アイのテーマ


「ええい、一体どこにいったんだ!!ユイー!!」
「どこへゆく、シンクロ!」
「シンクロ殿、ばらばらになるのはまずいでありまする〜!」
「だからといってじっとしていられるか!」

ユイがいなくなった途端に落ち着きをなくしたコレクターズを尻目に、
アイは闇の中で暗視を続けていた。
しかし、この空間一帯に他に動くものは存在しない。
そしてコレクター・ユイとコレクター・ハルナの姿も見当たらない。
目は役に立たないということか・・。
アイはバイザーを暗視モードから分析モードに切り替える。

「おい、コレクター・アイ、貴様よく落ち着いていられるな!」
オオカミ男姿のコレクターがかみついてきた。
「・・静かにして」
「なんだと!!」
「やめろシンクロ!」
「この状況であせって動いたら余計に事態は悪化するわ」
「ああ、そうかい、じゃあお前ならどうするってんだよ!」
「シンクロ!」
自らリーダーを名乗るコレクターが制止した。
「そうだよな、もとからお前は俺達の仲間じゃなかったよな!」
彼は捨てぜりふを吐くと他の者に連れられていった。

アイはバイザーに映る分析画面から目を外して、闇に溶けて行く彼らの背中を何も言わずに見送った。
そう。確かに私はあなた達の仲間じゃない。
だから冷静でいられるのかもしれない。
でも、今ここで騒いでいても二人は見つからないのよ、・・・
口を引き結んで画面に目を戻すと再び自分の考えを追った。

レーダーがバグルス反応だらけで中心を絞れないのはきっと、自分達がバグルスの作りだした空間内にいるからだ。
突然消えたあの二人も、別の空間に囚われているのだろう。
まずこの闇のバグルス空間をどうにかして、バグルスの中心をイニシャライズしなければ。
アイは、空間が闇に閉ざされる前に一瞬目の端で捕らえたバグルスの中心を思い出した。
『それ』の特徴に気付いてはっと息を呑む。
「もしかしてこの空間は・・」

その時、どん、と鈍い衝撃が闇に走った。
「・・っ!」
すかさずアイはバイザーを広角にして、急にめまぐるしく流れ出した分析画面を追った。
反応が左上方一点に集中している。
「そういうことか」
視線を据えたまま油断なく構える。

「な、なんだ?!空中に穴が!」
「強いバグルス反応ですぅ!」
「いるのか、ユイ、どこだ?」
「ワンちゃーん!」
「ユイ殿〜!」
「ユイちゃん、はやく!」
「ハルナ、後ろ!」

いまだ。
アイは空中に大きくジャンプした。
くるりと一回転して着地し、握ったワンドを頭上に振りかざす。
「コレクター、イニシャラーーイズッ!!」
引き絞った弓から矢が放たれるようにワンドを振り下ろした。
コレクターズが、背後からのイニシャライズに驚いて振り向いた。
しかしアイが狙ったのは彼らと全く別方向、バイザーの分析で、空間中のデータの移動が異様に活発になったと示した部分だった。
そこがバグルスが送り込まれてくる原点だからだ。
ワンドの先からうす緑の星が無数に飛び出し、闇の中の一個所に集中して次々にぶつかってゆく。
一瞬、闇が凍り付いたように静止したかと思うと、ぱあっと辺りが明るくなる。
そして空中に、伏せた体勢のコレクター・ハルナとそれをかばうように覆い被さるコレクター・ユイの姿がうっすらと現れた。
「ユイ!ハルナ!」
コレクターズが手をのばそうとする。
「イニシャラーイズッ!」
アイは彼らの方に向き直り、その周り全体にもう一度イニシャライズをかける。
二人を包んでいた空間が震えて徐々に消えて行き、コレクター・ユイとコレクター・ハルナはお互いかばいあったそのままの体勢でどさっと床に落ちた。

「ユイ殿!ハルナ殿!」
「大丈夫か?!」
「みんなぁ!あ、痛たた、腰ぶつけちゃった・・ハルナ、大丈夫?」
「ええ・・大丈夫です。」

アイは二人の無事を肩越しに確認した。
思った通り、二人が捕まっていた空間は今居る闇の空間の内側に存在した。
入れ子構造になっているのだ。
あのバグルスの中心はいくつも入れ子空間を作り出し、常にバグルスを送り込んで空間を成立させている。
だからこの空間を抜け出すためにはバグルスが送り込まれるのを止めなければならない。
問題はそれがどこなのか、だったが・・。
今、彼女らの働きでそのうちの一つの空間が消滅しそうになったため、その空間を再び維持するためにたくさんのバグルスが送り込まれてデータのトラフィックが増加した。
おかげでバグルスが送り込まれる原点ポイントが特定できたのだ。

あの二人がおとなしく捕まっているとは思わなかったけど。
「心配しただけ損した気分ね・・」
皆に背を向けたまま、我知らず呟く。
その口元はかすかに緩んでいた。

「再会を喜び合ってる暇はないわ」
アイは振り向くと彼らに言った。
「この空間もすぐにまたバグルス化する。元から叩かなければダメよ」
レスキューと呼ばれている女の子のコレクターが頭上のレーダーを確かめる。
「まだバグルス反応があるわ。でも、全体に反応があって、中心を特定できないんですぅ。」
「バグルスの中心は、外に居るわ」
「外〜?!」
皆がぽかんとした時、急にまた闇が濃くなってきた。
またバグルスに感染しつつあるのだ。
「なんかわかんないけど、わかったわ。まだおわってないってことよね!」
コレクター・ユイが勢いよく立ち上がった。
それを見て他の者もうなずいて立ち上がる。
再びバグルスデータの流入量が増えてバイザーに反応が現れる。
右、仰角80度。
「いくわよ」
自分にいいきかせたつもりで、返事は期待していない言葉だった。
しかしすぐに後ろから元気な声がそれに応えた。
「オッケー!!・・さあみんな、びしっと決めるわよ!」
「おう!」
空間のバグルス化が進み、辺りの闇は急速に復活してきている。