味料


「ねえ、結ちゃん。」
香り立つ紅茶の入ったカップを手に、レスキューが声をかけてきた。
「んー?なあに、レスキュー?」
あたしもカップを手にしてふうふう冷ましながら答えた。

レスキューは紅茶を入れるのがとっても上手だ。
あたしは春菜みたいに紅茶がダーリンだとかセーロンだとかはさっぱりわかんないけど、レスキューが入れた紅茶は美味しいってことだけははっきり言える。
それにレスキューはお茶を入れてくれるタイミングがすごく良いから余計に美味しく感じるのよね。
今も、気晴らしにチャットルームに来てみたのに他に誰もいなくって、ちょっと寂しいなって思ってたら、いつのまにかお茶の準備をしてくれて。
そう、いつもだったら他のコレクターズも2,3人はチャットルームにいるんだけど、今日は珍しくレスキューしかいない。
みんな自分のネットのお仕事が忙しいんです〜とレスキューは言う。
あたしだって今の今まで山のような宿題で大変だったんだから、ってすこしむくれながら、
そういえばレスキューはお仕事忙しくないの?って聞くと、レスキューはとってもうれしそうに笑ってこう言った。
そうなんです、良い事でしょう〜?
確かに、看護婦のレスキューが忙しかったらそれだけ怪我や病気で苦しんでる人が居るってことだもんね。
あたしは自分だって暇じゃないってことをアピールしようと思ったのが恥ずかしくなった。
それで、ホントは宿題も終わって他に予定もなくてシンクロでもいないかなと思って遊びに来ただけだったから、 レスキューとのんびりティータイムを楽しんでいたところ。

カップを両手に包み込むように持って、レスキューはいつもの調子で聞いてきた。
「結ちゃんはシンクロさんの事、どう思ってるんですか〜?」
ぶはっ。
口をつけたカップに思わず空気をおもいっきり吹きこんでしまった。
「大丈夫結ちゃん、ちょっと熱かったかしら〜?」
「あぁ、ごめんレスキュー、熱かったんじゃないのよ!・・だって急に変な事聞いてくるから。」
「あらあ、でも一度聞いてみたかったんですぅ、結ちゃんが私達ソフトの事をどう思ってるのか。」
顔を拭くタオルを差し出しながら真顔で言う。
ん、とあたしは受け取りながら考える。今レスキューは私達って言ったわよね。
「そりゃもちろん、みんなあたしの大事な友達だし仲間だと思ってるわ!」
「じゃあ、シンクロさんもお友達ですか?」
うっ。
やっぱり全員の事を聞いてるんじゃないんだ。
「なななな、なんでシンクロに限定するの?」
「だって、シンクロさん、結ちゃんのこととっても好きみたいですもの〜。結ちゃんの方はどうなのかなって。」
「そりゃああたしだってシンクロの事は好きよ、だけどー」
あ。今あたしレスキューにつられて何かぽろっと言っちゃったような。
猛烈に恥ずかしくなったあたしは、照れ隠しにたまたま目の前にあった砂糖入れの角砂糖はさみを引っつかんだ。
「だけど?」
レスキューはひどく真剣な顔になって次のあたしの言葉を待っている。
そ、そんなふうに待たれるとプレッシャーというか、なんか困るんだけど・・・。
それでもあたしは自分でも何を言おうと思ったのかわからない言葉の続きを自分で探し始めた。

えっと、シンクロはね、そう、一番最後に仲間になったコレクターズだったのよね。
初めはワンちゃんだったんだもん。
でもそれはグロッサーに変えられてた姿で、あたしがイニシャライズして元の姿に戻った時、びっくりしたわ。
なんでびっくりしたかって?
だって、ちゃんと人間の姿だったし、背も高かったし足も長かったし、意外とカッコよかったから・・かな?
意外ととか言ったらシンクロ怒るかしら。
だって意外っていうか、元がワンちゃんだったからもっとごつごつしてるかって思ったんだもの。
あれ、元はシンクロなんだっけ。ワンちゃんの方が長かったからなんだかどっちが先かわからなくなってる。
そうそれで、あたしがコレクターを辞めて落ち込んでる時もなぐさめてくれたりして、すごくうれしかったわ。
優しいんだなって思ったの。
・・・!!あーっ、でもでもでも、あたしの憧れは瞬兄さんよ!
瞬兄さんってばすごくカッコイイし、足だって長いし、シンクロはよく怒るけど瞬兄さんはいつでも優しいし!!
でもシンクロが怒るのはたいていあたしが悪いのよね、
あたしのために怒ってくれてるってことはそれはシンクロなりの優しさなのかな、
そしたらシンクロもいつでも優しい事になるのかしら?
!!ううん、でも瞬兄さんは小さい頃から憧れでとっても素敵だし、頭も良いし!
そりゃあシンクロが素敵じゃない訳じゃないけど、あのしっぽだってふわふわで気持ち良くてすごく好きだったけど。
って、あれあたしまたワンちゃんとシンクロ一緒にしてる?
だって敵だった事もあったけどコレクターズとして一緒に戦ったのもワンちゃんだったし、人間姿も好きだけどワンちゃんも好きなのよね。
いいやシンクロはワンちゃんでワンちゃんはシンクロだもん、どっちもいたからどっちも素敵なんだから。
ええとそれで、なに考えてたんだっけ?

―――――ふと気づくと、レスキューがなんだかものすごくにこにこ笑っている。
あたしは不思議に思って、・・・そしてざざーっと血の気が引く音が聞こえたから多分真っ青になってたんだと思う。
「もしかしてあたし今の、口に出してた?!」
「えぇ、全部。」
ひょえー!!
「レスキュー!あの、その、つまり、」
今度は顔が熱くなったから多分真っ赤になってたんじゃないかしら?!
「ええ。わかってるわ結ちゃん、シンクロさんには今のは内緒にしときますぅ。」
「お願いよ〜レスキュー?!」
「は〜い!・・でもよかった。」
「何が?」
「結ちゃんが言わなかったから。」
「何を?」
「だけど、シンクロさんはソフトだから・・・って。」
「?シンクロがソフトなのはわかってるわ。どうして?」
「いえ、いいんです〜。」
レスキューは小首をかしげてにっこりすると紅茶のポットを手に立ち上がった。
あたしはなんのことかよくわからないまま、タヌキにつままれたっていうのはこういう時に使う言葉なのかしらって考えながらカップを持ち上げた。
「結ちゃん、紅茶注ぎましょうか?」
「え?ううん、まだ残ってるからこれ飲んじゃってからにするわ。」
あたしは少し冷めた紅茶を一口飲んだ。
「あ、あまーーーいっ!なにこれ!」
「ほら、やっぱり〜。結ちゃん気づいてなかったみたいだけど、さっき独り言言いながらいっぱい角砂糖入れてたから〜。」
「はやく言ってよレスキュー〜!!」

口に残った甘さはなかなか消えなくて、あたしはエレメントスーツのウェストがまたきつくなったらどうしようって心配になったけど、そうなったらその時はシンクロに責任とってもらおうって思った。
だってシンクロの話しててお砂糖入れすぎたんもの!
そうだ、シンクロがいつもやってる訓練に、あたしもダイエット代わりに混ぜてもらおう。
ほっそりしたウェストになるまで、毎日運動に付き合ってもらうんだから!
そしたら、たまには甘い甘い紅茶も悪くないかしら・・・って、そんな気になった。