「なごり雪」の30年に思う


かぐや姫 Best Dreamin' (日本クラウン CRCP-28128-9)

 「かぐや姫」が1974年3月にアルバム「三階建の詩」で「なごり雪」を発表してから,今年でちょうど30年が過ぎた。翌年イルカによっても歌われて大ヒットとなったこの曲が生まれたとき,私は小学2年生であったから,リアルタイムで「なごり雪」を聴き,感じ,楽しむというわけにはいかなかった。当時「かぐや姫」は前年に「かぐや姫」の代名詞ともいうべき名曲「神田川」を発表し,まさに絶頂期であった。しかし翌75年「かぐや姫」は人気絶頂の中で解散してしまう。このことによって,「かぐや姫」はますます伝説的なグループとなった。この時代「かぐや姫」をリアルタイムで聴いていた人たちを私は心から羨ましいと思う。
 70年代青春フォークは当時の社会,若者文化を敏感に反映しているといわれる。これまた私の好きな曲であるが,同じ頃(75年)生まれたバンバンの名曲「「いちご白書」をもう一度」には「学生集会」という言葉が出てくる。切ないラヴ・ソングでありながらいかにも社会的な歌詞をもった曲だ。70年代には「当り前」だったのに,この30年間で「死語」となってしまったものは多い。「学生運動」,「学園紛争」,「革新」,「長髪」…。
 しかし,今あらためて「かぐや姫」の残した曲を聴いてみると,(メンバーはジャケットに見られるように70年代らしく長髪であるが)意外なほど政治的,社会的な曲はない。いや,ほとんどないと言ってもよいだろう。徹頭徹尾愛と青春の喜びと哀しみを純粋に歌い上げている。逆に言えば,だからこそ「かぐや姫」の歌は時代を超えた普遍性を持ち,解散後も多くのファンを獲得しているのではないか。ビートルズが偉大なのは,ジョン・レノン,ポール・マッカトニーというロックの歴史で5本の指に入る天才が2人も同じグループにいたからだと渋谷陽一氏が書いているのを昔読んだことがある。それをもじって言えば,「かぐや姫」が偉大な一つの理由は,南こうせつ,伊勢正三,山田パンダという異なる個性をもった3人の優れたミュージシャンが揃っていたことによる。「かぐや姫」というと,南こうせつというイメージが強いが,他の2人もそれぞれ味わいの異なるよい曲を書いている。
 「なごり雪」は伊勢正三の曲だ。「かぐや姫」には「神田川」をはじめ,マイナー・メロディーでホロリとさせられる曲が多いが,この曲はキーがマイナーではないのにホロリとさせられる。この30年で大きく政治が変わり,社会が変わり,若者文化も変わったが,時代の波に流されることなくよい曲は残る。それはバッハ,モーツァルトの時代からそうだった。

2004.4.23