[★機内→サンフランシスコ空港] とえりあえず乗り込んだユナイテッド航空機toサンフランシスコ。ボストン行きの乗り換え中継地点としてはシカゴあたりが 一般的らしいのだが、どうやらシカゴ行きはチケットが取れなかったらしい。聞けば今やアメリカ行きの便は非常に便数が減っているらしく、かえってテロ前よりチケットの融通がきかないとかなんとか。 見渡してみると、こんな風評の時期だというのに機内は隙間なくみっちり。 私達は四人(一人いきなりとある事情で減ったけど)ということで、真中の席の一番後ろの座席。最近神経症の一種なのかトイレの回数が 多い私には非常に好都合。サンフランシスコまでの8時間50分と、ボストンまでの5時間、長い道のりだよなあとか思うと、ひまの潰し方を考えるだけでちょっとうんざりする。今まで飛行機は何故かJAL一辺倒だったので、そういうときは日本語の映画でも見ればいいかー、とかいうところがあったのだが、今回はUA、アメリカの航空機。備え付けの雑誌も、流れてる映画もすべて英語なのだ。流石にここでリーディングやヒアリングの訓練なんてする気にはならないし。 …などと暇の潰し方に思いを馳せたのも束の間、私の臨席になったF先生が早速話し掛けてきてくれた。事前に母から仕入れた数少ない 情報によると、この先生、大変優しくて人に気を遣う人らしい。大変親しみやすい雰囲気の人で、一生懸命私に話し掛けてくれる…のだが、実にそれが早口で独特の不明瞭な発音なので、何を言っているのか聞き取るのが非常に大変。しかも、この先生、ころころと恐ろしい速さで話題があれよあれよという間にくるくる変わっていくのだ。早口もくるくる話題が変わるのも私の得意分野だが、それにしてもこの人は今まで私が出会った誰よりもそれが甚だしい。しかも早口といっても、私のようにきつくべらべら喋るというのではなく、ふわふわというちょっと浮いたような感じで話す人なのでこれまた聞き取りにくいのだ。この人の学生は(言い忘れたがこの人、教員である)さぞかしヒヤリングに苦労しているのだろうなあ、と一瞬顔をみたこともない学生に同情してしまった。 がまあ、そういった懸命な努力と慣れのおかげか、しばらくするうちにすっかり私はそれに聞き慣れ、ほぼ何かを聞き逃すこともなくなった。とかく、サービス精神に一生懸命な人であるのと、元来が話好き(しかも相手がロクに聞いていなくても大して構わない)ということと、おそらくは母といきなりあんな理由で途を別にしてしまわなければならなくなった私を大いに気遣ってくれてのことか、とにかく喋る、喋る、喋りまくる。思えば前日徹夜でとか言っていたので、たまに何かしつつ眠りに落ちる他は、ほぼ喋り尽くしであった、この人。 私はといえば、ううむエンドレンスだなあと思いつつも、もともと飛行機では寝れない性質なのでそれに付き合う。途中この人が寝たスキにまだ勿体無いかなあと思いつつも持参してきた「ワイルドフラワー」などを読む。帯あたりから結構人に見られるとヤバげな本かなあと思ったが、UAなので周囲はほぼアメリカ人ばかりだし、と構わず読む。途中の「うを、この部分、日本の電車の中だと読めないなあ」とか思う部分をちょうど読み終わったあたりで、折悪く臨席の先生、目を覚ます。 「どんな本を読まれるんですか?」 ち、違うんです、ここのところは主に現代外国小説とか村上春樹とかそこら辺を読んでいたんであって、ってゆうかこの作者だって殆どの本はこんな作風じゃ、と思いつつもすべては今手にしている本の前には説得力は立ち消える。いや、お恥ずかしい、実はこんなものを、と頭を掻き掻き差し出す。まあ10代の若い娘じゃああるまいし、別段ちょっとセクシャルな表現が目立つ小説読んでたってなんの問題もないと思うのだが。口煩い母親がいなくて良かったなあと後で思った次第。 それにしても8時間以上のフライトでちょっと驚いたのは、UAの座席の居心地のいいこと。JALはきつきつせませまで、スチュワーデスのお姉ちゃんがせわしなく用もないのにちゃかちゃかしてる(スチュワーデスの皆様、ならびに憧れてるお嬢さん方、すまん)のでどうにも落ち着かないのだが、ここはいかにもアメリカ!な中年のおばちゃん達ががミール、ドリンクの時のみサービスしてくれ、座席のボタンで呼び出す以外はずっと引っ込んでてくれるので大変落ち着いていて居心地がいい。座席もおそらくJALより広いハズ。 それからミール。JALのミールは妙に気取っていて、食べても美味いんだか美味くないんだかはっきりせずにいかにも機内食、というカンジなのだが、UAの機内食、いかにも食い物、というボリュームと迫力があってナイス!味もジャンクフードを家庭用の味に近付けたようなカンジで明瞭だし。健康食としてなのか、必ずチキンが選べたのでチキンばかり食べたのだが、実にこれが旨かった。