かなり 実録 バレー部物語

・発展途上

江口、工藤が引退し監督、コーチに就任。門脇が総監督に就き、岩渕はコーチ兼務から一選手となった。国体3連覇メンバーから更にハーフセンターとセッターという中心選手が抜け、世代交代に拍車がかかる。チームの若返りをしつつ成績を残すことは、どこのチームにも課題となることだろう。
新人選手がそのまま空いたポジションに入ることとなったが、チーム力上昇というより現状維持さえ難しいかもしれない。試練を味わう覚悟が必要か・・・

その不安が現実となる。ホスト大会であるZAOカップで鷹巣クラブ(秋田)にフルセットで敗れ、8回目で初めて優勝を逃してしまった。チーム的にはいろいろ問題山積みではあるが、これはこれで気持ちを切り替えるしかない。
その後、南三陸カップではフルセットで破り溜飲を下げたが、練習試合を含め実力的にほぼ互角なのは変わっていない。

6月、白幡元部長が退社されるということで、感謝の集いが開催された。バレー部の初代部長であり、女子バレー部監督も兼任され、まさしくバレー部の象徴的な方。多くのOB・OGが一堂に会すのは、後にも先にもこの日だけかもしれない。現役部員としては国体3連覇で白幡社長(当時)を胴上げしたことが印象に残ってるのではないだろうか。
「バレーをやっていなかったら精神的にも肉体的にもバランスが取れなかったんじゃないかと思いますし、バレーを通して自分の部下じゃない人とお話しできたことも大変役に立ったのかなあと思っています。皆さんに感謝されるというよりも、私が皆さんに感謝したいです」

◇  ◇  ◇

全日本実業団は神戸市で行われた。東北リコーは第4シードで予選は免除となる。
しかし盛り上げとつなぎのキーパーソンである佐藤が昨年同様に故障でリタイアとなり、実質12人でプレーするという余裕のない状態。それでも2回戦の日立金属NEOMAX、3回戦のサンデンをストレートで下し準々決勝進出。
チーム全体としてミスが多かったものの、セッター・我妻、ハーフセンター・針生の新人選手は無難な船出。

全日本実業団
JT東京戦、半澤のサーブカット。=グリーンアリーナ神戸
準々決勝はJT東京と対戦。第1セット、JTのサービスエースで2−3とされると、徐々に引き離され4−8。HR安重の強打で打開しようとするものの、JTの強打を止められず5−11。
シーソーにはなってもファーストサーブが入らず連続得点を奪えない。我妻のネットプレーから針生強打、JT時間差10−17。レフト・高橋の強打は白帯に阻まれ、我妻オーバーネット10−19。安重のサーブで崩しに成功、安重強打、針生時間差、佐藤Aで6点差まで挽回するが反撃はあまりに遅く、セットを失う。

FR今野を鈴木に替えて挑む第2セット、安重強打と佐藤のサービスエースで前半はリードの展開に持ち込む。
JTのA、鈴木のCがブロックされ12−10と追い上げられるが、安重強打、鈴木のCで何とか押され気味もシーソーでリードを保つが・・・

安重の2段トス強打がブロックされ、ラリーから遠藤懸命の2段トスも安重下がりきれずに返すのみでJT時間差、JTライト強打がブロックアウトで1点差。直上に上がったサーブカットを安重が一瞬前方の選手と見合ってコートに落とし16タイ、針生の時間差もブロックされ16−17。JTサービスエース、安重強打アウト、JT中央強打、一気にマッチポイントを握られる。
高橋の強打とプッシュで18点とするが、無念のストレート負けとなった。

16−12から連続8失点じゃ、どーしようもない。安重、安重、また安重って感じでサーブも決め、スパイクも決める。まさしく八面六臂の活躍だったが、頼った分、ミスった時の反動も大きい。終盤でのスパイクアウトは責められない。しかし、しかし勝つためには、決めなければならなかったというのは本人が一番自覚しているだろう。

結局2セットとも相手ペース、江口が最初から飛ばしていくことを確認していが、逆に出鼻をくじかれてしまった。「何かしたかったんですが、何も出来ませんでした」と言葉少な。
故障者も多く全開で臨めなかったかもしれないが、全て含めてチームの実力。万全に持っていく、試合前までの準備が結果の大半を占めると言う人もいるのだから、そこら辺も考えて行く必要がある。


