かなり 実録 バレー部物語

・誤算

空席だったコーチに門田を招聘、新人2名(永井、馬)が入部し、攻撃陣は厚くなる。永井がセンターに入り渡辺がレフトへ、馬がライトに入り佐藤はFRにポジションを移す。馬は東北リコー初の外国人(中国国籍)選手となる。
外国人では特別な場合を除き国体には出場できない。つまり国体用と他の全国大会用とふたつのチームを構成しなければならなくなった。それを知っていて敢えて挑むことになる。これが吉と出るか凶と出るか・・・
レフトだった石川は基本バックだが、Cクイックからの“裏時間差”を駆使して5枚プラスワン攻撃の可能性も秘める。前衛がサーブの時は上がって攻撃とブロックにも参加。どこからでも打てる石川なら、そういう役割にマッチするはずだ。
実業団は県予選から出場することになったが、宮城の現状は寂しく、結局東北リコー1チームのみエントリーとなり、試合をせずに全国行きとなった。

全日本実業団は伊勢市で行われた。予選は動きが硬かったものの、特種製紙(静岡)をストレートで下す。神都と呼ばれる伊勢での大会、せっかくなので気分転換の意味も込めて伊勢神宮へ参拝に行く。
案の定、他のチームも参拝に来ている。「みんなでどこかに行くなんてことは久しぶり」と遠藤がつぶやく。北海道(1995年・旭川での実業団)で負けたあとに富良野を巡った以来かもしれない。

決勝トーナメントは苦戦の連続。初戦(2回戦)の東京電力埼玉に対して第1セット17−12からデュースの末に逆転負け。第2セットを取り返し第3セットは15−13から馬、針生、渡辺、永井の強打で突き放した。
サーブに全然威力なし、ほとんど相手セッターに返ってしまった。これじゃブロックもばらけるし、シーソーになると抜け出す手がない。相手から「大丈夫?」なんて心配されるようでは・・・前途多難。

全日本実業団
準々決勝、渡辺のリバウンド。=三重県営サンアリーナ
3回戦の神鋼環境ソリューション(兵庫)戦も第1セットデュースから粘り負けて落とすと、第2セットは11−7から18タイまでされたが、ブロックで切り抜けフルセットへ。第3セットは常にリードを保った状態で進めることができ、勢いに乗った相手を何とか封じ込め勝利を手にした。
最後までヒヤヒヤというかイライラというかハラハラというか・・・東電埼玉戦と同様、シーソーで粘れない。チャンスはもらっているのだが・・・あの流れから第2セットを取れたのは参拝の御利益があったか?いや、これも強化の成果。実際3試合分戦っても、「体力的には大丈夫ですね。前はもうへとへとでした」ということ。
因みに3回戦102分、2回戦100分は、今大会最長試合のワンツーである。

シード5チームががっちり固めて波乱なく迎えた最終日。第1シード住友電工相手にどうにかして番狂わせを演じたいところ。
第1セット6−10から住電の時間差、レフト強打が決まると、針生のリバウンド吸い込みを挟んでレフト軽打、サービスエース、馬をブロック、ライト強打、馬強打アウトで一気に離され、終わってみれば何と8点止まり。

気を取り直して挑む第2セットは6−8から11−10と逆転するが、13タイから2点離され正念場を迎える。カットミスから住電レフト強打、住電ダブり、住電Aブロックアウト14−17。針生時間差、永井サービスエース16−17。
しかしここからもう1点が奪えず19−20を迎え、渡辺のファーストサーブが大きく外れると、セカンドはきっちりカットされ住電Aが決まりストレート負け、ベスト8に終わる。