そして腹いっぱい。コーヒーもスタバのアメリカンを統一して採用しているようで、酸味のないローストを程よくお湯で薄めた味は、日本のほうじ茶にも似て、他へ辺のみ易い。考えてみればアメリカ人にとってのコーヒーは日本人にとってのお茶のようなものだから、薄くて刺激の低い味であるのは同じことなのだろう。日本製の私の苦手な「アメリカン・コーヒー」が本場のものではなかったと知って、安心してみたり、そんなミール&ドリンクサービスであった。 [★サンフランシスコ空港の衝撃] さて、ワイルドフラワーも結局読んでしまって、降り立ちましたるアメリカ大陸。 うひょお、アメリカだよ、アメリカに降り立ったよという感慨を覚える間もなく、2時間後に控えたボストンまでの乗り換えを 行わなくてはならない。旅慣れた同行者である先生は「なんだったらサンフランシスコ観光でもする?ちょっ急ぐけどタクシーとかでざっと」 などと空恐ろしい親切心からの提案を行ってくれたが、私は慎重派になるべく「いいえ、とりあえずボストンに確実に間に合うようにしましょう」とすげなく却下し、ゲートへ。国内便は危険だからスカスカなのかと思いきや、意外に列ができて混んでいる模様。そういえばさっき機内で見た日本の新聞で今が丁度感謝祭時期であるというような記事を目にしたので、ああ、それじゃあこんな状況でも乗るよなあと納得していたらば、どうやら列の進みが遅いのはその先にある荷物検査のせいらしい。日本を発つ前にワシントン.D.Cに入る際のチェックは厳しいが他は大したことがないと言われていたし、成田でもそれなりにチェックは受けたのでまったく安心していたのだが… だが、私は甘かった。やはりぬるま湯国家の日本人であるに相応しく甘かった。 ともすれば一般人が公然と銃を持てて、軍隊なんてガンガン出動しちゃうペンタゴンのある国をなめてましたよ私は、全然。違うんだよチェック体勢が。 まずはお定まりの荷物チェック。旅客機に預けている荷物はそのまま移動されるので、手荷物チェックのみなのだが、それがやたら 気合が入っている。通常こういったチェックというのは、殆どしているのかいないのかといったようなテキトーさで進み、金属探知機で 何か音が鳴らなければオールオッケー、みたいなところがあるのだが、なにかこの忙しなさと係員の指示の細かさ具合がどうにも違うのである。 まずはノートパソコン。普通ならPCケースに入れてそのままX線を通してしまうのだが、ここはいちいちそれを取り出して金属等と同じく別ケースに入れねばならない。それから、冬であるこの時期、必ずコートやジャケット等、何かしらを羽織っているものだが、それらはすべて 脱いでX線にかける。あからさまなコート類だけではなく、軽いジャケットなどもその対象になったりするらしく、皆が注意されては脱いでX線にかけていた。なるほど、どおりでなかなか混雑が解消されないわけである。これでは進まない。 自分の晩になり、うーん、何かケースに別にするものがあったかなあ、と考えて一応可能性は低いものの自宅の鍵と日本の硬貨を入れた。さて、じゃあコートを脱いで探知機に…と進もうとしたら、探知機のあたりにいる係員のおばちゃんが私の靴を指して何か言う。脱げとか言っているらしい。ちなみにその日の私の恰好はというと、ハイネックセーターの上からシャツを羽織り、下はストレッチのパンツ、靴は甲のあたりをくるりと包むようにマジックテープで留める踝下の革靴である。どこからどう見ても危険の少なさそうな日本仁旅行者そのものである…のだが、靴を脱げと再三言われる。えええ、俺、どこをどう見たっていかにもな日本人観光客なのに、なんだよう、怪しくないじゃん俺なんて、と思いつつとりあえず中途半端な靴の脱ぎ方をしつつ次のボディチェックへ。まずは探知機つきの棒がひととおり身体に当てられ、それから手によるボディチェック。胴体、腕もさることながら、脚、特に足首あたりの部分に重点を置いて障られていたので、さっき靴を脱げと言われたのは、ここにナイフや銃の凶器を隠していないかどうかチェックするためだったことに思い当たる。 それにしても私の靴は短靴というべきほぼ高さのない靴で、単に靴の形が特殊だったというだけだというのに…いかにもなブーツなど履いてこなくてつくづく良かった、と一安心。 …してボディチェックと荷物検査は終了…かと思いきや。 ところがどっこい、流石はテロ全盛期。1週間前に事故とはいえまた飛行機落ちただけはあります、それだけじゃあ済まなかった。 私は今回旅客機に荷物を預けず、すべて手荷物で旅行をするといううように出発前に再三言っていたように思うが、それを実行した。 つまり手荷物に何から何まですべての荷物が入っているわけである。当然手荷物のバッグにはあれこれ入っている訳である。が。 それだけに余計なものは荷物に入っていないのである。