・東北王者としての矜恃

東北総体は福島市で行われた。今年は秋田での国体開催のため、秋田代表を含む東北6県による東北選手権と、秋田代表を除いた国体東北予選を別々に開催する。つまり東北リコーは連続した2大会に優勝するという使命を負わされることになる。これはコンディション的に非常に難しい。今の不安定な実力を考えると尚更だ。
たとえ東北選手権で優勝しても、国体予選で敗れれば国体には出場できない。かといって国体に出られれば東北選手権に負けてもいいというわけでもない。東北選手権には10連覇と東北No.1という称号がかかっている。それに“一度敗退した”という負の意識で国体予選に挑むのも危険だ。当然ふたつとも穫りに行く。

近年の単独国体予選は本命が勝てない、番狂わせを何度も演じてきた。

1992年・山形国体開催年は、全国でもシード常連のJTクラブ山形が選手権優勝。前年まで2年連続準優勝の東北リコーはプレッシャーに負け、選手権準決勝で早くも北上に敗退。しかし準優勝となった北上は国体予選準決勝で強化チームを組んだばかりの東北電力に敗れ、東北リコーも決勝で敗れ去る。

1995年・福島国体開催年。選手権は東北電力が苦戦ながら優勝。決勝で負けたものの、それまで7連覇していたJTクラブ山形が国体予選の大本命。東北リコーは選手権準決勝で山形に完敗していたが、国体予選準決勝での再戦で、反省を生かして初めて撃破、そのまま優勝。

2001年・宮城国体開催年。選手権は東北リコーが圧倒して4連覇達成。準優勝したJTクラブ山形が国体予選の最右翼。しかし選手権で東北リコーに大敗を喫していた北上が国体予選では甦り、見事山形を破って栄冠を手にした。

東北総体
単独チーム10連覇の金字塔。=あづま総合体育館
だが今回は今までとは違う。そんなジンクスを吹き飛ばす伝統・実績・実力があるはずだ。

選手権決勝は秋田・鷹巣クラブと対戦。相手は国体本番を間近に控え、しかも選手権一本に全身全霊をかけてくる。もし東北総体の連覇記録が途切れるとするなら、この場面か・・・東北の王者として君臨してきた東北リコーがついに負けるかもしれないという緊張感が周りを包む。

2セットとも中盤までは互角。第1セットは相手が強打アウト判定でリズムを崩したスキに安重のサービスエースで17−15と抜け出した。第2セットはバランスを崩しながらの安重強打、秋田ライト強打を高橋が1枚でシャットして17−14とすると、秋田最後の反撃を凌いでストレート勝ち、見事10連覇を達成した。
最後に追い上げられたところはタイムアウトも考えられたが、「ウチは逆効果の流れになる時があるので、ここまでの経過から我慢した」と、江口も納得の表情でうなずいた。
相手の動きが今ひとつではあったが、この試合にかける意気込みが上回っていたのだろう。

とりあえず第1関門突破。「“勝って兜の緒を締めよ”ということで、ここでほっとしてはいけない。気持ち切り替えていきましょう」と江口の檄。そして翌日の国体予選。中には選手権で全力を見せず、この国体予選にかけるようなチームもあったが、本命が勝てないというジンクスを打ち破り、2試合とも全く相手にしない完勝。とりあえず監督の胃の痛みも少しは和らぐだろう。

9月中旬、富士通が東北リコーに初来社して練習試合が行われた。国体では順当に勝ち上がれば準決勝で激突する。セットカウントは3−7の劣勢であったが、何かを掴めたか・・・


・ハートに火を付けろ!秋田国体

秋田国体は大館市で開催される。大会前には大館市の城西(じょうせい)小学校で児童との交流会も行われた。力強いエールをもらい、本番に挑む。
準々決勝の北海道(北見市役所)戦は第1セット序盤こそラリー負けし6−7と劣勢だったが、安重の強打で追いつくと相手ミスに乗じて引き離し、ダブルスコアで先取。第2セットも勢いそのままに、ストレート勝ちした。
ちょっともたついたが、まずまず。いよいよ次は正念場の兵庫(富士通)戦、粘れるか。

((( Idle Talk )))
準々決勝は11人で戦っていた。「いや普通あり得ないからさ」…審判団には噂が一気に広まっていた。理由は、ある選手がユニフォームを忘れたため出場できなかったから。他の大会なら15人をエントリーしておいて、試合前にベンチ入り12人を選ぶということもできるが、厳格な国体では認められない。
試合後の夜、総監督がそのユニフォームを持って宮城から駆けつけたが、1日1試合でなかったら、スタメン選手だったら・・・他人事じゃない。バレー部心得20章15項をよく読め!

