かなり 実録 バレー部物語

・あの時を取り戻すために

昨年は屈辱的な年と言ってもいいだろう。全国ベスト8以上が20年連続で途切れ、1回戦敗退も味わった。まさにジリ貧である。
この状況を打開すべく、今までにない方向へ舵を切る、いや切らざるを得ないと言うか…まず、総監督の門脇が10年ぶりに監督復帰した。東北リコー時代のような新陳代謝が図れなくなり、その他諸々の要因もあって安重も思うような成績を上げられず苦しんでいた。
門脇も総監督として立て直しが必要と強く感じており、そこへ安重から要請を受けての決断となった。一応総監督という任に就いてはいたものの、現場レベルへの復帰というのは今まで考えられなかったこと。
年齢を重ねれば社内でもそれなりの要職になっていく…今後、“働き方改革関連法”が施行されて少しは余暇が増えていくかもしれないが、両立は難しいというのが常識。澤がバレー部を離れてからマネージャーに復帰したことはあったが…それだけ状況として切羽詰まってきたのだ。ここで何とか食い止めなければならない。

そして監督であった安重が選手に復帰したのも驚き。「もう一度繁栄させるためにもレギュラー目指す」と、本人の強い希望もあった。監督として忸怩たる思いはあるだろうが…選手としてやり切った感がなかったこともあるのだろう。
また、コーチにはマネージャーを1年務めた渡辺が転任した。「個々にいいところは一杯ある。それをどうやって試合に出せるように準備するか、我々スタッフの腕の見せどころ。一年確実に歳は取るけど、確実に上がる経験値を生かしていきたい」と門脇。
とにかく、選手に監督…復帰には相当の決意がなければ務まらない。この意気込みを結果に繋げられるか。すぐにとはいかないまでも、何とか上昇感を掴みたい。

今年度のルール改正で一番大きいのは構成メンバーが12名から15名に拡大されたこと。つまり控え選手が3名増えることになる。昨年のメンバーチェンジ6回への変更と合わせてうまく応用すれば、戦術の幅が増えそうだ。ただし、RI東北はまだ15名揃わないのだが…
また、6人制ではお馴染みかもしれないが、“監督制限ライン”が設けられる。監督制限ラインはチームベンチ側のフリーゾーンでサイドライン外側から1.5mの位置に、チームベンチの記録席側の端からエンドラインまでの長さで平行に引かれる。
監督制限ラインの後方ではラリー中も立ったままで、あるいは歩きながら指示をしても良いことになる。

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5月の実業団県予選ではNittoにストレート勝ち。Nittoは昨年度の社会人大会東ブロック優勝者であり、苦戦も予想された。しかし劣勢となる場面はあっても、勝負をかける状況をしっかり把握しており、年季の差が出たか。安重もバックセンターでスタメンを果たした。
6月の赤城カップでは予選リーグ2位、上位トーナメントでは決勝でサンデンHDに敗れたものの準優勝となった。昨年の7位という結果から上昇、各自要所で持ち味を発揮し接戦を物にしていた。
ただ、カップ戦など準公式大会で好成績を収めても、本番での結果につながらないことが多いので、ここから如何に詰めていくかが課題となる。


・底辺からの脱却

全日本実業団はさいたま市で行われた。今年から男女共催となり、同一開催地となった。実は遡ること1ヶ月前、梅津が1年半ぶりに現役復帰していた。「気持ちも新たに一日一日を大切にしたい」と言っていたが、バック陣が揃ってきたのは大きい。本番ではしっかりスタメンに名を連ねていた。
予選Gの豊橋酷寒戦、今年からレフトの佐藤とハーフセンの佐々木。FRの針生もそのポジションが経験豊富というわけでもないので、「前衛は鎌田と永井以外は不慣れなポジション」ながら、連続得点もあってストレート勝ち。
3回戦、門脇が発破をかける。=さいたま市記念総合体育館

決勝Tの1回戦は四国電力と対戦。昨年の櫻田記念ではデュースに持ち込まれたが、今回はきっちり締めてストレート勝ち。第1セット、梅津にピンサ佐藤、石川にピンチブロッカー吉田、安重にピンサ菊地、各2回で都合6回、フルに交替枠を使い切っていた。「使えるものは使わないと勝てないので(笑)」

