かなり 実録 バレー部物語

・もがきの先に

下降する成績に歯止めをかけるべく、監督の江口は構想を練る。基本、前衛は6枚ブロックだが、前衛がサーブを打つときはどうしても5枚にならざるを得ない。9ローテのうちそれが6回もあり、ファーストサーブの威力とイン率が低い現状では尚更不利。
バック陣をブロック参加させれば良いのだが、レシーブ専門職に近い現メンバーでは難しい。ならば・・・岩渕、半澤の中央カットポジションに安重、高橋を充て、前衛サーブの時は高橋が前に出るという大胆プラン。サイドアタッカーの安重、高橋はポイントゲッターの存在。それを敢えて後ろに下げるというのは・・・何より岩渕、半澤の守りがあってこそ安定したチーム力を発揮してきたはず。
確かにそこに甘えすぎたところはあったが、世代交代も鑑み、戦力の充実を図らなければ上位チームに対抗できない。大きなリスクを背負うことになりそうだ。

レフトは昨年終盤から石川が入り、目処は付いた。センターは新人の渡辺が入り、佐藤はライトに廻る。FRは今野が務めるはずだった。
しかし春先の遠征中に今野が指を負傷し、このプランは早くも崩れることになる。そこで高橋をFRに起用し、バックに岩渕が入る新旧ポジションの折衷案のような形となった。前衛がサーブを打つときは安重が前に出る。「半端な気持ちじゃ守れない」と、固い決意でレシーブに専念するはずだったがやむを得ない。

全日本実業団は名古屋市で行われた。優勝がない全日本総合でさえ決勝進出は3回あるが、実業団は優勝した1回しかない。暑さに弱いということもあるだろうが、ポジションが毎年替わり、その対応が遅れるのも原因の一つだろうか。

全日本実業団
3回戦、梅津のサーブで崩し、セット先取。=中村スポーツセンター
第4シードにより予選免除でトーナメント2回戦が初戦、そこでいきなり劣勢に立たされる。大光自動車に1セット取られ、第2セットも6−9。
しかし安重の3連続サービスエースなどでセットタイに持ち込むと、第3セットは相手ミスに乗じて終始リード、最後は渡辺がツーアタックを決めてフルセット勝ちを収めた。

試合前から嫌な感じはあった。公式練習のスパイクが全然迫力無かったからだ。(6人制用に引かれてある)アタックラインに落ちるとかではなく、ボールを叩いてもいい音がしない。「うまくミートできる選手が少なくて、シートでも思ったところに打てない時が多い」と江口。
3回戦の日立製作所笠戸戦もデュースの末にセットを取るなど苦しみながらの勝利だったが、こなすにつれ動きはよくなってきた。

準々決勝は第5シードの住友電工との対戦。第1セットは追う展開だったが、ミスがらみで8−17と一気に差を広げられる。第2セットは針生時間差、梅津のサーブで崩し高橋ダイレクト7−5、流れが東北リコーに傾き始めると、終盤は石川、佐藤の両サイドの決定力が上がり奪い返す。
勝負の第3セットは両者一歩も引かないシーソーを繰り広げ、10−11でコートチェンジ。住電サービスエース13−15とされるが、ラリーから石川リバウンドを住電オーバーネット、梅津セカンドサーブを前に落とし、渡辺ダイレクト15タイ、終盤へ。

石川強打も勢い余ってタッチネット16−17、針生時間差、住電中央攻撃17−18。住電ピンサはサイドラインギリギリに石川の脇を抜け、線審ジャッジはアウト。しかし主審との確認で判定はインとなり17−19。佐藤の強打も切り返され17−20。住電ダブッたが、最後は住電に時間差を決められてしまった。

攻守ともまだ力不足なのは否めない。佐藤はライトとして初の全国大会ということで発展途上、スパイクのベストタイミングが相手ブロックにマッチしていた。現に乱れて離れたトスの方が決まっており、対応が急務。
石川のタッチネットの場面、気合いが入りすぎると墓穴を掘ることを本人も自覚しているようだが、それを抑えて無難にこなしても栄冠は手にできないだろう。
1セットだけだが、久しぶりに力強い東北リコーを見せたのは収穫か。安重は「バックはプレッシャーきついッス」と言いながらもなんとかこなし、梅津は十代でのバックスタメンを果たした。
勝ちは逃したが、7年連続で最終日進出というのもパワーがなければできないこと。ここまで強化してきた方向性は間違っていない。

・・・コーチの工藤が業務の都合上、長期派遣が決まり、この大会をもって事実上の退任となった。この時期なのでコーチは当分置かないが、その分、皆でフォローしていかなければならない。工藤も志半ばだろうが、今後も厳しい目で見守ってくれることだろう。

