20世紀の文学


■「ジェイムズ・ジョイスの謎を解く」

柳瀬尚紀 著(岩波新書)¥650
 アイルランド生まれのジェイムズ・ジョイスが書いた「ユリシーズ」は20世紀文学の金字塔にして最も難解な作品の一つといわれる。私も学生時代に張り切って全部一応読んではみたものの,何が何だかよくわからないうちに終わってしまった記憶がある。「ユリシーズ」が難解なのはジョイスが作品中にたくさんの「謎」を仕掛けたのが一因らしい。それらの謎の中でも最大の謎は,饒舌な「俺」とは誰か?という問題である。著者はこの「俺」は実は「犬」であるとする独自の「我輩は犬である」説を綿密に考証していく。もちろん,数学や理論物理ではないのだから,この説が正しいか間違っているかなんていうことを素人の読者が考えるのはヤボというものだろう。文学作品の謎解きとして第一級のおもしろい読み物。


■「恐怖の黄金時代 −英国怪奇小説の巨匠たち」

南條竹則 著(集英社新書)¥680
 ゴースト・ツアーやゴースト・ウォークといった催し物,あるいは幽霊が出るので有名な城や屋敷が各地にあることからわかるように,英国はもともと幽霊や怪奇現象が「さかん」なお国柄である。本書で紹介されているように,とくに20世紀初頭は,ラヴクラフト,ブラックウッド,ダンセイニ卿,M.R.ジェイムズといった怪奇小説の巨匠が数多くの傑作を残した時代であった。子どもの頃に読んだ少年少女向の怪談集に収められていた作品のいくつかも,今にして思えば彼らの作品だったのだ。優れた怪奇小説は単なるホラーではなく,すばらしい想像力と描写力の賜物であるということがよくわかる本である。「指輪物語」や「ナルニヤ国物語」のような大人も子どもも楽しめる万人向きの「正統的」ファンタジーがある一方で,ややもすれば奇書扱いされかねないこうした怪奇ファンタジーがある。英国のファンタジーは本当に幅が広く奥が深い。


■「ケンブリッジの哲学する猫」

F・J・デーヴィス 作/M・ドリアン 絵/深町眞理子 訳(社会思想社)¥2,718
 英国ケンブリッジ大学を舞台に,そこに住み着いた雌猫トマス・グレイと数学者ルーカズ・ファイトが闘わす深遠なる?哲学。話題は,英国の大学人の実態,古い数学上の問題,6回の食事…。猫好きの人が喜ぶ楽しいイラスト満載。