4982年―――。
オッツ・キイム全土を支配しようとしていた邪神竜ディアボロスは、たった一人の少年によって倒された。
少年の名はザード。当時、わずか7歳という幼さであった彼は、神と精霊、妖精から祝福を受けた者だった。
4992年―――。
復活したと噂されるディアボロスに、英雄ザードが殺される。
享年18歳。
何故、殺されたはずのディアボロスが甦ったのか。
ザードが、一度は倒したはずのディアボロスに敗れ去ったのか。
真実は、誰も知らない。
そして、4993年――――。
一人の少年が旅に出る。彼の名はウリック。
英雄ザードの仇を討つべく旅に出た彼は、ザードの妹・イリアの男装した姿だった。
(ザードとイリアは血は繋がっておらず、関係は養父と養女のようなもの…兄妹ですが)
旅に出てすぐ、ウリックはシオンと名乗る少年に出会う。
魔物に襲われているところを救ってやったというのに、感謝の念すらないという我儘・傍若無人ぶり。
その上、彼はブリアー大陸にある法力国家・アドビスの王子だと言う―――。
アドビスの「憲法152条」にのっとり、受けた恩は返す―――という事で、シオンがウリックの旅に付いてくる事になった。
シオンの呆れるような態度にうんざりしかけるウリックだが、彼の優しい一面を知り、ウリックもシオンに心を許すようになっていく。
旅の途中、妖精・レムと出会い彼女も旅の仲間として加わる事になる。
しかし、レムから聞いた英雄・ザードの姿にウリックは愕然とする。
レムは、ザードは強く、ディアボロスを倒したのだという。
しかし、ウリックの知るザードは優しい青年で、小さな虫すら殺せないひとだった。
ザードはディアボロスを倒したのではなく、「魔物と人、そのどちらもが共生できる世界を作ろう」と約したと語った。
己の信頼していた兄・ザードの姿が偽りであったのか。小さな疑念がウリックの胸に湧いた。
そんな中、家出同然に城を出ていたシオンとともに、ウリックは強制的にアドビスへと連れて行かれる。
シオンが本当に王子であった事実に驚きを隠せないウリックだが、さらにそれを上回る衝撃がウリックを襲う。
それは、兄・ザードに対する人々の思念だった。
あるものはザードは英雄―――神だと言う。
あるものはザードは殺戮者―――悪魔だと言う。
信じていた兄の姿が壊れ、ザードを信じられなくなったウリックにシオンは言った。
「一回しかザードにあった事がない奴らになんか惑わされるな。あいつを一番知っているのは弟のお前だろう」と。
シオンの言葉に励まされ、ウリックはもう一度、ザードを信じる事に決める。
アドビスの城に戻ったウリック、シオン、レム。
シオンの父であるアドビス王と面会を果たすものの、また一つの疑念がウリックの胸に生まれる。
それは、父であるはずのアドビス王の、息子シオンへの接し方だった。
いくら王と王子とはいっても、王とシオンの様子はおかしいのではないか。
しかし、そんな疑問を口にする前に、王がウリックに語った事実に騒然となる。
それは、ザードがシオンを訪ねにアドビス城によく訪れていた、というのだ。
シオンとザードが知り合い立ったことを知らないウリックは、憤然とシオンに詰めかかるが、あっさりと誤魔化されてしまう。
(ちなみにこの事実は終盤近くまで忘れ去られる事になる…ウリック、頭悪すぎ…)
それはさておき、(いいのか…)次の日、ウリックはアドビス王からシオンをどう思っているかと尋ねられる。
我が侭さには困るが、冷静さと判断力を備えた、頼りになる仲間…と思ったままを述べるウリック。
それに対しアドビス王は、シオンは賢い良く出来た…良く出来すぎた子だという。
親であっても時々シオンのことが理解できなくなる…しかし、そう育てたのは他ではない自分なのだと。
「ザード」から「シオン」へ対象を変えたウリックの疑念に、城のばあやが一つの鍵をくれる。
それは、シオンの出自にかかわるものだった。
法力国家・アドビスに生まれた―――魔法使い・シオン。(シオンは魔法使いなのです…)
いまだかつてないこの事実に、誰もが疑念を抱いたのだという。
シオン王子は本当に、アドビス王の子なのか―――…。
(作品中に母であるアドビス王妃は一切登場しません…)
