聖書を読むために



このページのBGMは,ShibataさんMIDIで聴く「マタイ受難曲」から
終結合唱 「われら涙流しつつひざまずき」です。



聖書物語
山形孝夫 著(岩波ジュニア新書)¥530

 この「聖書物語」は大人が読んでももちろんよいが,中学生,高校生がヨーロッパ文化の源流を知る上で大変よい本だと思う。全8章からなり,「天と地の創造」に始まって「復活の証人たち」に終わるが,どの章も物語としておもしろくまとめられているから飽きることがない。物語の時代背景にも触れられているから,歴史が好きな生徒にも楽しいだろう。公立の学校では無理だろうが,こういう本を教材にしたら,世界の歴史・宗教・伝説に興味を持つ子が増えるだろうにと思う。


聖書小事典
山形孝夫 著(岩波ジュニア新書)¥670

 上の「聖書物語」の姉妹本。この小事典は「ジュニア新書」といってもその内容はかなり本格的なもので,たとえば「聖書の暦とユダヤ三大祭り」の一覧表や「モーセの出エジプトの経路」の地図が載っていたりする。日本語見出し項目の後に英語訳が付されているのも便利。中学生や高校生だけに持たせておくのはもったいないコスト・パフォーマンスの高いハンドブックである。


旧約聖書の預言者たち
雨宮 慧 著(NHKライブラリー)¥970

 イエス・キリストが誕生する約1000年前に古代のパレスチナで,3代にわたるイスラエルの王サウル,ダビデ,ソロモンの王国が栄華を誇ったことはよく知られている。しかし,その栄華も長くは続かなかった。ソロモンの死後王国は分裂し,イスラエルの民は苦難の歴史を迎える。強大なアッシリアの属州となり,続いて2回にわたるバビロンの捕囚を経験する。このような苦難の時代に,神の意志を伝えて人々に反省を促すと同時に,救いの道への希望を示した人たちがいた。それが旧約聖書の預言者たちである。キリスト教では,救い主イエスの到来とその受難を旧約聖書の預言が成就されたものと考えるから,新約聖書でも預言者たちは非常に重きを置かれている。世間一般には旧約聖書はユダヤ教だけの聖典だと思われているきらいがあるが,キリスト教にとっても旧約は大事なエッセンスが詰まっている。この本を読んだ上で改めて新約聖書を手にすると,より深くキリストの言葉や行いの意味が理解できるであろう。聖書に登場する預言者の数は非常に多いが,本書では紀元前8世紀から5世紀にかけて現れた大預言者たちに焦点を絞って,彼らの伝えたメッセージを読み解かれている。この本を読むと,イザヤ,エレミヤ,エゼキエル…といった大預言者たちは,それぞれ強烈な個性をもち,彼らのメッセージの内容もそれぞれ違っていたということがよく分かる。
 私はトマス・タリスの「エレミヤの哀歌」が好きだから,「背く民と共に歩む人 エレミヤ」の章がいちばん興味深かった。美術史的にも預言者を題材にした絵画は多いし,ヨーロッパの教会では預言者を描いたステンドグラスがよく見られる(本書表紙は預言者エレミヤを描いた12世紀のステンドグラス)。


なろうとしてなれない時 聖書のことばと向かいて
上林順一郎 著(現代教養文庫)¥560

 聖書を題材にしたエッセイ(といっていいのだろうか?)の類はたくさん出ているけれども,神学で理論武装したようなものや,信仰をもたない者の感覚からはまるでかけ離れたようなものは,あまり読む気がしない。この本の著者である牧師さんは大阪生まれで(それだけでもちょっと親近感がわく),ユーモアにあふれた軽妙洒脱な文章が天下一品。たとえば,子どものときは土木技師になろうと思ったのに,「どぼくし」ならぬ「ド牧師」になってしまったという調子。でも,内容的にはもちろん決してふざけた話をしているわけではない。自分自身の人生経験をもとにして,聖書の言葉を一つ一つ誠実に受け止め,誰にでもわかる言葉で伝えようとする。動揺し悩む人間としての自分を隠そうとはしない。「説教くさい」という言葉があるように,「説教」とは必ずしもよい意味で使われてはいないが,この牧師さんの説教なら聞いてみたいと思った。


