電話編

イギリスのライフライン
 英国の家に住み始めて誰もが真っ先に考えるライフラインは,電気,水道,ガスで,電話回線は二の次というのが普通であろう。日本にいる親や知人は心配するかもしれないが,しばらく日本と音信不通となったからといって困ることはない。いざとなれば,公衆電話からでも日本に電話はかけられる。うちの場合,電気,水道,ガスについては,不動産屋が私の名前を新住人として,各社のオフィスに連絡してくれていたので,住んでしばらくすると,社員が使用量のチェックに来たり,請求書を送ってきたりした。ただし,水道は使用量に関係ない1年間の定額支払い制なので,使用量のチェックに人が来ることはなく,水道メータも付いているようには思えなかった。
 電気とガスのメータは家の中の階段下の物置に付いていたので,使用量のチェックにくる人も,そこを開けて懐中電灯で照らしながら数値を読むのはおもしろかった。彼らはきまって誰かが家にいる可能性が一番高い平日の早朝(7:30〜8:00)を狙ってメータを読みに来る。ライフラインの料金体系を日本と詳しく比較したわけではないが,電気やガスの請求が月ごとではなく,1年のクォーター(3ヶ月)ごとだった(水道は使用量に関係ない1年間の定額支払い)ことを除けば,日本と違うという感じはそれほど受けなかった。請求書には支払い期限が書いてあるが,請求書を受け取ってからすぐに払えば,次回の請求額からいくらか割り引くという,いわゆる早期割引を行っている会社もあった。期限を守らない不良住人がそれだけ多いということであろうか?

かけられるが受けられない電話
 電気,水道,ガスに関しては,幸いにも1年間トラブルらしいトラブルはなかった。家の中の設備や器具が使いづらくて困った(例えば容量が小さいのですぐに水になってしまうガスボイラーの給湯)ことはあったが,ライフライン自体が使えずに困ったことはない。
 ところが電話は最初から困ったことになった。不動産屋によれば,前の住人と同じ電話番号でそのまま使えるということだった。ただし,BT(British Telecom)と新たに契約しなければいけないということであった。そこで,市内のBTショップで契約の手続きをした。住所を言うと,何やらスタッフがコンピュータで確認をして,その結果教えてくれた電話番号は,不動産屋が教えてくれた通りの,前の住人の電話番号であった。なるほど,イギリスでは住人が変わっても電話番号が変わらないのかと,そのときは納得したが,これが後述するようにとんでもない大嘘であった。
 入居時に確認してみると,壁際に電話線は来ているものの,電話機はつないでいない。家捜ししてみると,使えるのかな?というような小さくてボロイ電話機が2台見つかった。(2台のうち1台は壊れていたのか,使い方が違っていたのか,いずれにせよ一度もちゃんと使えなかった。)電話機をつないでどこかに試しにかけてみようと思ったが,いきなり日本にかけるのはためらわれたので,シティバンクのフリーダイヤルにかけてみると,ちゃんとつながった。それでは,今度は受ける方だ。St AubinsのあるWidcombe地区では,丘を降りて麓まで行かないと公衆電話はない。ところが,教えてもらった番号に何回かけてみても(妻が家で待機していた),「この番号は現在使われておりません。」の案内が流れるだけで,全然つながらないではないか。おかしいなと思ったが,時間も遅かったのでその日はあきらめて帰宅した。

間違っていた電話番号
 翌日契約をしたBTショップに苦情を言いにいった。ところが,BTの職員の対応はきわめて鈍く,「そんなはずはない。公衆電話がたまたま故障していたんだろう。」(日本では考えられないが,実際故障していることが珍しくない)と言い,さらにショップの中の「ちゃんとした公衆電話」から,(自分のコインで)かけてみるように言うのだった。仕方がないので,もう一度そのちゃんとしてるはずの公衆電話から,自宅にかけたがやはりつながらない。
 そこで再度苦情を言うと,何やらカウンター内の職員用の電話からどこかにダイヤルしていた(おそらく私が何度もかけていた番号だろう。)が,少し表情が変わり,一度受話機を置くと今度はBTの大元のサービスに電話をしていたようだ。しばらくすると,「昨日あなたに教えた電話番号は間違っていました。正しい番号はこれです。」と,改めて教えられた電話番号は全く違う番号だった…。思わずこけそうになった私の心境は察していただけるだろう。なぜこんな手違いになったのかは不明であったが,BTはよくこんないい加減なことで電話サービス業をやってられるなあと妙に感心した。BTに前の住人が支払わなかった高額の通話料を請求されたとこぼしていた日本の知人もいた。NTTが日本でこうしたことをやったら,袋叩きだろう。
 ともかく,電話をかけることも受けることもできるようになって,日本にも気軽に連絡できるようになった。PANASONICの電話&FAX機も買って,FAXもやり取りできるようになってからは,日本との距離も一気に縮まった気がした。
 私たちは申し込まなかったが,日本へBTよりも格安な料金でかけられることを売り物にしている通信会社もたくさんあるようなので,労を惜しまない人は,各社のサービスを比較検討されたらよいだろう。