住電のタイムアウトはいずれもSP後。思惑通り次のファーストはミス、もともと低い確率なので、流れを切られたら連チャンは望めない。馬は後半全く出番が無くなってしまった。「気持ち的に負けてしまいました」と馬、これはスタッフも想定外。
「大会前までは絶好調で誰も止められなかった。馬にボールが集中してしまうことが心配」とコーチの門田が言うくらいだから、交代も考えられなかったのだろう。
それなりの手応えをもって臨んだ大会で、まさかこんな苦しい試合の連続になるとは予想出来なかった。「やはり今は8強の器でしかない」
もがき苦しんでこそ乗り越えられるものがある。悔し涙の選手がいたが、そういう感情が表れたのも成長の証。監督、コーチ離れができ、選手が自らの力で最高のパフォーマンスを発揮するのはいつの日か。決して遠くはないはずだ。

◇  ◇  ◇

青森市で行われた東北総体は、試合をこなす毎にチームの調子が上がり12連覇。控え選手2名が大会前に故障し、簡単に交代手続きできない東北総体は10名で戦うことになったが、不安を感じさせない試合運びで快勝となった。
予選では他の試合でフルセットが続いたため、空き時間で東北リコーの応援団が宮城女子(東北福祉大)の応援も行い、反対に男子にも応援いただき、9人制は男女揃って本国体出場を果たすことができた。
「本国体へ向け加速していかなければならない」。ここからまた一段ギアを上げて取り組んでいく。


・力を解き放て!新潟国体

国体は魚沼市で行われた。魚沼と言えばコシヒカリ、観光協会と宿泊ホテルから、記念として新米コシヒカリをいただく。巷は新型インフルエンザが流行、選手間の握手が省略された。小中学生はマスクをしての応援、マスク姿のギャラリーも目立つ状況での試合となった。
準々決勝の北海道(葵クラブ)戦、レシーブエースを食らうなど動きがイマイチではあったが、大きく引き離してストレート勝ち。準決勝は地元・新潟(選抜)との対戦が決まった。「やはり新潟は地元の声援は凄いが、それを静かにさせてほしいというのが希望」と総監督の門脇。そういう展開になれば理想的。

対新潟戦第1セットは追う展開。渡辺の軽打で7タイとすると、針生中央突破、石川強打で11−9。実業団ではバックだった石川がライトを務めているが、十分な突破力だ。
新潟サービスエースで14−15と逆転されるが、必死につないで石川強打はブロックアウト16タイ、白熱の攻防。新潟ライト強打はタッチネット18−17、新潟ライト強打ブロックアウト、針生時間差を軽打、安重のサーブで崩し石川も軽打で20−18。最後は新潟ライト強打がアウト21−18、終盤抜け出して先取。

第2セット、またも序盤リードを許すが、今度はなかなか追いつけない。針生の強打は線審インのジャッジも主審はアウト判定7−11、針生時間差ブロックされ8−13とリードを広げられる。ミスで流れが悪くなり、大声援に押された新潟を食い止められず、14−21。

第3セット、新潟ダブり、渡辺強打、新潟ダイレクト、新潟ライト強打2タイ。新潟リバウンドをブロック、新潟時間差はアウト、新潟ライト強打を拾い渡辺強打5−2、タイムアウト新潟。
新潟は必死に追い上げ1点差まで迫るが、新潟中央からの強打をブロックして11−9でコートチェンジ。新潟は徐々にミスが多くなり、石川、針生の強打で引き離しにかかる。会場は地元チームへの割れんばかりの大声援だが、我妻が目一杯の高さからトスフェイント、ため息に変え19−15。最後は渡辺が強打を決めて21−17、決勝進出を決めた。

第3セットは熊谷に代えて川村を起用したが、「技術どうこうじゃなく、とにかく流れを変えたかった」と江口。ここまでくると勢い重視、結果的に第3セットは一度もリードを許さなかった。
今回も応援団長の斎藤を始めとするエキスパートが、四方を取り囲む新潟応援に真っ向勝負。瞬間的な大声援は敵わないが、劣勢でも歓声が聞こえていたのは宮城の方であり、長年培った伝統が生きていた。