新約聖書名言集
小嶋 潤 著(講談社学術文庫)¥300

 ずい分前に買った本なので,もうボロボロになってしまったけれども,文語訳で引用された聖書の名言と簡潔で的確な解説で,いまだに価値が高い本だと思う。「…空の鳥を見よ,播かず,刈らず,倉に収めず,然るに汝らの天の父は,これを養いたもう。…野の百合は如何にして育つかを思え,労せず,紡がざるなり。…」。聖書の中でもひときわ有名なこの名句の解説で,「説明は無用であろう。解説は却ってその真意を壊す。繰り返し誦するときに,そのこころはおのずからにして解けるのである。」と述べているところに,著者の誠実さを見るような気がした。


英語聖書のことば
船戸英夫 著(岩波ジュニア新書)¥300

 これもずい分前に求めた本である。聖書をヘブライ語やギリシャ語の原典で読むのならともかくとして,英語で読んだからといって何か意味があるのかと聞かれても困るのだが(英文学を原書で読むときに多少役立つかもしれないが),これは楽しい本である。「人もし汝の右の頬を打たば,左をも向けよ。」,これを英語では何と言うか?答は"If any one strikes you on the right cheek, turn to him the other also."である。英語聖書は簡潔で正確な口語英文の宝庫でもある。


新約聖書を知っていますか
阿刀田高 著(新潮社)¥1,400

 作家の阿刀田高氏は,本書のほかにも同じ出版社から「ギリシア神話を知っていますか」,「旧約聖書を知っていますか」の古典読本シリーズを出している。このシリーズにおける著者の意図は明快だ。「自分が知りたいことを書く」というのだから。内容もまた明快でかつ痛快。「私は信仰をもたない」と繰り返し強調している著者だからこそ気づいたであろうユニークな聖書の読み方がたくさん出てくる。しかし,一見ときどき脱線しているような著者が,真摯に謙虚に聖書に対峙していることが伝わってくる本でもある。各章の最初にある和田誠の味なイラストがまたよい。


新共同訳 新約聖書略解
山内 眞 監修(日本基督教団出版局)¥6,000

 日本のカトリックとプロテスタントの総力をあげて新共同訳の聖書が刊行されたのが1987年。それから10年以上を経て2000年に最新の研究成果が盛り込まれたこの註解書が出版された。新約聖書の記述の歴史的背景や意味を調べるときに非常に有用な本であり,専門知識のない一般人でも使いやすいように書かれている。


ローマ(聖書註解シリーズ8)
ウィリアム・バークレー 著/八田正光 訳(ヨルダン社)\2,000

 キリスト教を広めるにあたって最大の功労者であった使徒パウロが書いた「ローマの信徒への手紙」は,著者が「はしがき」で,「この書ほどプロテスタント教会の神学に,より偉大な影響を与えた書はないし,またこの書ほどパウロの心の真髄を明確に表している書はほかにありません。」と述べているように,新約聖書で最も重要な書の一つである。ほかの本でもそうだが,バークレーの解説は平易で万人に分かりやすい。しかも事典ではなく,読物のように通読できるところによさがある。


ルカ福音書(聖書註解シリーズ4)
ウィリアム・バークレー 著/柳生 望 訳(ヨルダン社)\2,000

 バークレーは英国メソジスト派の牧師であるが,宗派に凝り固まることなく,大変リベラルな考え方をする人である。聖書を読んでみようかなと思われる方必携の一冊。確かではないが,私が持っているこの本は昔の「共同訳」の聖書に準拠したものだが,現在は新版が「新共同訳」に合わせて出版されているはずである。