Seiji at PTNA PIANO STEP in SPRING 2009

 昨日は(社)全日本ピアノ指導者協会(PTNA)が主催するPTNA PIANO STEP(ピティナ・ピアノ・ステップ)にせいじが出演した。このPTNA STEPは全国各地の各エリアで細かく分かれた地区で開催されており、就学前の子どもから大人に至るまで参加者は非常に多い。STEPとは、導入1〜3⇒基礎1〜5⇒応用1〜7⇒発展1〜5⇒展開1〜3という、ピアノの学習における23の段階を示し、それぞれのSTEPにおける課題曲が決まっている(毎年見直される)。この課題曲(+場合によっては自由曲)の演奏を3名のアドバイザーの先生に評価してもらうことによって、自分の演奏のレベルを確認する(S、A、B、C、Dの順に評価がよい)と共に、自分に足りない点、こうしたらもっとよくなるという点を講評用紙に専門家の目でアドバイスしてもらうことによって、今後の課題を見出すことに大きな意味がある。前述したように、一応評価はつくが、大事なのは、むしろ自分の演奏に対していただくアドバイスであり、この点でSTEPはピアノ・コンクールとは趣旨が異なる。
 せいじがエントリーしたのは発展1のSTEPで、弾いた課題曲はベートーヴェンのピアノ・ソナタ第20番 ト長調 Op.49-2の1楽章と、自由曲として香月 修の「スペイン風のワルツ」(応用7の課題曲でもある)の2曲。前者はソナタ・アルバムでおなじみの曲。第19番と共に学習者が一度は通る曲で、ベートーヴェンのピアノ・ソナタで最も簡明なLeichte Sonate(軽いソナタ)。
 諸井 誠「ベートーヴェン ピアノ・ソナタ研究 II」(音楽之友社)で強調されているように、「<<第20番 ト長調>>と<<第19番 ト短調>>の2曲間の絶対的相違点は、後者では小まめに強弱が記入されているのに対して、前者では1カ所さえも、ダイナミクスやリテヌート、またフェルマータのような、テンポの変化についての指示もない。」ことから、”軽いソナタ”とはいえ、せいじは自分でこれらを考えなければならない難しさ(と同時に楽しさ、やりがい)を感じながらこの曲に取り組んだのであった。わずか3分あまりの短い曲の1節1節をどう弾くかで自分なりに悩み、考えたことはせいじにとって大変よい経験となったに違いない。この曲を弾くにあたって、バックハウス、ギレリス、ハイドシェック、バレンボイム、シフといった古今の名手の演奏を聴き比べて、「シフの装飾はおもしろいね。」とか「ハイドシェックはやり過ぎ!」とか親子で批評し合ったのも楽しい思い出。せいじにいちばんしっくり来る演奏は、結局いちばんオーソドックスなバックハウス盤だったのだが…。
 昨年はコンクールでショパン、発表会でドビュッシーとショパンを弾いたせいじであったが、それ以後は先生の指導方針もあり、練習曲や、バッハと古典派の作品の基礎をみっちりと練習する毎日である。私はヴァイオリンしか弾けないから、ピアノの学習方法について詳しいことはよく分からないが、少なくとも、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンを理解せずに、ロマン派やフランス近代の音楽に入っても、よい演奏が出来るとは到底思われない。それは、ピアノの曲だけでなく、ヴァイオリンの曲だろうとオーケストラの曲だろうと事情は同じであろう。
 昨日の放映が最終回だった、アンドラーシュ・シフのスーパーピアノレッスン「シフと挑むベートーヴェンの協奏曲」で、シフが「皇帝」協奏曲の第3楽章のフーガ的なパッセージのところで、「まだ良くない。バッハをもっと勉強してください。皆もバッハを弾くべきです。そうしないとこの音楽は理解できません。」とレッスンを受けている小菅優や他の生徒にかなり厳しい口調でアドバイスしていたのが印象的だった。後の時代の音楽は、どんなに偉大であっても、常に前の時代の音楽の流れの上に成立しているのだということを改めて気づかせてくれたシフの言葉だった。幸いせいじはバッハやベートーヴェンは好きなようだが、ピアノを弾く人間は、大人も子どももやはり華麗なショパンの曲に目がいくものらしい。「しばらくは、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンだけでいいからね!」と私としては言いたくなるが…。
 当日のベートーヴェンの演奏を下のYouTubeにアップした。本人もおおむね満足な演奏ができたようで、3人のアドバイザーの先生からもS評価をいただいたほかに、男の子らしい音色や勢い、3連符の表現をほめていただいたので、本人も機嫌がよい。
 2曲目(自由曲)は現代日本の作曲家、香月 修の「スペイン風のワルツ」だったが、こちらは現代曲というよりは、少しフォーレやラヴェルを思わせるような美しくてけだるいワルツ。せいじの先生は、脱力の課題に取り組むのに好適な曲としてこの曲を選んだということだ。たしかに、ベートーヴェンを演奏するときとは全く違った柔らかい演奏が要求される。「スペイン風のワルツ」は作曲者が存命の現代曲なのでYouTubeにアップするのは控える。こちらの曲もアドバイザーの先生の評価は全体的によかったものの、ふだんご指導いただいている先生の講評がいちばん辛口で、ゆっくりした曲の歌わせ方や脱力の仕方にまだまだ課題があるということであった。




 せいじが今熱中しているベートーヴェンのピアノ・ソナタの道は長くて険しい。プロでも芸術的な演奏をすることは困難なのだから。もちろん、難しくてもベートーヴェンの音楽には弾きたくて弾きたくてたまらない熱いもの、深いものがあるからこそ、「ワルトシュタイン」や「熱情」をいつかはきちんと弾きたいというせいじのモチベーションも高まるのだろう。私もベートーヴェンの16曲ある弦楽四重奏をいつかは全曲演奏してみたいな。
(2009.3.15)