つまり、大変シンプルな最低限のものしか荷物には入っていないということになるのである。 が。 そのシンプルな最低限のものに、なにやら引っ掛かるものがあったらしい。うがあなんだよ俺はどこからどう見たって怪しいとは到底思えない日本人観光客だっての、と思うがそんなことを係員に言えるわけもなく(無論言えるだけの英語力もない)諾々と従う。こういう時の係員というのは、何故か見ただけで「そりゃ化粧水だっての!」つうのまでしげしげと見たりするから嫌だ。女だろうがあんただって、見りゃわかるだろうと思うが勿論それは心の中でのみ言われる言葉だ。 で、その女性係員が手を止め、しげしげと中身を検分し出したのが、言うまでもない女の七不思議ゾーン、化粧ポーチである。考えて見ればこのナ化には金属製のものが数多く潜んでおり、ニューラーのその営利かつ謎の構造といい、その他の化粧用具といい、かなり知らない人には「?」という形状のものが多い。だが、私のポーチの中身を調べている係員は間違いなく同性、その用途を熟知している筈である。ある。あるのだが。 その係員、しげしげと口紅のケースを見つめたり(金属っぽい加工のケースだった)毛抜きを手に取ってみたり(毛抜きが毛抜き意外の何だというのだ?)片方が尖っているプラスチック製の櫛を透かして見たりしている。あーもーそれがテロの何とどう関係あるのか知りたいんだけど俺は、と思うのだが、ここは我慢の子、ひたすら待つ。 私は爪を短くしたことがなく、したがって手入れのためにかなりの道具を持ち歩いているのだが、今回は出発前の手入れを入念にし、補修の道具は爪きりとヤスリだけにした。その金属ヤスリが係員のお目にとまったらしい。それはそれでいつか没収されるだろうなと思ってはいたので、「これ没収するよ、OK?」といわれてもどうぞどうぞと大人しく従ったのである。が。 その係員、爪きりをもその手に持っている。 爪きり?そんなもんテロにどう使うんだよと思いつつも、そういえば爪きり没収されたとかいうような話も聞いたよなと思いつつ、ああ没収するならどうぞどうぞ好きにしてくれよ、と思い、「OK,OK」と言っていたらば。 なんだか違う。 係員は爪きりを広げ、手に持ったまま、しきりに私に何かを訴え掛けている。何かを掴み、動かす仕草をずっとしているのだ。 はあ?なに、なに、どうすりゃいいのよ、なにすりゃーいいのよ、さっぱりわかんないよ、と混乱していると、警備員らしいお兄ちゃんが 寄ってきて、同じ仕草をしてみせながら「BREAK」と言う。「BREAK」?BREAKって「壊す」っちゅうイミだよな、なんでそれ今言うの? 私が更にハテナマークを連発させていると、お兄ちゃん、その爪きりのヤスリ部分を指先で摘み、左右に動かす真似をする。 そして「BREAK、BREAK」。 …高那津かえと、××歳、英語能力ナシ。 だが、その私にも、ここにおいて、やっと彼らの言わんとしていることが理解できた。 折れってか、ヤスリを? 没収とかじゃなくて、この場で自分でぐにぐにっとヤスリ部分を折れってか?金属っすよこれ一応?? ってゆうかそのくらいだったらこの場で没収したっていいんでわってゆうか、なにその「折る」っつう発想???? やっぱり肉食なんだよこのひとたち!!違うって発想が!!!! 言っていることは察したものの、いまだ尚固まるT。ボディチェックの最終地点であるそのすぐ先には、モノホンの迷彩服に身を包んだ金髪のお姉様が、全長50センチは優にあろうかというずっしりとした銃を抱えてこちらを見つめていらっしゃいます。 ああ、なんだろうその鈍い輝きは?ああ、これが使いこまれた本物の色ってやつなのね? 草食人種かつ太平楽国家の国からやってきたごくありきたりな一般人にとって、ああら何この状況は、という事態に陥り、かなり焦るT。とりあえず目の前の爪やすりを掴んでみたりする。そのTの動作に、係員のお姉さん、警備員のお兄ちゃん、そして …気づくと、ボディチェックのための威嚇兼最終手段のためにいらっしゃる迷彩服に銃を構えた本職の方(軍隊から出張中と見受けられるy) のお姉さんも、にこやかに微笑みながらTを見守ってくださいます。勿論、軍人ですから、職務として手に持った銃はしっかり抱えられたままです。ああ、お姉さんとっても美人ですね、後ろできりりと三つ編みに纏められた金髪がとてもステキ。銃がやっぱり鈍い輝きを放ってたりするんだけれど。その彼女のにこやかな微笑みには、英語が全くできないくせにいっちょまえに英語の国にきてしまった哀れな東洋人への暖かい感情がある、…と私は信じたい…。 とにもかくにもわたしは金属のヤスリをぐにぐにと何度か左右に動かしてヤスリ部分を分離させ、はひー、やはりテロって恐ろしいよう、とほんのちょっぴりだけその余波に浸ったりしたのであった。二度と御免じゃ。 |