フランス・ナントを訪ねて

    


  


 学会出張で、フランス北西部ロワール川が大西洋に流れ込む港湾都市として栄えたロワール地方最大の都市ナントに行ってきた。
 ナントは古くはブルターニュ公国の首都として栄え、フランス王国帰属後は、1598年アンリ4世が新教徒(ユグノー)に信教の自由を認める「ナントの勅令」を公布した地として名高い。日本の高校世界史教科書にも必ず出てくるので、ご記憶の方も居られよう。パリ以外のフランスの都市を訪れたのははじめてだったが、古い歴史を持つ街だけあって、旧市街の建物、雰囲気は素晴らしい。

 街の東部にあるサン・ピエール・サン・ポール大聖堂(写真上段)は、ブルターニュ公ジャン5世が公国一の大聖堂の建築を望んだため、完成まで450年もの歳月を要したという。ゴシック様式の堂々たる建物で、私が訪れたとき、堂内ではちょうどパイプ・オルガンが演奏されていた。壮麗なステンド・グラスを仰ぎ見ながら聴いたオルガンの響きは心に残った。堂内にあるフランソワ2世と公妃マルグリット・ド・フォアの墓は、娘のアンヌ・ド・ブルターニュが両親を埋葬するために作らせたもので、天使などの彫刻が見事である。

 サン・ピエール・サン・ポール大聖堂のすぐ南側にあるブルターニュ公城(写真下段)は、15世紀に最後のブルターニュ公が居城にしたもの。
1532年にブルターニュ公国がフランスに帰属してからは、歴代のフランス国王の居城となった由緒正しい城であり、アンリ4世による「ナントの勅令」もここで発令された。見て驚くような大きい建物でも豪華な建物でもないのだが、デザインが優美で金冠の塔がアクセントとなっている。ヴェルサイユの時代になる前の端正なフランス建築の美しさが味わえる。

 「ナント美術館」の存在はほとんど日本では知られていないと思うが、行ってみて驚いた。建物自体も大きくて大理石作りの立派なものだが、アングル、クールベ、カンディンスキー、ピカソ、シャガールなどが厳重な警備もなく、なにげなく展示されている。
 後で知ったのだが、アングルの「ド・スノンヌ夫人」は、フランスの美術館の全コレクションの中から選ばれて絵葉書やしおりにされている名画中の名画らしい。クールベの「麦をふるう女たち」も彼の代表作の一つらしく、今眼前で麦をふるっているような生き生きとした構図がすばらしい。夕方5時に行ったら「6時が閉館であまり見る時間がないだろうから。」ということで、3.5ユーロの入館料を2ユーロにまけてくれた。フランスの物価の高さには閉口したが、これほどの名画コレクションを2ユーロで見れるとは、日本とは物価の高いところ安いところが違う。

 あと、ナントで是非覚えておかなくてはいけないのは、19世紀の半ばに創業されたルフェーベル・ユーティル社(Lefevre-Utile)が販売する「LU」ブランドのビスケット。現在もフランスでは非常に有名であり、普通にスーパーで買える。同社の立派な本社がちょうど学会場の近くにあった。奇抜なデザインの博物館lieu uniqueでは、大画家のミュシャがデザインしたビスケット入れの缶などが土産として買える。

 あと、ナントは世界的に知られた白ワイン、ミュスカデ(Muscadet)の発祥地であり、どのレストランでもワイン・リストの最上部に名前が並んでいる。地元の誇りなのであろう。「ラ・シガール」という建物が文化財に指定されている有名なレストランだったが、ミュスカデは各種フルボトルが15ユーロで飲め、地元の人は普通に食事と合わせて楽しんでいるようだ。決して高すぎるということはないし、この程度の値段のもので十分美味しいワインが楽しめる。港町だけあって、生牡蠣や茹でたシーフード(カニ、海老、貝など)のシンプルな料理が美味しく、酸味のさわやかなミュスカデとよく合う。結局3日間、別の店で毎晩ミュスカデを楽しんだ。

 エール・フランスのストライキで帰りの飛行機が2時間以上遅れたのには参ったが、ナントがよいところだったから大目に見てあげよう。

2007.10.28