2回戦は九州電力鹿児島と対戦。鹿児島2段トスドリブル、鹿児島レフト強打をブロック、石川サービスエース、佐藤強打で4−0と抜け出し、その後も連続得点で11−3→15−5と広げる。しかしここから鹿児島に2連続得点を4回繰り返され、18−13と粘られる。
それでもシーソーで乗り切り第1セットを先取すると、第2セットは更に圧倒してひと桁に抑えてストレート勝ち。相手は接戦だと地力を発揮するので、前半から引き離せたのが勝因。

3回戦はパナソニックエコソリューションズ津と対戦した。2セットとも互角の戦い、第1セットは4タイから8タイまでシーソー、そこから針生強打、津レフト強打アウト、津FR強打連続アウトで4点離す。二枚替えなどを駆使し逃げ切りを図るが、相手のレフト中心の攻めに対応しきれず、19タイから津FR強打と永井2段トスドリブルで先取されてしまう。
第2セットはシーソーの入りから、津時間差、佐々木弾く津サービスエース、佐藤強打アウトで5−9とされても、鎌田強打、永井連続サービスエースで追いかける。
終盤、鎌田強打、針生軽打、石川サービスエース、つなぎからの佐々木強打で18−19と1点差に迫る。…しかしあと1点が遠い。無念にも1セット目同様に19点で敗れた。

第1セットをドリブルで失って、その流れを引きずったままになってしまった。先の赤城カップ戦では爆発したピンサ佐藤も不発。前衛は不慣れなポジションなため、苦境に立たされると単調になってしまった。
門脇は「ここまで守り重視の練習しかできなかった。その守りは十分機能し、練習の成果は出たと思う」と前向きだった。確かにバックは一応新潟国体の優勝メンバーだし安定感はある。安重も梅津も好サーバーなので貴重な得点源のはずだが、まだピンサと交替している状態であり、「今までが底、チームとしてこれからどんどん上がっていく」

「今回の監督を二期目とすると、一期目は自信がなかった。何か周りの目が凄く気になっていた。選手が大人だったので勝てた。今は色々経験してきたことを自信持って選手たちに言うことができ、選手も付いてきてくれている」
久しぶりの監督として挑んだ全国大会は「突っ立ってるので試合後に疲れがどっと出る(笑)」と話していたが、新ルールを有効に使い、このスタイルを通していく。

今大会は首都圏ということもあり、現地で多くの声援をいただいた。リコーグループ3チーム出場ということもあるが、関連会社、出向中のバレー部OBやRI勝田バレー部の方など、応援が凄く励みになったのは間違いない。
来年の実業団は地元宮城県仙台市。より多くの声援に応えなければならない。

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仙台では連続降雨記録を83年ぶりに更新する36日間という異常天候だったが、厚木市もまだ9月初めなのに宮城と変わらぬ涼しさ。今年もリコーグループカップが開催された。
RI東北はRI勝田、リコーをストレートで下したものの、時間が押したためリコー沼津戦は1セットマッチとなり、控えメンバー中心とはいえ18−21で落とす。セット率の差でRI東北が3連覇を達成したが、やはり負けるっていうのは気持ちいいものじゃない。更なる底上げが必要だ。

((( Idle Talk )))
RI東北とリコーの試合の主審を務めたのがRI勝田の島崎監督。何でも9人制特別A級審判取得に向け、実践を踏まなくてはいけないらしい。
それにしても自身は選手、しかも今回は専門のバックではなくセッター、そして監督、そして審判(テーピングしながらのジャッジに熱情を感じる)と、いったい何刀流なんだ?
「いやー、試合後の審判だとつい選手目線になってしまう」と島崎審判、サーブが主審に当たり、ネットワイヤーとボールの間に指が挟まってかなり痛そうにする場面もあったが、滴る汗を拭いながら奮闘していた。


・ステップ バイ ステップ

総合県予選はNittoと対戦、第1セットは2点に抑えて圧倒、第2セットは17タイから4点連取でストレート勝ち。ただし東北ブロックは3枠あるらしく、参加したのは宮城の2チームだけ…ということで負けたNittoも出場できる。
そしてここでまた現役復帰を果たしたのが宮城国体優勝メンバーでもある遠藤。短期間での仕上がりに「やはりモノが違う」と門脇。それでも最初は両腕全面が内出血で真っ黒になっていた。
門脇の依頼による復帰だろうが、受ける方も受ける方だ。またこんな厳しい環境に身を置くなんて…バレー部を愛すればこそか。家族もいるし、もちろん周りの理解・協力があってできること…そこは感謝しかない。
とりあえず任期は今シーズンのみらしいが、優勝を義務付けられた中で猛烈に練習してきた経験が生きるだろう。

