陽射しのまぶしい、とある日の午後。
結は待ち合わせのテニスコートで、大きく手を振った。
「あ、きたきた、愛ちゃーん!」
結、春菜、レイコ、アキコがスコート姿で身体を動かしているところへ
愛がラケットを抱えて小走りにやってきた。
「遅れてごめんなさい」
「ううん、あたし達も今来たとこよ。」
「結が遅刻したからね〜。」
「だって、ラケット忘れて取りに帰ってたんだもん〜!!」
「普通、テニスに来るのにラケット忘れるぅ?!」
「時間がなくてあわててたのよ〜」
「なんだどっちにしろ遅刻しそうだったんじゃない。」
みんながあははと笑った。
「篠崎さん、病院に寄ってたんでしょう。おばさまの具合、どうだった?」
春菜が気遣う。
「ええ、順調に体力が回復すればもうすぐ退院できるって」
「そう・・!よかったわね、篠崎さん!」
「ありがとう・・」
『愛ちゃん、明るくなったよね・・よかったね。』
春菜の言葉に表情をゆるめる愛を見て、結もうれしくなった。
「あの子、ちょっと雰囲気変わったね。前はもっときつい感じだったけど、
なんか明るくなったっていうか。」
レイコが結の横で同じことを言った。
「みんなそろったし、はじめようよ!」
「今日はコムネットじゃないから時間がもったいないしね。」
「でも今はコムネットも同じ時間なんでしょ?こないだの騒ぎでさ。」
コムネットは先日のバグルス騒ぎでやむをえず現実世界との時間の比率を1:1にしてから
元の1:256に戻す作業を進めていたが、バグルスは消滅したものの
ネット内や現実世界の混乱を収めるのに意外に手間がかかり、一時的に一部のネットを
閉鎖しながら調整を続けている状態だった。
しかし犬養博士の話ではまもなく調整は終了し、コムネットは元のように高速化
できるとのことだった。
「あの騒ぎの時、大変だったのよねー。」
「そうそう、あたし達、学校に閉じ込められちゃってさあ・・。」
「ああ、そう言えばなんであの時、レイコやアキコは学校にいたの?」
結が首をかしげて聞いた。
春菜は、あ、と困った顔をして言った。
「結ちゃん、まだ聞いてなかったの?」
「何を?」
「私たち全員、今度の演劇部のお芝居に出演することになってしまったの。その話
でまなみ先生に呼ばれたんですって。タカシ君が言ってたわ。」
結は思い切りのけぞった。
「えぇえーーーーー!!またなのぉ??」
「うん・・。ヒデト君は張り切ってるけど、私あんまり自信ないなぁ・・。」
「あたしだって。でも結は前にも出てるから大丈夫だろ。今回も主役だって。」
「えぇえぇえぇーー!!そんなぁ、あたしだって全然大丈夫じゃないわよぉー!!」
結は再びのけぞり、そのまわりの3人は憂鬱そうに、はあ・・とため息をついた。
と、ずっと黙っていた愛が口を開いた。
「何を演るの?」
その声に4人ははたと、愛がバックスクロール学園の演劇部の部長であることを思い出した。
「まだ決まっていないらしいの。」
「そういえば篠崎さんは演劇部だったよね。」
「前の公演すごかったよね。結と二人でやったやつ。」
「わたしあんな風にはできないなぁ、考えただけで緊張するもん・・・。」
アキコはおおげさに身震いする。
「大丈夫よ。緊張するのは誰でも同じ。大勢の人の前に立って演技をしないと
いけないんだもの。でもそれを乗り越えたら、だんだん楽しめるようになるわ。
そして自分の中に誰も知らなかった新しい自分を発見できるの。もちろんそれまで
いろいろ苦労はするだろうけど、きっとお芝居が好きになれると思う」
「・・うん、そうよね!」
まっさきにうなずいた結に続き、春菜、レイコ、アキコも表情を明るくしてうなずいた。
「ね、愛ちゃん、また今度もお芝居の事教えて!みんなにも!」
結が身をのりだして言った。
「それいい!」
「ほんと、素敵だわ」
「お願い、篠崎さん。」
口々に賛成する3人に愛はとまどった顔で、それでもうなずいた。
「・・私でよければ・・」
「やったぁ!」
「ありがとう、篠崎さん。」
愛は少し頬を染めてうつむいた。
「さてと、はじめますか。」
アキコとレイコはラケットを手に取った。
「うん!」
「最初はダブルスね。私が始めに審判をするわ。」
一人余るのに気がついた春菜がすすんで申し出た。
「じゃあ、一緒に組まない、篠崎さん。」
「ええ」
「そんじゃあ結、いこう。」
アキコが愛を、レイコが結を誘ってコートに向かう。
「よ〜し、いくわよ〜!」
ぶんぶんとラケットを振り回して結はやる気十分だ。
「でもそういや結って、たしか前に篠崎さんに負けてなかったっけ?」
「そうだったわね、結ちゃん。」
「ぐっ、・・あれはゲームよ!でもゲームでは負けたけど、本物だったら負けないんだからね、愛ちゃん!」
「望むところよ」
二人はネットを挟んで微笑みあう。