◇  ◇  ◇

天童市で行われた東北総体はオールストレート勝ちで国体の切符をつかむ。全体的にはまあまあのリズム、ようやく形になってきた。
まだまだ課題は多いが、本番まで「やるべき事は明確になっている」


・ここから未来へ!大分国体

国体は日田市で行われた。宿泊ホテルは川沿いで、上流ながら屋形船が浮かぶ広大な光景は情緒的。日本で最も生産されている焼酎の蒸留所もあり、水郷・日田の恵まれた自然をバックに熱戦が繰り広げられる。

初戦・準々決勝は第4試合で香川(香川クラブ)と対戦。第1セットはいつもの出だしの悪さがなく先取したが、この好調さが続かない。第2セットは両サイド強打が拾われ、なかなか追い上げられない。
香川の時間差をつないで安重ツーアタックなど15−12と逆転するも、粘る香川にラリーを制され18タイ、ラリーから香川中央突破で18−19とされた。それでも針生時間差ワンタッチ、香川レフト強打アウトでマッチポイント。最後は梅津のサービスエースが決まった。

流れ的には追いついた香川に分がありそうだったが、何とかこらえた。雰囲気が異様な国体の戦い方は難しい。
先の第3試合で富山(北陸電力)が地元・大分(選抜)にフルセット勝ちするという大金星を挙げ、その富山が次の相手。あの粘りと気迫で来られたら苦戦は免れそうもない。

準決勝進出の4チームは、いずれも国体優勝経験を持つ強豪。第1試合、沖縄(中部徳洲会病院)vs兵庫(富士通)はフルセットの激戦で沖縄の勝利。現在の実力と実績からすれば、ギャラリーから「事実上の決勝戦」と言われても仕方ない。
まずは目先のこの一戦、富山戦に全力を尽くす。

大分国体
富山戦第3セット、石川の強打。=日田市総合体育館
第1セットはミスで0−2となると、これがなかなか追いつかない。逆に佐藤がブロックされ、ラリーから富山速攻フェイント、佐藤ブロックされ7−12。
5点差のまま富山セットポイントになったが、あとがない宮城が猛追、石川強打、岩渕サービスエースで17点、更に岩渕サービスエース、ラリーから針生フェイントで19−20。
あと1点というところまでこぎ着けたが、最後は富山ライトに決められた。

第2セット序盤は互角。佐藤フェイントアウト9−10となったところで渡辺に替わり今野が入る。 針生連続時間差で逆転するが、石川がブロックされ一進一退。
先にセットポイントを迎えたのは宮城、ラリーから石川強打20−19、富山ライト強打、石川強打、佐藤ブロックされ21タイ。

ラリーから富山レフト強打でマッチポイント、石川強打22タイ。安重のサーブで崩し石川強打、富山ライト強打23タイ。富山サービスエースでマッチポイント、ここも石川強打で切ると岩渕サービスエース、しかし富山ライト強打25タイ。
梅津の2段トスを石川強打、富山ライト強打ブロックアウト26タイ。石川強打ブロックされ富山マッチポイント、針生の時間差で乗り切るが、分かっていても止められない富山ライト強打が決まり27−28。
悲鳴とも歓声とも区別が付かない中、石川リバウンドがブロック吸い込み何とかマッチポイントを逃れると、高橋サービスエース!29−28。
ここでのSPで場内最高潮、またもや高橋のサーブで崩し富山必死のつなぎもオーバータイムス。「グァァァァー!」っと、宮城応援団が飛び上がる! かろうじてこのセットをもぎ取り、勝負はファイナルセットへ。

第3セットも白熱の攻防、前半は勝負の行方が全く分からない。しかし富山レフトからのリバウンドをつないで針生が決めると、ここで梅津が喉から手が出るほど欲しかったサービスエースを決め10−8。
富山のタイムアウト明けに更にサービスエース、相手の戦意を喪失させた。今野Aの当たり損ないが幸いして富山オーバーネット、石川、針生の強打などで18−13とリードを広げる。
ギャラリーから一本集中の声がかかる中、最後は今野のAが決まってホイッスル、ここで敗退かという劣勢を跳ね返し、宮城が決勝進出!