10月1週目、V9チャンプリーグ入替戦出場チーム決定戦が埼玉県加須市で行われた。またまたここで現役復帰を果たす選手がいた…それがセッターの工藤。最近まで派遣先のリコー沼津で現役を続行しており、全国大会にも出場していた。
しかし工藤曰く、「東北と比べると、練習の質や量とか…もう全然違う」。つまり、東北じゃハンパなことはできない…工藤も復帰にはかなりの葛藤があったことが伺える。ただ、他の現役選手もベテランの領域になりつつある中で頂点を目指すというのは、望んだわけじゃないけど新たなモデルケース?になるのかもしれない。
「やるからには勝つ」…勝負師の目が輝く。

試合は予選リーグの造幣局、富士通小山を共にフルセットで破り、決勝はリコーと公式戦初対決。
絶対に負けられない相手に対し、12点と11点に抑えて快勝、気迫が上回った。工藤もフル出場ではなかったが、技術はまだまだ健在。石川や熊谷のトスアップは、セッターの良し悪しというよりも、攻守のメンバーが減ることの方が大きなデメリットだった。そこで専門職の選手が復帰となれば心強い。
それにしても次々復帰させる門脇の敏腕ぶりは、凄いの一言に尽きる…

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日本無線戦、遠藤のフォロー。=RI東北体育館
10月3週目、ZAOカップがRI東北体育館で行われた(4チーム参加)。最近は白石の体育館を使用していたが、東京オリンピックに関する合宿等々で借りられない状況になってしまった。なおこの大会はV9チャンプリーグ入替戦と共催となる。
観戦者が「遠藤君が出るってんで観に来ました」とか、「工藤君は? まだ出ない?」とか、復帰姿を懐かしんでいた。
初日の予選リーグ最終戦(第6試合)でサンデンHDと対戦、この試合がV9チャンプリーグ入替戦として割り当てられた。

V9チャンプリーグでサンデンHDが最下位となったため実現。この話は相手側からあり、昨年は対戦が決まってから会場を押さえるのに四苦八苦したらしく、もともと対戦日が決まっていたZAOカップで充当できるならということだった。こちらはホームで戦えるし快諾。
でも…これが中部徳洲会と対戦することになったら、要項上ではたった1試合を沖縄まで行って戦わなければならないことになる。「もし沖縄になったら? 棄権かな(笑)」

そのサンデンHD戦、第1セットは白熱の展開、終盤まで予断を許さず18−20からサンデンのブロックオーバーネットと強打ネットで追いついた。しかしここで付け込めず、サンデンライトのフェイントとサンデン時間差でセットを失ってしまう。
第2セットは2−6からの追い上げ、永井のサーブで崩し工藤ダイレクトで12−11と逆転。だが強かさではサンデンが上回り、即座にサービスエースを絡めて13−16と離され、そのまま逃げ切られた。
V9チャンプ最下位と言っても全日本実業団では準優勝のチーム。試合運びのうまさに屈した感じだが、それにもましてサーブカットが上がらなかった。絶対勝つという意気込みも負けていたかもしれない。
観戦していた関係者は「工藤はやっぱりパスじゃなくトスになっているね」と評価していた。「デュースでどうやって勝ち越すか、そこで大事になってくるのが基礎。強いチームはそこがしっかりしているから重要な場面でミスが出ない。結局はそこに立ち戻ることになる」と門脇。

翌日の決勝トーナメント、大型台風接近に伴い空路が欠航となってしまったため、西からお越しの審判員は新幹線で帰路についた。また、予定していた3位決定戦も中止とした。
試合は横河電機をストレートで下し、決勝はサンデンHDを破って勝ち上がってきた日本無線との対戦。RI東北は2セットとも後半に一気に突き放して勝負を決め、ストレート勝ちで予選3位から大会連覇を果たした。佐々木のサーブが猛威を振るっていたが、工藤効果で厳しい場面でも速攻が決まったのが大きかった。
また最終盤のラリーでは、決まらなくても工藤はレフトの佐藤へとことん上げていた。セッターの意志が感じられた場面であった。「昨年も優勝して手応えを感じたが、そのあと落ち込んでしまった。今年はここから更に完成度を上げて、スパートをかけていこう」と、コーチの渡辺。
確実に段階は踏んできている。さあ、全国大会にチャレンジだ。