勢よく大声援を送っていた。「負けると思って今日応援に来た」というOBもいたが、なんとか最終日に進出した。
あの富士通も3回戦敗退・・・波乱は今後も続くのか?

((( Idle Talk )))
最終日進出を決めて一番喜んでいたのが川村。5番くじを引いたときは「うそ・・・」と絶句していた。ここまで笑顔が冴えなかったが、少なくとも決勝戦までの道は大きく開け、口調も滑らかに。「まさかこんな状況になるとは自分でもびっくり。昨日は口が開きませんでしたから」。


・三度目の正直 vs 二度あることは三度 その1

準々決勝は国体での対戦が成らなかった埼玉選抜戦。昨日の流れを重視して今野、佐藤がスタメンとなった。功を奏し、今野が速攻をシャットアウトして第1セットを簡単に奪ったが、ここが落とし穴。余裕を見せた第2セットはリードしながらミスでチャンスをつぶし、終盤で逆転された。第3セットは持ち直し、中盤のサービスエースなどで結果的には勝利したものの、心許ない展開となってしまった。

それでいて準決勝の横河電機戦は2セットともほぼ会心の展開で決勝進出。脆さと強さが同居するようなチームながらここまで来た。そして中部徳洲会と、みたび相まみえることとなった。今回は東北リコー応援団+地元家族、友人、そして山形の高校生も応援してくれている・・・果たして初優勝なるか−。

序盤の激しい攻防から今野の連続サービスエースで14−10と抜けだし、江口の時間差と今野のAで逃げ切りに成功、リードで行くと俄然強さを発揮する。2度の対決では競りながら落とした第1セットを先取し、意気上がる。
第2セットはいきなり0−5とされるが、安重、江口、遠藤のサーブで崩し13−14と迫る。しかし痛恨のオーバーネットで同点の機を逸すると、勝負所で相手の強打とブロックが決まり、またもやフルセットとなった。

両者一歩も引かない第3セット、序盤は全く互角ながら安重がダブったあとにサービスエースを決められ4−6、更に細かいミスで得点され5−10、徳洲会ペースに。ここで佐藤と門田がチェンジ。徳洲会がサーブミスを続けるうちに立て直しを図るが、シーソーに持ち込まれ3点差がどうしても縮まらない。
13−16から突破口としてピンチサーバー川村に託すが、時間差を決められ打破できず。結局最後までこの点差を埋められず、とどめのサービスエースを決められ万事休した。

相手の神懸かり的なレシーブにアタッカーがプレッシャーを感じてしまったか・・・やはり追いかけると余裕がなくなって単調になってしまった。徳洲会はいつもよりファーストサーブが決まらなかった。それでも勝てなかった。
「今野とか(佐藤)敬志とかは決勝までとっておきたかった」と門脇。好調とはいっても波があるし、大会を通して使うことは難しい。実際、決勝では若干息切れ感があった。また、守勢に回ったときに展開を変えられる控え選手がいなくなってしまった。
スーパーサブ的な役割を期待していたが、使わざるを得ないところが弱さでもある。しかし決勝まで来られたのは大きな自信になるし、着実に実力アップしているはず。“地元だったから勝てた”では終わらせたくない。


・三度目の正直 vs 二度あることは三度 その2

櫻田記念は大阪で開催されたが、全日本総合で活躍した今野が大会前に骨折でリタイア。ただでさえベストで挑めない状況だったのに、益々厳しい戦いを強いられそうだ。
予選リーグ初戦の横河電機戦はフルセット。1セット目は19点で失い、2セット目は15−17から相手ミスに付け込み、ワンチャンスで逆転した。そして3セット目も7−9と全セットでリードを許す大苦戦。もし負けると次の相手は富士通だけに、予選敗退もあり得る大事な局面で超長いラリーを制し10タイ。
これでギアチェンジ、工藤のサービスエース、江口が中央からサイドラインギリギリに決めると、高橋サービスエースで引き離す。ピンサ川村の2度の好レシーブが点数につながり、更にサービスエースで19−14、このままリードを守りきった。
「疲れましたよ、ホントに」と門脇、疲労困憊の表情。負けたら富士通戦は勝利が絶対条件。しかもできればストレート勝ちでという崖っぷちな状況に置かれるとこだった。必ず勝たなきゃいけない試合に勝てて、とりあえずはよしとするか・・・

