日常のつぶやき

母乳神話

あなたは「母乳神話」という言葉をご存知ですか?

赤ちゃんは母乳で育てなければならないという教え。母乳でなければ健康に育たないという固執した考えのことです。

私は出産後2ヶ月間、これに悩まされ、自己嫌悪に陥り、育児をやめたいと思っていました。

たくさんの免疫を含んだ母乳、それが素晴らしいものだということくらいわかっている。

でも・・・。

母乳が出ない。ほんの少ししか出ない。

赤ちゃんが生まれたら当然母乳で育てるつもりだったのに、息子を満足させるだけの母乳を出すことが私には出来なかったのです。

毎日乳腺を開くことだけを考えてマッサージをした日々。

痛みに耐えながらしぼり続け、青あざのようにマッサージの跡が残っているのに、出るのは涙ばっかりだったあの毎日。

でも誰もそんな私を気遣ってくれません。

いいえそれどころか周りの全ての人の目が「ダメな母親」を見ているようにさえ感じられるのでした。

今から思えば、初めての出産の戸惑いを整理する暇もなかったあの時の私の精神状態は、かなりおかしかったのだろうとは思いますが、それにしても辛い毎日でした。

結局このまま泣き続けるよりは、思い切ってミルク1本にした方が、私の心の為にも、そんな私に育てられる息子のためにも良いと判断し、私は母乳をやめました。

その後もしばらくは、人に聞かれる度に「ミルクで育てている」と答えるのが辛かった事は間違いありませんが、ミルクを飲んだ後で「足らない」といって泣く息子の声を聞く事がなくなり、次の授乳までの間隔も次第に正確にあけられるようになって、私は心の余裕を取り戻すことができたのです。

そして、久しぶりに会った親友が「母乳で育てられない」と愚痴った私に「そんなんどっちでもえーやん。息子はこんなに元気に大きく育ってるやんか!今はミルクかって栄養を考えてあるし、そんな事で悩んでどーすんの?」と言ってくれた事で、私は全てを振り切って、一生懸命息子を育てていこうと決意することができたのです。

他人の声は無責任だから、まるで母乳の量と愛情がイコールであるかのように聞こえることもあります。

ミルクで育てる事=育児放棄、愛情不足だと・・・。

でも決してそんな事は無いのです。

確かに私は「ミルク」に逃げたのかも知れないけれど、それによって息子の育児から逃げた訳ではないし、息子を愛する気持ちが薄らいだわけでもありません。

むしろ「母乳神話」から自分の心を開放出来たおかげで、心の落ち着きを取り戻し、前よりもずっと冷静に息子を見ることができるようになったとさえ思えるのです。

今でも同じくらいの月齢の子にオッパイをあげているママの姿を見ると、うらやましく感じる私ではありますが、もし今、私と同じように母乳不足を悩んでおられる方がいるのなら、私は精一杯のエールを送ってあげたいのです。

あなたが赤ちゃんを愛する気持ちを持っている限り、例えミルクで育てていても、母乳で育った子に劣る所なんてないんだよ、と。

ママが赤ちゃんに向ける眼差しには、ママにしか与えられない愛情や優しさがいっぱい含まれているのだから、一生懸命愛してあげれば、きっとママの気持ちは伝わるのだから、と・・・。

たぶん私も、何年か経ったら「母乳不足」で悩んだ事なんて忘れてしまうのだろうと思います。

その時にどこかで新米ママを見たら、「母乳で育ててるの?」なんて無責任に聞くのかも知れません。

だからこそ、あの「涙」を覚えている今、こうやって書き残しておきたかったのです。

「育児」というのは、単に赤ちゃんを大人にするだけの作業ではないのだから、マニュアル通りに行かない事だらけです。

でも、自分と、自分が愛した人の分身が、こんなに一生懸命頑張っているのだから、ママがくじけていてはダメですよね。

これからもっといろんな「悩み」が出てくるのでしょうが、決して子供を見つめる「目」を曇らせないように、みんな、頑張りましょうね。

2000/03/21