・・・かずまくん、お母さんにそっくりね・・・
最近、良く言っていただく言葉である。
愛息子の顔が自分に似ていると言われるのは悪い気のしない事である。
しかし私は『似ている』とか『そっくり』という言葉を聞くと、どうしてもあのエピソードを思い出して眉をしかめてしまう。
未だ納得できない、腑に落ちないあの出来事たちを・・・。
あれは私が高校生くらいの事だっただろうか。
買い物帰りに母とふたりで家の近くを歩いていた時だった。
近所のおばさまが『久しぶり!』といって声をかけてきた。
彼女は、私の兄の同級生の母親で、家が近いこともあって今でも母と交流のある人らしかった。
『Y君(←兄)、元気にしてはる?』
『うん、おかげさまで何とかやってはるわ(笑)。』
などと、ひと通りの会話を済ませた時、おばさまは私の方を見て言った。
『Aちゃん・・やねぇ。ちょっと見ぃひん間に大きぃならはったなぁ。』
兄の友達の母親とはいえ私とあまり面識の無い彼女は、母と一緒に歩いている私を見て、『Y君には妹がいた』ということを思い出したのだろう。
そして同時に、当時にしては珍しいハイカラ(死語・爆)な私の名前を思い出して話し掛けてきたらしい。
『こんにちは。』
私がそう言い終わるか終わらないかのうちに、彼女はこう続けた。
『○○高校へ行ってるんやってなぁ。お母さんに聞いたぇ。・・そやけどほんまに大きぃなってぇ!・・・お兄ちゃんにそっくり!!』
・・・ん?
私は一瞬、自分の耳を疑った。
ここのところ、耳掃除をしていなかったせいで、聞き間違いでもしたのだろうか??
おにいちゃんにソックリ?
こういう場合、『お母さんにソックリ』とか『お父さんにソックリ』とか言うものでは無かっただろうか?
横で聞いていた母も一瞬『プッ』と吹き出したような気がしたのだが、おばさまはその後も、何事も無かったかのように井戸端会議をして『それじゃ、またね。』と言い残して帰って行った。
彼女は、兄に似ていると言われた私にどういう答えを返して欲しかったんだ?
『よく言われます。』とでも言えば満足だったのか?(怒)
・・・だが、これはまだマシな方だった。
時は流れ、短大に入ってケーキ屋さんでアルバイトをしていた私に、ある日兄がこう言った。
『明日、俺の友達がケーキを買いに行くから、ちょっと安ぅしたってくれ。○時頃に行くらしいから、よろしくな!』
可愛い妹(自爆)がバイトをしていると聞いて以来、兄は事あるごとに友人や知り合いにその話をして、『ケーキを買うなら妹のいる店で』と勧誘してくれていたらしく、今までにもこういう事は何度かあった。
ほんの少しだが値引きをしてあげることも出来たので、私はいつものように『了解!』と答え、翌日を迎えた。
約束の時間が近づいてきたので、私も店の入り口付近を気にしながら仕事をしていると、それらしき男性が2人、店内に入って来た。
『いらっしゃいませ!』
元気に挨拶をした私の顔を見た彼らは、他の店員には目もくれず、ただニタニタと笑いながら私の前にやってきてこう言った。
『Y君の妹さんやね?』
『はい。○○さんですね、兄から聞いてます。』
『噂には聞いてたけど、ホンマにYに似てるんやなぁ。』
『・・・そうですか?(不満)』
『似てる似てる! まるでハンコでポンポンッと二回押したみたいや(爆笑)。』
・・・・・・・・ん? ん〜っ?
ハンコ? ハンコでポンポンッと??
こういう場合、『似てるからすぐにわかった』とか、せめて『ホントに良く似てますね』くらいで止めておくもんじゃないのか?
それを、言うに事欠いて『ハンコ』とは何事だ!
花も恥らう乙女にむかって、そんな言い草はなかろうに!(激怒)
確かに私は兄と似ているらしい。
『男顔』『女顔』の根本的な違いはあるが、会う人会う人から言われるという事は『似ている』ことに間違いはないのだろう。
同じ両親から生まれてきたのだから、遺伝子的にも似ているのは否めない事実であることは認めよう。
しかし・・・しかしである!
いくら似ているからといって、『ハンコでポンポンッと』は無いだろう。
人をまるで『芋版』か何かみたいに・・・失礼じゃないか!!
そもそも私が誰と似ていようが君達に何の関係があると言うのか。
兄と似ていようが、小梅ちゃん(飴のパッケージのキャラクター)に似ていようが、誰かに迷惑をかけた覚えは無いぞ!
それなのに! 家に帰ってその憤慨を伝えた時に、追い討ちをかけるように我が兄はこう言った。
『おもろいやん! ハンコ兄弟かぁ。うまいこと言うなぁ。顔で笑いが取れるなんて最高やんけぇ〜!』
・・・。
私は兄と顔が似ている。
しかし、絶対に『性格』は正反対である!