ふぅぅ、勝ったぁぁぁ(;´3`=3  応援側はもうハラハラドキドキものだった。接戦は相手の持ち味、それを凌ぎきったところに価値がある。冷静に見ればウチのミスで接戦にしてしまったかもしれないが、とにかく勝ったことに意義がある。
これで全国大会なら3年ぶり、国体に限ると5年ぶりの決勝進出、30点は東北リコー最多タイ記録(00年日本化薬戦、03年横河電機戦に次いで3回目)となった。
「(渡辺が)足を捻挫したこともあったし、流れを変える意味もあり交代した」と、江口が今野へのスイッチの理由を説明。ある意味、ギャンブルっぽかったが、とりあえず成功? 今野も役目を理解し、騒ぎまくっていた。

((( Idle Talk )))
大分県vs香川県の5・7位決定戦において、秋篠宮文仁親王殿下と同妃紀子殿下がご観戦になられた。
この日は厳重警備が敷かれ、昨日は使うことができた太鼓、バチも持ち込み禁止、館内の自動販売機も隠された。秋篠宮ご夫妻来場の15分前から会場への出入り禁止の規制がかかり、試合中の立ち見も許されない。
この厳戒態勢でも「まさかこんな近くで見れるとは思わなかった」と、ギャラリーは大興奮。
テレビのニュースでこの模様が放映されたが、そこに東北リコーの横断幕がばっちり映っており、いいアピールにはなった。
あと2年で廃止となる9人制だが、これで興味を持っていただき、9人制復活の足掛かりとなってくれれば・・・

いよいよ決勝戦。沖縄・中部徳洲会病院とは久しぶり(2004年の全日本総合以来)の対戦となった。
第1セット、佐藤セカンドサーブでエンドライン際に決まるサービスエースで1−0。沖縄強打、石川強打はブロック吸い込み、石川サービスエース、石川ダブり3−2。
まずまずの出だしだったが、宮城オーバーネット、石川強打ネット、沖縄速攻、針生2段トス強打がアウトなど、ミスがらみで3−7とされてしまう。
ピンサ佐藤から石川強打、佐藤強打で14−16、沖縄C、佐藤強打アウトで14−18、なかなか乗っていけない流れでここまでかと思われたが、佐藤強打がブロック弾き、つなぎから安重強打が決まって再接近。
しかし余裕がある沖縄は冷静に時間差を決め18−21。両者ブロックポイントがなかったが、多彩な攻撃力を誇る沖縄が先取した。

第2セット出だしでサービスエースを決められるが、石川、佐藤の強打でシーソーの5タイ。沖縄B、我妻トスフェイントがオーバーネット、ラリーから沖縄強打で5−8、このセットも追う展開。
沖縄の連続ダブりで流れは宮城に傾きかけたが、沖縄タテBフェイント、沖縄サービスエース、沖縄フェイントと石川リバウンドがオーバーネットで一気に7点差の9−16になってしまった。
こうなっては今の沖縄に対抗できる術はなく、最後は沖縄の時間差が決まり、無念のストレート負けとなった。

苦しい場面で粘りきれなかった。「決勝に出てようやくやるべき事が分かってきたと思う。これからがスタートであり、これからの方が辛い。一日々々、また頑張っていこう」と江口。若手選手には今まで口酸っぱく言われてきたことが、ようやく理解できたかもしれない。

佐藤「相当凹みました」とガックリ。針生も「てんでダメです。攻撃が単純でした」。我妻は「意図したところにうまく上げられませんでした」と反省の弁。「やはりサーブのプレッシャーが他のチームと違います」と安重。
連覇した中部徳洲会病院は、男子9人制単独チームとして前人未踏の4連覇に唯一挑戦権を持つ。来年こそ東北リコーが止めるしかない。

「何か変なんですよね・・・相手が18点ぐらいの時に気付いたんですが・・・」と、今年からマネージャーになった遠藤がつぶやく。そう、第2セット中盤で5点差のはずが、いつの間にか6点差になっていたのだ。ホテルでビデオ検証を行った結果、10−12から次に沖縄が決めたあと、9−13になっていた。
ビデオはコート固定、点数は担当の選手が音声で入れていたため、周りの動きは分からない。まさに狐につままれたようだ。
試合中に気付くのも遅く、コート外からではベンチへうまく伝わらない・・・・イエローカードをもらってでも試合を止めて抗議する勇気も自信もなかった。
これも実力、「勉強になりました」

((( Idle Talk )))
準決勝終了時の会話。「いい思い出作りになったなあ、今野」と、岩渕が今年引退予定?の今野をからかったが、「岩渕さんこそ1位、3位、4位、5位、7位の賞状はあるから、あとは準優勝狙いだって言ってたじゃないですか」と見事な切り返し。で、念願叶い2位の賞状ゲットとなった。
因みに岩渕は1回戦負けも経験済み。こういう全順位達成の記録も、主力で長年プレーしたからこそ為せる業だ。

打ち上げで屋形船に乗り、ホテルからいただいた焼酎で癒す。決勝進出の喜び、完敗の悔しさ・・・簡単に栄光は手にできない、しかし確実に前進していることを実感した。
とにかく決勝で戦ったことは、今後の東北リコーにとって非常に大きな意味を持つ。“全国制覇”が現実味を帯びることで、若手部員の目の色が変わるだろう。