(private: Edition Gaspard) MCD-2, 1986.9.?. (1986.8?)
- Wind 吉田美奈子, Aki (2'06")
- Christmas Tree 吉田美奈子 (7'38")
- Pavement of Light Minnie Shady, Aki, 吉田美奈子, Lynn Mabry (Lyrics translation) (2'31")
- Shadows are the Thoughts (of the Radiance) 吉田美奈子, Aki (7'11")
- Thanks to You Minnie Shady, Aki, 吉田美奈子 (1'54")
- Dreaming 吉田美奈子 (6'49")
- Lynn Mabry
- Bernard Fowler
- Bernard Davis
- Aki Ikuta
- Tamotsu Yoshida
- Hiroshi Yuasa
- Yuzo Toda
- Masanobu Tsuchiya
- Junko Terato
- Shigeki Miyata
- ONE
- On Associates
- Mr. and Mrs. Saito
- Shinro Otake
- Magnesium
- Dadaism
3000 枚限定の自主制作アルバム。1986 年 9 月リリース。未聴。ジャケットは、大竹伸朗の 1984 年作の木版画 (16 * 11cm) だそうである。ちなみに、大竹伸朗氏は、1955 年、東京生まれの画家である。筑摩書房の月刊「頓知」誌に、『覗岩テクノ』という連載を持っておられる。
サウンド & レコーディング誌のインタビューで曰く、-
S & R 「 Bells はこれまでにないアプローチで作られたアルバムといった印象を受けたのですが……」
吉田美奈子 「通常のアルバムには入らないような曲ばっかりなんですよね。短かったり、長かったり、すごくシンプルすぎたり……。一応スタイルとして、ゴスペルの様式を取り入れて作っているんですが、別にボクはキリスト教徒じゃないですから、あくまで音楽のスタイルとして取り入れているだけ。純粋に宗教をやってる方はそれなりに美しいものだと思ってるんで、バプティスト・チャーチへ行ったりするとそれが伝わってくるわけなんですよ。そういうパワーみたいなものをちょっとお借りして、尊敬しつつ作ったんです」
S & R 「音数が少なくて、シンプルなアレンジの曲が多いですね」
吉田美奈子 「だって、いらないでしょ。メインが肉声で息を使って、それが一番ですよね。声ってその人のブレスで、世界でその人しか持ってない、一番プライド持ってしかるべき、尊敬すべきものだと思うんです。それに対して、チャラチャラした音は、ボクの場合は頭に鳴らない。別に鳴らない音を無理やり入れることもないから、自然とシンプルになりました。声にはいろんな倍音があるから、それで十分というか。もう、うるさい音楽は作りたくないし。まぁ意図的にそういうふうにやることをありますけどね。メロディがあって、歌詞があって、歌があるんなら、回りの楽器は全部サウンド・エフェクトだというように考えているんです」
(サウンド & レコーディング誌 1989 年 5 月号, リットーミュージック, p.73)
朝日新聞にて-
吉田美奈子が四年ぶりの新作「ベルズ」を CD で出した。自主製作で枚数が少なく、宣伝も全くしていないが、「日本人が作った初の本物のゴスペル」と好評だ。
吉田はこの四年、レコード会社にもプロダクションにも属さないフリーの立場で作曲やプロデュース活動を続けている。「もともと、レコード作りの予算配分まで自分でやってしまうたち。自分の仕事に対する整理・管理の能力があって、自分のペースで仕事ができるから、レコード会社に所属する必要がないんです」
十四年前にデビューした時は「天才」と騒がれた。ブルースやゴスペル系の歌を歌わせたら、日本でこの人の右に出る者はいない。プロ歌手への歌唱指導の仕事も多い。だが、作詞・作曲からプロデュースまですべて自分でこなし、堂々と「あたしは歌がうまい」と言い切る自信のゆえに、「生意気」といわれることも多い。
「でも、あたしが作るよりもいいLPにしてくれるプロデューサーは少なくとも日本にはいないし、いい音楽的アイデアを持っている人も見当たらない」「日本は聞いた通り、覚えた通りにしか歌えない歌手ばかり。その時その時で歌い方が違って当り前なのに」
小気味良い言葉が次々に飛び出すのも、この人ならではだ。
CD「ベルズ」は昨年秋にできた。その時点では世界初の自主製作 CD だったが、ちょっとした事故で発売は今年に。ゆったりとうねるようなゴスペル調の「ドリーミング」、「日本人が作ったとは思えない」と評判の「ペイブメント・オブ・ライト」など、自作の六曲が収められている。
コーラスで参加したニューヨークの黒人シンガー、リン・メイブリー、バーナード・ファウラーは「今、黒人でも自分のルーツがうまく表せなくなっているのに、なぜミニー (吉田の愛称) から出て来るものがこうも黒人のものなの?」と驚いたという。