激戦の反動か、予選通過が決まった影響か・・・富士通戦は散々な結果に。終始リードを許し、オーバーネット、ダブりのオンパレード。しかもサーブ順を間違え、チェックを忘れるスタッフのボーンヘッドまで飛び出す始末、国体のリベンジどころかもっと悪い内容になってしまった。
悪いことは続くもの、予選終了後の組み合わせ抽選で富士通との対戦に決まってしまった。・・・まあとにかく切り替えるしかない。予選は予選、明日は明日、そう割り切ってプレーできるかどうか。

翌日の準々決勝、もともと痛みを押して出場していた佐藤が前日のプレー中に悪化させてベンチから外れた。この結果、控えが日下、川村、小野寺となりアタッカー陣がいない非常事態。しかも日下はまだ剥離骨折が完治していない。
今季2度の対戦はいずれも完敗だけに、苦手意識があるとまた同じような展開になりかねない。ここが踏ん張りどころだ。

第1セット、2段を鈴木が決めると安重がサービスエース! この試合に向け、不動の1番サーバーだった岩渕を7番に下げ、順次繰り上がり安重を1番にした。これが吉と出た。
鮮やかな展開で波に乗るとビンサ川村が期待に応えて連続サービスエース、門田が立て続けにBとAを決め、あっという間に先取してしまった。これだから勝負というのは分からない。

第2セットは富士通のサーブが炸裂、サーブカットが乱れまくって、今度はあっという間に取り返された。勝つか負けるかはサーブカットのデキ如何と言ってもいい状況になってきた。
そして第3セット。中盤にブロックとサービスエースが決まり7点連取の11−4で優位に立つと、門田Bでマッチポイント、最後は安重がサービスエース! まさに“死んだふり”のような劇的な展開で準決勝進出を果たした。
相手にも“組み易し”という油断が少なからずあったかもしれないが、それにしてもこのチームの力は計り知れない・・・


・尻上がり

第2試合で予選2位・JT東京が1位・中部徳洲会をフルセットで破る波乱。更に進行が早い隣のコートでは準決勝で住友電工がまたもや九電福岡に敗れた。勢いを増した東北リコーはJT東京をストレートで下し、2大会連続決勝進出! やはりサーブカットが安定すると滅法強い。

櫻田記念
九電福岡戦、安重のクロス。=岸和田市総合体育館
いよいよ決勝戦、「レシーバーから見れば住電より九電福岡の方が怖い。あのサーブが入ったらちょっとね」と威力なら全国No.1を誇る強力サーブ陣を警戒する。
第1セットは得意のリードに持ち込みながら、ミスがらみで抜け出せない。16−15とぴったり付いてこられていたが、鈴木が2段トスで4枚ブロックをぶち抜くと、シーソーで守りきり先取した。
しかし第2セットは九電持ち味の強サーブが猛威をふるい始め、劣勢に立たされる。要所でサービスエースを決められ、流れを引き戻せない。耐えきれず終盤にタッチネットとスパイクアウトで勝負あり。最後はサービスエースを決められセットオールになった。

雌雄を決するファイナルセット。九電のスパイクがネットに掛かり1−0、門田A3−1、鈴木タテ気味のCで4−2、高橋強打5−2、門田サーブで九電はカットボール見失い6−2と運も合わせて東北リコー有利か。九電の威力ある1番サーバーを安重の強打で1回で切ると江口がサーブで崩して10−5。
サーブで崩され九電に3点連取されるが高橋の強打で14−9。門田のフルスイングが打ち損ないでコート真ん中にポトリと落ちて17−10、相手の気力を削いで東北リコーペース。
工藤3連続サービスエースでいよいよマッチポイント。「勝負、勝負」の声に促されセカンド勝負にいったがダブって20−12。しかし最後は九電のレシーブがつながらず、この大会3年ぶりの優勝!!

「ウオォォォッ!!」劣勢を跳ね返し、雄叫びと共に両手が上がる! 以前は予選勝っても決勝でやられるような、ここ一番の弱さがあったが、今回は違った。実業団ベスト8、国体4位、総合準優勝、櫻田記念優勝・・・確実にレベルアップしていることが成績に表れている。このまま今シーズンが終わってしまうのがもったいない。
唯一の心残りがあるとするならば、やはり徳洲会に勝てなかったというところか。まあそれは来年のお楽しみ。
「徐々に成績が上がり、選手のレベルアップが体感できた。しかし文字通り選手が“Destruction”してしまった。縁起もあるし、また何かスローガンを考えないとね」と門脇は苦笑いして今年を振り返った。