準決勝第1セットは接戦、8−6とリードしたが兵庫の強力サーブが随所に決まり9−10と逆転される。それでもつなぎと相手ミスで16タイとするとシーソーの激戦で終盤へ。兵庫ライトの強打、安重のリバウンド失敗で18−20、針生の時間差で詰め寄るが、最後は兵庫の速攻がブロックアウトとなり、惜しくも落とす。

第2セット11−7とリードし、兵庫のタイムアウト明けに針生のサービスエース。これで攻撃陣が爆発、安重強打、佐藤タテぎみB、今野C、針生ライトに回り込んで時間差、18−11と怒濤の攻め。セットを奪い返してファイナルセットに勝負をかける。

・・・しかし兵庫のサーブにてこずり1−6とリードされると、一時は相手ミスで浮上のきっかけをつかんだかに見えたが、またもサーブでやられ6−13とされる。
11−18から安重強打、高橋リバウンドを兵庫ブロック吸い込み、安重強打と猛攻を見せるが時既に遅し。兵庫にサービスエースを決められ14−20、最後は高橋の強打を拾われ、切り返されて万事休した。

第3セットはサービスエース分の点差という感じ、あれだけサーブを決められたら追いつけない。
第1セット18−19から安重のリバウンドが、白帯に当たったと思い込み、吹笛前に返すプレーをせず終わってしまったことが悔やまれる。結局オーバータイムスだったとしても、拾いに行かなかった消極さが敗因につながったと言っても過言ではない。たった一本、されど一本、ポイントゲッターにかかる期待はとてつもなく大きい。

◇  ◇  ◇

秋田国体
秋田戦、我妻のトスアップ。=田代体育館
まさか、もしや、やはり・・・3、4位決定戦は秋田(鷹巣クラブ)との東北勢同士となってしまった。今度は東北総体のように簡単にはいかないだろう。だとしても返り討ちで退け、是が非でも3位確保したい。ただ審判団はいつも顔を合わせる東北ブロックの方々が大半を占めるだけに、東北対決は審判団にとって“やりたくない”という気持ちだったに違いない。
基本的にアウェイに変わりなく、これを打ち破る精神力が勝負の分かれ目となる。

第1セット、秋田のミスに乗じて7−3と好スタート。ポールを安重に集め17−11とリードを広げ、ラリーを高橋や針生の強打で制し21−13で先取。
快調さの反動と第1セットは硬かった秋田の調子が上向き、第2セットはリードを許す。佐藤のBがブロックされ4−8でタイムアウト、更に今野の2段トスから針生の強打もブロックされ7−13、2度目のタイムアウト。更に更に安重が連続でブロックされ一方的かと思われたが、必死のつなぎで17−19まで猛追。しかし前半の借金が大きく逆転まで至らずフルセットとなる。

第3セット、今度は緊迫した接戦を演ずる。佐藤のAがブロックされ9−11、秋田2点リードとするが、安重強打がワンタッチ誘うと秋田速攻をブロック11タイ、すかさず追いつく。12−14からも我妻トスフェイント、我妻サービスエース14タイにするが、リードまでは奪えない。
秋田レフト強打、秋田ピンサで崩し、押し込まれて14−16。今野のC拾われ秋田のリバウンドをブロック吸い込み15−18、ついに3点差とされる。3回目の交代を使い、ピンサ鈴木で勝負もセカンドを秋田レフトに決められ17−20、最後は秋田レフト強打を鈴木のブロックタッチネットで宮城の4位が確定した。

第2セットは離されすぎ。でも追い上げたなら追いつかないと。相手のミスでそういうリズムだっただけに無念。第3セットも離せないで、後半のシーソーに粘りきれなかった。鈴木もちょっと準備不足。最後の勝負にしてはファーストサーブが主審の遙か後ろを力なく通過していた。
「前衛が怖がってる」と江口が言うように、ブロックがオーバーネットを取られると今度は手を出せなくなってブロック吸い込みしていた。スパイクもどこか決まらなくなると、全部決まらなくなる。
部長の大友が大会前に「試合もそうだが、己にも勝つように」と激励していたが、まさしく“己に負けた”ということだろう。

厳しい判定に選手はちょっとクレーム気味だったが、秋田に沖縄(中部徳洲会病院)は勝って宮城は負けた。つまりそういう実力だったということ。
ただ、応援団はどんなときでも大声援、凄いパワーをもらった。今大会ナンバーワンの応援力だろう。なのにこれを背にしても勝てなかったのが一番悔しい。
・・・高い目標を持って挑み続けるしかない。