アーノルド・ローベルの絵本

 アーノルド・ローベルは,1933年ロサンゼルスで生まれ,1987年ニューヨークで没したアメリカの絵本作家です。1973年「ふたりはいっしょ」でニューベリー賞,1981年「どうぶつものがたり」でカルデゴット賞を受賞した20世紀アメリカを代表する絵本作家の巨匠です。
 ローベルのよさは,幼い読者を対象としながらも,その作品が楽天的で明るい展開のワン・パターンにおちいることなく,ときには悲しみ,嫉妬,風刺,ユーモアなどを交えて人間の幸福とは何かということを追究しているところにあるといえるでしょう。しかし,それでいて作品にはいつもローベル一流のヒューマンな感情が流れています。絵のタッチも独特で,軽く書き流しているようでいて実に細部まで計算され,しかもユーモアに溢れているのは素晴らしいのひとことに尽きます。ローベルの絵本の多くが,芥川賞を受賞した詩人・作家,三木 卓氏の名訳で楽しめるのも嬉しいことです。


どろんここぶた
アーノルド・ローベル 作/岸田衿子 訳(文化出版局)¥854
 「また汚くして!!」,「早く片付けなさい!」といつもお母さんに怒られている子どもの気持ちを代弁するかのようなおはなし。どろんこが大好きなこぶたは,ある日どろんこをおばさんに片付けられてしまい,怒って家出するが…。


ふくろうくん
アーノルド・ローベル 作/三木 卓 訳(文化出版局)¥880
 一人暮らしのふくろうくんの奇抜なお話。うちの子どもたちは涙でティーポットをいっぱいにして,その涙でお茶を入れるお話がとくに大好き。大人なら「そんな馬鹿な!」で一蹴してしまうようなおはなしだが,子どもはその奇抜さゆえにひきつけられるようだ。


とうさんおはなしして
アーノルド・ローベル 作/三木 卓 訳(文化出版局)¥880
 同じくローベルのお話。夫がよく子どもにせがまれるお話である。何ともユーモラスな魅力のある絵が大好き。特に「だいりょこう」というおはなしが人気である。かあさんに会いに行くねずみが自動車にはじめは乗ってゆくんだけれど,次はローラースケートに替え,長靴に替え…最後には足まで替えてしまうお話。


ふたりはともだち
アーノルド・ローベル 作/三木 卓 訳(文化出版局)¥880

ふたりはいっしょ
アーノルド・ローベル 作/三木 卓 訳(文化出版局)¥880

ふたりはいつも
アーノルド・ローベル 作/三木 卓 訳(文化出版局)¥880

ふたりはきょうも
アーノルド・ローベル 作/三木 卓 訳(文化出版局)¥880

 かえるくん,がまくんの名コンビが活躍する絵本4部作。心からの友情を描いているかと思えば,孤独で残酷なところもある。おきまりの明るい友情賛美絵本が多いなかで,ローベルのかえるくん・がまくんシリーズは人間の暗い内面や醜い心もさらりと描いていて,大人も考えさせられる内容をもっている。…と書くと,一見子ども向きの絵本ではないようにもみえるが,子どもたちは決して明るい作品ばかりを好むのではない。結構暗いものも読んでほしいと要求してくるものである。


こぶたくん
アーノルド・ローベル 作/三木 卓 訳(童話館出版)¥1,100

しりたがりやのこぶたくん
アーノルド・ローベル 作/三木 卓 訳(童話館出版)¥1,100

 「こぶたくん」2部作。絵に描いたような優しく理解のあるお父さんぶたが出てくる。夫はこの本を子供に読んでやるのが大好きである。ただし,うちの長男は「妹に意地悪をするこぶたくんのお話」は,「弟に意地悪をする自分」のことをいわれているようで嫌いなのだが…。ローベルらしいユーモアとペーソスに富んだほのぼの絵本。


いろいろへんないろのはじまり
アーノルド・ローベル 作/まきたまつこ 訳(冨山房)¥1,200
 白黒の世界に色が塗られる。青色,黄色,赤色…。どれもその色だけでは世界は良くならない。さまざまな色が混ざり合うことによって,はじめて世界はすばらしいものとなる。これはローベルが「色」というものを通して書いた一種の寓話であろう。世の中の多様性の大切さ,協同することのすばらしさ,すべて一つの色で塗りつぶされるファシズムへの警告…。この作品はいろいろなとらえ方ができるだろう。しかし,ローベルの見事な構成と色づかいをながめているだけでも十分楽しい本。