己の存在意義に悩むシオン。魔法使いである自分がアドビスの王となれるのか。
そんなシオンにウリックは何でもないことのように告げた。
「シオンは、シオンだよ。シオンならいー国、作れるよ」
シオンの遠い昔に凍りついた心が、ウリックの純真な心に救われていく―――。
ディアボロスへの道を求め、アドビスから基盤の神殿に来たウリック、シオン、レム。
神殿にある7つの聖石のひとつ、「基盤の水晶」ならば、11年前の本当の事実を知っているのではないかと。
「水晶は選ばれたものの問いにのみ答える」と言う伝説に期待を寄せるウリック。
それに対してシオンは「伝説なんていうのは人々が勝手に創り上げたもの」とハナから信じない構えだ。
ところが、ようやくたどり着いた先にあった「基盤の水晶」はウリックの問いには答えずシオンに対して語りかける。
「私は、世界の基盤。そうして、基盤なるものを待っていた…」と。シオンこそが水晶に選ばれた存在だった。
『自分が本当にアドビスの王子なのか』と疑問をぶつけるシオンに水晶は溢れんばかりの答えを示す。
それは、彼が求めていたもの、ディアボロスへの道、そして―――オッツ・キイムの未来。
デイアボロスへとたどり着く道を得て、すぐにでも向かおうとするウリック、レム。
だが、シオンは「甘い考えでは奴は倒せない」とウリックの気持ちを一刀両断。
「ディアボロスなんかどうでもいいから、一緒にアドビスで暮らさないか」とウリックを誘う。
しかし、シオンがやめても、一人でディアボロスを倒しに行くというウリック。
ウリックの強い意思に触れ、シオンも最後まで付き合う事を決意した。
西のイビス草原。二つの月が重なる刻、異世界への道は開ける―――。
思いの丈、全てを賭け、3人は異世界へと旅立った。
>>以下は完全にネタバレであります…。私としてはあとは本で確かめてっ!!と言いたいところですが、
とりあえずはラストまで書いておきます…(Ctrl+A 等、反転させてお読み下さい)
たどり着いた異世界。とても人間が暮らしていける場所ではない世界に来て初めて、ウリックはシオンの真意を知る。
異世界に来る事を止めたのは、仇討ちがどうでもよくなったからではなく、ウリックの身を案じて制止したシオンの優しさなのだと。
いつも助けてくれる、優しいシオン。そんなシオンをウリックは欺きつづけてきた。
それは、自分が女だという事実。女嫌いのシオンに嫌われたくないために、どうしても今まで言い出せずに来たのだ。
しかし、ここまで来てシオンにウソを付き続けることに罪悪感を感じたウリックは、正直に自分が女である事を告げる。
驚愕するレムだが、シオンは驚きもしない。「信じてないの!?」と怒るウリックに、シオンは一言。
「(女である事を)最初から、知ってた」
何故…と詰め寄るウリックをさらっと誤魔化すが、逆に裏目(?)に出て、話はザードとシオンが知り合いだったことにまで及ぶ。
話す事をためらうシオンだが、塞ぎ込むウリックを見て、ぽつり、ぽつりと話しだす。
誰もが理解しようとしなかった自分を、ザードだけが理解してくれた事。
そんなザードに嫉妬しつつも、彼を尊敬している事。
そして、ザードが残してきた妹(ウリックのこと)のことをシオンに頼んだという事。
ザードは妹を守れ、といいながら、その実はシオンを世間に触れさせようとしていた事。
シオンからザードの姿を聞かされ、ウリックはやっと自分の知っていたザードの姿を信じる事が出来る。
そして逆に、何故男装をしているのかと問われ、ウリックは答える。
「強くなれば、男になれば、(ザード)兄さんを守れたかもしれないから」
そのむちゃくちゃな理由にシオンは呆れ果てるが、同時にその素直さと実行力に惹かれる。
シオンに『馬鹿』とののしられ落ち込むウリックにシオンが告げる。
「この旅が終わったら、イリア(本名)に戻って、またいっしょに旅をしよう」と。
だが、その夢は、叶わないまま終わる。
ウリックたちがたどり着いた先にあったものはディアボロスの死体。
そして、彼らを待っていたのは赤い仮面をかぶったイ―ルズオーブァという人間の男だった。
イ―ルズオーブァはザードの剣を持っていた。