「最近の曲は黒人音楽も含めて生理的でなくなっている。でもあたしは生理的な曲しか書けない。それがいいのかも」。枚数の少ない自主製作盤であるのが惜しい出来上がりだ。
(ここから連絡先等。無用の混乱を避けるためにも以下省略)
(朝日新聞夕刊「芸能」 - 吉田美奈子が CD 自主製作 1986)
Mr. SIGA Tadasu saids:-
・リクルートの個人情報雑誌「じゃマール」(10/24号 関東地方でしか売っていないか)に「BELLSを2万円で欲しい」という広告が載っていました。その程度ですむなら自分も欲しいです。コレクター氏によると「桁が違う」とか…。
Mr OTSUKI Ippei said:-
この年 (1986 年) まで高松にいてその後私は神奈川へ引っ越すのですが
その下見で東京まで行ったとき、
どうしても Bells が欲しくてパイドパイパーハウスにいってやっと発見することができました。
このころのアドリブに通信販売で Bells を購入する方法が書いてあったのですが、応対が悪く購入できなかったことを記憶しております。
ちなみに定価は 3,000 円でした。
とある大手中古レコード店での本作の買い取り価格-
\15,000
*** 今回縁あって聴くことができたので、その印象をば。 ***
この 6 曲の作品集は、祈歌集である。スタイルに多少の違いはあれど、中身は同じだと思ってよい。それは Magma も Offering も Christian Vander Trio も等しく Christian Vander の音楽なのと同様である。驚くべきは Extreme Beauty, 1995, との類似で、こうなると、 Dark Crystal, 1989, Gazer, 1990, が壮大な迂回路ではなかったかと思われてくる。
編成は実にシンプルで、リズム・キープに徹したドラムスとベース、それにピアノのみ。ときおり、オルガンとエレピが入るのみで、あとはコーラスとメイン・ヴォーカルで押し切るという無比な手法が取られている。 LD や衛星放送でのライヴをみる限り、ライヴではこの手法を用いているが、スタジオ録音においてこのようなスタイルで成功することは吉田美奈子にのみ可能ではないだろうか。このコーラスは実に強力である。どれぐらい強力かというと、 Peter Gabriel 在籍時の Genesis の Tony Banks のキーボードなみである。Wind と Thanks to You を聴けば一目瞭然だが、まるで分厚い白玉メロトロンの「洪水」ないしは「壁」である。Wind は完全なア・カペラで、ポワンティリスム風の閉塞和声の巨大な塊が頭上から降り注いでくる。これでは「プログレ」である (笑)。 Thanks to You は、律動感はあるが、これもほとんどア・カペラで (パーカスが一つ入っているだけ)、とりわけ、メロディ・コーラスと白玉バック・コーラスの合間に左右に点滅するスポットのコーラスが素晴しい効果をあげている。白玉はベースが一音ずつ下降してくる循環コードで、これまた文句なし。
スウィングしている Pavement of Light は、メイン・ヴォーカルがなく、コーラス・ワークのみである。しかも、これは吉田美奈子の多重コーラスではない。後半のソウルフルな掛け合いがなかなか佳い。この曲のバックはピアノのみである。バプティスト・チャーチから借りてきたパワーみたいなものか。もっとも、『ブルース・ブラザーズ』のクリオファス牧師 (ジェイムズ・ブラウン) ほど破天荒ではないが。
Christmas Tree, Shadows are the Thoughts (of the Radiance), がバンド編成の曲で、 Christmas Tree, はともかく、初めて聴く後者は、 Extreme Beauty, 1995, に収められていても、まったく違和感がない。注目すべきは終曲 Dreaming で、タッチの強力なピアノとそれに絡まるオルガンに導かれ燃え上がるコーラスを背に開始されるが、末尾付近に現われ、クレシェンドして楽曲全体を支配するに至る「鐘の音」は、何を意味するのか。恩寵か、啓示か。それとも、目に見えている世界が、己が今在る世界ではないという認識か。
YOSHIDA Minako Concert, NHK on aired Jun, 6th. 1995. のインタビューで語っていた 「あの大きな鐘の音」 は、この頃から鳴っていたのではないか。おまけに、この曲は冒頭から重低音が途切れることなく響き続けている。順序から言えば、このドローンは「鐘の音」から導かれたはずだが、ここでは逆に、このドローンが「鐘」の出現を促しているように聴こえる。これも、まるで「プログレ」である。
このアルバムは、 3000 枚限定の自主制作アルバムであり、現在では入手は極めて難しい。非常にもったいない話である。このまま伝説として埋もれさせるような内容ではない。なんとか re-issue できないものだろうか。それだけの価値があるどころのレベルではない。現在でも、この神通力はまったく威力を減じていない。