もう一つの準決勝は沖縄(中部徳洲会病院)が大阪(住友電工)をフルセットで下す。沖縄はワンチャンスで引き離したり、そのしたたかさは健在である。決勝は2年連続同一カードとなった。
夜のミーティング。自信あふれる顔つきは、何か期待を抱かせる。江口が言っている攻めのバレーをどこまで実践できるか。「明日最後の試合です。選手、スタッフ、サポート、応援も・・・ひとりひとりが役割をキチっと全うして日本一になれる。応援してくれる人たちのためにも、日本一になって恩返ししましょう」と門脇が激励。
決戦の時、迫る−

◇  ◇  ◇

決勝の前に3・4位決定戦が行われ、大阪が勝利。新潟は勝って終われなかったが、実業団勢相手に4位という成績を残した。会場は既に熱くなっており、女子9人制の福祉大、そして宮城県選手団の団長も応援に駆けつけてくれた。
沖縄3連覇か宮城6年ぶりか、運命のホイッスル!

新潟国体
沖縄戦第1セット、安重の2段トス。=小出郷総合体育館
宮城オーバーネット、サーブで崩され石川と佐藤がお見合い0−2。一度は追いつくが、沖縄時間差、沖縄の攻撃を永井ブロック吸い込み、針生時間差ネット5−8。
しかし8−13から佐藤C、佐藤サービスエース、ラリーから針生時間差、佐藤のサーブで崩すと安重がライトから決めて12−13と怒涛の勢い。
試合巧者の沖縄は同点にさせず、沖縄FR強打はワンタッチ、そして沖縄サービスエース17−20。最後は石川の強打を拾われ、沖縄ライト強打がブロックアウトとなり17−21、沖縄先取。

取られはしたが、選手には何故か自信があった。「イケる」・・・
それを裏付けるかのように安重のサービスエースでリズムに乗ると、沖縄レフト強打、沖縄のカットミスから佐藤ダイレクト、梅津サービスエース3−1。6タイにはされたが、ラリーから前に詰めていた熊谷が強打を決めて8−6。宮城リード、沖縄追いつくという緊迫した展開ながら、積極姿勢で徐々に宮城のリズムとなっていく。

渡辺強打、佐藤強打で14−11とすると、このリードを死守。
そして終盤、沖縄ダブりのミスに乗じて安重の軽打を沖縄つなぎがオーバータイムス、沖縄タイムアウト明けに永井のセカンドで崩して沖縄中央攻撃をブロック、更に永井のファーストで崩して針生時間差20−14。最後はラリーから渡辺の強打決まって21−14、一気に離してセットタイに持ち込んだ。

両者死力を振り絞る第3セット、石川強打、ラリーから石川強打、ラリーから石川強打と3連発で宮城応援団が大いに沸く。針生ネットプレーはタッチネット、渡辺強打、沖縄FR強打、ラリーから永井A、ラリーから針生時間差6−2。
沖縄ピンサからライト軽打で8−6となるが、沖縄ラストボールを打って返してネット、沖縄レフト強打を宮城ブロック!10−6。沖縄ライト強打がアウトでコートチェンジ。
新潟国体
第3セット終盤、栄冠へのカウントダウン。
何とか打開すべく沖縄はセッターを交代するが、気迫に勝る宮城の勢いは止まらない。逆に沖縄にはいつもの粘りがなくイージーミスを連発、これが3連覇へのプレッシャーか。あっという間に16−7と大勢は決まった。
ラリーから針生が時間差を決めると、渡辺も3枚ブロックをぶち抜き19−10、いよいよその瞬間が近づいてきた。沖縄C、針生時間差でマッチポイント、沖縄ライト強打20−12。

そして・・・沖縄レフトのファーストサーブを安重難なくレシーブ、永井がA、佐藤がCに飛び込み、我妻から放たれたトスは時間差、針生が力強く打つと、ブロックの上を通過し鮮やかなドライブ軌道を描いてコート奥に突き刺さった! 
それは宮城国体決勝で江口が時間差を決めたプレーと重なるように・・・21−12、宮城6年ぶり4回目の優勝成る!!

