夏になると無性に食べたくなるもの。
食欲が無いときにでも、氷で冷やした麺をつゆにくぐらせればツルツルっといける。
京都の奥座敷『貴船』あたりでは、川のせせらぎを聞きながら竹の上を流れてくる麺をすくって頂く風情のあるもの。
うどんとも蕎麦とも違う、あの柔らかな口当たり・・・。
ソウメン!!
私は素麺が大好きだ。
ネギを刻み、時には練り梅なんかをつゆに落として食べるのが好みだ。
中でも小豆島の方で作られている『半田素麺』なるものは、少し太めの麺で、私の一番のお気に入りである。
今回は、この『素麺』の食べ方について、つぶやいてみよう。
私には中学時代からの腐れ縁の友人が数人いる。
1年に何度かはみんなで会う機会を設けてはいるのだが、それ以外に私は個人的に友人宅へ遊びに行くことが多い。
あれは確か一昨年の夏だったと思うが、このときは、私とMちゃんの二人でIちゃんの家に遊びに行った。
小さい子供がいる家庭への訪問の際は、いつもコンビニでお弁当やお寿司を買って行くようにしているのだが、この日はIちゃんが素麺を作ってくれると言うので、それに甘えることになった。
ここで『素麺論争』勃発である。
食卓の準備も整い、薬味のネギも揃ったところで、Iちゃんが妙なことを言い出した。
I:「ワサビ、足りるかなぁ?」
ん? ワサビ!? 今日は確か『素麺』を食べるのでは無かったっけ?
ざる蕎麦ならワサビだろうが、素麺には普通『ショウガ』だろうが!
私:「ワサビって何に使うの?」
I:「素麺に決まってるやん、素麺にはワ・サ・ビ♪」
なっなにぃ〜!! 素麺にワサビを入れると言うのか!!
M:「そんなん初めて聞いたわ。素麺には普通ショウガちゃうん?」
そうだそうだ!! Mちゃんは正常だ。私の中の普通と合っている。
I:「なんでぇ? 素麺にショウガなんて聞いたことないで」
私:「だってIちゃんも私もMちゃんも、同じ所で育ったんやで。ウチの家でも隣でも、みんな素麺にはショウガやって!」
M:「ウチもそうやで。あんた京都生まれと違ったっけ?」
I:「京都生まれの京都育ちやん。でも素麺にはワサビやったで、生まれた時からずっと」
・・・。
まぁ確かに、その家庭によって『味』は違うものだし、食べてもいないのに『おかしい』と決め付けるのはいけないことである。
私とMちゃんは、一度食べてから結論を出すことにして、早速『ワサビ入り』のソウメンを食べた。
・・・。
私:「確かにマズくは無いなぁ」
M:「うぅーん、確かに食べられへんことは無い。でも何かしっくり来ないというか・・・」
I:「うそぉ! 美味しいやん!!」
私:「じゃぁ、Iちゃんも一回『ショウガ入り』のソウメン、食べてみて!」
しぶしぶ冷蔵庫にショウガを取りに行くIちゃん。
つゆを変え、ショウガを入れてソウメンを一口・・・。
I:「何か嫌や。いっつもの方がいい」
M:「私らはショウガの方がええわ。申し訳ないけどな」
もったいないから、少しはガマンしてワサビソウメンを食べたけれど、やはり慣れ親しんだ味に勝てるはずも無く、私達はそれぞれの味に戻すことにした。
トマトに砂糖か塩か、天ぷらにはソースか醤油かなど、好みが分かれることは知っているが、ソウメンというあの単純な食べ物において、各家庭でそれほどの違いがあるということは、私には興味深いものだった。
そういえば昔、会社で『納豆』が出たとき、食堂の片隅で『砂糖』を入れて食べている人を見かけたことがある。
納豆に砂糖・・・。
これはさすがに未だ試したことが無いが、彼らは非常に美味しそうに食べていた。
それも彼らの味覚中枢においては『当たり前』の味なのだろう。
味覚というのは、単純に『おいしい』ということだけでなく、その人が育った家庭環境に大きく左右されるものなんだなぁと思う。
私は今、息子を育てているが、彼の味覚を形成しているのだと思うと、何だか責任重大のような気にさせられる。
特別なことは何もしていないが、心がけていることがあるとすれば、自分が嫌いな食材も一度は息子に与えるということだろうか。
ただし味付けに関しては、私やパパが親から受け継いだものになってしまうのだが・・・。
今、我が家では『肉じゃが』に『マヨネーズ』、というのが流行っている。
これって正しい『味覚』なんだろうか?(笑)