Sarpadian Empires Vol. II

 


 気候の激変が起こる数世紀前、IcatiaにEbon Hand教団という宗教が誕生した。僧侶Tourachが興したこの教団は、瞬く間に狂信的な信者を集めていった。

 Ebon Hand 教団は献身を美徳とし、儀式では必ず神への生け贄が捧げられた。それは入信者にとっても同じことで、多くの入信者が正規教団員となる為に己が片手を生け贄に捧げた。そして正規教団員は皆、教団の使命を達成する事が何よりの誇りであると考えていた。

 しかしEbon Hand教団の前途は多難であった。恐ろしい儀式や教義を受け入れられない者達、殊に当時からIcatiaで主流であったLeitbur教団にとってはEbon Hand 教団は邪教以外の何物でもなかった。
 これらの人々の弾圧を受け Ebon Hand 教団はIcatiaの西の存在する沼沢地にその本拠を変更したが、その後もLeitbur教団や他の宗教との争いは絶えることはなかった。

 Ebon Hand教団には数々の困難が降りかかったが、中でも教団の創設主でありカリスマであったTourachの死は明らかに教団に動揺を与えた。
 しかし彼らはEbon Praetorと共に偉大なTourachを崇め、儀式の度にTourachを失った悲しみと絶望を込めた祈りを行うようになった。この恐るべき嘆きの祈りは冷酷な戦士にすら狂気を引き起こすものであった。

 

 やがて数世紀が経ち、Ebon Hand教団はもはや単なる宗教集団ではなくなった。彼らの拠点は街であり、聖地であり、異教徒の攻撃に備える要塞であった。その独特の教義は独自の文化といえるものであった。

 儀式の際の神への祈りはしばしば生け贄の骨で作った楽器で演奏されるようになった。神へ供物として生け贄を捧げる儀式を通して魔力の源であるマナを得られる事に気づき、それを精製した黒マナを得るようになった。

 彼らは得られた魔力を死霊術や異世界への扉を開くために利用し、より多くの力を得るようになった。忌まわしい儀式に携わる教団員は体内でマナを変換する術を体得し、哀れな生け贄の血を吸い続けた祭祀用の鉢と短剣は魔力を変換する力さえ持ったという。

 Leitbur教団は幾度となく繰り返されたEbonHand教団との戦いで、Tourachに捧げられる恐ろしい祈りによって教団は力を得た事を認めざるを得なくなった。

 Tourachの力とは彼の死後に信奉者達が彼を神として崇め奉ったものであった。無力であったはずの男が信者の祈りによって力を持った事にLeitbur教団は驚きを隠しえなかった。Ebon Hand教団の拠点を襲撃した際に教典の写本を得たが、祈りの力を知った Leitbur の信者は、略奪した写本を入念に守った。

 

 彼らの生み出した物の中でもEndrek Suhrが生み出したThrullと呼ばれる魔法生物は特筆に価するものであった。彼らはThrullを儀式の生け贄に利用する事で、頻繁に儀式を行えるようになった。しかも哀れなThrullは大変生け贄に適しており、Thrullを用いる事で多くの儀式がうまくいくようになった。

 教団はこのThrullに注目し様々な用途のThrullが作り出された。特に板金をThrullの肉体で繋ぎ止めた鎧は傭兵には不評であったが、戦力の増強に大いに役立った。Thrullはこれ以外にも様々な方面で活躍したが、その全てが順調にいったわけではなかった。

 戦闘用に作成されたDerelorは強力ではあったが、エネルギーの消費が大きすぎて実用に耐えるものではなかったし、より高度な用途のために精巧に作れば作るほど出来上がったThrullは恐れと嫌悪を抱かせる恐ろしい−ひどい容貌とねじくれた手足をもった−シロモノとなっていった。

 Sahrは教団の死霊術に錬金術の考えを取り入れてThrullを作り上げたが、それが教団の教えに反するものであると非難する教団員もいた。またThrullの存在に怒った異世界Phyrexiaの住人が育成を妨害したという噂も存在する。

 

 様々な問題があったにせよ些細な事であった。教団にとってThrullはそれ以上に素晴らしい利点があった。それはThrullが教団の為だけに生まれて死んでいく事だ。

 あるものは自らの体を鎧とするために、あるものは教団員の欠けた身体を補うために、戦場で異教徒を打ち倒す為に、暗殺や後方撹乱の為に、そしてそれ以外の全てが教団の儀式で生け贄となって死んでいった。献身を何よりの美徳とするEbon Hand教団にとってThrullはまさにうってつけの生き物であったのだ。

 

 Thrullは自分達の生命を犠牲にして忠実に彼らの主に仕えた

−Thrullの反乱が起こるまで−

 きっかけはThrullの需要を満たすためThrull製造機ともいうべき Breeding Pitが作成された事に始まる。Breeding Pitにより量産が可能となったThrullは恐るべき勢いで繁殖していった。あまりに急激な繁殖スピードに警鐘を鳴らす人はいたが、教団の運営にThrullはもはや不可欠なものとなっていた。

 そこでEndrek SahrはBreeding Pitの制御の補助として Thrull Wizard と呼ばれる他のThrullよりも幾分か知恵をもち、マナを扱う事のできるThrullを作り上げた。生け贄の作業を手伝わせるために知的な Thrulls を作ることで、Sahr は不注意にもThrullの反乱の舞台を仕立ててしまった。

 生み出された全てのThrullがかつての主に刃向かった。教団は Jherana Rure を反乱鎮圧の責任者としてこれに対抗したが、次々に生み出されるThrullに圧倒されていった。

 Order Of Ebon Handは精強であったが、Thrull ChampionやDerelorのような戦闘用のThrullは強力で、数も多かった。

 魔法もThrull Wizardの前に十分な力を発揮しなかった。指揮系統はMindstab Thrullによって撹乱され、数で勝る敵に対し組織的な戦いも行えなかった。暗殺用のThrullであるNecriteがJharana Rureの暗殺に成功したとき、EbonHand教団はその歴史に幕を閉じた。

 

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