すぐに元が取れるお得なFamily Railcard
列車のキャンセルにはクレームをつけよ
BathからOxfordに家族で旅行した時,上で述べたFamily Railcardを使った。行きはほぼダイヤ通りであったが,帰りにOxfordで列車が定刻通りに来たと思って乗ったものの,待てど暮らせど発車する様子がない。さっきまで聞こえていたエンジンの音も途中で聞こえなくなった。すると,聞き取りにくい声で,列車のエンジントラブルのため,降車するようにというアナウンスがあった。皆ぞろぞろと列車を降りる。しかしながら,次の列車が来ない。結局1時間半以上待たされ,次に乗った列車はBath Spaまで直接行くものではなく,Didcot Parkwayで乗り換えのためまた長々と待たされた。3月とはいえまだまだ寒い英国で待合室もない駅で待たされるのは,子供連れには特につらいものであった。
あまりにも腹が立ったので,列車に乗ってから車掌に文句を言った。(誰も文句を言わず黙って列車を待つ英国人の姿は涙ぐましいものだ。)すると車掌は「クレームフォーム」なるものをくれ,記入してチケットと共に鉄道会社に郵送するように教えてくれた。もちろん彼は一言も「Sorry」とは言わないのも驚きだった。1週間後,(英国としてはすごく早い対応)Great Western Trainの謝罪の手紙と共に,帰りの分全額のVoucherが送られてきた。キャンセルだけでなく,1時間以上の列車の遅れに対してもクレームをつけることができる。
一緒に列車を降ろされたたくさんの英国人の中に,私達のようなクレームフォームをもらっている人はいそうになかったが,これは次の項目で述べるように鉄道のpunctualityに対する日本人との意識の違いによる。
英国の鉄道を利用する心構え
英国ガイドなどには,「英国の列車はよく遅れる」ということが書いてあるので,日本からの旅行者もある程度はこのことを認識しているだろう。しかし,「英国では列車が遅れるということが日本のように問題視されていない」というのがより正確である。日本のように,「XXが原因で上下あわせて8本の新幹線に10分から20分の遅れが出ました。」などという「些細な」ことが英国でテレビのニュースになることはあり得ない。よく英国人から「30分までの遅れはごくノーマル」ということを聞かされた。これが事実であることが,少し英国に滞在していると誰にでも分かってくる。
おもしろいことに,朝は列車が走り始めたばかりのためか,比較的遅れも少ないが,夕方から夜になると,少しずつ朝からの列車の遅れが蓄積して,20分30分遅れの列車がざらになる。英国滞在中の途中で,ボスのBathからBristolへの転勤で,BathからBristolまで鉄道で通うことになった。BristolからデボンのTivertonまで帰る同じ研究室のサイモンは, 3,4日に1回の割合で,電光掲示板を見ながら「今日は1時間遅れだよ。」と言っていた。私が乗るBristolからBath方面の列車(ビジネスの通勤客が多い)も,遅れはほぼ毎日のことで,列車がキャンセルされても,順番が逆転しても誰も驚かないし,文句も言わない。ときには,やっと来た列車に乗り込んだ後で「違う列車の方が先に出ますから,一度降りて乗り換えてください。」とのアナウンスで,乗客がどやどやと移動する。英国の鉄道に慣れると,むしろ「今日は定刻通りか,ラッキー!」という感覚になってくる。それが毎日続くとは誰も思っていない。
時刻表は単なる目安
このようなお国柄であるから,日本に比べて時刻表(Time Table)に重きが置かれていないのは当然である。時刻表はあくまでも理想であって,列車の運行の目安にしかならない。RailTruckなる列車時刻の検索サイトもあるが,目安にしかならないという点では同じである。世界に冠たるヴィクトリア朝の大英帝国は,現在よりも時間厳守の時代であったらしく,一般人にも時刻表がよく売れたらしい。シャーロック・ホームズの短編にも,「今からならPaddington発○時○分○行きの列車に間に合う。馬車を飛ばそう。」というような会話が実によく出てくる。今よりずっと列車が時間厳守だったのだろう。
今の英国では,日本の弘済会あるいはJTBのような総合鉄道時刻表を売っている店,あるいは持ち歩いている人を見たことがない。私も複数の駅で英国鉄道の総時刻表を何度か手に入れようとしたが,どの駅でも「そんなものはない。」と自社のポケット時刻表しかくれなかった。どこかにはあるのだろうが,そんなものが売っていたとしても,乗換駅や大体の所要時間がわかる程度で,たいして役に立たないのは事実であろう(何しろ30分遅れが当たり前なのだから)。しかし,英国鉄道の栄光の歴史を知っている鉄道ファンとしては,ちょっとさびしい気もする。