彼が、ザードを殺したのだと知り逆上するウリック。イールズオーブァに殴りかかるが、あっさりと叩きのめされる。
そこで初めて、ウリックは自分とイールズオーブァの力の差、そして戦う事の恐怖を知る。
死に対して恐れ、立ち上がれなくなったウリックを守るため、シオンはウリックとレムを逃がし、一人イールズオーブァに立ち向かう。
イールズオーブァとシオンの魔法はほぼ互角。だが、シオンには魔法を使うたびに身体に負担がかかるというハンデがあった。
何故、人間のくせにこんな異世界に閉じこもって、人間を滅ぼそうとしているのか。
シオンの問いにイールズオーブァは答えた。
「やがて、人間たちによってオッツキイムは滅びるからだ」と。
それは、基盤の水晶がシオンに告げたオッツキイムの未来でもあった。
だが、シオンは「魔物と人が共生し、調和の取れた世界を作る事で滅びを逃れる」という夢物語のような道を信じようとした。
それは、シオンがウリックの純粋さに惹かれた証でもあった。
お互いの譲れないものを賭けて闘うシオンとイールズオーブァ。
そこへ、恐怖に震えていたはずのウリックが戻ってくる。「死ぬ事は怖いけれど、シオンを失うよりはいい」と言って。
シオンの中でウリックの存在がかけがえのないものとなっていたように、ウリックの中でもシオンの存在は何よりも大切なものとなっていたのだ。
しかし、イールズオーブァの攻撃は凄まじいものとなっていた。
イールズオーブァは人智を超えた魔法で強大な魔物へと姿を変え、3人を殺そうとする。
「もう、人と人が殺しあうのは嫌だ。誰が傷つくのも見たくない」と泣くウリックを、イールズオーブァの一撃が襲う。
その瞬間、シオンはウリックを守るため己の命と引き換えに、最期の魔法を放った。
凄まじい魔法の威力に倒れるイ―ルーズオーブァ。しかし彼はまだ死んでいなかった。
シオンを失う事への恐怖とイールズオーブァへの怒りで我を忘れ、ウリックはイールズオーブァにとどめを刺す(かのように見える)。
だが、イールズオーブァを倒してもシオンの死へ向かう道行を止める事は出来ない。
悲しむウリックに、シオンは最期の言葉を残す。それは、自分自身とザードとの思い出だった。
アドビスに魔法使いとして生まれた王子。
本当に血の繋がった父親からも、城の兵士や忍たちからも、冷たい目で見られていた。
だから、自分をまわりに認めさせるには、完璧な王子を演じるしかなかった。
そうして、完璧な王子を演じるうちに、自分自身の感情はどこかへ捨ててきてしまった。
そんな自分に、城のばあやが言った。
「自分の気持ちに…感情のままに…素直であってくだされ… でなければ いずれわからなくなってしまいます」
その言葉の意味、何故ばあやが心配するのか、その時の自分にはわからなかった。
そんな中、自分はザードと出会った。
ザードは、妹の話をしてくれた。
それは、たわいもない童話を読んで泣く少女の話だった。
何故そんな童話を読んで泣くのか、自分にはわからない。
そんな童話を読んで泣く彼女の気持ちを理解するのが怖い。
それこそが、今まで自分が無理をして生きてきたことの証拠でもあった。
ザードが妹を自分に託してこの世界から消え去り、そしてザードの妹・イリアと旅をして。
今まで見えていなかったことがようやく見えてきた。
ザードの気持ち。
ばあやの気持ち。
自分自身の、気持ち。
それは、すべて彼女―――ウリックと出会えたから。
シオンと一緒に異世界に残ると言うウリックにシオンは優しく言った。
これからも旅を続けてくれ。
お前のこれからの時を素晴らしいものに。
イリア、生きてくれ―――…と。
二つの月の見下ろす中。
シオンは13年という短い生涯の幕を下ろした。
と、まあ後半がやけに長いような気もしますが、私の想いの入り具合と言う事で。(^_^;)
いや〜、全然伝えきれてないような気もしますが、いい話ですよ〜。ともかく読んでみてくださいな。
御覧のとおりハッピーエンドではなくて、その事についてはいまだに私、根に持ってるんですが、その話の続き(その後の
イリアとレムの旅について)は、Gファンタジー(エニックス刊)で連載中の『刻の大地』<1〜8巻・GGC、9〜10巻GFCにて
刊行中>という作品で読めます。
|