スーパーで、息子の好きなビスケットを買ってきた。
家に帰って、前回もそのビスケットを買っていたことに気付き唖然とした。
・・なんだ買い置きがあったんだ・・
ふたつのビスケットを見て苦笑しながら、私は自分の母親のことを思っていた。
ちょっぴりあったかくって、ちょっぴり切ない気持ちで・・。
小さい頃、我が家でポテトチップスといえば塩味だった。
今のように多種多様な味があったわけでは無いが、多少の種類はあったはずなのに母が買うのはいつも塩味のポテトチップスだった。
ところがある日、母はコンソメ味のポテトチップスを買ってきた。
たぶん店頭に『当店お薦め!』などと謳われていて目に付いたのだろう。
何しろそれは私にとって初めての『塩味』以外のポテトチップスだった。
『これ美味しいわ。塩味より美味しい。』
そう感想を口にしたのが運の尽きだった。
それ以来、母はバカの1つ覚えのようにコンソメ味を買ってくるようになった。
私はテレビで新製品のコマーシャルを見るたびに『今度はあれ買ってきて! あれあれっ! ピザ味!』などと母に要求してみたが、母は取り合ってくれなかった(笑)。
いや取り合わなかったというよりは、違うのを買うつもりが無かったという方が正しいかもしれない。
とにかく、文句を言う私に向かって、母は最終的にはいつもこう言った。
『だってAちゃん、コンソメ味が美味しいって言ったやん!』・・・。
あの当時はそんな母の行動が疑問でならなかった。
いくら美味しいと言ったとはいえ、たまには他の味が食べたくなるのは当然のことだろう? と。
でも今、自分が母親という立場になって、初めて母の気持ちがわかるようになってきた気がする。
それが『母親』なんだなぁと・・。
今こうやって同じビスケットを2つ見比べながら苦笑している私は、あの時の母と同じだ。
・・息子が美味しそうに食べたから・・
ただそれだけの理由。
息子にあげたら喜ぶだろうな。笑顔で『うまいっ!』って言うんだろうな。
スーパーでビスケットの箱を手に取った私の脳裏にはそんな思いが浮かんでいる。
でも、もしかしたら息子も『たまには違うのを買って来い!』って思ってるかも知れないと思うと、何だか可笑しくてたまらなくなった。
今はまだ文句を言うことが出来ないから大人しく与えられたものを食べているけれど、その内とんでもない悪態をついて私を困らせるんだろうなぁ。
そう思うと、子供の頃の母への文句の数々に良心がチクチク痛む気がした。
そして、母が良く言っていた言葉を思い出す。
『親なんてつまらんもんやわ。一生懸命に子供のことを考えてるのに、文句ばっかり言われて・・(苦笑)。』
・・親の心子知らず、子を持って知る親の思い・・
親という立場になってまだ2年にも満たない私でさえ、すでに『親』になることがいかに大変なことか気付き始めている。
偉そうに『親の苦労』について語るのはおこがましいが、たぶんこれから味わう『親』としての苦労は計り知れないものになるだろう。
壁にぶつかり、悩み・・解決策を探して途方に暮れる日々が続くかもしれない。
でも、そんな悩みの中でこそ、自分の母に対する(もちろん父にも)感謝の念というのは生まれて来るものなのかも知れないと思える。
・・母もきっとこんな風に私のことで悩んだのだろう。一生懸命に私のために頭を悩ませたのだろう。大変だっただろうなぁ。ありがとう。・・と。
形には表せないけれど、そういう心の『親孝行』は、たぶん一生かかってやっていくものなのかもしれない。
どんなに悩んでいても、決して私達には苦悩の表情を見せず、いつも笑顔を絶やさなかった母。
感情の起伏の激しい私が、母と同じように笑顔を忘れない『家族の太陽』でいられるかどうかは定かではないが、私は自分の母を目標に息子に向き合っていこうと思う。
息子がいつか『親』という立場になった時に、心の中で『おかあさん ありがとう』と思ってくれる日が来るように・・。
・・・そんな日が来るかもしれないって想像するだけで、人生も育児も結構ステキに思えてくるのって、私だけかしら??(爆)・・・