だって、やだもん


結はおもむろに机の前に座り、パソコンのスイッチをオンにした。
キーボードのホームポジションに指を置き、しばし考え込む。
「うーん・・」
つぶやきながらぽつぽつキーを打ち出した時、
「ユイ殿〜」
突然画面にIRが現れた。
「うぅわあ!・・な、なんだ、IR。突然出てくるからびっくりするじゃない!」
「おや、勉強中でありまするか?」
「宿題なのよ。まなみ先生ったらね、いきなり『今日の宿題はお・も・い・で・よ〜』なんて言い出して・・」

学園のスクリーンに突然現れてみんなの度肝を抜いたアジアのお面は、まなみ先生の思い出の品だという。
紛失していたものを、最近偶然コムネットで見つけたらしい。
『まなまなのぉ、青春の思い出なのよぉ、うふ。みんなも、大切な思い出ってあるでしょう??
そうだわぁ、みんなの思い出も、まなまなに聞かせてほしいな〜!ねっ?と、いうわけでぇ〜』
宿題と相成ったのだった。

「でもね、普通の思い出じゃなくて、コムネットでの思い出なんだって。でもコムネットの思い出っていうと、
どうしてもコレクターの仕事とかにつながっちゃってうまく書けないのよね・・。」
はあ、と結は頬杖をついた。
「コムネットでの思い出っていったらIRやシンクロやコレクターズのみんなのこともいっぱい
書きたいことあるのに、何にもかけないじゃない。」
「結殿はコムネットで世界一周しているではないでありまするか〜」
「あの時の事はもう遠足の作文で書かされたわ。それに、あの時だってバグルスが発生して、
大変だったじゃない!」
「そうだったでありまするな。結殿がコレクターであることは秘密でありまするから・・。
それに身供達の記録も厳重に管理されておりまするし、写真も・・」
「あれだもんねー・・」
結は自分にモザイクがかかっている映像を思い出した。
「むー、あれじゃあたしの活躍が台無しだわ。みんなだってそうよ。せっかく活躍してるのに
なんとかならないものかしら・・・そうだ!いいこと考えた!」
「何でありまするか、結殿。」
「記録がないんなら、作ればいいのよ!」
「ぎ、偽造でありまするか〜!結殿それはいけなぁいでありまする〜。」
「んもー、違うわよ。私が、みんなの活躍を絵に描いてあげるの!絵だったら
モザイクもかからないでしょ。」
さっそくお絵描きツールを起動する。
「なるほど、そうでありまするな。しかし結殿それは学校には・・」
「だいじょうぶ、宿題じゃなくて、コレクターズのみんなに見せてあげるだけ。
思い出のアルバムみたいなものだもん。」
結はすらすらとペンを走らせる。
「これは・・身共?もしや結殿と初めて会った時のことでは?懐かしいでありまする〜!
・・おや、こっちは結殿でありまするか?」
「そうよ。」
「少し・・目の中に星が多すぎなのでは・・」
「いいのよ、このくらいでちょうどいいの!・・できたわ!次、次。次はワンちゃんと初めて会った時よ。」
楽しそうに、仲間のコレクターズからかつて戦ったバグルスまで、どんどん描いて行く。
「さすが結殿、漫画家志望なだけあって、書くのが速いでありまするな〜。」
「そうよ、超売れっ子漫画家になって週3本の連載を抱えるようになるんだから、
このくらい速く描けるようにならなきゃ!さて、次は・・・」
結の目が夢見るような輝きを帯びてきた。
「そうそう、これこれ!」
結が描き出したのは、ふりふりなレースいっぱいのドレスを着た結自身だ。
片手にマイクを持って、もう片方の手にはペンを持ち、足は長くウェストは細く描かれている。
「♪きんようろくじになぁったら〜」
鼻歌まで歌い出した。
IRは結の絵を覗き込んでおや、と思った。
「結殿、これは・・」
「あ。た。し。春日結よ!」
背景に大きな虹を描き、その周りに星をたくさん散らせる。
「星は目の中だけではないのでありまするな・・」
「いいんだって!あたしが輝いてる時なんだから、星だって月だってなんだってあるの!」
「しかし、結殿、これはあのバグルスの作った偽の世界のことでありまするよ。そんな偽の
世界のことを懐かしく思うなんて、結殿らしくなぁいでありまする〜。」
「ふふん。いいのいいの。」
結は鼻歌を歌いながら描き続ける。
あんまり結が楽しそうなのでIRは少し不安になった。
まさか、あのままバグルスの作った偽の世界にいれば良かったなんて考えているのではないとは
思うのでありまするが・・

「できた!!」
結はアイドル姿の自分を描きあげた。
「見て、IR、声優漫画家アイドル、春日結!」
「結殿、もしや、あのままの方がよかったなんて考えているのでは・・。」
結は心配そうなIRを見てきょとんとした。
「何言ってるのIR?そんなわけないじゃない。あたしの夢は、あたし自身がかなえるの。
バグルスが作った世界なんていいわけないもの。」
「で、ではその絵は?」
「あたしの、未来の姿よ!」
結は、誇らしげに絵をかざしてみせた。そしてこぶしを握って、元気良く宣言する。
「見ててIR、あたし絶対、こうなってみせるから!目標よ!」
「結殿!それでこそ、結殿でありまする〜!」
やっぱり結殿はいつも前向きが一番でありまする!

こぶしを握ったまま、ふと結は首をかしげた。
「そういや、IR、なんか用事があったんじゃないの?」
「あー!忘れるところだったでありまする〜!レスキュー殿から、お茶会の招待状を
預かってきたでありまするよ。」
「わあ、やったぁ!じゃあそれまでに絵を仕上げて、みんなに見せてあげようっと!!」
「それはそうと結殿、宿題は・・・」
「期限はまだだから大丈夫。これを描き終わったら書くわよ。」

・・・少し、前を向きすぎるような気もするでありまするが・・。

結殿、目の前が見えていなぁいでありまする〜