だぁぁぁぁぁ〜! 選手がコートを走り回り、抱きつく。対戦前、大方の予想は沖縄。昨日の沖縄対大阪戦が事実上の決勝戦と言う関係者もいた。
観戦していたチームの選手はこれが東北リコーだったっけ?っていう感じで、成り行きを呆然と口を開けて見ていた。それだけ今までとは違う、気迫の動きだった。
実は実業団の時は決まってもコートを走り回る喜び方をやめていた。大きな理由は体力の温存だったが、やはりリズムに乗って盛り上がるには走るしかないと気づき、国体直前に封印を解いたのだった。

応援団への御礼と抱擁、部長、監督、コーチ、マネージャーの胴上げ(ノ^ω^)ノ
・・・部長の大友は涙ぐんでいる。「しばらくぶりに楽しい試合を見させてもらいました。周りの人も泣いていました。今後も頑張ってもらいたい」とコメント。
これからの東北リコーが目指すものは、“泣けるバレー”か?

宮城国体からの4連覇を阻んだのが沖縄。その沖縄の3連覇を阻んだのが宮城というのも、何か因縁めいている。応援に駆けつけた昨年引退の岩渕、半澤も本当の意味で肩の荷が下りたというか、頼もしさを感じたことだろう。
「いやいや、もう上げるのに必死で余裕なかったです」と我妻。こちらも予想以上にプレッシャーを感じていたようだ。過去に優勝経験がある安重だったが、「入社した年の優勝は“させてもらった”という感じだったので、どうしても自分たちの力でもう一度優勝したかった」と言っていたが、ついに結実。

競技別の点数は佐賀にわずか3点及ばず宮城は2位。しかしチーム、応援が一丸となって国体6年ぶりの栄冠を奪取! 全国大会としては2004年の櫻田記念以来。
チームは一戦、ワンプレーごとに逞しくなっていったという感じであった。決勝ではサーブカットが安定し、相手のお株を奪うつなぎ、そして破壊力抜群の攻撃を発揮した。

選手・スタッフは実力以上の力が出たと謙遜していたが、今までの努力が実ったということ。いや、厳しく言えばそれは力がありながら出せなかっただけなのかもしれない。もちろん応援団の大声援、宮城の必勝を祈った方々が後押ししたことは間違いない。

◇  ◇  ◇

決勝当日に帰社の予定であったが、優勝し、試合時間も長引いた、その他諸々・・・ということで、ご褒美に急遽もう一泊することができた。できれば泊まっていたホテルに・・・マネージャーの加川の迅速な対応は完璧、再予約することができた。まさしく「ただいま!」である。
1旅館1チームだけの時が強いらしい。今回もそうだった。国体優勝限定のビールかけは約10分で300本が泡に。ホテル従業員の方々からは「いやー凄い。こんなの初めて。いいもの見させてもらいました」と喜んでいただいた。
みんなで指を3本立てて雄叫びをあげている。これは残るふたつの全国大会に勝って、三冠穫る!という決意の表れ。
その後の祝勝会での各選手、スタッフのスピーチで涙がこぼれる・・・・これもほんの一瞬の喜びだが、何物にも代え難い。

嬉し涙の先には、既に次の大会への思いがある。まだまだ東北リコーのバレーは発展途上、高い目標を掲げて常にチャレンジ!

((( Idle Talk )))
決勝戦、審判に4回も注意を受けた。
1、あからさまなスクリーンプレー。
2、監督と選手のハイタッチ。
3、相手への威嚇行動。
4、コート外に出て走り回りすぎ。

スクリーン(ネット前に並んで立って、故意にサーバーを隠す)は、9人制ではルール違反ではなかったと思うが、もう少し露骨さを控えてということ。
ハイタッチは第2セット13−11で江口と渡辺との出来事。アドレナリン出まくり状態だったのだろう。
威嚇行動は、ついアツくなりガッツポーズ。ま、どんなポーズでも相手に対してはNG。
走るのは伝統復活として喜ぶべき?ではあるが、すぐ戻らないからこうなる。
全て違う理由のため、イエローカードにはならなかった。「こんなに審判に呼ばれるのはオレだけっすね」と安重。